インタビュー

「セガ3D復刻アーカイブス」インタビュー

「スペースハリアー3D」、「アウトラン 3D」はどうして収録?

「スペースハリアー3D」、「アウトラン 3D」はどうして収録?

―― 今回、マスターシステム(セガ・マークIII)の2作「スペースハリアー3D」、「OutRun 3-D」(アウトラン 3D)が収録されることになったのはどうしてですか?

【「スペースハリアー3D」と「アウトラン 3D」】

 「スペースハリアー3D」は、マスターシステム(セガ マークIII)の周辺機器「3Dグラス」向けのソフトとして1988年にリリースされた。セガ マークIII版「スペースハリアー」とは別物で、全14面構成となり、ボーナスステージはなし。FM音源にも対応している。

 「アウトラン 3D」も、海外のマスターシステム向けのみ、1988年にリリースされた(日本版は予定はあったものの未発売)。「スペースハリアー3D」同様、「3Dグラス」とFM音源に対応。BGMに「MAGICAL SOUND SHOWER」は残っているが、「PASSING BREEZE」と「SPLASH WAVE」の代わりに、「MIDNIGHT HIGHWAY」、「COLOR OCEAN」、「SHINING WIND」の3曲が収録されている。難易度は3段階。

【スペースハリアー3D】
【アウトラン 3D】
画面はいずれも「セガ3D復刻アーカイブス」収録版

奥成氏: オマケを入れる案は、営業のリクエストの中には無かったんですが、ダウンロードタイトルを購入して頂きつつも「パッケージ版が欲しい」とおっしゃられていた一部の方に何かサービスできないか、という話を堀井さんたちとしていた中で出てきた話ですね 既にソフトをダウンロードで購入されているのに、それでもさらにパッケージ版が欲しいとおっしゃっている方々は、結果として同じものを買っていただくわけじゃないですか。これってかなり酔狂なことではないかと思って。普通は同じハード向けに同じゲームを2本は買わないと思うんですよね。

 だから、同じソフトを実質2本購入するほどのお客さんが喜んでもらえそうなサービスは何か? ということでいろいろ検討したんです。最初は、「SEGA AGES 2500」の時に入れた「サウンドテストの豪華版」や、「ギャラリーモード」といったアイデアが出てきました。複数のソフトがまとまったパッケージについているとうれしいかな? という。

 でも、「セガ3D復刻アーカイブス」は年末発売が目標でしたので……当然、その話をしていた頃は、New ニンテンドー3DSシリーズが出るなんてまったく知らなかったわけですが……短期決戦なので、新たに3DS向けに新たな仕様をイチから作るのは無理だと。

堀井氏: PS2の「ファンタジーゾーン コンプリートコレクション」に隠し収録したサウンドテスト集「SST」(※)も、本当は最初の「スペースハリアーII」と「SDI&カルテット」から収録したかったのですが、完成するのに2年掛かってしまったんですよ。

奥成氏: しかも入れたいと言い出したのは、既にマニュアルが完成してからだったので、「隠し収録」だったという。

「SST」……「スペースハリアーII ~スペースハリアーコンプリートコレクション~」から「ファンタシースター コンプリートコレクション」までの収録タイトル7タイトルのシステムデータを使って全57ゲームで計75バージョン、総数1,000曲以上の楽曲を再生可能とする追加要素。

―― (笑)。

奥成氏: 話を戻しますが、実は僕もエムツーさんも、ここまで3DSのパッケージソフトを作ったことがなかったんです。ということで、パッケージ版を作る勉強からスタートする、ということになって。なので、正直、そこまでの新規要素を作る時間も余裕もない。

 でも、「何か『パッケージ版を買ったよ!』っていう証のようなものはないか」という話をしていたら、堀井さんから「『スペースハリアー3D』ですよ!」って話が出てきて。「え? 『3D スペースハリアー』は入れるんですよ?」って言ったら「当時、誰もが解けなかったアレですよ」と。

 バーチャルコンソールのときに、ゲームギアを3DS向けに移植していて、マスターシステム(セガ マークIII)とゲームギアはハード的に親和性が高いので、それならできるんじゃないの? というのと、堀井さんから、前々から「マスターシステムもやりたい」という話があって……。

堀井氏: かなり前からこっそり手をつけていて、出したいタイトルがいっぱいあったんですよね。作ってはいたので、「これはここで出せるかな」と。お蔵出しですね。

―― こっそり(笑)!

奥成氏: それなら、通常のお客さんは別に欲しがらないだろうし、これが刺さるお客さんなら、マークIIIやマスターシステムのタイトルを当時5,000円なり10,000円なり出して、購入された方々だと思ったので、「この2タイトルが付いているなら、買う理由になるよ」って少しは思ってくれるかな? というところがあって。そういう経緯で入れようと。

―― お客さんの反応をうかがっていると、その「マスターシステムの2タイトルだけ売ってくれないの?」、むしろ「マスターシステムのバーチャルコンソールは3DSでやってくれないの?」という方もいらっしゃいますよ。

奥成氏: そこまで言ってくれれば嬉しいですが、この2本はパッケージ版でなければ実現不可能なソフトでしたね。マスターシステムのバーチャルコンソールの3DS展開も現状では予定は無いです。

―― この「セガ3D復刻アーカイブス」の落としどころは難しいとは思うのですが。ダウンロードタイトルをこれまで購入されている方の中の「全部入りなら買うよ」という方は、「なぜこのラインナップ?」って思うでしょうし、「アーケードが好きなのに、なぜ『アフターバーナーII』や『ギャラクシーフォースII』は入ってないの?」となるし……。

奥成氏: これまでお話してきた通り、「セガ3D復刻アーカイブス」の目的は、「セガ 3D復刻プロジェクト」というシリーズをパッケージを通して知って頂ければ、という点が大きいですね。パッケージを店頭で見て、「僕が欲しいのは『スペースハリアー』だけだ」と思う方がダウンロードタイトルをニンテンドーeショップで買うということもあるかもしれませんし。

―― パッケージ版とダウンロードタイトルが相互に作用して結果につながればいいとは思うんですけどね。

奥成氏: 案の定、「セガ3D復刻アーカイブス」の発売ニュースが流れたときに、「ああ、『エコー』懐かしい! 出るんだ!」って、ダウンロード版を知らないお客さんの声を見たりすると、「営業の言ってた通りだな」と思いました。

 ですので、今回のパッケージ版は、今まで知らなかったお客さんに知って頂く、ということと、どうしてもパッケージ版を残しておきたい、というお客さんに向けたソフト、ということになりますね。ダウンロードタイトルをこれまでに購入して頂いた方は、特別買う必要がないんですよね。同じタイトルなんですから。

 それから、「スペースハリアー3D」や「アウトラン 3D」みたいなタイトルを欲しい、という方には、それをダウンロードで販売するというチャンスがこれまで絶対になかったものなんで……。

堀井氏: 「バーチャルコンソール」に関しても、いろいろがんばってきましたけれども、ここまでマニアックなタイトルになってしまうと難しいでしょうね。

奥成氏: それが、パッケージ版になったことで入れられることになったと。それもパッケージ版として世に出すメリットですね。単体だったら絶対に通らない企画なので。もしそれができていたら、私ももっと会社で引く手あまたなんですけど(笑)。

―― 今までの手がけてきたシリーズがなぜ続いていないのか、それはなぜなのか? ということがわかると、理解できることなんですね、おそらく。シリーズを立ち上げてタイトルをリリースしていく難しさでもあると思うんですが。

奥成氏: 現在休止している他の復刻ものの、次回作を出してほしい!という要望やご意見もたまに頂くんですが、おおよそ1年以上次回作が出ていないということは、現状、すぐに次をリリースできる状況ではないということです。

 今回、この「セガ3D復刻プロジェクト」そのものもそうなんですが、パッケージ版という企画があったので、「スペースハリアー3D」や「アウトラン 3D」を世に出すことができることになった、というところに幸運がありましたね。

堀井氏: 口実ができた、という。

―― 話はちょっと戻るようですが、確認すると、商業ソフトですから、ソフトを出すためには予算がいる、ということで、「何処でどうやって予算を確保して、どのタイミングで何を出すか」が必要なんですよね。でも、最初からパッケージ版を想定してこのシリーズが出てきたわけではない、という。

 「セガ 3D復刻プロジェクト」の関連インタビューをこれまでご覧頂いてくださった方の中には、「俺がダウンロード版を買い支えてきたのに、まとめて後から出しやがって」って思われた方もいらっしゃるようですが、確かに第2期は第1期の売り上げの実績があって、そこからプロジェクト内で予算が組まれて、人が動いたことでリリースされた。でも、そこにはパッケージ版の構想はなくて、アニメなどである「放映後にパッケージ化して元を取るビジネスモデル」ではなかったということですよね。皆さんが購入してくださったから、第1期のあとに第2期ができることになって……という流れですよね。

 結局、皆さんが納得いく話にはならないと思いますが、個人的には今回、パッケージ版がリリースされることで、本体と紐付けなく遊べるのはうれしいんですけれども(笑)。ダウンロード版はそこが……。移行したりが面倒ではあるので。

奥成氏: 友達に貸したりとかしやすいですしね。

―― New ニンテンドー3DSシリーズも出ましたから、本体を複数持っている方もいらっしゃるでしょうし。ダウンロード版のメリットもパッケージ版のメリットもどちらにもありますね。

奥成氏:パッケージ版とダウンロード版は、流通経路が異なるので、映像ビジネスでいうと書店での展開なんかに近いかもしれませんね。ちなみに映像などと違い、3DSで既発売タイトルをまとめるのは結構大変なので、こういうソフトは他社さんでもあまりやられないんじゃないかと思います。今それでかなり苦労してます(笑)。

堀井氏: 開発終了まで、まだまだやることがいっぱいです。

実は大変!? 液晶シャッター方式から裸眼立体視への対応

―― 開発は単純そうに見えつつも、表に見えない苦労も多そうですね。

奥成氏: そうですね。実は「スペースハリアー3D」や「アウトラン 3D」のオリジナル版は、液晶シャッター方式(※)の3D映像だったわけですが、これをニンテンドー3DSに持ってくるのは大変なんですよ。方式がそもそも違うので。

※……液晶シャッター方式は、左右それぞれの目にあわせた映像を交互に表示し、そのタイミングに同期して液晶シャッターを作動させることで、グラスの片側をふさぎ、1/60秒ごとに片目ずつ、1/60秒ずれた別の映像を見せることで動画立体視を実現する。フレームシーケンシャル方式とも呼ばれるこの方式では、1秒間に表示されるそれぞれの目に向けた映像枚数は30枚ずつとなる。

 そこには2つ問題があって……まず、3DSに装備されている「3Dボリューム」には対応できない(※)。ONとOFFしか選べないんですね。この問題は、任天堂さんにお許しをいただいて解決しました。

※……3DSの裸眼立体視は、アクティブ視差バリア方式と呼ばれる。1枚の絵に左目用と右目用の絵を縦に1ラインおきに表示し、電気的に光学視差バリアを設けることで、光の進行方向を制御し、左右の眼に異なる映像が映るようになっている。それぞれの目向けに同時に絵を表示できるため、時間軸上、描画枚数は右目と左目で同じになるが、横方向の表示解像度は半分になる。さらにソフトウェア処理により、3D深度(3Dボリューム)や焦点位置(New 3DSの場合)をリニアに制御可能。

 もう1つは、液晶シャッター方式では、右目用と左目用の映像がそもそも異なるんですね。描画1枚ごとに右目用と左目用の映像が違う。

堀井氏: 具体的に言うと、右目用と左目用の絵は、1/60秒分、時間軸が進んだ状態の絵になるんです。2フレームで1フレーム分のレンダリングをしているわけではないんで。

奥成氏: 昔の液晶シャッター方式の立体視で目が疲れていたのは、そういった部分にも理由があったのかもしれませんね。

―― 右目用、左目用の絵が高速に切り替わって、さらにメガネ側でそれに合わせて右目と左目のシャッターが交互に閉じてましたから、当時の技術ではちらつきもありましたし。

奥成氏: 元来違う技術で動作していたゲームを、3DS用の別の表示方式に直さなければならないんです。そこをエムツーさんががんばってくださって。

堀井氏: 映像方式を切り替えました。

―― プログラムレベルで……?

堀井氏: はい。コードを細かく追ってますね。今も(一同笑)。

―― なるほど……3DSのバーチャルコンソールが登場して、まずファミコンの3Dタイトルがなぜ出なかったのか、改めてわかった気がします。ちなみに、PAL版をNTSC版に直すとかよりは楽(※)だったんですか?

※PALとNTSC……PALは欧州で採用された映像方式。NTSCは日本や北米で採用された方式で、PALが秒間25コマ(毎秒50フィールド)、NTSCは秒間30コマ表示(毎秒60フィールド)と異なる。

堀井氏: それよりはまだ楽ですね。

―― オブジェクトの位置が左右で変わるから、それを3DS用に直すのは……。

堀井氏: 当時はあれで立体に見えたわけですから、すごいですよね。

―― そうですね……。それがまず克服できた、というところがミソなんですね。お蔵出しと言いながら。3DSではちらつきも感じませんし、目に優しい形で復刻されてますね。

奥成氏: ぶっちゃけ、僕は「やるんだったら3D対応ソフトを全部入れようよ」と思っていたところもあるんですけれども、スケジュール的にも作業的にもギリギリで、皆さんの記憶の中に1番残っているであろうこの2タイトルということになりました。オリジナルのアーケード版も入っていますので、そこにあえてこれが入っているというのも面白いかなと。

堀井氏: 結局、1番皆さんが知っているであろうタイトル、ということですよね。

―― とはいえ、「アウトラン 3D」に関しては、国内発売されてませんし(笑)。

奥成氏: 多分、「アウトラン 3D」は、サムシング吉松先生(※)が広めてくださったんだと思うんですよ。それ以外だと、「Beep」だとかの熱心な読者だった方とか。

※サムシング吉松氏……アニメーター/キャラクターデザイナー/漫画家。セガ好きとして知られ、「セガサターンマガジン」にて「メガドラ兄さん」などのマンガを連載していた。

 結局、マスターシステム(セガ マークIII)の3Dグラス対応タイトルって、「ザクソン3D」、「メイズウォーカー」、「スペースハリアー3D」、「ブレードイーグル」とあって、海外でも「OutRun 3D」、「Poseidon Wars 3-D(ポセイドンウォーズ)」、「Missile Defense 3-D(ミサイルディフェンス)」あと「Line of Fire(ライン オブ ファイアー)」かな? それぐらいしかなくて……。

―― まとめられるチャンスがあれば、それはそれで楽しかっただろうな……。

堀井氏: 時間があればねー(くやしそうに)!

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(佐伯憲司)