インタビュー

【年末座談会】e-Sportsと共に進化していくゲーミングブランド「Logicool G」

2015年、大きく飛躍したDetonatioN Gaming。渦中の梅崎氏「計画とは真反対」

StanSmith氏とDustelBox氏。それぞれに活動の幅が広がった2015年を振り返る

Logicool Gブランドアンバサダー/マルチゲームキャスターのStanSmith氏

──まずStanSmithさん、Logicool Gアンバサダーとして活動してきて、今年1年、どのような感想を持ちましたか?

StanSmith氏:2014年9月のTGSでロジクールさんと契約をして今の活動が始まったんですが、実際に何をすればいいのかというのが、自分で作っていくしかなかったんですよね。古澤さんと細かい打ち合わせがあったわけではなくて、お互い初めての経験でした。実際にやったこととしてはTwitter等でしっかり製品のエゴサーチをして、買うものを悩んでいるユーザーさんにアドバイスをしたり、不具合の報告をしてくれたユーザーさんにヒアリングをしたり、解決策を伝えたり。あとはもちろん新製品についてつぶやいたり、開発中の製品のテストなどもしてきましたね。

 そういった活動のなかで正直、1番うれしかったのは、アメリカのポートランド(Logitech開発拠点)へ行って「G933」「G633」の開発を間近に見ることができたことです。より製品への理解とか、自分自身の説得力を増すことができました。古澤さんには、また機会があればその他の拠点にも行かせてくださいとお願いしています。

──そのポートランドでも夜中にホテルからさっそく新製品のライブ配信をしていましたよね。その積極性は凄いと思いました。

StanSmith氏:配信はできる限りしようと考えています。もちろん古澤さんに聞いて、言える範囲をチェックしながらですが、TwitterやFacebook、生配信で新製品を使っているところを見せるとか、そういうところはしっかりやっておきたいと考えていました。本当はもっと本格的な環境で配信したいというのもあったんですが、その辺りは来年、今年できなかったことをしっかり実現していきたいと思っています。

──StanSmithさんくらい種目が多い選手ってなかなかいないですよね。

StanSmith氏:いまはどちらかというとゲーマーというよりキャスターとしての活動が多いので、いろいろと業界のこととか、新しいゲームでどれが来るんだとか、海外の競技シーンのトレンドだとか、知っておかなくちゃならないことがたくさんあるんですよね。それを知ることによって表現方法も広がると思いますし、キャスターとしては全て知っておくべきだなと。格ゲーについては独自で成り立っている分、自分は触れなくていいかなと思っているんですが、それ以外のところでなるべくいろんなゲームを触るようにはしています。

──2016年は、たとえばどんなことをしていきたいですか?

StanSmith氏:ひとついうと、いまロジクールには公式Twitterがないんですよ。それを古澤さんたちと一緒に、2016年には作ろうかなと。デバイスのことは私とか、古澤さんとかで担当して、イベント等ですとDetonatioNのメンバーや、ロジクールの広報さんなどと分担しながらできればいいね、ということを話しています。

DatonatioN Gaming所属の「BF4」プロプレーヤー、そして人気実況者としても知られるDustelBox氏

──DustelBoxさんは、今年1年振り返ってみて、いかがですか?

DustelBox氏:今年は大会だけでなく動画とかの仕事も多く入ってきまして、その中で、選手として第一戦で戦いつつ、非常に忙しい1年になったなと思います。特にデバイス等の広告については、自分では特に意識していたわけではないんですが、「何使ってるの?」って聞かれることが多くなっていて、選手として注目されているんだなという実感が出てきましたね。

──Logicool G公式サイトではレビュー等もされていますよね。あれは自分で触って、自分で書いているんですか?

DustelBox氏:そうです。でも、ある意味副業とか、趣味みたいな部分はあって、自分から積極的に発信していこうという意識はもともとなかったんですが(笑)。

──DustelBoxさんは、リアルで会うと意外に引っ込み思案というか、二重人格的なところがありますよね(笑)。

DustelBox氏:確かに、けっこう、普段とゲームする時とでは、人格が変わるかもしれないです(笑)。特にゲーム実況は昔からやってきたので、ゲームをしながらしゃべるというというのは自然にできていて、むしろ、ゲームをしていると自然と解説したくなっちゃうみたいな感じです。自分でも不思議に思います。

──第一線のゲーマーとしては、今年の戦績はどのように振り返っていますか。

DustelBox氏:今年の戦績……最近は優勝ができていなくて、準優勝とかが多いですね。JCGではルールが最近変わりまして、それまでの「ドミネーション」では順調にアジア大会で優勝とかもあったんですけど、「オブリタレーション」という新しい爆破のルールになってきて、そこはまだ研究の段階という感じです。直近の大会では準優勝になったばっかりですので、これから気合を入れて、練習の方法とかも試行錯誤して、グランドファイナルでは優勝を目指したいと思います。

DetonatioN GamingのCEO、梅崎伸幸氏。元「Counter-Strike Online」のプレーヤーで、LGraNというゲームネームでも広く知られる

──梅崎さんから見て、DetonatioNメンバーのDustelBox選手はプロとしてどういう資質を持っていると見ていますか?

梅崎伸幸氏:彼はゲームではけっこう攻撃的なポジションをプレイすることが多いんですが、かといって現実ではすごい控えめですよね。そのギャップが、ファンを魅了するところなんじゃないかなと思います。ゲームが上手いというのを大前提としつつ、けっこうアイドル気質なところもありますし、それを含めて近年まれに見る素材なんじゃないかなと思いますね。

──メイン種目としているのは「Battlefield」シリーズですが、その他にもプレイされているんですか?

DustelBox氏:個人的には「スプラトゥーン」とか「CoD: BO3」とかやってます。そんなに強いわけじゃないと思うんですが、タイムアタックとかをしたら視聴者数が伸びたりとか。「スプラトゥーン」ではプレイ開始から1日でSランクになる、というアタックをやって、ニコニコ動画で出したらかなり伸びましたね。

──「スプラトゥーン」は他のFPS系とは操作形態も違いますし、だいぶ勝手が違ったのでは?

DustelBox氏:そうですね、PCとかとは全然違いましたね。ただ比較的、他のジャンルも含めて飲み込みが早いとは言われています。そこはやっぱり、スポーツとしての、味方との連携だとかに似てる部分があるので、っていう感じですかね。

──その他にプライベートでやっているゲームってありますか?

DustelBox氏:「MGSV」ですね。「メタルギア」は昔から好きで、オンラインのほうもやっています。それからe-Sportsとして注目しているのが「Overwatch(オーバーウォッチ)」で、かなり期待しています。できればプロとしてやってみたいと思っています。

──ちなみにDustelBoxさんのPCゲーム歴ってどれくらいですか?

DustelBox氏:4~5年です。昔から、PCの凄いグラフィックスでゲームを遊ぶとか、マウスでエイムができるとかって憧れていたんですけど、社会人になって自分のお金でPCが変えるようになって、そこではじめて実際にプレイできるようになりました。「Battlefield 3」が出て、次の年の1月からですね。

──はじめからプロゲーマーを意識されていたんでしょうか?

DustelBox氏:いや、もともと実況動画とかは高校生のときから上げていたんですけど、PCを手に入れて「BF3」の動画を上げ始めたら、上手いって言われるようになって、自分ではそんなに上手くプレイしようという意識はなかったんですが、言われて初めて、じゃあ頂点を目指してみようかなと。それから本気でやりはじめて、プロゲーマーという存在をしって、これは目指すしかないなと。

──いまは「BF4」を中心に活躍されていますが、他のゲームに参戦しないのは何か理由があるんですか?

DustelBox氏:毎日練習をしているんですが、その練習時間を他のゲームで被らせたりすると、頂点でい続けるのが難しいなと。なので競技としてはいまのところは「BF4」に集中しています。ただ今後、競技としては「Overwatch」にも注目しているので、いずれ二刀流になるかもしれないです。

──「Overwatch」への期待感というのは、個人的な興味ですか、それともe-Sports競技として盛り上がりそうだという期待感ですか?

DustelBox氏:そうですね。「LoL」みたいにたくさんのキャラクターがあるところですかね。これまでのFPSは本人の技量が全て、というところが強かったですけれど、「Overwatch」ではキャラクターの特性も活かしたり、研究していくというのが、競技としてもいままでにないものになるのかなと思います。

──DetonatioNとしても、「Overwatch」のチーム設立は考えていますか?

梅崎伸幸氏:基本的にはアリだと思っています。が、もちろん、日本の市場がどれだけ伸びるかによりますね。結局は市場性がなければ活動しても意味が薄いですし。まずはグローバルでどれくらい大会が開かれて、活躍の場ができてくるかにかかっていると思います。

──既にスクウェア・エニックスさんとも話をされているんでしょうか?

梅崎伸幸氏:いや、どちらかというとBlizzardと直接やりとりするほうが多いですね。最近はそれも含めて、メーカーさんから「このゲームをやってくれないか」とリクエストをいただくことがメチャクチャ多いです。現時点でも、名前は言えないですけれども、3、4タイトルほどの依頼が来ています。

2015年、大きく飛躍したDetonatioN Gaming。渦中の梅崎氏「計画とは真反対」

実は計画とは正反対だったと語る梅崎氏。予想を裏切るほどに飛躍した2015年だった

──DetonatioNとしては、2015年はまさに飛躍の1年になりましたね。

梅崎伸幸氏:まさにそうですね。2014年に立てた計画とは、ある意味で真反対の状況になったなと思います。2014年時点では、ファンやコミュニティをもっと活性化して、自分たちといっしょにこの業界を盛り立てていきましょうという考えで施策を立てていたんです。それがまさか、ああいうふうにたくさんのメディアさんに取り上げていただいて、周りの環境も一気に変化して。コミュニティよりも先に、プロとしての活動部分が一気に比重を増してきたという感じですね。自分でとしては、当初はそこまでは考えていなかったんですよ。

──転機になったのは、やはりプロの宣言だったんですか?

梅崎伸幸氏:それがですね、「プロとしてやっていきます!」と宣言したのは今年の1月末だったんですけど、その時点ではPC関連のメディアさんからのオファーしかなかったんですよね。実際にはその後です。2月に東京アニメ声優専門学院さんがプロゲーマーコースを作りますと言い始めたときに、はじめてテレビで大きく取り上げられたんですよね。そのときに、いろんなマスメディアさんたちが、実際のプロゲーマーってどんなもの?ということでウチに取材がくるようになったという感じです。これは本当にたまたまで、私としてはラッキーだったなと。これがなければ今年中にここまでの飛躍的な成長はなかったんじゃないかなと思っています。

──プロゲーマーを巡る同時多発的な出来事が、巡り巡ってDetonatioNが矢面に立つ形になったと。

梅崎伸幸氏:そうですね。そしてようやくプロはこういうものだ、という取り上げ方をされてきましたけれども、最近は次第にその次の段階として、プロゲーマーの親御さん世代に訴えかけるような方向性になってきていますね。例えば選手のお母さん等に取材をして、プロゲーマーの親御さんはこういうふうに思っているんだよ、といった部分を伝えるような、ドキュメンタリー風の番組作りをやりましょうといった話も進んでいます。

──今年はそういった、いわば“DetonatioNブーム”が起こったわけですけども、その渦中にいてどのような感想を持ちましたか?

梅崎伸幸氏:確かにそういったプロゲーマーブーム、というのは起こっているんですよ。そこでちょっと最近思うのは、いろんなところでプロゲーマーを名乗る人も増えてきていますけども、そこにちゃんとしたラインを、条件を引いて欲しいなというふうに思い始めています。「何を持ってプロなの?」ということですね。例えば日本ではメーカーからモノを提供されればプロだ、というのも多いんですが、海外では違いますよね。お金をもらって生活ができて、はじめてプロを名乗れる風になっているので、日本でもそういった定義付けが必要なんじゃないかと、最近強く思っているところです。

 DetonatioNも全選手に毎月の給料もしくは活動資金を渡すようにしていますが、それはまず選手たちにプロとしての意識を持って欲しいからです。それまでは例えばロジクールさんからデバイスを提供してもらうだけでプロと名乗っていたんですが、それだけではあまりプロとしての責任感を果たせていたかったなと思うんですよね。直接生活に影響しないので、練習に参加しなかったりとか。それが給料がもらえるとなれば練習もしっかり仕事として身が入りますので、そういった環境づくりを今年は注力してきたつもりです。

──この1年で、選手はどれくらいになったんですか?

梅崎伸幸氏:20数名くらいですね。「A.V.A.」のチームや、「HearthStone」の選手たちが増えたりとか、徐々に増えてきています。また先ほどお話したとおり、メーカーさんから直接チームを作ってくれと依頼されたり、配信会社さんから、こういうゲームがあるからチームを作ってみてよとか、そういうことが非常に多くなりました。

──そういったリクエストにはどう応えていますか?

梅崎伸幸氏:いまは自分が面白いと思うゲーム、市場性があるゲームじゃないとチームを作りたくないので、そういったリクエストがあったときには「まず市場調査をさせてください」というふうに答えるようにしています。まず自分がやって面白くなかったら、あまり応援したくないですね。その感覚はチーム愛に繋がっていきますので、とても大事にしています。

──今後、活動タイトルを増やす予定はありますか?

梅崎伸幸氏:そうですね。いまはかなり絞って6タイトルで活動していますが、今後増えていく可能性はあるといえます。来年にはおそらく2、3タイトルは増えるだろうと。ウチではチームマネジメントのノウハウとして、選手のメンタルケアを重視して、けっこう綿密にやっています。そのノウハウを活かして、いま活動しているチームと同じようなプロ意識を持ったチーム、同じ意識を共有できるチームをどんどん増やしていきたいですね。その他にも、特に今年は資金面で潤沢になりましたので、それを活用して来年の施策をいろいろやっていこうかなと思っています。

──追加するタイトルについてなにか具体的にお話できるものはありますか?

梅崎伸幸氏:ひとつは間違いなくFPSを追加する予定です。もうひとつはスマホ系ですね。これも私としてはずっとアリだなと思っていました。スマホはやっている人が非常に多いですので、まずe-Sportsを知ってもらうために触れてもらって、そこからコアなPCのe-Sportsに繋がるようにできればいいかなと思っています。あとはやっぱり格ゲーですね。

──ついに格ゲー参入ですか。「ストリートファイター V」ももうすぐ立ち上がりますし、それに合わせてチームを作ろうと?

梅崎伸幸氏:チームを立ち上げるというよりは、ひとりのプレーヤーに声をかけようかなと。実は既に声をかけたんですが失敗しまして(笑)。やはり格ゲーはすでにe-Sportsシーンとして確立されていますので、新しく参入するというのが凄く難しいんですよね。

古澤氏によれば、Logicool Gからのアーケードスティック展開は当分はなさそう?

──日本ではマッドキャッツさんの一強状態ですからね。ロジクールさんとしてもそろそろアーケードスティックが欲しいですよね?

古澤明仁氏:そうですね。我々としてもまったく無視しているわけではなくて、優先順位なんですよね。開発の人間とは毎回「とは言っても、格ゲーってやっぱり無視できないよね」って話をしているんですよ。ただ現時点ではロードマップに乗っていない状況で、まだ何もお話できる状況ではないですね。

──優先順位とはおっしゃいますが、ゲーミングシーンにおいてアーケードスティックも主要なギアのひとつだと思うんです。なぜ漏れているんでしょう?

古澤明仁氏:ペリフェラルのジャンルとしてすでに出来上がってしまっているということもありますし、我々の開発リソースも有限です。その中で、今後の投資として考えた時に、やはりマウスとキーボードの市場のほうが圧倒的に大きいということもありますので、まずはそちらを優先していこうという考えですね。

(中村聖司/佐藤カフジ)