インタビュー
Android/iOS「幻塔戦記グリフォン」 ベイシスケイプ 金田充弘氏インタビュー
こだわりのサウンドについて聴いてみた! サンプル曲も掲載!
(2013/10/17 15:00)
Android/iOS向けアクションRPG「幻塔戦記グリフォン」(以下、グリフォン)。高いアクション性、オンライン対戦、協力プレイなど、Android/iOS向けとは思えない充実振りの本作だが、先日のAiming・椎葉社長&開発スタッフインタビューにて、サウンドにもかなり力が入っているという話が聞けたので、今回はサウンドを担当したベイシスケイプ 金田充弘氏に話を伺った。本インタビューには、Aimingの高屋敷哲ゲームディレクターにも同席いただいている。
ゲームサウンドファンならご存知の方も多いと思うが、金田氏はWii「レッツタップ」、Wii「朧村正」、 3DS「電波人間のRPG3」、AC「LORD of VERMILION Re:2」、AC/Wii「 太鼓の達人13 」、PSP「Tactics Ogre 運命の輪」、PSP「グランナイツヒストリー」など、数々のゲームタイトルに携わっているコンポーザーだ。12月12日発売予定の3DS「A列車で行こう3D(仮称)」のボーカル有りの楽曲も金田氏が担当している。
Android/iOS向けのゲームながらジングルを含めて30曲以上を収録!
――グリフォンでは何曲作られたのでしょうか?
金田氏:まず制作メンバーからお話させてください。今回は自分がディレクションし、工藤(吉三※)と千葉(梓※)の3名でジングルを含めて36曲ほど作りました。その内、いわゆる曲と言われるカテゴリーだと30曲ほどですね。
高屋敷氏:今後のアップデートで追加予定の分も作ってもらっています。それが10曲ほどあるので、現在使っているものだと20曲ほどになりますね。
※工藤吉三氏と千葉梓氏は金田氏と同じくベイシスケイプに所属するコンポーザー。
※金田氏、工藤氏、千葉氏の3名は、ロック×エレクトロバンド「リブストロー Basiscape Band」のメンバーとしても知られている。「リブストロー Basiscape Band」は、6月に行なわれた「JAPAN GAME MUSIC FESTIVAL 2013」にも出演している。
――ジングルを含めて36曲ほど作られたということで、他のモバイルゲームと比べてもかなり多そうですね。
高屋敷氏:弊社の「Lord of Knights」シリーズでも2~3曲ですし、すごく多いと思います。スマートフォンのゲームではサウンドを聴かずにプレイすることが多くなるので、そもそも必要がないという考えもあるかもしれませんが、本格的なゲームがどんどん増えている状況なので、これからは間違いなく変わっていくのかなと思っています。
「グリフォン」を遊ぶとあっという間に電池がなくなってしまうので、家で充電しながら遊ぶことが多いと思うのですが、そうなると音を聴いてゲームをプレイすることも多くなると思いますし、そうなるとサウンドもすごく大事になってくると思うんです。
そもそも、作品の性質上できる限り多くの曲を入れたい意図もありました。ただ、前回お話しした、不要論や予算の問題など、ちょっとした戦いがありました。
――スマートフォンはいろんな所で遊ぶので、プレーヤーさんが楽曲を聴いているか疑問だったという話がありましたね。
高屋敷氏:「いらねーよ!」みたいな話あったかも(笑)。でも絶対重要だと思ったし、将来を見越したら、いろんな可能性があることを確信していました。音楽が大事になっていくことは容易に想像できることだと思うんです。本当はもっと入れたかったんですけどね。
エリアの曲も増やしていきたいですし、ホームの曲はずっと聴いている状態なので、タイミングを見計らって曲を変えたり、クリスマスに合わせてアレンジを変えたりしていきたいですね。
――作曲された曲をいくつかご紹介いただきたいと思います。まず、タイトル画面で流れる曲についてお願いします。
金田氏:タイトル画面の曲は、実は1番最後に作った曲です。曲がループすること、ゲーム中のものが割とJRPGっぽく、バラエティに富んだ曲が揃ったので、タイトル曲は少し落ち着いた曲調にしようと考えて作曲しました。
――ホーム画面の曲はいかがでしょうか?
金田氏:こちらは逆に最初の方に作った曲です。私の作曲ではないですが、民族楽器っぽいものを入れながら、少し落ち着いた、街をイメージした曲になっています。
――楽曲作成に関して、制作側からはどのようなオーダーがあったのでしょうか?
金田氏:ベイシスケイプの作風だと、RPGに関しては、クラシカルだったり、トラディショナルなアプローチが多いのですが、頂いたリストはバラエティに富んだものになっていました。方向性として、JRPGっぽいというオーダーがあったので、そこに沿った形で作曲しました。
――リストというと、テキストベースの資料を元に作曲されたのでしょうか?
金田氏:ステージの動画とテキストをもらって作ったという感じです。
高屋敷氏:元々、私がベイシスケイプさんの曲のファンでもあったので、その伝統的な所を押したいなという所がありました。僕と國井(※)でオーダーシートを作成したのですが、グリフォンは国内だけでなく、海外に向けて、日本産のゲームという点を押し出して展開していきたい思いがあったので、リストを作成している時点で典型的なJRPGの雰囲気がどうしても欲しい気持ちがふくらんできて……。そこで、テキストや動画と一緒に、最近の流行のRPGも参考例として挙げてご相談させていただきました。また、ベイシスケイプさんのカラーを絶対的に出して欲しかったので、極力リテイクは出さないようにしました。
※國井正貴氏。グリフォンのリードゲームデザイナー。
――リテイクを出さないように決めてオーダーするというのは面白いですね。
高屋敷氏:ただ、1曲は完全に作りなおしてもらいました。最初のカシモラル塔壁というエリアの曲だけは、どうしてもイメージと曲の雰囲気が違ったので。「JRPGで草原を走ってこれから冒険に旅立つぞ!」という感触の、すごくいい曲だったのですが、「グリフォン」は最初から「ジトっとした洞窟でゾンビを倒す」ようなゲームなので(笑)。
金田氏:最初のリテイク以降はいろんな曲調を無節操に出したのですが、リテイクがこなくて、「全部採用してくれちゃうんだ!」と驚いたりしましたね(笑)。
そのおかげと言いますか、リテイクがない場合、各作曲家が初期衝動的に作ったものが曲にのるので、いい意味で変に調整されていないんです。
高屋敷氏:バラエティに富んでいて、どの曲も聴いていて楽しかったですね。(リテイクを出さないようにすることは)そういう意味では功を奏しているかなと思っています。世界設定的にも冒険するエリアにシームレスなつながりはないことを意識させたかったので、エリアごとにガラッと変わる曲調がいいな、という思いがありましたし。
――1つのテーマに沿って派生させていくのではなく、バラエティに富んだもので構成されて、ゲーム的に良かったと。
高屋敷氏:とても良かったと思っています。バラエティに富んでいながらも、トータルで見た時にまとまりがあると思ったんです。
金田氏:例えば「Tactics Ogre 運命の輪」だとテーマを派生させるような手法をとっています。ベイシスケイプではわりとベーステーマを作ってそれを派生させていく手法が多いんです。グリフォンでは、成功ジングルなどはその手法ですが、基本的に曲は1つ1つ特化した作り方をしています。
大きな調整をかけず、素の音を大事に。
――作曲はどのような環境で行なわれているのでしょうか?
金田氏:作曲家毎に少しずつ違いますね。生音の比率を正確には把握していませんが、ほぼ打ち込みです。ギターや打楽器を持っていたりすると、手元のマイクで軽く録音してみたりすることはありますね。
――特に縛りはないんですね。
金田氏:最近の制作環境はどこも似ていると思いますし、特別縛ることはしていません。
――音色や曲調を合わせようということもないのでしょうか?
金田氏:我々はチームで制作している期間が長いので、ある程度お互いが出す曲を読み合い、合わせようという力は働きます。最初の頃は、各スタッフで音質がバラバラだった時機がありましたね。最近は各個人が曲を作りながら、空気を読み合いながらもわざと差別化してみたりすることが自然と行なわれています。
――ツールに関してメンバーで共通してこれを使ってみようとかありますか?
金田氏:マニアックな話になりますが、関わった3人が使っているシーケンサーは今までよりバラバラになってきています。シーケンサーを変えたからといって曲調が変わるわけではないですからね。
使っているシーケンサーに関しては、業界的にはCubaseが1番多いと思います。OSは弊社ではMacよりWindowsが多いですね。シーケンサーでいうと、担当した3人の中ではCubaseとStudio Oneで二分化しています。CubaseとStudio Oneを併用していたり、片方だけ使っていたりします。最新バージョンを使う人もいれば、あえて古いバージョンを使っている人もいます。
――ヘッドフォンを使って作曲されることが多いと思われますが、スタジオを使ったりすることもあるのでしょうか?
金田氏:ヘッドフォンメインで仕事をしつつも、適宜スピーカーを使ってという感じです。スタジオを使うことはしていません。録音する時もエレキギターなどであればラインでできますし。
――マスタリングはどうしていますか?
金田氏:普段はうちの会社のエンジニアがやっていますが、今回は軽く自分が最終提出の前に調整しました。ただ、自分はあまり調整が得意じゃないので(笑)、各作家の個性を潰さないように、妙に飛び出している音があったり、どうしてもまずいと思った部分を直す程度です。
――統一するためにエフェクトを全体的にかけたりはしていないのでしょうか?
金田氏:専門的な話になってしまいますが、普通ミックス、マスタリングと2段階があると思うのですが、完全にミックスされた後に曲の外側からさらにエフェクトをかけたりして、統一感を出すという手法があります。それをすると誰かの曲調によってしまうんです。客観的なエンジニアでない限り、不公平になってしまう。
作家が素で出している音って、綺麗でクリアなんです。それを活かすべく、先ほどお話した程度の調整にしています。
――素の音を大事にされていると。
金田氏:ケースバイケースではあるのですが、今回はわりと手を出していない感じです。
――ヘッドフォンとスマートフォンで音の鳴り方に大きな違いがあると思うのですが、実際にスマートフォンに入れて試してみたりもされるのでしょうか?
金田氏:iPhoneを持っているので、試していますね。
――家庭用ゲーム機とモバイルでは作曲する際に大きな違いはありますか?
金田氏:迫力を出そうとすると低音が強くなってきて、スマホに対して無理がかかったり、あまり効果的じゃなかったりすることがありますね。
――そうなると作り方にも違いが出てくるのでしょうか?
金田氏:違う人とそうでない人がいます。マスタリングで調整されるだろうと思って作曲する人もいれば、小さいスピーカーで綺麗に鳴るか試しながら作曲する人もいます。
――オーダー次第かもしれませんが、平均的な曲の長さは家庭用と比べていかがなものでしょうか?
金田氏:今回はステージが長くて、「できればループしないでクリアするまで1周目が鳴っていて欲しい」というオーダーがあって、普段より長めにしてあります。一般的なコンシューマーゲームと比べても、長めで、2分半とかありますね。
――曲はイメージができてから作り始めるのでしょうか? それとも作りながらイメージを固めていくのでしょうか?
金田氏:作家によりますが、みんなでリストを見て担当を決める時に、ラブビームが出ている人と(笑)、わりとどれでもいいよという人がいます。ラブビームが出ている人は見た瞬間からイメージができています。ただ、作りながら盛り上がってきて、展開が面白くなってくる場合もありますね。
――担当はどのように決めていくのでしょうか?
金田氏:今回の場合は、自分がディレクションで、全員でもたった3人なので、1人ずつ希望を聞いて一旦決め、適宜相談して担当曲を交換したりしながら作りました。
――人によってバトル曲が得意だったりとかあるのでしょうか?
金田氏:それぞれの手法でバリエーションは出せるのですが、誰をどの辺に重点的に置くかによって、色の出方が変わってきます。戦闘曲はうまいのに気持ちが向いていない人もいれば、がんばって作らないといけないのに妙にやる気があったりとか面白いですね。
――1曲、どのくらいで完成するものなのでしょうか?
金田氏:実はスケジュール的に焦っていまして、後からクオリティを上げようというところはありましたね(笑)。それでもラフのデッサンは1日程度、そこからブラッシュアップする形です。これが平均的なペースですね。
――中でもよく聴いてもらいたい、手応えがあるという曲はありますか?
金田氏:特別、この曲だけ思い入れがあって、1週間、2週間かけたという曲はないです。わりと金太郎飴状態で作ったので、均等に力が入っている気がしますね。
ただ、強いて挙げるなら、1番最後に作ったタイトルの曲でしょうか。どういう風に作ったらいいかわからず不安なところがあったのですが、最後だし自由に作っちゃえ! という。これを思い入れがあるとすると問題があるかもしれませんが(笑)。
――ただ、そのタイトル画面の曲もリテイクなく採用になったんですよね。
高屋敷氏:ほぼ同時期に並行して緒賀岳志さんにイラストを描いてもらっていて、このイラストにも合っていて良かったですね。
金田氏:ゲーム中はJRPGっぽくイケイケの曲なのですが、タイトルは穏やかに壮大にしようと。ギャップがあるのでどうかなとは思ったんですけど。
高屋敷氏:対戦の曲が運動会みたいな、軽やかな曲で、そのコントラストが面白かったですね。
金田氏:対戦の雰囲気はどういうものだろう? と考えていて、いの一番に製作されたのが対戦の曲ですね。もしかしたら、これだけだと軽いかもしれないなというのがあって、何バージョンか作りました。
高屋敷氏:実は対戦の曲って賛否両論というか、意見の対立がありまして。もっと重く、人が戦っているイメージの曲がいいと言われまして。ただ、僕は好きだったんですよ、この曲が!
――ここでも戦ったんですね(笑)。
高屋敷氏:大した戦いじゃないですけどね。窓口は僕だったので、自分勝手フィルターをかけて……「これ変わってないよね?」、「そうですかね?」みたいな(笑)。
――実際にゲームに入ってみて、みなさんはどういう感想でしたか?
高屋敷氏:重厚な感じをイメージしていたスタッフはやっぱり違和感はあったみたいです。「カジュアルすぎるのでは?」という感じでした。
――曲は開発スタッフ全員でチェックしたりするのでしょうか?
高屋敷氏:全員でチェックします。うちでは何か来たらみんなでチェックして意見を出し合いますね。
――最後にグリフォンのプレーヤーに向けて一言お願いします。。
金田氏:今回は社内の作家で結成したバンド「リブストロー」と同じメンバーでの作曲となりました。その3人で出せるバリエーションの幅を楽しんでもらえたらと思います。
――ありがとうございました。
収録曲の一部を紹介
お2人に、オススメの収録曲を教えていただいた。以下の画像をクリックすると、視聴用サンプルが流れるようになっている。
【金田氏オススメ楽曲】
【高屋敷氏オススメ楽曲】
今回、グリフォンに収録されている中から一部のBGMを紹介させてもらった。フルバージョンや他のBGMを聴いてみたいという方は、グリフォンをダウンロードしてもらうのがいいだろう。グリフォンは基本プレイ無料のタイトルなので、無料でBGMを聴くことができる。
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