OS2.2でいよいよ本領発揮!
「日本Androidの会」安生氏に聞くAndroidゲーム
iPadとiPhone4の発売、そしてiOS4のアップデートと、スマートフォンで快進撃を続けるアップル。その一方で今年に入り、日本でも存在感を増しているのがAndroid携帯だ。4月1日にNTTドコモから新機種「Xperia SO-01B」が発売されたのに続き、ソフトバンクモバイルが4月27日に「HTC Desire」を投入。最後発のauも6月30日に「IS01」を発売し、主要3キャリアでAndroid端末がそろい踏みした。
Android携帯がiPhoneやWindows phoneなどと最も異なる点は、プラットフォームが無償で公開されている点だ。端末メーカーはAndroid OSを自社製品に組み込んで、自由に製品を発売できる。2008年10月の発売以来、Android携帯の普及台数は全世界で急速に伸びており、iPhoneを猛追中だ。米調査会社のガートナーは2012年の出荷台数ベースで、iPhoneの7,150万台に対してAndroid携帯が7,600万台と、両社が逆転するとの予想を発表した。
しかしゲームユーザーにしてみれば、Android携帯はまだ、なんともイメージがつかないのが本音だろう。そこでGoogle API ExpertのAndroid担当で、NPO法人「日本Androidの会」の理事、そして株式会社ケイブの社員でもある安生真氏に、ゲーマー向けの特別レクチャーをお願いした。ゲーム業界で日本一、Androidに詳しい人に直撃した、というイメージで捉えてもらえれば幸いだ。
■ 概要編
「日本Androidの会」理事の安生真氏 |
1.Androidとは何か?
まずAndroidについて簡単に整理しておこう。AndroidはGoogleが開発し、スマートフォンやインターネット端末向けに無償で配布しているプラットフォームの名称だ。OSやミドルウェア、主要アプリケーションなどが含まれ、ソースコードも公開されている。そして、このプラットフォームを搭載したスマートフォンがAndroid携帯だ。世界中でさまざまなメーカーが端末を発売しており、バラエティに富んでいること。そしてGmailをはじめとした、Googleが提供するWEBサービスとの親和性が非常に高いのが特徴だ。
システム面から見たAndroid携帯の特徴は、マルチタスクで動作する点にある。iPhoneなどのOSであるiOS 4でも導入されたが、こちらは厳密にはマルチタスクとは言えない。一般にマルチタスクとは複数のプログラムがメモリ内で平行して実行することを指すが、iOS 4ではバックグラウンドで実行できるマルチタスク機能が、かなり限られている。大前提としてアプリがマルチタスクに対応している必要もある。結果として対応アプリでも、前回中断した状態から、素早く起動できる程度に留まっているものが大半なのだ。
これに対してAndroid携帯では、PCと同じくメモリが許す限り、複数のプログラムを同時に実行させられる。Androidアプリの中でも、実行中のタスクを確認して管理できるタスクマネージャが人気なほどだ。あるプログラムから別のプログラムを呼び出す「インテント」や、データベースを共有できる「コンテントプロバイダー」といった機能もシステム側で用意されているおり、複数のプログラムを連携させるような、複雑で高度なアクションが手軽に提供できる環境が整っている。
2.Android携帯はどこに売っているのか?
前述の通り、Android携帯はNTTドコモ、ソフトバンクモバイル、auの3キャリアから対応端末が発売されている。6月末時点で通常販売されている現行モデルは、「Xperia SO-01B」(NTTドコモ)、「HTC Desire」(ソフトバンクモバイル)、「IS01」(au)の3機種で、7月に「LYNX SH-10B」(NTTドコモ)の発売が予定されている。家電量販店や携帯電話ショップなどでデモ機が展示されているので、店頭でチェックしてみるといいだろう。
3.どの端末を買えばいいのか?
Android携帯は現在、iPhoneと同じタッチパネル操作のものと、QWERTYキーを搭載したものとに分けられる。前者が「Xperia SO-01B」、「HTC Desire」、後者が「IS01」、「LYNX SH-10B」だ。AndroidアプリはiPhoneアプリとマルチプラットフォームで開発されるものもあり、そうしたアプリはタッチパネル操作が前提となる。そのためゲームユーザーにとってのオススメは前者となる。
その上で安生氏は、「強いて上げるなら『HTC Desire』がオススメ」だと述べた。ポイントはAndroid OSのバージョンで、「HTC Desire」は最新の2.1だが、「Xperia SO-01B」は1.6となっている点だ。実は2.xからプログラマブルシェーダー機能が搭載されており、よりリッチなグラフィックス表現が可能になっている。ただしプログラマブルシェーダーを利用したゲームはバッテリーを大量に消費するため、現時点ではほとんど存在しないのも事実ではあるが……。このほか「Xperia SO-01B」はシングルタッチだが、「HTC Desire」ではマルチタッチに対応している点も強みだ。
ただし後述するが、現在コードネーム「Froyo」と呼ばれるOSバージョン2.2のソースコードが公開されており、秋口に向けて対応端末の発売やアップデートが見込まれている。もっとも「Xperia SO-01B」、「HTC Desire」はともに、公式には2.2へのアップデート対応は未定となっている。2.2では大きな改善が見られるため、アップデートの状況がハッキリしてから購入しても遅くはないだろう。
4.Androidは通信料金が高いのでは?
一般の携帯電話からスマートフォンへの乗り換えで、誰もが気になるのが通信料金の変化だ。実際、画面が大きいスマートフォンでは、フルブラウザの使用などでパケット通信料も増大する。そこで3キャリアとも、スマートフォン向けの定額オプションや割引プラン(NTTドコモならパケ・ホーダイ ダブルなど)が提供されている。これらを組みあわせれば、月々の支払いはそれほど変わらない程度で利用できるだろう。複数の料金プランが存在する場合もあるが、ゲーマーらしく「通信料金を攻略する」イメージで情報を集め、不明な点は店頭などで確認してみよう。
■ 使いこなし編
5.Androidで従来の携帯向けサービスは使えるか?
iモード、EZweb、Yahoo!ケータイといった公式メニューのアプリをはじめ、これまで愛用していた携帯電話の豊富なサービス群。Android携帯でも継続利用したいのは山々だが、残念ながらこれはNGだ。メールアドレスも変更になってしまうので注意しよう。
またmixiアプリモバイル、GREE、モバゲータウンなど、最近ではケータイ向けのSNSサイトやゲームコンテンツも人気がある。これらのサイトもAndroid携帯では使用できないか、機能の一部が制限される場合が多い。たとえばGREE、モバゲータウンではユーザー登録に携帯電話のメールアドレスが必要で、Android携帯のみでは事実上プレイできないなどだ。mixiでもモバイル版ではなく、PC版のサイトを利用することになる。
もっともYahoo!とモバゲータウンが提携し、「Yahoo!モバゲー」(仮称)がスタート予定となっているなど、この分野は状況が常に変化している。後述するがスマートフォンはソーシャルゲームと親和性が高いため、今後の動向に注目したいところだ。
6. AndroidはPCがないと使えないのか?
iPhoneのアキレス腱の1つが、母艦となるPCが必要になる点だ。アクティベーションにPC(正確にはiTunes)が必要だし、接続の度にバックアップで長時間待たされてしまう。これはiPadでも同様で、ストレスに感じているユーザーも多いだろう。
この点については、Android携帯ならPC不要。専用アプリはApp Storeに相当するAndroid Marketなどから、Wi-Fiか3G回線で直接ダウンロードする仕組みだ。PC向けのアプリやサイトは用意されておらず、Android携帯から直接アクセスする。総じてiPhoneが「クールな周辺機器デバイス」であるのに対して、Android携帯は「クラウドのパワーを引き出すツール」といったイメージだ。
なおAndroidではアプリを内蔵のフラッシュメモリに収納するだけでなく、データ部分を外部メモリであるSDカードにも保存できる。またOSバージョン2.2では、SDカードにアプリを直接インストールして、起動することも可能になる。しかしAndroidはマルチタスクが前提のため、アプリがあまりに巨大だと、内蔵メモリを圧迫してしまい、嫌われる傾向にあるという。
※ 読者様から外部メモリの扱いに関してご指摘いただきましたので、記述をより厳密な形に修正いたしました。
7.どんなゲームが遊べるか?
ハドソンの「ボンバーマン道場」(上)や、セガの「ぷよぷよフィーバーTOUCH」(下)など、日本のメーカーも進出しているものの、まだ本格的な動きとはいえない状況だ |
Android Marketの登録アプリ数は、6月現在で約48,000本。App Storeの約20万本には遠く及ばないが、それでも十分すぎる種類がそろっている。国内メーカーではハドソンがいち早く「ボンバーマン道場」、「ネクタリス」の有料アプリを投入しており、セガは「ぷよぷよフィーバーTOUCH」を投入。Namco Networksでも「PAC-MAN Championship Ed. Demo」の体験版をリリースしている。ただしiPhoneに比べると国内大手の動きは、まだまだ鈍いのが現状だ。
むしろ注目すべきは海外インディペンデント系タイトルで、アイデア1発の秀逸なゲームが揃っている。安生氏が最近ハマッたという「Jewellust」、「Crystallight Defense」、「SHOOT U!」などは好例だ。それぞれ宝石を揃えて消していくアクションパズル、タワーディフェンス、物理エンジンを内蔵したカジュアルアクションで、いずれもタッチ操作でプレイでき、シンプルで奥深い内容になっている。現状は初期のApp Storeといった印象で、これから端末の増加に伴って急速に成熟していく可能性が高い。
またApp Storeとの違いとして、アプリの事前審査が存在しない点が大きい。開発者はゲームが完成したら、すぐに公開できるのだ(もっとも著作権などで問題があるアプリは、ユーザーの通報などを受けて、後から削除されることはある)。App Storeでは一掃されたグラビアアプリなども大量に存在する。開発機材もWindows、Mac、Linuxに対応しており、フリーで入手できる。初めに25ドルを払って登録すれば、以後の年会費なども不要だ。このように個人や学生がスタートアップするのに最適な環境が用意されており、世界中でアプリ開発が進んでいる。
一方でコンピュータウイルスなど、悪意のあるアプリが紛れ込んでいる可能性も否定できない。安生氏は、「こうしたアプリはそもそも広まらないか、事後通告で削除対応できる、というのがGoogle側の基本スタンス。Google検索でいいページは自然と上位に来て、不人気であれば下位に落ちていくのと似た考え」と解説した。気になるアプリがあっても、まずダウンロード件数や評判などを確認してから利用するのが賢明だろう。
安生氏のお気に入りゲーム。左から、「Jewellust」、「Crystallight Defense」、「SHOOT U!」 |
8. 自社配信サイトとは何か?
Android携帯のもう1つの特徴が、Android Marketを経由せず、メーカーが独自のアプリ販売サイトを立ち上げられる点だ。モバイルゲーム大手のゲームロフトは5月から海外ユーザー向けに自社サイトでの販売を開始した。国内でもauが「au one Market」をスタート。BIGLOBEがアプリポータル「アンドロナビ」を開始し、ベクターも7月に「ベクター・スマートフォンサービス」を予定するなど、ここにきて一気に活気づいている。
「そもそもAndroid Market自体が、それほど完成度が高いものではないんです。検索機能が弱かったり、ジャンル分けが適切でなかったりします。それはGoogleも理解していて、どんどんアップデートが予定されています。ただ、現状のものに不満なら、自分たちで自由に配信サイトを作っていいですよ、というスタンスなんです。実際に中国ではそうしたサイトがたくさんあると聞いています」(安生氏)。
またレベニューシェアの設定も自由だ。App Storeではアプリ価格の7割が開発者、3割がアップルの取り分となる。しかしAndroid Marketでは、7割が開発者、2.5割がキャリア、0.5割がサーバ維持費などに分配され、Googleの取り分はゼロとなっている。さらに自社配信サイトでは、この割合も自由に変更可能なのだ。マーケティングやプロモーションが自由に展開できるため、今後も自社配信サイトやアプリポータルの増加が予想される。
9.アプリ購入にはクレジットカードが必須?
Android Marketでは決済手段に、Googleのオンライン決済代行サービス「Google Checkout」が用いられている。そのため有料アプリの購入にはクレジットカードが必須で、日本のユーザーには少々、敷居が高くなっている。ただし前述の「au one Market」では、有料アプリを月々の携帯電話使用料と一緒に支払える「auかんたん決済」の利用が予定されている。8月下旬開始予定で、「au one-ID」に登録しているauユーザー限定のサービスだ。他社でも同様の仕組みが広がることを期待したい。
10. iPhoneアプリなどと比べて、ゲームの平均単価が安いが?
AndroidアプリはiPhoneアプリなどと比べて、総じて割安感のある価格設定となっている。安生氏によると、これはAndroid Marketが当初、無料アプリのみでスタートしたことが背景にあるという。まず無料アプリを充実させて、アプリをダウンロードする楽しみをユーザーに知ってもらう。ある程度浸透したところで、有料アプリを解禁する戦略だった。そのため全体として低価格化の傾向にあるというのだ。メーカーにとっては疑問が残るかもしれないが、ことユーザーにとっては嬉しい話だ。
■ ビジョン編
バージョン2.2「Froyo」は、処理速度の向上やフルバージョンFlash対応など多くの魅力があると語る安生氏 |
11. 今後のアップデートは?
前述したが、Android OSではバージョン2.2「Froyo」のアップデートが目前に控えている。大きく「動作速度の改善」と「PC向けFlashサイトの対応」が行なわれる予定だ。
まず「Froyo」では、2.1と比較して2~5倍のパフォーマンスとスピードが発揮できるという。これにはAndroidでプログラム言語にJavaが用いられている点が背景にある。一般的にJavaではWindowsやMacといった、プラットフォームに依存することのないアプリケーションが作成できるが、動作速度が遅くなる欠点がある。そこで多くの場合、必要な時に必要な部分だけコードを機械語にコンパイルするJIT(ジャストインタイム)方式が採用されている。これまでAndroidではJITが採用されていなかったが、2.2で「Dalvik JIT」コンパイラとして実装されるため、劇的な速度向上が期待できるのだ。
またAndroid携帯に内蔵されているブラウザには、モバイル向けの「Flash Lite」しか実装されておらず、Flashコンテンツを使ったWEBの一部がきちんと表示できなかった。これが「Froyo」では、PCで使われているものと同じ「Flash 10.1」が実装される。V8 JavaScriptエンジンも搭載され、JavaScriptで書かれたプログラムが2~3倍の速度で実行できるという。これにより、PC向けに作られたFlashゲームやソーシャルゲームが、Android携帯でもプレイできる可能性が高い。これはiPhoneやiPadに対する大きなアドバンテージだ。
ソーシャルゲームをモバイル端末でプレイするのは、日本では当然のことだが、海外では携帯電話の性能が貧弱なため、いまだ一般的ではない。これが「Froyo」の登場で大きく変わると予想される。さらにFacebookのライバルと言われるMySpaceや、モバゲータウンなどでは、アプリ開発向けのAPIにOpenSocialが使用されており、策定にはGoogleが係わっている。これらのサイト向けに、Android携帯のネイティブアプリでソーシャルゲームが登場する可能性もあるだろう。「Android携帯ではPCと違い、GPSなども使えますからね。ARG(Alternative Reality Games。ユーザーが参加し、その結果がコンテンツに影響を与えるゲーム)みたいな遊び方も、モバイル端末の方がやりやすいと思います」(安生氏)。
今後の動向に注目したいところだ。
12.Googleはゲームをどのように捉えているのか?
これはアップルも同様だが、Googleはゲーム専業メーカーではない。GoogleがAndroid事業を推進するのは、自社の広告ネットワークの価値を高めることが目的で、任天堂やSCEなどに取って代わるためではない。一方でゲーム開発者としては、Googleがゲームというコンテンツに対して、今後どのような姿勢をとるのか気になるところだ。プラットフォームホルダーのデベロッパー戦略は、その普及に大きな影響を及ぼすからだ。
安生氏によると、2008年10月にAndroid携帯端末が登場して以来、まずGoogleは端末の知名度向上やOSの機能拡張に力を入れてきたという。それが一段落して、アプリの充実に軸足が移り始めたのが昨年の後半。その中でもゲームなどのエンターテイメント分野は最も人気の高いジャンルで、自然とゲーム開発者向けのサポートを充実するようになっていった。その象徴が、今年のGDCで初めてゲーム開発者向けに講演を行なったことだ。会場でAndroid携帯の「Nexus One」、「Droid」の無料配布を行なったのも記憶に新しい。
安生氏の「Google API ExpertのAndroid担当」という肩書きも、Googleの方針を広く伝え、開発者からの要望を担当部署に伝えるという、両社の橋渡しを行なうことにあり、ゲーム分野でのコミュニティ拡大にも取り組んでいくという。Googleとしても、今後一層ゲーム開発者向けのサポートを充実させていくようだ。
13.Androidの将来は?
安生氏へのインタビューをもとに、これまでAndroid携帯の魅力と可能性を紹介してきた。ポイントは3点で、「Froyo」のアップデートで性能が大きく向上すること。アプリポータルや自社配信サイトが増加しており、今後さらにゲームアプリの充実が見込まれること。モバイル・ソーシャルゲーム向けのデバイスとして、さらなる飛躍が期待されることだ。一方で現段階では状況が混沌としており、今後の展開の見極めが難しい。購入を検討しているユーザーは、この半年間の動きに注目するといいのではないだろうか。
一方でAndroid OSにはスマートフォンだけでなく、家電などの組み込み用途でも開発が進んでいる。カーナビ、IP電話、デジタルテレビ、Bluetooth機器などで、Android OSの乗った製品が急増しているのだ。韓国Hardkernelが開発し、日本ではレッドスターが販売する携帯ゲーム機「ODROID」シリーズもその1つで、新型の「ODROID-S」は7月10日に発売が予定されている(公式サイトでの予約通販のみ)。HDMI端末を搭載し、デジタルテレビなどに出力できる点が特徴だ。ネットワークはWi-FiとBluetoothのみで、3G回線が省略されており、アップルでいうところのiPod touch的な感覚で楽しめる。
iPhoneがアップル独占で製造販売されており、Macintosh文化の象徴といえるのに対して、Androidに流れるのはLinuxにも似た自由さだ。安生氏も「ハマる人は、すっぽりとハマる」のだと語った。今後世界中で思いもよらなかったアプリや端末、はたまたガジェットが登場することを期待したいし、それが唯一実現できるプラットフォームが、Android携帯の魅力だと言えるだろう。
「ボンバーマン道場」(C)HUDSON SOFT
「ぷよぷよフィーバー」(C)SEGA
(2010年 7月 13日)