インタビュー

韓国ゲームファンに最も愛された日本人 SCEKプレジデント川内史郎氏インタビュー

「龍が如く」ハングル版ついに発表! 韓国のコンソールビジネスの現状について

「龍が如く」ハングル版ついに発表! 韓国のコンソールビジネスの現状について

韓国市場は大きく変わったと語る川内氏
「龍が如く極」のハングル版がついに発表された
先行する中文版は、日本と同時発売
しかも「龍が如く6」体験版付き。まだ中文繁体字とは差がある印象

――韓国に話を戻しますが、川内さんがこれまで担当されてきた、PSの韓国展開は今どういう状況にあると考えていますか?

川内氏:大きく変わりましたよね。特にPS4のローンチ後は劇的に変わりました。今までは韓国はいろんな問題があって、新しいハードのローンチがアジアの中でも最後の方になっていたのです。

――確かにそうですね。しかし、それはなぜですか?

川内氏:安全規格の問題だったりとか、SKU(在庫管理単位)の台数の問題だったりとか、いろんな複合的な理由です。その結果、アジアの中でも最初にローンチするのは香港だったり、台湾だったりというのがあって、韓国で遅れるのはしょうがないよねと。まあ半ばあきらめていたところがあって、それは当時私が日本にいた時に、そういう仕組みでもう回さざるを得なかったのです。

 しかし、PS4は、日本より早く、アジアの中でも1番に発売できたというのは皆さんにも喜んでいただけたし、胸を張ってお話できたというのもあったり、勢いを付けることができました。日本のタイトルもどんどん出てくる、欧米タイトルもローカライズさえしていただければ受け入れられるというのがわかってきて、どんどん一般の人たちが面白いタイトルがいっぱい出てきたよねということでずっと伸びてきています。

ハ氏:PS4のローンチは、韓国ではすごい話題になって、1週間前から並んで待っているとか、韓国では地上波で特定のブランドを紹介することはほとんどないというか、一切ダメなんですが、PS4のローンチイベントではSBSさんに取材してもらって、そこで例えばサムスンとかLGと比べながら、例えば向こうはこういうものを発売しても何日間も並ぶということは全くないのですね。でもソニーさんのものとか、アップルさんのものも入れつつ、こんなコアユーザーがいますという彼らの活動をありがたく思っている気持ちとかを地上波で紹介してくれて。

――また今回の発表会で、韓国語版のタイトルがたくさん発表されましたが、中文同様に、昔に比べると増えましたね。

ハ氏:やっぱりハングルにして、成功体験というのが業界の中でも広がっていきますよね。中文もそうだったのですが、まずやってみないとわからないというのがあって、中文をやってみるとこんなに大きなマーケットがあったのかというのは皆さんに認知していただいた。ご存じの通り、現在はもうSCEのタイトルは最初から中文、ハングルとほとんど入るようになっています。

――いま、アジアの中でのローカライズのプライオリティで言うと、やはり中文が1番高かったりするのですか? 中文とハングルは同格くらいの感じなのですか?

川内氏:同格と言い切りたいのですが、まだ中文の方が数としては多いですね。

――順番としては、香港・台湾向けの繁体字があって、次にハングルがあって、中国向けの簡体字がある?

川内氏:そうですね。簡体字に関しても微妙なところでみなさん市場があるのはもうおわかりになっていますし、総数で言うと10億以上。総数はアジアの中でも断然多いのでローカライズもどんどん増えていくと思います。ただ、ご存じの通り、簡体字にして、正式に発売するためには、中国のセンサーシップを通さなければならなかったり、それを通すための期間の問題もあるので、一概に皆さんが賛同していただけるかはまだ言い切れない状況なのですが、これまでの我々の実績をお話ししながら、その意義をご理解いただいた上で簡体字の方もローカライズしていただくという流れを作ってはいます。

――今年中文化したタイトルの中で、ヒット作といえば「龍が如く」が挙げられると思います。台湾でも、中国でももの凄くヒットしていますよね。その成功体験がまさに今回ハングル版に結びついたのでしょうか。

川内氏:そうですね。そこはやはり大きいと思います。

――今回は純粋に「龍が如く0」だけの発表でしたけれど、中文版では同梱される「龍が如く6」体験版や、「龍が如く6」のハングル化はやらないのですか?

川内氏:そんなこと私の口から言えません。何を聞き出そうとしてるんですか(笑)。

――東京ゲームショウでの日本向け、アジア向けの発表会とは、発表の仕方を変えてましたよね。見ながら「おやっ?」と思ったのです。

川内氏:よく見ていますね(笑)。

ハ氏:TGSの時は、ハングル化の発表もなかったのです。ですから、韓国のユーザーさんも、「龍が如く」のハングル化はないんだなと、諦める声が多かったのです。でも、実は水面下で、川内さんがめちゃくちゃ交渉を行なっていたんですね。「龍が如く」ハングル版に関しては、ほぼ100%川内さんの功績だと思います。

――発表会でも川内さんの思い入れがたっぷりでしたからね。

川内氏:違いますよ、今の作り話ですからね(笑)。「龍が如く」の話題は発表会で1番大きなもので、大きなニュースであったことは確かなのですが、むちゃくちゃもったい付けたのは、実際にそういう指示があったからなんです。ハさんが私のプロンプターのスクリプトの中に、「1行入れておきました」と言ってきて、だから喋ることが1行増えたのかなと思ったら、赤字で「熱く語ってください」と書いてあって、「熱く語ってください」と読みそうになったくらい(笑)。

ハ氏:それはともかくとして(笑)、発表会の時はライブストリームをチェックしていたのですが、やはり「龍が如く」の時にはもう嬉しくてうれしくてしょうがないといった感じで大量の書き込みがありましたね。

――ところで、私は「龍が如く」がアジアであんなにヒットするとは思いませんでした。日本が誇るゲームではありますが、題材が日本の文化に深く根ざしているので、欧米における「ドラクエ」や「モンハン」のように、日本ほど受け入れられないのではないかと思っていたのですね。しかし、ふたを開けてみたら、中国も巻き込んでアジア全域で大人気になりましたね。

川内氏:韓国は私わからなくもないですね。韓国もある意味、似たような社会なんです。香港もある程度近いところはありますよね。だから、日本語版で出していた時からある程度の反応はあったんです。とはいえ、中ヒットくらい。もっと伸ばしたいねというのがあって、ローカライズをお願いさせていただきました。ヒットしたのはローカライズのおかげであるのは間違いないですが、「龍が如く」で描かれている裏の世界、男のロマンだったり、友情だったりとか、あとは夜の世界ですね。それがある程度受け入れられる土壌があったのは間違いないですね。

ハ氏:韓国の映画も、ヤクザ系の映画は人気があります。10本出すと9本は成功するくらいに。

――韓国の人は任侠モノが好きなんでしょうか?

川内氏:韓国語でチョボというと、やくざという意味ですが、チョボが映画のカテゴリとして、そこに出てくる有名な俳優さんがいたり人気がでてきたり、1つカテゴリとして成立しているぐらいなんですよね。

ハ氏:しかも映画の中で、日本のヤクザと組むという話はしょっちゅう出てきます。ですから、韓国の人にとって、ヤクザの文化はそんなに遠くないんです。どちらかというと「GTA」のマフィアとかよりは日本のヤクザの方が近いのかなという感じです。

「ダンガンロンパ」初のハングル化タイトルとなる「ダンガンロンパ Another Episode」
「ダンガンロンパ」シリーズプロデューサー寺澤善徳氏
Taipei Game Showでは「ドラゴンクエストヒーローズ」の中文版を発表
ステージイベントに登壇する堀井雄二氏
E3で発表された「シェンムーIII」
歓声に応える鈴木裕氏

――私が記憶してる限り、川内さんが「龍が如く」をアジアでやりたいといっていたのは、SCEKに就任する前からですよね。ずっと前から「龍が如く」をアジアでやりたいと言っていてついに念願が叶ったわけですが、川内さんの次のターゲットは何ですか?

川内氏:そんなこと言えません(笑)。直近のお話できるところで言うと「ダンガンロンパ」を中文でやらせていただきましたが、やはり現地のユーザーの皆さんに凄く支持をいただいていて、今回寺澤さん(善徳氏、「ダンガンロンパ」シリーズプロデューサー)にも来ていただいてステージをやっていただきますけど、やりたいですよね。新作のハングル化を。

――「ダンガンロンパ」の新作ですか。寺澤さんの「Another Episode」ステージは大人気でしたね。

川内氏:新作はまだハングル化されていないんです。正式発売もこれからです。

――アジア向けという意味では、E3でSCEAが「シェンムーIII」を正式発表しましたよね。まさにアジア向けのゲームですよね。

川内氏:「シェンムー」はまだ私の中で手を付けられていません。これから現場といろいろ作戦を練っていきますけど、鈴木さん(裕氏、「シェンムー」シリーズクリエイター)とお話をする機会を作りながら、しっかりやっていきたいなと思っています。堀井さん(雄二氏、「ドラゴンクエスト」シリーズクリエイター)もそうですが、アジアに来ていただき、本当に仲良くしていただいています。台湾チームも何回も堀井さんのところに行って、堀井さんにも数回台湾に行っていただいています。そういう関係を作っていきたいですね。

――その「ドラゴンクエストヒーローズ」もアジアでヒットしましたね。私はソニーがPS2を販売する2002年ぐらいからアジア市場を見ていますが、当時との1番大きな違いは、サードパーティーさんがアジア向けにタイトルを出してくれるところですよね。

川内氏:仰るとおりですね。

――台数的には当時もPS2やPSPが飛ぶように売れていましたよね。でもソフトはコピーで、だからサードパーティーさんもなかなか出しにくいというのはありました。PS3以降はセキュリティがかなり強固になりましたけど、それでもなかなかタイトルが出ないという時代が長かったですよね。

川内氏:PSPの時って、ハードは売れましたが、ソフトが売れませんでした。ソフトが売れるようになったのはやはりPS3からなのですよ。PS2/PSPの時代はハードが売れてもソフトがついていかなかったんですが、PS3は、台数はPS2とかPSPみたいにはいかなかったのですが、ソフトは圧倒的に売れているのですよ。

――コピーが激減したからですね。

川内氏:やはりこれはアジアでもソフトの市場をちゃんと作れるんじゃないということで、もちろんセキュリティもそうなのですが、「コピーはダサい!」みたいなことを言ってくれるようにユーザーの皆さんがなってきて、例えばオンラインで対戦に入ってくるのに、誰かがコピー版を使っているとラグが出るというか、合わなかったりするので、「お前海賊版使ってるんじゃねーの」とか、「ちゃんと正規品買えよ」ということをコミュニティでいってくれたりとかして少しずつ変わっていきましたね。

 ただ、私がアジアでどっぷりやっている時には、そういう風になってくれるとは考えもしなかったですね。シンガポール駐在時代は毎日、弁護士と一緒に怖いお兄ちゃんがいるような店に海賊版とかを見に言ったりしてましたからね。俺一生こんなことするのかなと思ってました(笑)。

――韓国に関しては、コピーに加えて、中古ソフトの問題がありました。これは今どうなっていますか?

川内氏:当時、私が東京から韓国を見ていたときは、中古をやっているお店は、パートナーショップ、プラチナショップとしては認めないという方針でやっていました。ただ、韓国に来てわかったのは、店を回していくのに、中古が必要不可欠なんですね。例えば中古を2枚、3枚持ってきて売って、新作1枚を売ったお金とちょっとお金を足して買っていくわけですね。アジアでもこれがいい循環であることにすごく気がついてそれ以降は中古も認めています。

 今は、特にPS4以降はそうなのですが、ハードを1台買っていただくときに、ソフトを2、3枚買っていく人が多くて、その人は遊んだゲームを売って、次の新作を遊んでいただくといういい循環ができています。これはやはり否定するのではなくて、店はこれがないとダメだというのがあるし、回していくための1つのツールとして考えて、中古は認めています。

ハ氏:最近、また変化が出てきています。というのは、韓国でもネットワークでの購入率が高くなっています。ネットストアで購入するのは、中古販売は全く考えていない遊び方ですが、それが広がりつつあります。PS3の時にはあまり盛んではなかったのですが、PS4になってから結構な割合でネットストアでゲームを買うようになってきています。

――それは興味深いですね。それはなぜなのですか?

ハ氏:それは中古販売を考えずに一生持っておきたいと考えるゲームユーザーさんがどんどん増えているのだと思います。

――本当のロイヤルカスタマーというやつですね。

ハ氏:はい。そういう熱心なお客様が増えていることがめちゃくちゃ嬉しいです。韓国はインフラもすごく整っていますし、ネット購買は生活の一部になっているので、バリアがないですから、今後も利用率は高まっていくと思います。

(中村聖司)