スクエニ、PS3/Xbox 360/WIN「ヒットマン アブソリューション」プレビュー&インタビュー

1つのステージを全く違うアプローチでプレイ。自由度の高さに注目


2012年発売予定

価格:未定

 株式会社スクウェア・エニックスは、4月に本社にて、プレイステーション 3/Xbox 360/Windows用ステルスアクション「ヒットマン アブソリューション(HitmanAbsolution)」のデモンストレーションを行なった。開発者が来日し、開発中のバージョンによるデモプレイが行なわれ、インタビューを行なうことができた。

 「ヒットマン アブソリューション」は2012年秋発売予定で、価格は未定。日本語吹き替えによるフルローカライズを予定している。E3では、本作は今回のものとは違うデモンストレーションと、開発者のインタビューを行なっている。こちらに関しては後日掲載予定だ。

 4月のデモンストレーションでは、開発元のIO-interactiveで本作のプロデューサーを務めるLuke Valentine氏がデモプレイと解説を行ない、インタビューでは本作の日本版ローカライズプロデューサーを務めるスクウェア・エニックスの塩見卓也氏も交えた形で話を聞くことができた。





■ 唯一の理解者をその手にかけ、47は大きな謎に挑む

スキンヘッドの伝説の殺し屋、エージェント47
背後からの暗殺は他の敵に気づかれない有効な方法だ
物陰に隠れ、敵をやり過ごす

 「ヒットマン アブソリューション」は、欧米で人気の高い「ヒットマン」シリーズの最新作。主人公はエージェント47と呼ばれる、伝説の暗殺者だ。「ヒットマン」シリーズはプレーヤーの“自由度”を重視したステルスアクションゲームだ。ゲームの目的は対象を暗殺することなのだが、その方法はいくつも用意されている。

 ミッションでは1つの建物や、ある程度の大きさの地域など限定されたフィールドが用意されており、対象にたどり着くのも、見張りを全て倒したり、隠されたルートを見つけたり、他のキャラクターの服を奪ってなりすまして侵入したりと多彩で、ターゲットも直接殺す方法から事故に見せかけるなど多彩だ。主人公のミステリアスな雰囲気と、ステルスアクションの緊張感、ゲーム性の高さで、映画化されるほどの人気を博したシリーズである。

 「ヒットマン アブソリューション」は、“ダイアナを殺す”という、ファンには非常にショッキングなミッションで幕を開ける。ダイアナとは、47が所属する暗殺組織「エージェンシー」のオペレーターであり、これまで組織からの依頼は全て彼女を通じて行なわれていた。ダイアナは47の任務をアシストする存在であり、友人であり、唯一の理解者だった。今作のプロモーション映像ではシリーズで始めてダイアナの姿が明らかになるが、それは同時に彼女の最期の姿となってしまう。

 47はダイアナを手にかけたあと、組織がなぜ彼女を消さねばならなかったかを、個人的に探し始める。今作ではこれまで以上に“ストーリー性”を重視しているという。これまでのシリーズでは大きなバックストーリーはあるものの、各ミッションは比較的独立しており、47が任務をこなし、ターゲットをどう暗殺するかにフォーカスが当てられていたのだが、「ヒットマン アブソリューション」では、ダイアナの死に隠された秘密を追い求める47のストーリーがゲームの中心となる。

 今作は47の“暗殺のプロフェッショナル”としての能力をプレーヤーが追体験できる「インスティンクト(直感)」というシステムが用意されている。このシステムにより、「身の回りのものを全て殺しの道具として活用する」という、47の暗殺のセンスをプレーヤーも使うことができる。インスティンクトによってプレーヤーは殺害に使えそうなものの存在を知り、巧みな変装で周りの人間を欺き、隠れる場所を見つけ環境に溶け込み、自らの存在を消すこともできるのだ。

 そしてシリーズを通じた自由度の高さはさらに強化され、1つのミッションでも様々なアプローチが可能だという。その自由度をアピールするために、今回のデモプレイでは、同じミッションをアプローチを変え2度見せる、という方式で行なわれた。このミッションの場所はシカゴにある孤児院。ダイアナ殺害後、47はヴィクトリアという少女を探しにやってくる。しかし、47が孤児院に赴くと、あたりは血の海になっていた。謎の組織が孤児院を占拠していたのだ。

 最初はスニーキングで進んでいく。孤児院のシスターを殺した男達は他の仲間のいるところに戻っていく。物陰に隠れながら、47は彼らを追っていく。床には血を出したまま体を引きずったような生々しい後もある。ホールでは1人の警官らしき男が侵入者達につかまって拷問されている。質問に答えない彼は体に刃物を突き立てられ、大きな悲鳴を上げる。47は拷問に夢中になっている侵入者達の背後を、ソッとすり抜けていく。

 さらに別の部屋へと移動するとき、インスティンクトを使用した。インスティンクトを使用すると壁を透かして侵入者達の行動が見えるようになる。インスティンクトはボタンを押すことでゲージを消費して使用できる。ゲージは敵に気づかれずに暗殺したりすることで上昇していくという。インスティンクトは使用することで隠し通路となるダクトの入口がハイライトされ、そこから侵入できるなどショートカットのヒントにもなる。

 その他にもインスティンクトを使うと、移動する敵の進行方向が炎のラインが走っているかのように表示される。これにより相手の死角を推測することができ、最小限の動きで隠れることができる。また47は殺した敵の服を奪い変装できるのだが、「ヒットマン アブソリューション」の場合は、敵に極端に近付かれると変装がばれてしまう。敵とすれ違うときに電話をするふりをしたり、敵と視線をあわせないようなアクションで、環境に溶け込むことで乗り切るのだが、そういったアクションもインスティンクトによって発動できる。

 侵入者は47と同じくヴィクトリアを探しているらしい。リーダーらしき人物が広間に部下を集めて演説していたりする。47はインスティンクトを使い敵をやり過ごし、時には立っている敵を背後から襲って倒して進んでいく。立っている敵を背後から絞め殺す際には、首の骨を折って殺す場合と、徐々に力を入れて締め殺すという2つの選択肢がある。

 すぐに殺す場合は音を立ててしまい、周りに気づかれる。徐々に殺す場合は、音は立てないが、殺すのに時間がかかる。また死体を隠す場所もロッカーに加え、子供用のボールがたくさん入った箱の中や、冷蔵庫など、様々な場所があった。こうして襲撃者達をかわして、目的の場所に47はたどり着くことができた。


敵の死体を隠し、時には変装して近づく。47は隠密術に長けている




正面から戦いを挑むというアプローチもできる

 次は全ての敵を倒して進むアプローチだ。いきなり後ろに近付いて首の骨を折り、驚く次の敵も殺す。防火用の斧を取り出し、ホールで尋問をしている男の頭に突き立てる。前回と違い、拷問されていた警官らしき男を助け出すと、ショットガンがある場所を教えてくれた。前回と展開が大きく違う。他にもこのプレイでは、何気なく置いてある瓶で敵の頭を殴りつけたり、あらゆるものを殺しの道具として利用できる47の能力の高さを見せつけられた。

 敵と戦うと物音を立ててしまう。そうすると画面上に警告表示が出て、周囲に敵がいる場合、敵の注意を惹いてしまうことになる。また死体を放置していると巡回している敵に死体が見かって場合もある。

 こういったステルス系ゲームの場合、1人の敵に見つかると、広範囲の敵が一気に警戒状態になる事があるが、「ヒットマン アブソリューション」の場合は大立ち回りを演じても、遠く離れた位置の敵は気がつかないようだった。これは、侵入者達がかなり乱暴な捜索をしていたり、別室ではリーダー格の男がターゲットを見つけられない部下を大声でしかっているという自然な状況だからかもしれないと感じた。

 拷問されていた男の言葉通りにショットガンを見つけた47は、数人の敵が捜索を続けているホールに入る。前回は物陰を移動して通り抜けていたが、今回はいきなりショットガンをぶっ放し敵を蜂の巣にする。ひるんだ敵を数人倒すが、敵も物陰に隠れ、猛烈な反撃をしてくる。47はカバーアクションを用いつつガスボンベを撃つなど周囲のものを利用して敵を巧みに排除していく。

 敵は完全にこちらの存在を感知し、バリケードを作ってこちらを待ち受けている。47はそこに恐れずに踏み込んでいく。そしてここで使ったのが、インスティンクトの1つ「ポイントシューティング」という能力。一瞬時間の流れが止まったかのようにゆっくりになり、47は目の前の敵の急所を次々とポイント。時間の流れが通常に戻った瞬間、一瞬で周りの敵を撃ち倒してしまった。この衝撃的なシーンで今回のデモプレイは終了した。

素手や斧、爆風など、様々なもので敵を倒す
金網に電気を流して敵を倒すことも。オブジェクトも積極的に利用する
隠された通路を見つけたり、変装したり……敵に察知されない方法も多彩だ




■ 長年のファンを喜ばせ、新しい楽しさを提示。日本版では聴覚情報も重視し、吹き替えも用意

開発元のIO-interactiveで本作のプロデューサーを務めるLuke Valentine氏
日本版ローカライズプロデューサーを務めるスクウェア・エニックスの塩見卓也氏

 デモプレイの後、Luke Valentine氏と、日本版ローカライズプロデューサーの塩見卓也氏に話を聞いた。最初に聞いたのは「ヒットマン アブソリューション」制作の経緯だ。前作、「Hitman: Blood Money」から6年たっている今、どのように復活を遂げたのだろうか。

 Valentine氏は「前作までは同じゲームエンジンを使用していました。今作からはまったく新しいゲームエンジンを使っています。このゲームエンジンの開発のため、時間がかかったという一面があります」と語った。この新ゲームエンジンは特に“AI”に力を入れており、従来とは違った敵との駆け引きが楽しめるため、レベルデザイナーもこのAIを活かしたマップを作っているという。

 AIはキャラクターの動きの制御だけではなく、思考も司っている。前作までは47が探知されると、全ての敵が瞬時に反応していたが、今作では47を発見したAIのみが反応する。それぞれのAIは独立しており、AI同士の何気ない会話から、プレーヤーのアクションに対するリアクションまで、多彩なバリエーションを持たせているという。

 その反応は“不信感を感じる”、というものから、“目の前に47が現われた”といったように、脅威のレベルで変わってくる上に、弱気だったり、好戦的だったりと敵キャラクターの設定によっても変わってくる。正気を失うようなパニックを起こすキャラクターもいたり、その反応パターンはかなりの量が用意されている。「今回2通りのデモプレイをお目にかけましたが、相手の反応は大きく違っていたと思います。相手の性格、というのはこちらが隠れているときの敵同士の会話でより明確にわかりますね」と、Valentine氏は語った。

 「ヒットマン アブソリューション」は、プレーヤーにどんな楽しみを提供させることにフォーカスしたのだろうか? Valentine氏は、「まずは従来のファンに楽しんでもらえる部分は大事にしました。そして新しいファンを獲得したかった。そのためこれまで寄せられた意見を集めて、より間口の広いゲーム性と、様々な遊び方ができる、これまで以上の自由度を目指しました」と答えた。

 Valentine氏は「ヒットマン」に関わるのは初めてとのことで、「プレッシャーがあったのではないか?」と質問してみた。Valentine氏は、欧米で人気の高い、期待の大きいタイトルを手掛けるということに関しては責任を感じた。何より開発チームの「良いものを作りたい」という意志の強さを感じている。IO-interactiveでは毎週のようにテスタープレーヤーを呼んでテストプレイを繰り返し、ゲーム性を高めているが、彼等の意見にも「ヒットマン」に対する強い期待を感じるとのことだ。

 一方で、ファンの「思いの強さ」には圧倒される部分も正直あるという。公式フォーラムでは、少数だが声の大きいファンがいて、方向性を迷わせるところもある。しかしそういった意見もプレーヤーの求めるものとして、こちらとしては受け止めて、“共存”していくということだ。「彼等は声が大きいですが、それがファン全ての意見ではないというところも意識しています」とValentine氏は語った。

 次に、ゲームシステムを聞いてみた。今作の最大の特徴である「インスティンクト」は、ボタン1つで使用できる。プレーヤーに“殺人機械”である47のセンス、判断力、認識力などの能力を体験させる機能だ。これまではミニマップで敵の位置を表示する形で47の能力を表現していたのだが、本作では2Dではなく、3Dのよりリアルな形でプレーヤーに47の能力を提示したかった。これまでにもとても綺麗なフィールドもあったが、プレーヤーは結局ミニマップばかりを見てゲームを進めていた。今作ではこう言った部分を払拭したかったとのことだ。

 インスティンクトには大別して4つの能力がある。「壁を透かして敵の姿を見る」、「敵の進行方向など、少し先の未来を読み取る」、「隠された通路や武器など、利用できるものを認識する」、「変装中、至近距離にいる敵の目をごまかすことができる」。これらはインスティンクトのゲージを消費して使用する。さらに、複数の敵をポイントし、一瞬で撃ち倒すポイントシューティングも、ゲージがあれば使用できる。ポイントシューティングで複数の敵を狙う場合は、大量のゲージを使用するため、ここぞと言うときにしか使用できない。

 インスティンクトをどこで使うのか、というのはゲームの大事な攻略要素になる。こまめに使っていれば、ゲームは有利に進むが、後半で苦しくなる場合もあるし、一撃必殺となるポイントシューティングに頼れない。ゲージは敵をうまく暗殺した場合など、暗殺者としてよりプロフェッショナルな行動をとることによって溜まっていくので、ゲージを溜めていくプレイを心がける必要がある。

 デモプレイで感じたのは「このゲームは繰り返しプレイが楽しいのではないか」ということだ。インスティンクトを使っても有用なものを見つけたり、活用方法を模索したり、1度目のプレイではかなり試行錯誤が必要となるだろう。Valentine氏のデモプレイのように、スマートに47を操作し、さらに全く違ったクリア方法を目指すといったところも含め、本作はやりこむ事を前提にしているデザインだと感じたのだ。

 Valentine氏は筆者の感想に、「その通りです」と答えた。ユーザーの中には「1度プレイしてクリアしたらもうやらない」という人もいるが、「ヒットマン アブソリューション」では意図的に「こういうやり方もあるのではないか」とプレーヤーが思いつけるポイントをいくつも仕込んでいる。このため、1度目のプレイだけでなく、前回とは異なるアプローチが何度も楽しめ、その結果新しい発見があるようなゲーム性を目指している。今回は2パターンしか見せなかったが、他にも何通りものアプローチがあるとのことだ。

 「前作までと大きく異なる部分は、やはりストーリーです」とValentine氏は語った。これまではダイアナから任務を受けて達成する、という形の繰り返しだったが、今回、そのダイアナ暗殺に隠された秘密を探し出すため47は自分から行動を起こす。47の感情と想い、人間としての47が描かれる。これまでのシリーズではどちらかというと暗殺されるキャラクターの断片的なストーリーが描かれていた。今作でもこれまでのような、殺される側のストーリーも描かれるが、47が中心となり、彼自身が謎を追い求めていくという大きなストーリーが中心となる。過去作でもプレーヤーは47に共感しながらストーリーを進める部分はあったが、今作ではさらに感情移入できるようになっているという。

 次に、質問したのは「対象となるユーザー層」だ。昨今のゲームはより幅広いユーザーを意識したものがある。「マスエフェクト 3」では、戦闘重視、ストーリー重視のユーザー向けにゲームバランスを大きく変えたモードを用意していたし、誰でもクリアできる「スーパーイージーモード」を搭載している作品もある。IO-interactiveは「ヒットマン アブソリューション」こういった大胆にゲーム性を改変した初心者モードをいれることはあるのだろうか?

 Valentine氏は「難易度選択要素はいれますが、私達は“ゲーム性”を大事にしたいですね。『ヒットマン』はもともとゲームユーザーを前提としたゲームで、ゲームに触れるのが初めての低年齢層や、お年寄りといった人達を対象にはしていません。誰でも遊べるゲームというのも魅力的ですが、本作は“火星から来た宇宙人すら楽しめる”とまで対象ユーザー層を広げるつもりはありません」と答えた。

 日本ユーザーを特に意識した要素などはあるのだろうか? Valentine氏は「そういった部分はありません。世界中のユーザーにアピールできる作品、というものはないんじゃないかと思っています。私達から見れば日本のユーザーの嗜好が独特に見える部分はありますし、日本人から見た“洋ゲー”もユニークだと思います。『ヒットマン』シリーズは欧米ユーザーに特に受けたゲームです。変に日本に受けることを意識してしまうと“中途半端”なゲームになりかねない。ですので、きちんとこれまでを受け継ぎつつ、私達の目指す最高のゲーム性を意識しています。そこを日本の方に評価してもらえれば嬉しいですね」と答えた。

 ローカライズにおいては、日本語吹き替えも用意するとのこと。雑談している人とすれ違いながら、気づかれないように回避しなくてはいけない場合など、字幕を読んでいたら行動が間に合わない場合もある。インスティンクトを使用時など、ゲーム性の中で視覚が非常に重要となるため、NPCの会話などはプレーヤーの“耳”からも情報を得てほしいと塩見氏は語った。

 IO-interactiveの開発も、ローカライズしやすい環境でゲーム開発を行なっている。ローカライズに関しては、キャラクター性をどう日本語で表現するかなどを考えて進めているという。規制表現など、日本で問題となる演出に関しては、塩見氏がIO-interactiveを訪れ、ガイドラインを提示して開発時から意識するようにしている。「ローカライズに関して、日本版だけ何かがなくなる、というのはできるだけ避けたいと思っています。世界共通で発売できるような表現を意識して作っています」と塩見氏は語った。

 日本では「ヒットマン」シリーズはコアなファンを獲得しているものの、今後さらに幅広いファンを獲得するための施策は、あるのだろうか? 塩見氏は、「まずやる事は、できるだけ良いローカライズにしていく」と答えた。

 最後に日本のユーザーへのメッセージとして、Valentine氏は「大変お待たせしています。発売まではもう少しかかりますが、すごく良いゲームになっていますので、ご期待下さい」と語った。

 塩見氏は「『ヒットマン』というタイトルは、日本ではそれほどメジャーではないところもありますが、今作は“ゲーム”として、自分が何かやりたいことがそのままできる、自由度の高さを実現しています」と語った。


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(2012年 6月 7日)

[Reported by 勝田哲也]