G-Star 2011レポート

【G-Star 2011】XLGAMES「ArcheAge」アニメーションディレクター パク・サンスン氏インタビュー
元Rockstar Games「RDR」のアーティストが、次世代MMORPG「ArcheAge」で目指すものとは!?


11月10日~13日開催

会場:釜山国際展示場(BEXCO)

入場料:大人5,000ウォン
学生/子供2,000ウォン


 今年のG-Starでひとつ残念だったのは、昨年のG-Star 2010で「ArcheAge」と共に鮮烈なデビューを遂げたXLGAMESが出展していなかったことだ。未出展の理由は明らかにしていないが、開発の遅れが影響しているのは間違いなさそうだ。現時点でのサービス開始時期は2012年中を予定しており、2011年12月より韓国で80日にわたる長期間のβテストの実施を予定しており、この結果如何によってサービススケジュールが見えてきそうだ。

G-Star 2010でのXLGAMESブース

 今回、XLGAMESはBtoCの出展は見送ったものの、BtoBには出展を予定していたため、それならばとさっそく開発者インタビューを申し込んでみたところ、快諾の返事が届いた。インタビュイー(取材対象者)には元Rockstar Gamesのアニメーションディレクターという異色のキャリアを持つパク・サンスン氏を希望したところ、これまたOKの返事が届き、今回MMORPGのアニメーションディレクターへのインタビューという世にも珍しい企画が実現したわけだ。

 ゲーム本編の開発の進捗を知りたかったオンラインゲームファンには申し訳ないが、ひとりのゲームファンとしてコンシューマーゲームの最高峰「レッド・デッド・リデンプション」と、あらゆる意味で次世代のMMORPGを目指して開発が進められている「ArcheAge」の間に広がるミッシングリンクを埋める手がかりをこのインタビューを通じて探してみたかったのだ。

 なお、「ArcheAge」の概要については、G-Star 2010レポートの「ArcheAge」プレビューXLGAMES CEO Jake Song氏インタビューを参照いただきたい。最新情報については、来月実施予定のβテストの模様を詳しくレポートする予定なのでしばしお待ちいただきたい。


【ArcheAge】



■ 世界最強のゲームデベロッパーRockstar GamesからXLGAMESへ

XLGAMESアニメーションディレクター パク・サンスン氏
「ArcheAge」の最新スクリーンショット。ゲームエンジンが「Cry Engine 2.0」から「Cry Engine 3.0」にアップグレードされており、さらにグラフィックスが強化されている

編: パクさんは、あのRockstar Gamesでアートディレクターを務めていたと伺っておりますが、同社でどのようなタイトルを担当したのか教えてください。

パク氏: Rockstar Gamesには99年に入社し、アニメーションディレクターとして11年間務めました。担当したゲームは「レッド・デッド・リボルバー」、「ミッドナイトクラブ」、「Table Tennis」、最後に「レッド・デッド・リデンプション」を担当しました。

編: 「レッド・デッド・リデンプション」は日本のファンも多いですが、具体的にはどういう作業を担当していたのですか?

パク氏: 6年の歳月を掛けたプロジェクトです。最初はキャラクターとアニメーションに関する作業の全般を担当し、開発の後半にはゲームに使用されるアニメーションを全て手掛けました。

 Rockstar Gamesは多数の開発スタジオを構えていますが、私はサンディエゴスタジオのアニメーションディレクターというタイトルで、実際に「レッド・デッド・リデンプション」のクレジット映像には、In-Game Animatorと紹介されています。

編: なぜ世界最先端のゲームデベロッパーであるRockstar Gamesを退社したのですか?

パク氏: アメリカのゲーム業界で11年間、1つの会社で務めたケースは珍しいです。私も自分にとって、そろそろ変化が必要だなと感じました。そういう考えを持っていた時期に、XLGAMESとの出会いがありました。

編: もともとRockstar Gamesが最初のゲームメーカーですか?

パク氏: 実はアメリカに行く前、1996年から1997年の1年間、TVCMのCGを作るスタジオで働きましたが、その会社がPCゲームの開発事業を拡大して、「ガイスターズ」というSFゲームをアニメーターとして作りました。それが初めてのゲーム開発ですね。その経験で、キャラクターアニメーションを本格的に勉強してみたいと思って、1997年にアメリカに渡りました。

編: 今までのキャリアの中で、一番気に入っている仕事は何ですか?

パク氏: XLGAMESの「ArcheAge」です。これはお世辞無しで(笑)

編: XLGAMES以前の仕事だと?

パク氏: やはり人生で一番大きい影響を与えたRockster Gamesでの仕事です。プロジェクト単位だと、一番辛かったけど、一番成功したプロジェクトである「レッド・デッド・リデンプション」。逆に一番楽しかったのは、最初に担当した「レッド・デッド・リボルバー」です。「リボルバー」は元々はカプコンが開発していたプロジェクトだったのですが、Rockster Gamesが開発することになりました。そこで日本のあきまんというアーティストと一緒に仕事したのが楽しかったです。

編: その「RDR」シリーズは非常にアメリカらしいテイストのゲームだと思いますが、そのアーティストに韓国の方が関わっていたのは意外ですね。

パク氏: それを言うなら「レッドデッドリボルバー」は最初に開発したのは日本のカプコンですので、日本のメーカーがアメリカらしいゲームを作ったという点をもっと評価すべきでしょうね。私はただアメリカのデベロッパーの社員として会社から言われたことをこなしていただけでした(笑)。

編: 11年間のコンソールゲームの開発経験から、環境をPCオンラインゲームに移して、どのような変化を感じましたか?

パク氏: オンラインゲームは前から深い興味があり、PCオンラインゲームを作ってみたいと思っていました。あくまで個人的な意見に過ぎませんが、コンソールゲームも飽和状態ではないかと思います。何れにせよオンラインへ進んで行くと思っていましたので、オンラインゲームが強い韓国に戻って仕事したいと思ってました。最後に参加した「レッド・デッド・リデンプション」は、結構MMORPGらしいコンテンツが多かったですね。クエストとなるサイドミッションや、マルチプレイ、オープンワールドというコンセプトなど。実際のMMORPG作りでその経験が助けになりました。




■ アーティストの視点から見たオンラインゲーム、そして「ArcheAge」について

開発は難しいといいながら、RockstarのRAGEエンジンからCrytekのCry Engineへの切り替えはもう終わっている様子
キャラクターの動きはモーションキャプチャーを採用。この1点をとっても非常に贅沢なMMORPGだ

編: パクさんはXLGAMESでは何を担当していますか?

パク氏: 2010年9月に入社し、開発理事としてアートテクノロジーチームを担当しています。テクニカルが必要なアートをサポートするチームを運営しています。また、「ArcheAge」では、アニメーションとエフェクトを監督しています。

編: ということは、「ArcheAge」の開発途中に入社されたことになりますが、引き継ぎの面でやりにくさはありませんでしたか?

パク氏: 入社してから、一番変わったのは、私自身がMMORPGのアニメーションクオリティーを引き上げたくて、ゲームのほとんどのモーションがモーションキャプチャーに差し替わったことです。社内にモーションキャプチャー装備も完備しています。仕事も上手く引き継ぐことができて、2010年の9月に入社して第2次クローズドβテストが行なった翌10月には、殆どのモーションにモーションキャプチャーのアセットを盛り込むことができました。ユーザーのたちの評価はかなり良かったです。

編: Rockstar Gamesでは独自エンジンのRAGE(Rockstar Advanced Game Engine)が使われていますが、「ArcheAge」ではCry Engineの最新バージョンが使われています。難しい点はありませんでしたか?

パク氏: 開発はいつも難しいです(笑)。両方とも違いがあって、良いところもあれば、悪いところもあります。それが分かるまでの手間は掛かりました。具体的にどう違うのか、申し上げたいところですが、Rockstar Gamesが使用するゲームエンジンRAGEに関しては、退社の際に、エンジン仕様に関するコメントはしない様に契約したので、この辺の発言は難しいです。Cry Engineに関してはモーションブレンディング(複数のモーションを組み合わせて複雑なモーションを作り出す機能)が優れていて、開発しやすいですね。

編: モーションキャプチャーに拘る理由を教えてください。

パク氏: 実は拘ってないです。実は個人的には、キーフレーム法(一定のフレームおきにオブジェクト位置を指定し、その間を補完していくことで動画を実現する技法)を好みますね(笑)。ただ、ゲームごとコンセプトが異なるので、どういう手法が相応しいかを考えた結果です。「ArcheAge」は見ての通り、マップがリアルで、キャラクターもリアルですが、そういうゲームだからこそモーションキャプションを使用したのです。「レッド・デッド・リデンプション」の場合も、リアルなゲームだったため、モーションキャプションを使ったのです。もし、ディズニーみたいな作風だったら、キーフレーム法を使用したはずです。

編: これまで超メジャータイトルを数多く手がけてきたアートディレクターの目から見て、今のMMORPGのクオリティーはどの様に映っていますか?

パク氏: コンソールゲームに比べて、劣っているのは事実です。ただ、技術的に難しいところもありますね。例えば、プレーヤー同士、プレーヤーとサーバーの同期などが必要ですので、パフォーマンス的に劣るのは仕方ないと思います。それでも、まだまだやれるところはあると思います。特にキャラクターの移動や、戦闘、倒されたときなど、演出的なところをフォーカスしてクオリティーを引き上げるつもりです。基本的な動きのディテールも、勿論アップさせるつもりですが。

編: 従来よりもリッチな演出を実装する訳ですが、PCのスペック的な面での心配はありませんか?

パク氏: ハードウェアのスペックはかなり良くなったので、特に無理はないとおもいます。また、具体的には申し上げませんが、私なりの方法で、他のMMORPGより、多いアセットを使用しても、上手く動ける様になっています。

編: アーティストとして今後「ArcheAge」で、実現して見たいものというのは?

パク氏: 本音は実際の生活をするNPCを作りたいです。「レッド・デッド・リデンプション」を見ると、AIの方がすごく良くできていて、NPCたちは朝起きて、飯食って、仕事して、夜は寝るといった生活ルーチンを、それぞれ持っていましたね。それを「ArcheAge」に実現して、本当に生きている、NPCたちが生活をする世界を作りたいです。ただ、個人的に作りたいというもので、必ず実装するわけではありません。まだ、実現されてないシステムです(笑)。

編: アセットの制作量を見て、「ArcheAge」の完成度はどうですか?

パク氏: まだまだ作らなければならないものが多いですね。ただ、オンラインゲームはアップデートを通じて、さらに進化することができるので、アセットの量で、完成度を語ることは難しいですね。コンソールゲームはだと、開発が終わると発売ですが、オンラインゲームは正式サービスされてからも、開発はまだ続きますからね。




■ 「ArcheAge」の目標は“現実とは違うもう1つの世界で生きているという感覚”

「気に入っているコンテンツは?」と問いかけると、ひとしきり照れ笑いを見せた後、ダンス機能を教えてくれた
これがグライダー。飛空挺から飛び降りてグライダーを使って街へ行くことができる

編: アーティストとして「ArcheAge」はどのようなゲームだと見ていますか?

パク氏: 一言で表現すると”100万個の遊べる要素”があるオンラインゲームです。これは「ArcheAge」のモットーでもあります。

編: 現在、開発されている中で、気に入ったコンテンツはなんでしょうか?

パク氏: 一番気に入ったのは、海上戦とグライダーシステムです。また、ユーザーさんに気に入られるコンテンツだなと思ったのが、ダンス機能です。他のMMORPGでは、同じ場所で踊るだけなんですが、「ArcheAge」では、自然な動きで踊ることができ、なおかつ踊りながら移動することができます。個人的な予想としては、殆どのプレーヤーは踊りながら移動するのではないかなと思ってます。クラブみたいな感じになるのではないかなと(笑)。

 ダンス機能は、実際のゲームには、そんなに影響力のあるものではありませんが、「ArcheAge」が目指してるものは、現実とは違うもう1つの世界で生きているという感覚です。そういう目標からみて、このコンテンツは面白いコンテンツの1つだと思います。

編: ダンス機能もパクさんが担当されたわけですか?

パク氏: はい。モーションキャプチャでしました。

編: 今後、アートの面ではどういうものを追加して行きますか?

パク氏: 今までは、プレーヤーキャラクターに関する開発が多かったんですが、今後はNPCや、モンスターに関する開発を行なう予定です。先ほども申し上げましたが、NPCを追いかけるだけでも、そのNPCの生活が垣間見られて、それだけでも楽しめる要素になるのではないと思います。

編: サービススケジュールはどうですか?

パク氏: 来年と聞いていますが、これは私が決めるものではないですね。

編:海外展開も予定されていますが、海外向けに考えてるものはありますか?

パク氏: 現段階では、韓国に集中している状況です。今、作ってるモーションは、基本的な動きなどはどの国でも同じように使用されるものですね。

編: 日本にも「レッド・デッド・リデンプション」を好きなゲームファンはたくさんいます。彼らを含めた日本のゲームファンにメッセージをお願いします。

パク氏: 今までのMMORPGはコンソールゲームより、アニメーションが劣っていることは事実です。今までのMMORPGは、どちらかというとファンクションを中心とした開発になっていて、完成度を追求するコンソールゲームのユーザーにとっては、物足りないゲームだったと思います。「ArcheAge」はコンソールゲーム並みのクオリティーを保証できるので、「ArcheAge」を是非ともご期待ください。

編: ありがとうございました。


【グライダーシステム】
●ファイル名.flv



■ 「ArcheAge」をゲームオンの最重要タイトルとしてプッシュしていく

ゲームオン事業推進室室長のチェ・ユンソッ氏

 パク氏とのインタビュー終了後、インタビューに同席していたゲームオン事業推進室室長のチェ・ユンソッ氏に、「ArcheAge」の日本展開について話を聞くことができたので、こちらの内容も紹介しておきたい。

編: 「ArcheAge」の日本でのサービススケジュールについてはどのように考えていますか?

チェ氏: 韓国では2012年の予定ですが、日本は海外展開地域の中でも最重要市場であって、XLGAMESさんと密に話を進行させて頂いております。多分、韓国の次か、次の次になると思います。

編: 韓国のサービススケジュールに比べて、日本はどのぐらい遅れるんですか?

チェ氏: 韓国のオープンβテストが実施してから、1年以内だと思います。ゲームの日本語へのローカライズはもう始まっています。実はゲーム内容の変更が激しいので、ローカライズ作業は簡単ではありませんが、変更があってもカバーできる体制は整っております。

編: 日本ではまだゲームオンさん自身が動いていないこともあって、「ArcheAge」の大作感はまだ伝えられていないと思います。

チェ氏: そうですね。XLGAMES代表取締役のソン氏は、韓国では伝説的な人物ですが、日本では認知度がまだ低く、他の有名な韓国の開発者ほど知られてないです。その認識を変えていくことも、1つの課題ですね。ただ、スタープレーヤーだけでもダメだと思います。パクさんも仰ってたように、今までのMMORPGというのは、狩りがメインとか、レベルアップがメインとか、ファンクションが重要とされました。「ArcheAge」は“アナザーワールド”という表現みたいに、狩りや、レベルアップのような、競争だけが楽しみ方ではないという思いが込められた作品です。この辺を上手く伝えるためには、時間掛けって徐々にやっていくしかありませんね。

編: ゲームオンでは、一番期待するタイトルですか?

チェ氏: 一番ですね。私自身も開発者たちと、ローカライズのフォーマットとかの、より効率の良いローカライズに関する話し合いをしていますので、パブリッシャーとデベロッパーという位置づけというよりは、一緒に味を付けて行きましょうというパートナーみたいな感じで考えています。XLGAMESさんは実力もあり、実績もあり、可能性もあり、韓国のメーカーの中でもダントツだと思います。上手くビジネス的に引き出せるような環境作りが、私たちの仕事だと思います。

編: すでにゲームコンテンツに関して日本側の要望を伝えていたりするのですか?

チェ氏: 現段階では、そこまで要求したくないですね。パクさんが仰ってたように、まだまだ進行中で、色んなコンテンツが追加される状況です。ゲームオンの社内でも、毎回二桁の人数で、それらのコンテンツをテストプレイしている状況ですね。今は、お互い軽くコミュニケーションを取るだけで、要求というものは、あえて言わないです。課金モデルに関しても、まだ何も話したことがないんですよ。

 XLGAMES代表取締役のソン氏も、開発者で、自分なりのMMORPGの哲学やポリシーを持ってる方です。それを信じて、いつまで完成してくださいという注文はしてないんですよ。自分がMMORPGで追求するものを最善を尽くして作ってくださいというスタンスです。

編: パクさんの話を聞く限りでは、完成までには、まだまだ時間が掛かりそうだなと感じました(笑)。

チェ氏: もっと掛かってもいいじゃないですか(笑)。韓国では12月から第4次クローズドβテストが80日間という長期間の日程で実施されますが、それほどユーザーの意見を十分に聞いて、ゲームを作って行くというほど、意欲が強いです。私たちは彼らを信じています。


(2011年 11月 13日)

[Reported by 中村聖司]