セガ、3DS「スーパーモンキーボール 3D」

馬場保仁プロデューサーインタビュー


発売中

価格:4,410円

CEROレーティング:A(全年齢対象)



馬場保仁氏

 3月3日にリリースされた、株式会社セガの「スーパーモンキーボール 3D」は、「モンキーボール」シリーズ10周年と、セガのニンテンドー3DS用タイトルの第1弾として発売された。本作のプロデューサーはセガで「プロ野球チームをつくろう」シリーズを手がけてきた馬場保仁氏。馬場氏は、「龍が如く OF THE END」チームにも参加している。

 馬場氏には先日行なわれた任天堂、「NINTENDO WORLD 2011」レポートにおいてもミニインタビューを行なっているが、改めてお話を伺う機会を得た。

 「スーパーモンキーボール 3D」は、「モンキーボール」、「モンキーレース」、「モンキーファイト」の3つの異なるジャンルのゲームが収録されており、パズル、レース、バトルと違った遊びが楽しめる。また、「モンキーレース」と「モンキーファイト」は、通信機能を使うことで最大4人での通信プレイに対応。ダウンロードプレイでも遊べるようになっている。


「モンキーボール」「モンキーレース」「モンキーファイト」

■ モーションセンサーとスライドパッドで2倍お得!?

――今回、ニンテンドー3DS向けソフトを制作されて、いかがでしたか?

 「3DSはどういうハードかと思いますか?」とよく聞かれるのですが、僕は通信機能に未来を感じるハードだと思ってます。それから、実際にゲームを作っていると、トゥーンレンダリングはすごくはまるだろうなと思います。レイヤーが異なることで、立体を感じることができるので、トゥーンシェイドはあっているんですよ。あと、ワイプの入れ方も切れ込みなどを入れると、さらに立体感を感じるようになるんですよね。相当3Dの勉強をして、いろんな仕掛けを入れているんですけれども、まだまだやれることはありますね。ユーザーさんの視点からすると細かいことかもしれませんけんどね(笑)。

――手探りの部分も多かったのかなと想像します。

 今回はローンチのタイミングで発売をしなければならないというスケジュールだったので、開発環境も組み上げながら僕らも作っていかなければならないじゃないですか。だから、いろんな実験をしたいんですが、まずは作らなければいけない。時間がもう少しあればまた話は違ったかもしれませんが。それこそ、こういうテイストの絵柄ではない「モンキーボール」もあったかもしれません。より3Dを感じるためのチャレンジはほかに方法があったかもしれない。

――いろいろ試行錯誤する時間はなかったということですが、「モンキーボール」はタイトルとしてニンテンドー3DSにマッチしていると思うんですが、そもそもなぜ「モンキーボール」だったんですか?

 シンプルなゲーム性ということも大きいですね。今回は「モンキーレース」と「モンキーファイト」という重厚なモードも入っていますが、「モンキーボール」は床を傾けてゴールまで転がしていくというパズルゲームと説明すれば、だれでも最初から遊んでもらえるシンプルなゲームで、かつ遊び応えがあってステージがたくさんあればさらに遊びこんでもらえるという部分ですよね。新しいハードに対してのチャレンジングなセガのタイトルの役割を担っているんだろうな、と思いますね。

――モーションセンサーと3Dを2つ同時に使うのは、相性があまりよくないと思うのですが……?

 最初はなんとかできないかと試行錯誤しました。一時期は3Dを優先して、モーションセンサーの操作をなくそうか、という話もありましたね。スライドパッドや十字ボタンでの操作のみにしようと。最後の最後に「両方とも違う感覚でおもしろいから両方入れよう」と入れることになりました。どちらでも楽しんでもらえるように。

 3Dを楽しんでいただくのは視覚的な新しさがありますよね。そしてモーションセンサーで遊ぶと、“ゲームを遊んでいる感じ”がすごくするんですよ。やっぱりどこかで体を動かすので。だから、他人が遊んでいるのを見ても、「楽しそうだな」って思いますし。「遊んでいる様」というのもすごく大事だと思うので。それと、モーションセンサーのほうが直感的なんですよね。

 ということで両方捨てがたいので……2つの操作モードを入れるのは結構大変でして。最初のほうのワールドはほぼ同じ配置なんですけれども、後半にいけばいくほど、モーションセンサーとスライドパッドではちょっとずつ変えてあります。床の形などは同じですが、たとえばガードレールがスライドパッドのほうが少なくて、モーションセンサーの方は危険そうな部分を助けるところにおいてあるとか、バナナの配置も違うとか。各々が得意とする操作がちょっと違うんですよね。スライドパッドだったら90度曲がるのはキュッとすれば曲がれますが、モーションセンサーだとゆっくり回らないと難しい。急加速や減速はどちらでもできるし……。通りにくいところの障害の置き方もちょっと変えてあったりするので、ある意味「2倍お得」と言えるでしょうね。後半は配置が違うので楽しんでいただけると思います。相当試行錯誤して配置していますので。

――操作の醍醐味は入れられるし、立体視になっても立体感を感じられるお得なタイトルということですね。

 ユーザーさんが遊ぶときにやるべきことがシンプルですし。作るほうは単純ではないので、めっちゃ苦労してますけどね(笑)。「“3Dに見える”ということはどういうことなんだろう?」というところから開発はスタートですから。

――「3Dに見える」というコツのようなものは早い段階でつかめたんですか?

 いろいろ試行錯誤しましたよ。カメラの高さ1つとっても最後まで微調節してましたし……今までのシリーズよりはやや視点が下がってますね。そうしないと奥行きを感じない。バナナを取るときのエフェクトにしても、今までだと横に飛ばしていたのをまっすぐこちらに向かって飛んでくるようにしたりしてますし。先ほども言いましたが、「レイヤー感」で奥行きを感じることが、現在はこのハードの3Dなんだ――将来は別の表現方法が出てくるかもしれませんけれども――今はそうだ、と思ったときにようやく見えてきたという感じなので、そこに気づくまではいろいろ実験しましたね。

 視野と視線と、どこにモノがあるかということを総合的に考えないと、例えば、モンキーボールが通過したときに何かが揺れても、もうプレーヤーの視点はそこにないから立体感を感じない。やたらモノが飛ぶようにできてるんですけれども。レイヤー(層)が重要ですね。オブジェクト→焦点→オブジェクト……と手前から重ねるように置くことで立体感を感じられる。「モンキーボール」はシンプルだからこう言えますが、複雑な動きをするゲームの場合はまた違うかもしれませんね。だからゲートをやたらくぐるとか、レンズフレアの光が差し込んでくると奥行き感が感じられるとか、いかにオブジェクトを置くかを考えていました。オブジェクトで何ができるかなと。

――これからリリースされてくるタイトルにも、ローンチ時期に出てきたタイトルは影響を与えると思うんですよね。ヒントになるというか。

 新しいハードのローンチ時期に発売されるタイトルって、どこの開発もみんな苦しんで作ってきてると思うので、僕は戦友みたいなものだと思っているんですよ。そこで僕らがリリースしたタイトルを踏み台にして、より「このハードだから面白い」と思ってもらえるタイトルが出てくると思うんで、どんなものが出てくるんだろう? と楽しみなんですよ。3DSって、そういう切磋琢磨ができるハードだと思うので。いろんな感覚に対して“刺さる”ものを作ることができるデバイスを持っている。作り手の努力と工夫がすごく出てくるハードだと思うんですよ。

――3DSに対して、馬場さんは通信機能を個人的に推してらっしゃいますけれども……。

 僕が1番感じているのが、「ゲーム」というものがどう捉えられているかという話なんですけれども、日本は比較的「暇つぶし」と捉えている人が多い気がするんですよ。据え置き機でガーッと遊ぶ人を除くと。あれだけモバイル、ソーシャルゲームが流行っているのがそうだし。2、3年前から考えていたんですけれども、ゲームっていつユーザーさんのお金と時間をもらうものなのか、どこに入り込む余地があるのかを考えなければならない。「いつの間に通信」のコンセプトを最初に聞いたときは、「やべえ、寝てる時間まで使えるんだこれ」って気づいて、「これは新しいスタイルで何かできる」と思ったんですよ。

 ソーシャルゲームも自分がプレイしていない時間で何かが動いていて、ということでいえば近い形ですけれども、それがわかりやすい形で、共通のルールというか、仕組みでできそうなんで、すごく可能性を感じるんですよね。すれちがい通信も面白かったんですが、場所によってはすれ違いにくいじゃないですか。それがいつの間に通信ができることで、いろんな方とつながる可能性がある。Wiiの構想とも近いものはあると思うのですが、「いつの間に通信」という名前も面白いと思いましたし。

 僕も「野球つく(プロ野球チームをつくろう)」などを作ってきて、単純にデータ対戦だけとってみても、いつの間にか行なわれているだけでも面白いと感じるし、他人と絡めて“今までにないルール”……単に戦うだけじゃなくて共同で仲間でプレイしてもいいし、僕が寝ている間に誰かが僕のために仕事してくれてもいいわけですよ(笑)。それがお互いにメリットがあればいいわけだし。新たな時間をお客様からいただける可能性が出てきた、という点で「いつの間に通信」の可能性を感じますね。

――「モンキーボール3D」での通信要素は無線でのローカル対戦ですね。

 もともとこのタイトルを作ろうとなったとき、それまでの「モンキーボール」シリーズは「モンキーボール」とミニゲームがたくさんあって、という作りになっていましたよね。ミニゲームはいっぱいあったんですが、ローンチタイミングでリリースするために、安心して遊んでもらえるように、3つの異なるジャンルのものを1本で遊べてしまうものを出そう、ということで絞り込んだ経緯がありました。

 僕は、ソフトが広がっていくためには、口コミの効果が大事だと思っているんですね。対戦して「面白い!」、「じゃ、俺も買う」と思ってもらえる環境がいい。だから、ダウンロードプレイもソフト1本あれば他の3人がソフトがなくても遊べるように作りましたし、「わいわい遊べないとなあ」と。おまけに持ち運べるんで、なおさら通信対戦って大事だと思うんですよね。ゲーム画面の中だけでなく、その場の空気感、三味線とか口プレイが生まれたりもするんで、それもまた楽しいんですよね。DSのころからできたことではあるものの、3DSでも最初からダウンロードプレイが提供できると、皆さん楽しんで遊んでいただけると思うので、なんとしても通信対戦ができるもの、しかもとってつけではなくてちゃんと遊び応えのあるものを、ということで「モンキーレース」と「モンキーファイト」を独立した形で入れることにしました。コンセプトはシンプルでしたけれども、ちゃんと作ろうとしてみたら意外と大変でした。

――3DSになったからといっても大変でしたか。

 グラフィックスが強化されても、通信量をそれほど増やせるわけではないですから。ダウンロードプレイだと同じキャラクタでしか対戦できないのが申し訳ないですね。

――同キャラは条件としては五分ですから、対戦の基本として楽しいですよね。

 エッセンスを楽しんでもらって、気に入ったらソフトを買ってくださいということですね(笑)。

――「モンキーボール」と「モンキーレース」、「モンキーファイト」と3本ゲームを作っているような状況だったと思いますが?

 別のゲームですからね。「モンキーファイト」は16キャラクターいるので、その分モーションやモデルも全部違います。それだけでも結構……対戦を面白くするには、「モンキーレース」にしろ「モンキーファイト」にしろ、キャラクターを多くして、1人でプレイするにしろ遊び応えを感じてもらわないと。数を用意するとなると、その分モーションも違ってくるし、必殺技も違うし。

――16キャラクターにしたのはどんな意味があるんですか?

 もともと「モンキーボール」シリーズには7キャラクターいまして、新キャラクタは1つは絶対入れようということで8にしました。そうすると「少なくない?」という話になりまして、コスチューム違いを用意して全部で16キャラクターにしました。でもモーションが全部ちがうので、スタッフは大変だったと思います。それから「モンキーレース」ではクルマも16台別にあって、キャラクターとの組み合わせを検証するのは大変でした。「モンキーレース」と「モンキーファイト」は本当にそれぞれが1本のゲームとして成立するほどのボリュームがありますから、安心してお買い上げいただける商品となっております(笑)。

――各社さん、PSP並みのゲームボリュームを3DSタイトルに持ち込んでいる感じがしますが……。

 確かに近いものはありますが、ターゲットが違いますよね。3DSはPSPに比べてターゲット年齢は下だと考えていますので、「スーパーモンキーボール 3D」は価格を抑えて、本体とセットで3万円を切るような設定にしました。

――お財布にやさしい設定ですね。

 どう買ってもらうかはすごく大事なことですから。みなさん、「何を買ったらいいの?」というときに「どうぞ」とお勧めできる内容ですし。

――3つのゲームを1つのパッケージにした理由は?

 2つだとちょっと中途半端じゃないですか? 3つあると安心感があるんですよね。そうは言いましたが、3つ作ってみたら大変でしたからね(笑)。これぐらいのボリュームで、これぐらいのクオリティで作れば「よくこの1本に収まっているよね」とユーザーさんに驚いてもらえる、満足感をいただけるミニマムが「3」だろうということです。だから、3つの異なるジャンルのものが1つでできますよと。パズルと、対戦格闘と、レースと。確かに「3つの3」というのはリリース当初からキーワードにしてましたね。3Dだし、モードも3つだし。発売日はさすがに後付けでしたけれども(笑)。

 もう1つ重要だと思っていたのはクオリティですね。ボリュームを優先するなら、「モンキーボール」と50個のミニゲームでよかったのかもしれないんですよ。遊び応えがあって、面白く遊びこんでいただけるようにするには、50個ミニゲームがあっても2、3個しかお気に入りにならないとしたら、絞り込んで、対戦もできる、ボリュームとクオリティが両立しているもの、となると、この3つがクリアラインということですね。

――逆にミニゲームを50個作っていたら、また別の苦労があったかもしれませんね。

 そうですね。対戦ができるものはあまり入らなかったでしょうね。通信のテストを50個やるなんて大変ですから。

――「モンキーレース」と「モンキーファイト」はてっきり、過去シリーズのミニゲームの中で人気があったものを選別して作りこんだ、という流れで採用されたのかと思いました。

 「モンキーレース」はアンケートで上位に来るんですよ。ルールがわかりやすくてシンプルに遊べるからなんだと思います。他にも、いくつか人気のあるミニゲームはあったんですが、「モンキーボール」と「レース」だと、ゴールを目指して操縦する、という見方をすればジャンルとして近いところにあるものだと思ったので、もう1つはまったく別のものを入れようという話をしていて。そうしないと3本入れている意味がない。「モンキーファイト」は、いまや全然別物ですが、ゲームキューブ版に入っていたものからタイトルを拝借して、違うジャンルとして成立するものにしました。

 「モンキーレース」も過去シリーズはクルマに乗ってないですから、別のものになってますが(笑)。これはビジュアル的なアピールの側面も大きかったんですよ。過去の「モンキーレース」は、「モンキーボール」と見た目にあまり違いが見えなかったので、クルマに乗せようと。露出したときのビジュアルも変えたかったということもあります。

――気が付くと、おサルを主人公にしたゲームは少なくなりましたね。

 うちと「サルゲッチュ」さんぐらいじゃないでしょうか。任天堂さんの「ドンキーコング」をおサルと取るかどうかは諸説あるでしょうが(笑)。「モンキーボール」も今年で10周年ですからね。記念サイトも立ち上げましたので。最初はアーケードでスタートでしたからね。バナナ型のコントローラーで(笑)。

――なつかしいですねー。



■ ロジックと感覚を融合したステージ作り

――話を戻しますが、レベルデザインやバランスどりはシリーズ作でもあり、3DSの最初のタイトルとして、落としどころが難しいタイトルだと思うのですが。

 そうですね。「モンキーボール」はパズルゲームだからなんですが、適度な緊張感を持続してもらって、クリアすると解放感を感じてもらえる。そのメリハリをつけるのは難しいです。

 プレーヤーの習熟度と、ステージ構成の乖離が出ないようにするために重要なのがバナナの存在です。スタートからゴールを目指すだけなら、最初のほうは本当に簡単だし、後半に行っても、ゴールするだけならいけるように設計しています。でも、バナナを全部集めようとすると、寄り道しなければならないところにおいてあったりするので、コンプリートを目指す人、腕に覚えがある人はそこにチャレンジしてもらう。すべて集められればそれでほめてもらえる要素も用意していますから。そういうところも1つ変数、パラメーターを加えるだけで、やりこみ要素とかスキルアップの要素で違う曲線が描ける。そこもゲームデザインとしてよくできている。このシリーズをプロデュースしてきた弊社・名越は、やはりすごいなと(笑)。

――いまどきないということでも、セガさんらしいつくりですよね。うまくなればなるほど、当然返ってくるものがあって。

 今回は入口の敷居を下げましたけれども。ワールド1で「感覚に慣れてください」という意味のチュートリアルを入れています。

――3Dという環境、そしてモーションセンサーで遊べるということで、初めて「モンキーボール」に触れる人にはちょうどいいタイトルになっているかもしれませんね。

 逆に、今までのシリーズのファンの方には、「ぬるすぎる」と思われないかどうか、というところはありますが、後半はなかなか歯ごたえがあるので。僕らもテストプレイを重ねてましたし。海外のスタッフにもプレイしてもらっています。最初はもっと簡単な時期があったんですよ。「こんなにミスしないのは『モンキーボール』じゃねえだろ!」ってレポートが返ってきたりして(笑)。ガードレールも最後のほうまで結構ついてましたが、今はなくなりました。それでいて、ちゃんとバナナをすべて取ってゴールできないと困るので、何度もテストして自分でも試しましたよ(笑)。隠しルートもあったりするから、考えてプレイしてほしいですね。

――「誰にでも楽しんでもらいたい」というのと「ぬるい」と言われないようなバランス取りのノウハウといいますか、基準になるような作り方ってあるんですか?

 最終的にはそういう要素もありますよね。今回「スーパーモンキーボール 3D」のステージデザインをするときも、まず何の変数を用意しようか、というところから始まっているわけですよ。たとえば1回カーブがあったら「難易度+1」とか。坂が何度以上あったら……とか。最初はスライドパッドだけで考えていましたが、スライドパッドとモーションセンサーでの操作で違いますし。難易度を加算していくためには、どんな変数の要素があって……それこそ20いくつかの要素から成り立っているんですよね。

 それがあると難易度がプラスになるものもあれば、逆にマイナスになるものもあるんですよ。たとえばガードレールがあればマイナスになるし。でも、ガードレールも置く場所によっては、単にスピードを遅くするだけで難しくなることもある。コースが長くなれば当然ゴールが難しくなる。コースの長さも何段階かでパラメーターになるわけです。トータルでまずワールド1で合計したとき、どれぐらいの難易度変数の幅になるように収めましょう、ワールド2、3なら……とまず、難易度の曲線を作る。これに対して、バナナの配置であるとか、おじゃまの配置であるとか、もろもろを足すことで、難易度曲線の傾きをどう変えてやれる要素があるのか。この追加要素は正直、ゴールするだけの要素ではなくて、遊び甲斐の要素なんで、これをどこにおいてやるか。難易度曲線も単に右肩上がりでいいのか、どこかでメリハリをつけたほうがいいのか、そしてそれがワールド単位でいいのか、ワールド内のステージの中でのメリハリなのか。

 基本的にはボーナスステージの前は、ちょっと難しくなっているんですよね。ボーナスステージに進むとちょっとホッとするので。難易度の曲線とユーザーさんが感じる感情の曲線を想定して……あくまで想定ですけれどね。実際に遊んでもらうと、「図面で書いたときよりずっと簡単だ」ということもありますから。逆に、簡単にしたつもりで遊んでみたら「案外難しいわコレ」っていうこともありますし。「スーパーモンキーボール 3D」の場合、70+隠しで10ステージの80ステージ入っていますけれども、200ステージぐらい作って最終的に80ステージ残す形にしています。スライドパッドとモーションセンサーでステージが違うので、事実上160個以上作ってることになりますね。

――なぜこのステージ数なのか、このボリュームなのか、プレーヤーに満足してもらえる量や質っていうものはどうやって決めているの? というあたりは不思議に思うところなんですが……。“なんとなく”で作れたらすごいとは思いますが……とくに時間もあまりなかった中で、レベルデザインも含めて何かノウハウといったものがあるんでしょうか?

 なんとなく感覚で作り上げるものも、なかにはそれがうまくハマって、ほかにない“とんがったもの”が生まれるという良さはあると思うんですよね。でも僕はそれに少しでもロジックを積み上げていこう、という思いがあって。レベルデザインの件に関しても、いくつ作ったらゴールになるのかわからないのはいやだから、ということでロジックを積み上げていく形にしました。

 今回、プロデューサー的視点で、きちんとした「レース」と「ファイト」を入れよう、という話をしましたけれども、ディレクターだったら「こんな短い時間で2つもできるか!」という話が出てもおかしくなかったと思いますし、チームのスタッフみんながよくやってくれたなと思います。そこはやっぱり新しいハードを触っている面白さと、どこか使命感のようなものがあったからちゃんとできたんだと思います。「ここは押さえよう」、「ここを押さえたら商品としてたどり着けるラインがある」というところは最初にちゃんと話をして、「ここまでは作ってくれ、あとはまかせるから」という話はしましたね。ローンチ時期のリリースを目指していたので、そこが大変でしたけれども。やっぱりロジックはあるはずで、僕はそう考えて作るタイプです。

 そうでないと、「あと10ステージ追加しようか」という話になったときに、「またなんとなく考えて作るのか」という話になるじゃないですか。スタートのラフイメージはなんとなくでいいんですけれど、ロジックがないと、「このステージって、どのあたりの難易度に追加するの?」という話がまったくできないですよね。それがやっぱりいやなので。いろんなジャンルがありますが、パズルゲームは少なくともロジックが成立すると思いますので。カーブもイメージしやすいと思うんですよね。もちろんイメージを形にするのは大変ですけどね(笑)。僕はパズルとかシミュレーションゲームを作ってきているので、“ロジックよりな”ゲームデザインをする方向で来てますから。得意かどうかは別ですが、そちらのほうが好ましいと思っています。

――爽快感と爽快感の間をストーリーでつなぐようなゲームもありますが、パズルゲームは頭を使って悩んでもらいつつ、クリアすることで解放してもらうというようなつくりになっている部分が違うのかな、と感じているんですが……。

 爽快感の提示の仕方だと思うのですが、爽快感も同じようなレベルのものが2つ、3つと続くと、3つ目はもう爽快じゃなくなってしまうかもしれないんですよね。刺激として慣れてしまって。それに比べて、ちょっとがんばらなきゃいけないこと(負荷)があると、その後にちょっとほめてもらえると人間ってカタルシスを感じてもらえる部分があるので、感情の機微をどの波で捉えるか、というのはゲーム作りにおいて大切だと考えています。「モンキーボール3D」では「これ以上負荷をかけ続けるともたないよ」というところ、いいところでボーナスステージが入るようになっていますし、そこをうまくコントロールしなきゃなというところですね。エンディングでカタルシスを与えるゲームが昔は多かったと思いますが、今は「スタッフロール長いな」ってプレーヤーさんは思っているでしょうし。

――そういったことを踏まえると、「スーパーモンキーボール 3D」の作りはなかなか絶妙ですね。

 ゲーム自身が、どんな要素で成り立っているのか。ニンテンドー3DSのような新しいハードが出てくるたびに、いろんなことができるようになっていくので、ゲームをデザインする側としては、どのような要素でどう面白さにつなげていくのかをなんとなくではなく、自分で省みながら作っていく。たぶん、皆さんこういったことを考えておられると思いますが、昔の人たちは天才だったので、感覚でそれができていたんじゃないかと。ゲームを作る人たちが増えてきて、ゲーム自身が業界的に成熟してきている以上、なおさらその分析をちゃんとした上で再構築しないと……要素をすべて洗い出して、どう再構成するのか。これはプロデュースなのかもしれないし、ディレクションなのかもしれませんが、いろいろな方法があるかもしれません。

 そこをどれだけ考えているのか、どこに「このゲームが面白い」と感じてもらえるのかを考えていると、それがユーザーさんに伝わると思うんですよ。どこかで「しっかり考えられている」ということが。それがすごく大事なポイントなんだろうなと。そういうゲームデザインに関して、アカデミーのレベルまで真剣に考えられている海外と今後戦っていくには、なおさら常識レベルでみんなが方法論を持った上で、独自の感性を持っていれば、話が進みやすいでしょうし、伝わるものが多くなるんじゃないかなと思います。たとえば、「Rules of Play」(ソフトバンククリエイティブ刊)をみんなが読むといいんじゃないかな、と思いますね。

 日本のゲーム業界はまだマニファクチャなんですよね。師匠と弟子みたいな。海外は明らかにファクトリーですよね。うまく作業を分割していて、各自がやることを理解していて。それは土台になんらかの共通認識があるんですよね。全員が必要かはわかりませんが。日本式は日本式のよさがあるんでしょうが、それを誰かが何らかの形で分析をして、「こうだから日本式はいいんだ」というよさをアピールしないといけないんだと思いますよ。緻密さだとかもろもろ含めて、日本人のよさはあると思いますが、個々の精神力だとかに依存している(笑)部分はあるので、そうではない何か組織的な構造が作られていくと、より底上げされたクオリティーの高いものができてくるんじゃないかなと思います。それなら海外と戦っていけるんじゃないかと思うんですよ。

――昔の日本のソフトが面白かった、というのはその当時は例えると小さい家を作っている時期だったからかもしれません。今は規模的にはビルを建てるようなことをやっているわけで、数人の職人さんたちが作ればいいものは作れるというのは変わりませんが、何年かかるんだ、という話で。

 誰かが鉄骨なり何なりの新しい構造を発見しなければならない。その枠組みを作り上げてその中でルーチンで働くという。

――ローンチタイトルはそういう意味ではかなり制約が多いですね。

 想定していた時期とずれたりすると難しいですが、とんがって突っ込んでいかなきゃいけないので、それが「セガカラー」ですからね。あとはこれを情報共有していかなければならないので。われわれも今回3DSでソフトを手がけて、苦労や工夫をノウハウとして社内に伝えていかなきゃいけない。そこを口伝にしてはいけないところだと思うので、その情報や経験をちゃんと資産として共有する努力が必要だと思いますね。

――ありがとうございました。


(C)SEGA

(2011年 3月 29日)

[Reported by 佐伯憲司]