Mobage「みんなと モンハン カードマスター」配信予定のカプコン杉浦氏に聞く
チャレンジを繰り返すカプコンが見据えるソーシャルゲーム事業の展開
株式会社カプコンが、ソーシャルゲーム事業への動きを活発化させている。人気アクションゲーム「モンスターハンター」シリーズの設定とキャラクターを活かした「モンハン探検記 まぼろしの島」が2011年12月よりGREEで配信開始となり、2月21日にはMobageにて「みんなと モンハン カードマスター」が配信予定となっている。
今回はこの「みんなと モンハン カードマスター」の配信に先駆けて、カプコンの東京制作部 開発運営室長 兼 ソーシャル事業室長でありプロデューサーの杉浦一徳氏にkソーシャルゲーム事業についてインタビューを敢行した。杉浦氏と言えばXbox 360/Windows用オンラインハンティングアクション「モンスターハンター フロンティア オンライン」(MHF)やWindows用オンラインチーム対戦アクション「イクシオンサーガ」の運営プロデューサーも務めており、本誌のインタビューでも過去に何度も登場していただいている。
なおカプコンからソーシャルゲーム事業について話を伺うのは今回が初めてであり、大手ゲーム会社が続々とソーシャルゲーム事業に腰を入れ始めている中で、このインタビューはそれに対するカプコンの事実上の宣戦布告だと考えてもいいだろう。オンラインゲームの「MHF」で実績のある杉浦氏がソーシャルゲーム事業に携わることとなったきっかけから、その経験を活かしたソーシャルゲーム作りの考え方、さらには今後のソーシャルゲーム全体の見通しについてまで、本誌にたっぷりと語っていただいた。
■ 親和性の高いオンラインゲームからソーシャルゲームへチャレンジ
東京制作部 開発運営室長 兼 ソーシャル事業室長の杉浦一徳氏 |
――カプコンとしてソーシャルゲームのお話を聞くのは初めてとなります。杉浦さんがソーシャルゲーム事業に関わったきっかけから、どのような姿勢で事業に取り組んでいるのかを教えてください。
杉浦一徳氏: 去年あたりに開発責任者の一井克彦と、私の上司の小野義徳から「やってみようか」と話し合ったのがきっかけです。他のゲーム会社はソーシャルゲームについて先を見据えて取り掛かっているのに対し、カプコンはそこから遅れているという状況がありました。ソーシャルゲームとオンラインゲームは親和性が高いので、私が担当になったということです。
そこで新たにソーシャルゲームの開発部門を立ち上げてスタートしました。方針としては、カプコンの大きなIP(知的財産権)を使ったソーシャルゲームと、オリジナルIPのソーシャルゲームをどちらも積極的に作ろうと話しました。
運営はオンラインゲームとソーシャルゲームのメンバーを同じ部門に置いて、オンラインゲームの経験者を上手くソーシャルゲームに関わらせながら、新旧合わせて半々くらいで進めています。開発は、むしろソーシャルゲームに特化させています。現在では発表の有無に関わらず、かなりの数のタイトルを制作しています。
――抜擢の理由には、「MHF」運営の実績での評価があったのでしょうか?
杉浦氏: 評価されたかどうかはわかりませんが、親和性が高かったというのは事実ですね。個人的にも数字を見てすぐに判断して、どんどん先に進められるのは性に合っているのでストレスはありません。またカプコンの素晴らしいIPを活用してソーシャル事業に取り組めたというのも大きく、周りを見てもそれが成功の方程式となっていたので、プレッシャーも感じませんでした。出だしは順調だったと思います。
■ ゲーマー向けの仕様を敢えて避けた「モンハン探検記 まぼろしの島」
――確認なのですが、最初に運営を手がけたのはどちらの作品でしょうか?
杉浦氏: 「バイオハザード アウトブレイク サバイヴ」がサービス開始時期としては最初になるのですが、こちらはすでにあった運営を途中から引き継いだものです。ゼロから立ち上げたのは、「モンハン探検記 まぼろしの島」が最初ですね。
「モンハン探検記 まぼろしの島」は、「MHF」のモンスターを集めて戦わせるカードバトルタイプのソーシャルゲーム。デフォルメされたモンスターたちのアニメーションにも特徴がある |
――では「モンハン探検記 まぼろしの島」について先に伺います。こちらのタイトルの狙いをお聞かせください。
杉浦氏: 今回発表になった「みんなと モンハン カードマスター」との違いについて最初に述べておくと、ベースになっている作品は「モンハン探検記 まぼろしの島」は「MHF」、「みんなと モンハン カードマスター」は「モンスターハンター」シリーズのナンバリングタイトルです。「モンハン探検記 まぼろしの島」は他のゲームと比べてもモンスターの動きなどにこだわりがあって、そこはカプコンらしさを出せたのではないかと思います。
ゲームはやればやるほど目が肥えるもので、GREEのお客様も目が肥えているはずですから、そこは差別化できたのではないかと思います。それと、GREEで成功して、このプラットフォームを知り尽くしているgumiさんとパートナーを組めたのは大きかったと思います。
――それは開発の面での協力ということでしょうか?
杉浦氏: 開発と運営での両面です。我々はどちらかというとアドバイザーのような立場として、運営やサービス方針などを決めています。直に運営をしているのはgumiさんです。
――その方針ですが、ゲームを見ていると、「MHF」のプレーヤーに向けたプロジェクトではなさそうですよね。
杉浦氏: これは他社のタイトルや自社の経験から来る結果論としての考えなのですが、ソーシャルゲームが失敗する例は、いわゆるゲーマーに向かって作ってしまうタイトルです。ターゲットは、「モンハン」という言葉を知っていても、実際に遊んだことはないという人たちを意識しています。用語の面でも、「モンハン」の世界よりもソーシャルゲームの用語を優先して、そういった人たちにわかりやすいように作っています。
――確かに、この作品では「MHF」では使われていなかった用語が登場していますね。
杉浦氏: そういった用語を使ってしまうと、ソーシャルゲームのお客様には逆にわかりづらくなってしまいます。ここは郷に入れば郷に従えの精神で、柔軟にやりました。
gumiさんには、ソーシャルゲームはゼロの発想からスタートさせないと間違いなくこけるので、そこは思い切ってやってくださいと伝えました。ただ、これが本来の「モンハン」かと言うとそれは違うので、これをきっかけにして「モンハン」に興味を持ってもらえるなら嬉しいですね。
――とはいえ、大人数でモンスターに立ち向かう「ラオシャンロン」のイベントなどは「MHF」らしさを感じます。
杉浦氏: gumiさんとも、可能な限り取り入れましょうという話はしました。gumiさんも相当配慮してくれて、こういった形で「MHF」らしさが残せているのは嬉しいですね。
――「モンハン探検記 まぼろしの島」から「MHF」へユーザーを誘導することは考えていませんか?
杉浦氏: 考えてはいますが、好みやお客様の層が違うので、無理やりくっつけようとは思っていません。ソーシャルゲームはソーシャルゲームで楽しんでほしいですね。「モンハン探検記 まぼろしの島」に興味があるなら、ぜひ「バイオハザード アウトブレイク サバイヴ」もやっていただきたいですね。
――連携などは特に考えず、これ1本でビジネスとして成立させようとしているのですね。
杉浦氏: その通りです。
「バイオハザード アウトブレイク サバイヴ」のゲーム画面 |
――それでは、もう1本の「バイオハザード アウトブレイク サバイヴ」はいかがでしょうか?
杉浦氏: これも同じですね。これ1本でビジネスを成立させようと頑張っております。このタイトルは4月からスタートしてもうすぐ1年になるのですが、会員は140万人を突破しましたし、売り上げも相当伸びてきました。結果が出てきていると思います。
――「モンハン探検記 まぼろしの島」の成果はいかがでしょう?
杉浦氏: こちらはサービスを開始させてから2カ月ほどですが、すでに会員は50万人を大幅に超えています。最近スタートした分、伸び率では「バイオハザード アウトブレイク サバイヴ」よりも調子がいいですね。
――結果に対しての手応えはいかがでしょうか?
杉浦氏: 「バイオハザード アウトブレイク サバイヴ」は10カ月が経過してお客様がある程度定着して、どうビジネスするかが見えてきたのですが、「モンハン探検記 まぼろしの島」はこれからですね。
ソーシャルゲームはサービス開始から3カ月から5カ月ほど会員数が伸び続け、そこから段々と減っていく傾向があります。それである程度の所で下げ止まりが来て、そこからビジネスが始まります。その点では、「モンハン探検記 まぼろしの島」はこれからどこまで伸びるかが勝負です。
■ gloopsの協力で力を得た「みんなと モンハン カードマスター」
「みんなと モンハン カードマスター」では、親しみやすくかわいらしいイラストが採用されている ※画像は開発中のものです |
――では先日発表となったMobageの「みんなと モンハン カードマスター」についてお聞かせいただけますか?
杉浦氏: これは、「モンハン探検記 まぼろしの島」とどう差別化するかの部分で、「カードゲーム」であることを強調しています。それと、IPを使ったタイトルではカジュアルなお客様にも楽しんでいただきたいのですが、カプコンはアクションゲームのイメージが強い企業です。タイトルのイメージだけで敬遠することが少しでもなくなるように、DeNAさんと話し合って「みんなと」という冠名を付けました。今後出すタイトルには、この「みんなと」を付ける予定です。
またカードゲームということで、今回はgloopsさんに協力していただいています。gloopsさんと言えばカードゲームのノウハウがある、Mobageの中ではトップのメーカーです。gloopsさんと組むことで成功の確率は上がりますし、お客様の楽しませ方、ビジネスのやり方も知っています。そこで何か勉強できる部分もあると思うので、ご協力をお願いしました。
――今後のラインナップには、カプコンのIPを使ったものとオリジナルIPのゲームの両方が出てくるのでしょうか?
杉浦氏: ラインナップは半々になると思います。カプコンのIPを使ったものも出しますが、その中でオリジナルも試します。カプコンのIPに関しては、ソーシャルゲームに向くものと向かないものがあるので、その親和性は考えながらやっていきたいですね。
このIPの数というのも、カプコンがオリジナルIPに対して努力してきたからこその結果だと思います。今でもどのチームもオリジナルIPを育てようと頑張っています。ソーシャルゲームに目を向けても、オリジナルIPが頑張っていますよね。そうすると、オリジナルIPを作らない理由がありません。オリジナルIPのソーシャルゲームは、もう7割ほど完成しています。そちらのできもよくて満足しているので、機会が来ればきちんと紹介したいと思います。
■ スマートフォン専用タイトルは秋ごろから。PCとスマートフォン連動タイトルも
――ご紹介いただいた3タイトルを見ていると、どちらもカードゲームになっています。これは流行ではあるのですが、とりあえず押さえておこうなどの考えがあったのでしょうか?
杉浦氏: これには2つの考えがあります。1つは、時代の流れに逆らわず、1つの型にゲームを落とし込んでいって、スピード最優先で展開しようという考えです。もう1つは、今後メインとなるべきスマートフォンの市場を押さえようということです。
ソーシャルゲームはフィーチャーフォンのみか、フィーチャーフォンとスマートフォンの両方で展開するものが多いのですが、スマートフォンだけで成功している例は少ない状況にあります。フィーチャーフォンのゲームをそのままスマートフォンに持ってきても成功しないということは、その2つのお客様のニーズはわかれているのではないでしょうか。
ここでは新しいことをやらなくてはならないのですが、どうすれば成功するかをこれから探らなくてはならない以上、内部の組織を上手くわけながら事業を進行させようということです。あるチームではブラウザゲームを作らせていますし、あるチームではUnity 3Dでの話も進めています。
――それは時代に合わせてということでしょうか?
杉浦氏: スピード最優先である以上、どんなことにも順応できる環境がないと遅れをとってしまうので、その構築をどのように最短で構築するかに取り組んでいるところですね。
――当然新しいチャレンジも進んでいるということですね?
杉浦氏: そうですね。それは秋ごろにはお見せできると思います。
――弊誌の読者のようなコアゲーマーの方は特に期待していると思います。
杉浦氏: コアゲーマーのお客様に向けては、スマートフォン専用のものをご用意しています。今年の秋から冬にかけて、色々と面白いものが発表できると思いますよ。
――スマートフォンの成功例では、海外製のものも挙げられると思います。DeNAやグリーが海外進出に向けて準備している中、カプコンはソーシャルゲームの海外展開を考えているのでしょうか?
杉浦氏: 考えています。カプコンのIPを使ったスマートフォン用ソーシャルゲームの開発を進めています。またスマートフォンについてはマネタイズの面でビジネスチャンスがあると感じていて、海外でのビジネスモデルを取り入れたり、従来の日本式のやり方を試すなどして、色々やっている段階です。
――先ほどからモバイルばかりの話になってしまいましたが、PC向けのソーシャルゲームはいかがでしょうか?
杉浦氏: なかなか鋭いと思います。今後は、PCのブラウザとスマートフォンの両方でできるゲームを増やしていこうと考えています。プラットフォームとしては、自社の「カプコンオンラインゲームズ」もありますし、「MHF」で仲良くさせてもらっている「ハンゲーム」さんなどのパートナーも懇意にしています。また、FacebookやOpenIDなども挑戦していない領域なので、そこもチャレンジしようと話しています。プラットフォームはあればあるだけウェルカムという状況です。
mixiアプリとしてサービスしていた「まいにちプーギー」。現在のような状況もあろうかと、研究開発の1例として施策されたものだったという(現在はサービス終了) |
――新しい挑戦でありながら、繋がりはすでにあるのですね。
杉浦氏: カプコンはこれまで色々なプラットフォームで展開していないので初心者ではありますが、今回のソーシャルゲームをきっかけに、様々なプラットフォームにチャレンジしたいと思います。
以前mixiで出したアプリ「まいにちプーギー」というものがあったのですが、これも1つの研究開発の1例です。スマートフォン用アプリの「モンスターハンター フロンティア オンライン エッグラン」もそうです。こういう経験を1度積んでおけば、勝手がわかりますから。対応すべき時に「やったことがない」と言わないように、一昨年辺りから仕込んでいたことが活きてきたと思います。
■ 様々なニーズに応えて、全ての層でユーザー確保を目指す
――今後もタイトルが続々と出てくるようですが、スケジュールをお聞かせください。
杉浦氏: 今年度の上半期で2、3本は出したいと考えています。6月から8月の間くらいに色々なソーシャルゲームをリリースする予定です。ここ1年だけでも、6から8本は出るのではないかと思います。
――杉浦さんから見た、ソーシャルゲーム全体の今後の見通しのようなものはありますか?
杉浦氏: フィーチャーフォンで遊んでいるのは、現在はテレビゲームにあまり接していない方たちだと思います。しかし、そういう方たちもいずれは欲が出ます。そうすれば、グラフィックスの面だったり、演出の面だったりは充実した方が嬉しいはずですから、ソーシャルゲームは今後絶対に進化します。
その中で、カプコンはプラットフォームを変えながらゲーム制作を続けてきたいいノウハウを持っているので、特にスマートフォンが主軸になるこれからは、培ってきた技術が使えるのではないかと考えています。
――時代が進めばカプコンの強みが活かせて、「出遅れた」という印象もなくなりそうでしょうか?
杉浦氏: 発表した3タイトルをやってみて、この型でのノウハウは掴めたので、今は「出遅れた」とは感じていません。むしろこれからどれほど他社よりも先に進めるかが大事ですね。これに関してはチームの考えが確立できつつあるので、そこはよかったと思います。
――今後の方向性について、アピールしたいことはありますか?
杉浦氏: ゲームの内容やジャンルはオンライン、オフラインではわけられないと思っています。つまり、簡単でライトなソーシャルゲームと難しくてヘビーなアクションゲームという極端なものだけではなくて、その中間はいくつも存在するということですね。
私が実際に作っているものでも、スマートフォンでそれなりにやり応えのあるゲームがあります。また一方で、フィーチャーフォンの市場もそれなりの規模が残ると思っていて、そこには、簡単で短時間でできるゲームを提供したいと思います。これらのゲームは、今後はどれほどお客様のニーズに応えられるかにあります。
例えば車は、とにかく作れば売れるという時代から、段々とニーズによって仕様やカスタマイズが変えられるようになりました。同じように、ゲームもそうだと思います。置いて行かれるのはメーカーですから、そういったニーズにはメーカーが応えなければなりません。今年は色々な層の声に応えながら、色々なジャンルに挑戦したいですね。カジュアルからヘビーまで、全部の層のお客様を確保していきたいと思います。
――では最後にメッセージをお願いします。
杉浦氏: 2月21日の火曜日に、「みんなと モンハン カードマスター」がサービス開始されます。スマートフォンにも対応しているので、スマートフォンでGAME Watchを見ているお客様は即座にそのまま試していただけます。出だしは簡単ですが、やればやるほど奥が深い作りになっていますし、無料の範囲でも十分に楽しめます。カードになったソーシャルゲームの「モンスターハンター」をよろしくお願いします。
――ありがとうございました。
(C)CAPCOM CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED.(2012年 2月 16日)