Aiming代表取締役CEO 椎葉忠志氏インタビュー
「僕らのノウハウは10年経てば無価値。2012年12月までに世の中を驚かせるようなタイトルとその成功を見せたい」
6月1日、Aiming(エイミング)というオンラインゲーム会社の設立が正式発表された。創業者は元ゲームオン常務取締役、前ONE-UP代表取締役社長として、数々のオンラインゲームビジネスを手がけてきた椎葉忠志氏。オンラインゲーム業界ではもはや知らぬ人のいない風雲児的存在である。
椎葉氏は、ゲームオンの時もそうだったように、ONE-UPでの成功報酬を受け取らずにまたもや無一文で飛び出し新会社を立ち上げるという。しかも、AimingはONE-UPの事業、スタッフをほとんど引き継ぐ一方で、「ブラウザ三国志」や「戦国IXA」といった主要タイトルの権利をすべて置いていくという。
この一見メリットがまったく無いように見える一種の“反乱劇”をなにゆえに強行したのか。椎葉氏はどのような考えで、いったいどこに向かおうとしているのか。そうした様々な疑問を正式発表直前の5月31日に椎葉氏に直接ぶつけてみた。諸般の事情で掲載が遅くなってしまったが、このインタビューを通じて椎葉氏のすさまじいばかりの使命感と自負を感じて頂きたい。
■ ONE-UP電撃退社、新会社Aiming設立の経緯について
Aiming代表取締役CEOの椎葉忠志氏 |
6月1日にオープンしたAiming公式サイト。7月25日現在、具体的なコンテンツの名前はない |
椎葉氏が潮目の変化として上げたセガのiPhone/iPod touch向けオンラインゲーム「Kingdom Conquest」。当初海外向けに開発し、日本に逆輸入してブレイクしたというユニークなタイトル |
――「ブラウザ三国志」や「戦国IXA」といった椎葉さんは自らが生み出したドル箱オンラインゲームを捨てて、どうして1からやり直そうと思ったのですか。
椎葉氏: 今マーケットを見ればリスクばかりを言う人が多いのですが、おおむねチャンスだらけだと考えています。インターネットに繋がった“Free to Play”というジャンルで考えた場合、世界中でものすごいマーケットサイズになっている。家庭用ゲームでさえも遠からず基本無料のジャンルが現われてくると思います。
ケータイやスマートフォンがダウンロード型のビジネスでは食べていけないのはiPhoneの3年の歴史で証明されています。必ずオンラインでのFree to Playになっていくに決まっている。ここから新しく立ち上がるマーケットが多くあるこのタイミングでなければ独立する意味が無い。独立しても「ブラウザ三國志」のディレクションは弊社(Aiming)がやっていくことになります。プログラム開発はもともと別会社なので、そこに引き続き同じようにお願いしています。
――椎葉さんが辞めた理由がまだわかりませんが、ONE-UPではそのチャンスを逸してしまうということですか?
椎葉氏: やっぱりこれから2~3年のカオスの世界はワンマンが全部決めて、まっすぐ進むしか成功する方法はないのです。間違いない。合議なんて無理で、全員が同じ知見と理解をもっているわけではない。飛びぬけた能力を持った人がこうだと判断して進めていくしかない。何か束縛の中では、遅いし話にならない。すべてを自分で即決してまっすぐ行くこと以外に世界的な競争に勝ち抜く方法は無い。それは独立しないとできないことでした。お金うんぬんよりも時間が惜しいという危機感を持っていました。
時間も人も足りない。やりたいことを全部やろうと思ったら今すぐ250人ぐらい必要だということになってしまう。しかも優秀な人が常にいるわけではない。1つプロジェクトを立てて、誰かに任せられれば良いけど、ブラウザゲームをはじめとして新規性の高い案件が多い。ブラウザゲーム自体がそうだし、オンラインゲーム業界全体がそうなのですが、そういったものを任せられる人が本当に空かない。これはどうしようと。世の中は思った以上に早く進んでいて、中村さんに年末に話したとき、僕自身はそこまでスマートフォンに前向きではありませんでした。でも、半年経って世の中はぜんぜん変わっていて、想像以上のスピードで物事が動いています。潮目が変わった感が凄くあるのです。
――PCからスマートフォンへの流れということですか。
椎葉氏: PCがどうのというより、棲み分けが大事ではないかと考えています。実際、PCのヤバゲー(Yahoo! Mobage)も数字になってきた。ヤバゲーさんなんて今になって突然やる気を出してきて、今さらやろうといったって、これからPC向けコンテンツは、もう誰も作りたがらないなんて感じですが、彼らはそこそこいける感覚を持っているみたいです。そういう話を聞いてもいろいろな意味でマーケットは大きくなっている。Free to Playで、ネットにつなげて基本無料で遊ぶことに対するみんなの慣れの進み方はすごいなという感覚があります。DeNAとGREEの貢献が大きいのでしょうけどね。
僕らが最初に基本無料をやりはじめたときは、“いかに怪しく見せないか”ということをすごく考えていました。無料でゲームができるなんておかしいと思う人が絶対に出てくるから、それをどのように払拭するかにものすごく気を使いました。僕がゲームオンにいたときは、「スカッとゴルフ パンヤ」と「メイプルストーリー」と「RED STONE」が初期の基本無料のタイトルでした。「パンヤ」ならみんな食いつくかもしれませんが、「RED STONE」のような見た目も悪いタイトルでは不安がられてしまう。今はそんなこと考えないでしょう?
当時は、基本無料なんて絶対ありえない、ものも無いのに高い金で売りつけるなんてとんでもないビジネスだという話をされていてまったく理解されていなかった。今はぜんぜん違いますよね。業界全体もすごく変わっています。僕の強みは良いオンラインゲームを作ることができる。平均点以上のゲームを作ることができる。お客さんに楽しんでいただいて、お金を払っていただける仕組みを作るのがうまい。スキルセットとしては、ブラウザゲームも作れるし、MMORPGも作れるし、携帯ゲームも作れる。全方面にチャンスがある。全方面のチャンスを最短で取りに行ける。
日本のゲーム業界としていま1つの大きなチャンスが来ていると思っていて、スマートフォンのような小さな端末に対して作るゲームというのは日本人が1番得意としているのではないかと思うのです。昔から携帯型ゲーム機はあるし、携帯電話ゲームもあるし、オンラインゲームは韓国産だろうが中国産だろうが見られるわけで、Facebookのソーシャルゲームもプレイできる。日本だけにはものすごいノウハウと情報がある。スマートフォンというデバイスを含め、色々な端末でオンラインゲームができる。これは今後のゲームには工夫が必要で、その工夫をする余地が日本にはある。今こそもう1度日本が勝てるチャンスなのです。別に愛国心から言っているのではなく、日本人としてゲームをビジネスにしているからには日本のバックグラウンドと強みを活かせるタイミングで勝負をするしかなくて、今がまさにそのタイミングだと感じています。
家庭用で欧米向けのゲームを作ると死にます。それはそうです。かといって日本向けにゲームを作ってもやっぱり売れないというジレンマがある。オンラインになるとアジアがある。アジアは日本リスペクトで、日本産というと喜んでもらえる。ネットに繋がるコンテンツになった瞬間に、日本は対アジアに優位性があり、対欧米には優位性がない。けど反対にこれからは欧米にももう1度チャンスがあるという立場になっています。マーケットのこれからや、デバイスも含めたゲーム自体の変化の中の自分たちのポジションを考えるとこのタイミングで今までの経験を活かして、自分ですべてを決めて仲間と一緒にやっていくべきだと思いました。
――いやはや、びっくりするほどの使命感ですが、それをONE-UPの枠内で自由にやるというのは不可能だったのですか?
椎葉氏: どうしても時間がかかってしまうでしょうね。
編: しかし、Aimingには「ブラウザ三国志」と「戦国IXA」の2つのロイヤリティ収入が入ってこないのに大量の社員をどうやって養っていくのですか?
椎葉氏: 6月1日の時点で、アルバイトも含めて社員は95人になりますが、色々な案件の話はしていて、回すための仕事はすぐ埋まるのです。問題は自社タイトルにどれだけ投資をできるかという問題です。食うのには困らないのです。少しでも受託に回ってしまえば、仕事は取れすぎるくらい取れてしまう。ですが、それだけでは意味が無い。少なくとも自社ないしは最低共同のプロジェクトをやらなければならない。たとえば、1億円かけて自社タイトルをやることを考えれば、5,000万円をかけて2つ共同プロジェクトをやるべきだと考えている。この業界では1勝することが大きいので、1戦で1勝を目指すよりは、2~3戦して1勝を目指すほうが良いと思っています。
――なるほど。その椎葉さんの言う“潮目の変化”というのはどういったところで感じましたか。
椎葉氏: 1つは「Kingdom Conquest」の成功です。iPhoneの基本無料型のゲームで、「ブラウザ三国志」に近い部分も多いし、実際、立ち上げから半分まではコンサルティングしているのです。
――自分が関わっておいて潮目の変化の感じるというのはどういうことですか?(笑)
椎葉氏: いや、あれは絶対立ち上がらないと思っていたのです。絶対完成しないと思った。成り立つかもしれないけど、企画難易度の高いこのゲームを誰が完成させるのだと。実際に開発が想定より長くなりそうになり、僕も忙しかったのもあり、コンサルティング契約はいいですよって外れたのです。
僕自身は絶対完成しないと思いましたがひょっこり出てきました。去年海外でサービスしてダメで、でも日本で当たってしまった。日本でしか当たらないのは、日本だけが基本無料のゲームを遊ぶということではなくて、それだけ「ブラウザ三国志」タイプのゲームが、親和性が高いのだと感じました。
――確かに親和性は高いといえそうですね。
椎葉氏: 「ブラウザ三国志」は韓国、台湾、タイ、インドネシア、マレーシアで展開していて、タイは3万人くらいしか集まっていないのに、月何百万円くらいの売り上げがあるのです。物価を考えると日本では何千万クラスに相当します。台湾も3万人くらいしかユーザーは取れないのだけど、ぜんぜん良い。
たとえば、韓国は立ち上げ15,000人で、正式サービス初日にうん百万円くらい売り上げて、非常に良い。ですからアジア的なのです。アジアで今受けないのは他のブラウザゲームに比べて見た目がしょぼいみたいなものです。作り直したりうまくやればもう1度やれると思いますが、少なくてもアジア的といえるでしょう。
――しかし、潮目の変化を感じて、時代のスピードについていくために会社を辞めて作り直すと。そんな人間なかなかいませんよ。
椎葉氏: 死ぬか生きるかみたいなものなのです。みんな僕のことを褒めてくれるから、天狗になっていれば幸せに生きられそうなものだけど、僕自身はぜんぜん満ち足りないのです。もっとできると思ってるから。そもそもゲームオンを辞めているところでおかしいでしょ。ゲームオンにいればいいんですよ。年間何千万か知らないけど役員報酬を貰ってね。もちろん会社にもしっかり売り上げを出すことができたでしょう。仮に僕らがいれば今みたいにひどくならない。僕がいたら新規コンテンツをあんな外さないですよ。連戦連敗でしょう? ゲームオンは。「A.V.A」だけではないですか。僕らがいたらね、売り上げがガンガン伸びたかはわからないけど、利益をキープできてものすごく役員報酬をもらえるようなことにはなっていたでしょう。それをなげうっている時点で個人的な金儲けが目的ではないんです。
――金でもなければ、地位でも名誉でもない。
椎葉氏: 使命感です。もうひとつあるとすれば“できることをやらないこと”に耐えられなかった。オンラインゲームのマーケットはFree to Playも含めて端末も国もものすごく広がっていて、僕らのノウハウは10年経てば無価値だと思います。オンラインゲームが一般的になるから。ソーシャルのジャンルで成功されている色々な人と話したのですがすごく考え方が似ていたけど、お金の稼ぎ方といいますか、ユーザーをゲームに夢中にさせて、ゲームの中でコミュニティを作ってというところは僕らのほうが上です。長い目で見れば僕らのノウハウのほうが強いと思っているのですが、ただ、日本での結果としてはたいしたことない。ONE-UPがそこそこいったとしても初期であたったのは所詮受託ですから、売り上げとしては十何億円くらいのものです。まだまだ小さい。
■ Aimingの事業計画について。メインはスマートフォン向けのオンラインゲーム
インタビュー中もジャンジャン電話が掛かってくる。まさしく1分、1秒が惜しいという感じが伝わってきた |
ONE-UPが開発した「ブラウザ三国志」は、ONE-UPの兄弟会社であるAQインタラクティブから運営を受託する形で、今後もサービスに関わっていく |
Aimingの完全自社タイトルとしては「Blade Chronicle」がある |
――Aimingの主要ターゲットはスマートフォンですか?
椎葉氏: スマートフォン「も」ということになると思う。
――ベースは依然としてPCということですか。
椎葉氏: PCもやります。日本で、ブラウザゲームで「戦国IXA」が累計会員数が50万人を超えましたが、このぐらいの数字になると驚くほど良い売り上げが見込めます。それだけ売り上げが取れるコンテンツを、我々が作るだけではなくて、パートナーとのアライアンスも含めてどんどんやったら良い。
ガラケーをスマートフォンにするのはゲーム性的に大変ですが、PCをスマートフォン対応にするのはやりやすいです。まずは稼ぐということを念頭に置いた場合、PCをベースに十分に稼げるようにやりながら、今も自社でスマートフォン向けシミュレーションゲームは1本作り始めるし、PCで作ったもののスマートフォン転用もパートナーに提案していく。僕は出資者にPCでもスマホでも何パターンもやりたいといっていますが、まずは結果が出てからとはいっています。本当にPCの普通のMMORPGもやりたいし。そのあたりも損をすることは無いと思うけどね。
――ONE-UPでは水面下で進められていたプロジェクトがいくつもありましたよね。あれはどうなるのですか?
椎葉氏: それはAimingが買い取ります。
――それもまたよくわからない話ですね(笑)。
椎葉氏: 既存案件のパートナーはオンラインゲームのことは深くはわからないので、僕がいないとそもそもサービスできなくなってしまう可能性があるので、責任を持って買い取りました。すでにサービスしている「ブラウザ三国志」と「戦国IXA」はONE-UPに残して僕たちがサポートします。
――運営サポートで日銭は稼げるけど、まとまったお金は稼げなくなりますね。
椎葉氏: 当然です。でも、新しい案件も、良い開発案件が多いのです。パートナーと組んで大きな案件をやります。スマートフォンを中心にやることになると思います。
――自社展開ですか?
椎葉氏: 自社単独ではないです。パートナーがいますが、相手が強いので今は言えません。相手の都合もあるでしょうし、ちゃんと立ち上がるようでしたらIR的にも使いたいような内容になります。
――ジンガジャパンあたりが組みたがりそうですが。
椎葉氏: いやジンガジャパンは組みたがってはいない。だけど僕は組みたいとは思っている。ジンガジャパンはすごくライトユーザー向けにゲームを作っているのは、やはり狙ってそうしているのだと思います。ただ、日本のマーケットに関しては、最初はライトでも濃い目のゲームも作らないと無理なのです。最初は軽く入っていって、最後は高ARPPUを狙うしかない。日本のようにニーズが細分化されているマーケットだからそれしか方法がない。ですからなんで彼らは日本の僕らがあえて狭いところにいくんだろうと疑問に思っているところはありますよね。僕個人としてはすごく興味があるけど、僕らと組みたいというのは彼らのニーズではないと思いますね。
――新しい会社Aimingの事業内容について聞かせてください。
椎葉氏: AimingはGoogleで調べると、狙ったときに、狙ったマトに、狙って当てる能力という表現です。作りたいゲームを作ることだけ考えないで、世の中の流れとターゲットとマーケットを明確にして、この部分にこういうタイプのゲームを出すという考えをもとに作りきるのが方針です。
――開発パイプラインは何本くらいですか。
椎葉氏: 引き継ぐものを除いて、新規だけで4本です。スマートフォン向けだったり、ブラウザゲームだったりですね。引継ぎものはONE-UPから買い取った新作と、「ブラウザ三国志」の開発と運営のディレクションを行なっていきます。「Blade Chronicle」も持っていきます。
――「Blade Chronicle」は運営ですか?
椎葉氏: 開発もです。うちの大阪スタジオはゲームズアリーナで「Blade Chronicle」を作っているスタジオを貰ったのです。これまでは著作権に対してゲームズアリーナにロイヤリティを払っていたのだけど、ゲームズアリーナからすべての権利を買い取ったのです。
――初耳ですね。
椎葉氏: そうでしょうね。5月31日付けで、ゲームズアリーナからONE-UPに権利移転して、6月1日付けでONE-UPからエイミングに権利移転します。
――そっくりそのまま開発を引き継ぐわけですね。すると大阪のONE-UPのスタジオはそのままAimingに行くわけですね。
椎葉氏: そうです。合意して転籍になります。東京のメンバーは個人の意志でAimingに転職する人もいます。
――よく全員が飲みましたね。
椎葉氏: 来ない可能性があるのは1人ぐらいかな。今この時代エンジニアなんてどこに行っても良い条件はいくらでもあるから、さすがにもうちょっと抜けるかなと思ったのだけど、1人だけでした。その1人も保留というだけですね。大阪が55人で、東京は40人です。
――私が知る限りでは、新規タイトルはそのONE-UPから買い取った新作のみですが、もう少しAimingの事業について教えてください。
椎葉氏: しっかりしたオンラインゲームなのだけど、日本の他社では作れない規模があって、ライトユーザーもハマるという僕の得意分野を活かした大きなものを作っていきますよ。
――スマートフォン向けのオンラインゲームはまだあまり日本では大きな成功事例がありませんからね。
椎葉氏: なるほどと思われるような大きなものを作ります。日本でどうというより、スマートフォン向けであれば世界で何1,000万ダウンロードを超えるとかそういったものをやろうとしています。
――スマートフォンで何千万って、「Angry Birds」クラスのタイトルということですか。
椎葉氏: そうですね。日本人があれを作るとかわいさが合わなくて外国ユーザーには売れない。操作を中心とした遊びの面白さを追求したライトゲーって僕らの得意のするところではないです。論理だっていて、インターフェイスから操作1つを含めてデザインされているけれども感覚的なゲームではないものを作るほうが向いているのです。すると、オンラインゲームらしくいくしかない。そこが我々の強みなのでそこでやるしかない。
■ Aimingが手がけるオンラインゲームの方向性と、将来設計
ライバルをずばずばと切り伏せていく椎葉氏。今回は具体的なコンテンツの名前は出てこなかったが、非常に大きな規模のビジネスを想定しているようだ |
世界に8,000万人のアクティブユーザーを持つソーシャルゲーム界のガリバー「CityVille」。Aimingではこれに対抗するゲームも準備しているという |
――Aimingが手がけるコンテンツについてもう少し詳しく聞きたいのですが、年末に話を伺った時は、「CityVille」に対抗できるようなシミュレーションゲームも作りたいという話でしたよね?
椎葉氏: それは新しく作りますよ。自社のタイトルとしてそういうタイトルを作ろうとしています。だいぶ遅れています。とはいえ、シミュレーションぽいというか、街を作るゲームは可能性あるジャンルですからね。
――今EAの子会社であるPlayfishでは「シムシティ」のソーシャルゲームも開発が進められているようです。これは当然の流れといえます。最終的にはIPの勝負になる。そのあたりはどうお考えですか。
椎葉氏: 自分たちがIPになれるところまで成功するのは1番美しい話です。しかしスマートフォン市場には、そういうマーケットにはならない可能性がすごく高い。
――というと、IPだけでは通用しないという意味ですか?
椎葉氏: そういうことです。スマートフォンではマーケットができる前から世界で全員が全力疾走の競争になってしまっていて、資本もぜんぜん違うところがやっています。たとえば、日本でもある会社さんが頑張ろうと思ってやってはいるけれども、その会社が集められるお金ではGREEとDeNAには絶対に勝てない。ましてやシリコンバレーでちょっと成功した会社には何十億円と集まってしまう。もっというと、中国には安い技術者が使える上に、カネも持っている。動いている金のケタが違うんです。
スマートフォンの市場では、今自分たちが作っているような優れたコンテンツが勝てるチャンスはものすごく短くなる可能性が高い。良いパートナーと良いアライアンスを組んでいく中で自分たちの価値を高めていくようなことをやるしかないかなと思っている。事業の1ドメインとして自社タイトルもやる。それは外れるとは思いませんが、自分たちで出しておいて後からパートナーを考えても良いと思っているし、自分で出して当たってもそれはそれで良い。
――日本に限らず、世界的に有力IPの争奪戦が続いていますが、ああいったことを今後はデベロッパー自身が積極的にやっていかなければ勝てないということですか。
椎葉氏: 当然やります。しかしみんながわかっていないのはオンラインゲームやソーシャルゲームに向いている向いていないを考えずに取りますよね。大半は向いていない。僕らがどれがオンラインゲームとかブラウザゲームにしやすいかということまで考えて1番良いところとパートナーとしてやっていこうとしています。
――でも「Mafia」系というか、「ロワイヤル」系にしてしまえばゲーム性は関係ないですよね。本質的にはアバターが何かという話だけですから。
椎葉氏: そうですが、「Mafia」系は長く遊べてしまって高ARPUにならない。
――しかし、今の日本のソーシャルゲーム業界を席巻してるのは「Mafia」系ですよね? ユーザー数的にも、CMの打ち方にしても。
椎葉氏: そうかもしれませんが、多くのタイトルは売り上げは取れていないと思う。
――私自身はポチポチ押しているだけで一定の達成感が得られるという、あの究極の手軽さは日本人に合ってると思います。
椎葉氏: スマートフォンをみんなが持ったらゲームをすると思っているのは幻想です。携帯なんて、公式サイトビジネスでゲームが成功した後、初期モバゲーがあって、今Free to Playのソーシャルっぽい携帯ゲームをやって、バンバン広告を打って、成功しているビジネスなのです。あれはスマートフォンが立ち上がった段階で同じことをして成功するものではない。マーケティングの話ですが、イノベイターとアーリーアダプターとアーリーマジョリティとレイトマジョリティがいて、マーケットの立ち上げ期にはアンテナが高い人が食いつくのは当然です。
「Kingdom Conquest」がなぜ当たったかといえば、大手のセガがあれだけ手間隙をかけて作った基本無料のオンラインゲームだから受けたのです。スマートフォンを持ったからといってゲームしませんよね。そうならiPhoneアプリでもっとみんな幸せになっているはずなのです。iPhoneは3年経ってもゲームで成り立っている会社はほとんどない。これが現実です。ライトユーザー向けにゲームやれゲームやれといってゲームをやると思っているのが幻想なのです。マーケットの初期はどんな端末を持っていようがゲームへのモチベーションが高い人、ゲームしようと思っている人を取りに行くべきで、それはまさにオンラインゲームらしいオンラインゲームであり、僕らが圧倒的に強みを持っているところなのです。だから今のタイミングなのです。3年後だともう完全に遅い。
――なるほど。つまり、初期だからこそリッチなコンテンツで勝負すべきだと?
椎葉氏: 時間の使い方としては、日本人についてはガラケーがスマホになっても大差はない。ただ、携帯電話は検索する気にはなれないけど、スマートフォンなら検索する気になるようにもっとユーザーを長い時間端末にとどめられるのではないかと考えています。基本は携帯電話としての使い方をユーザーはしているので、ガラケーソーシャル操作の中で成功しているユーザーの時間の使い方と、コンテンツの達成感のバランスは生きる。
ただ操作は1つボタンではない。ガラケーは操作性が悪いから仕方なく1つボタンしか選択肢がない。いっぱい使わせると煩わしいから1つボタンになっているだけで、1つボタンが正しいわけではない。ゲームは楽しく操作できるなら、それがいいわけですから、時間の使い方はガラケーと同じだけれども、操作性はガラケーを超えなければならない。今度はゲーム性の高いゲームを作るという話になって難易度が高くなった。「ミッション」系、「Mafia Wars」系は携帯各社がいっせいに出すから、そこに僕らが作る意味はない。もうちょっと濃いものを作りたい。
――リッチなコンテンツを作れるゲームメーカーとしてはコーエーテクモさんがいますよね。「100万人の信長の野望」が大ヒットしました。日本にもすでに濃いモノを作ろうという一定の流れはできつつありますよね。
椎葉氏: PCオンラインゲームをまじめにやっているユーザーからすると、ガラケー用のオンゲーなんて最高につまらない。ゲームをプレイしているというより暇つぶしにやっているという意味合いが強い。その際たるものが「ガンダムロワイヤル」です。すごく高レスポンスで、サクサクサクサクみたいな。それが成功なのです。「100万人の信長の野望」は確か成功しているけれども、限界はある。難しいですね、あのゲームは。高年齢層の男性向けのコンテンツだと思う。
伝聞によると「100万人の信長の野望」は、DeNAさんが凄く助けてくれたそうです。コーエーテクモのその後のゲームがあまりおもしろくないということはノウハウが吸収できなかったのですね。ノウハウが吸収できたとしても、日本のコンシューマメーカーはチームが分かれるとそのノウハウを共有しない。1人1人がまた同じ失敗を繰り返す。そんなものなのでしょうね。Zyngaも「FrontierVille」も「FarmVille」も「CityVille」も同じクリエイターが立ち上げて、次の新プロジェクトも彼がやる。結局彼1人なんじゃないというところはどの会社もありますね。
――その意見は面白い(笑)。
椎葉氏: 僕は今まさに1秒を争って独立しました。この1~2カ月が勝負なのです。1~2カ月コンテンツが遅れただけで勝ち負けの差がつく可能性がある。なんともならなければ仕方がないけど、自分がなんとかすることで早められるならば1日も早く辞めるべきで、1日も早く新しい会社を作るべきだと考えています。
――スマートフォン対応となると、当然市場は日本だけではなくなります。海外展開についてはどう考えていますか。
椎葉氏: ONE-UPに残してきた「Lands & Legends」を含めて、「ブラウザ三国志」も海外向けにライセンスアウトをしてすごく勉強になりました。向こうに行ってお話を聞いたりして色々なことがわかりました。最近は情報が増えたので、向こうで成功しているゲームの傾向が見えてきた。一昔前まではどんな成功があるかわからなかったけれども、だいたい見えてきた。
僕らの強みは、日頃からものすごい数のゲームをプレイしていて、ゲームを理解できること。肌の感覚と僕らの経験で学びながらも、海外で当たるゲームをAimingが出していくなら、日本のAimingで作ったものベースに、あとは勝手にしろといって海外に渡すべきだなと思っています。ゲームの本質やゲームデザインは僕らが作ったものを提供するけれども、見た目の範囲でいえば、向こうでオンラインゲーム開発の初心者を集めてでもいいので、僕らのゲームを好きにアレンジしてサービスしなよというところで試行錯誤をしてノウハウを溜めていくことをできるだけ早く行ないたいと思っています。北米でGREEさんやDeNAさんがやってるような大規模な開発体制を作るというのはイメージが違う。
――試行錯誤といえば、ブラウザゲームの運営にアマゾンクラウドを使ったのも椎葉さんが早かったですよね。
椎葉氏: でも、最近のアマゾンは障害の頻度が高すぎる。毎日アラートメールが飛びすぎで、違う方法を考えなければならないと最近考えています。
――日本マイクロソフトがWindows Azureを立ち上げましたね。
椎葉氏: 使えるのでしょうけどね。今私が考えているのは、立ち上がりのユーザーの急速な増加にはクラウドのメリットはめちゃくちゃあって、それ以外対応できないのですが、安定的なサービスに落ち着いた時にはデメリットしかない。クラウドははっきり言って高い。
保守で言ってもどうせアマゾンですら落ちるし。落ちてもかまわないでしょう。「もうパソコンでよくない?」なんて思っていて、一時期某社さんがやっていたベニヤでサーバーを組むようなすごく安いサーバーを並べたほうが良いのではと思っています。壊れたら換えればいいという方にしたい。前は1度したことがあります。結局ぐるっとひと回りしましたね(笑)。
――サーバーを自社で持つと、ホスティング周り以外にも保守にもまたお金がかかりますよね。トータルで見たらクラウドのほうが安いのではないですか。
椎葉氏: そんなことはないです。長い期間を考えたらクラウドの方が高い。即時性というか人が殺到した時の対応力はクラウド以外にはない。このジャンルの立ち上げはクラウドしかないのは事実です。本当に安定したら安いサーバーに移したい。
――まとめに入りますが、今年の目標を聞かせてください。「ブラウザ三国志」に匹敵する、Aimingのフラッグシップタイトルはいつ頃生まれるのでしょうか。
椎葉氏: 「ブラウザ三国志」ほどの成功でなくても良いのですが、コンテンツ規模の大きいものがいくつかあります。
――しかし今の時代はブランドだけでは通用しない。本質を見抜かれる時代になりました。
椎葉氏: そうなのです。業界No1、No2になればブランドはどの時代でも生きる。自分たちはオンラインゲームの開発力はNo1だと言えると思うのです。同じように作っている会社はなくなってしまったし。我々以上に実績がある会社はないし。それは強いです。これからの時代は何でもオンラインゲームになるというのは誰しも当然だと思っていて、そのジャンルでの日本一の開発会社になっているのはものすごく強い。経済的な結果になるまでは時間が掛かるので、まぁがんばって生きていくしかないですが。
――しかしなんとも凄い自信ですね。
椎葉氏: 2年以内、つまり2012年の12月までに世の中を驚かせるようなタイトルとその成功を見せたいです。いまそのために準備をしています。それらはスマートフォンからのスタートになると思います。スマートフォンといってもクライアント=サーバー型のゲームなので僕らにとっては昔とったなんとかみたいな感じです。
――今までそういうゲームはなかなか出ていませんよね。
椎葉氏: 中国や欧米ではスマホMMOはいくつかありますが、日本の会社ではないでしょうね。今年ももちろん数カ月おきにアウトプットは出ます。新作も出ます。ONE-UPから買い取ったタイトルは秋。その後も、11月、1月、2月くらいにいくつかのプロジェクトをリリースできると思います。
――来年勝負するタイトルはこの中に含まれている?
椎葉氏: 含まれていません。もっと開発の足が長い。だから開発者が足りないんです。エンジニアはどうにかなるのですが、プランナーがやばいです。大募集中です。ソーシャルをやっていて、そこそこやってみてこれからのスマートフォンの時代にゲームらしいゲームを作って、Free to Playだったり、ネットに繋がったコンテンツとして稼げるところだなと思っている人はうちにくるしかないと思います。Aimingはそのための受け皿なのです。
僕らの時代といいますか、僕らの持っているノウハウを使える時代が来たなと思っています。ソーシャルの開発をやられていた方も行き詰まりを感じる方はいらっしゃると思います。そういった方の持っている感覚と僕らが持っているゲームの作り方を合わせれば本当に世界に勝負できるコンテンツを作れると思います。
――それらのタイトルのサービスは自社ではなく、これまでのようにどこかと組む形になるのですか?
椎葉氏: 組みます。大手を含めたゲーム会社ですね。Free to Playに関しては、今までのゲームメーカーのブランド力はものすごく効くと思っていて、有象無象しかないスマートフォンの中で、大手メーカーがFree to Playのタイトルが出したらみんなやるに決まっている。基本無料のこれからの時代こそ、日本が長年培ってきた家庭用のブランドを含めて色々なものが生きてくる。そういったパートナーと仕事をしたいです。プラットフォーマーとしての強みがあると思います。
――タイトルが続々出てくるのは来年ということになりそうですね。
椎葉氏: そうです。タイトルごとにIPも違うので、それぞれ良いものだけをやりたい。
口調は激烈だが、憎めないキャラクターの椎葉氏。彼の活躍に大いに期待したい |
――Aimingのゲームを遊ぼうとすると、いろんなメーカーから出ていて、遊びにくそうですね。
椎葉氏: 別に僕らのファンにならなくてもいいんです。普通に面白いゲームがあるなと思っていただければそれで良い。
――日本の椎葉ファンに一言お願いします(笑)。
椎葉氏: そんな人はいないですよ(笑)。最初から斬新で新しいコンテンツが出るわけではないので、いったいどういうことなのかと、ユーザーさんよりもこの業界にいる人のほうが興味があると思います。僕らがやっていることがこれから勝てる方向だと思います。興味がある方は是非ご連絡ください。優秀な人こそ一緒に仕事がしたい。ユーザーさんには面白いゲームを作るからよろしくおねがいします。僕らはクソゲーは作りませんよ。
――(笑)。ありがとうございました。頑張ってください。
http://www.aiming-inc.com/
(2011年 7月 25日)