ネクソン、「マビノギ」開発・運営チームインタビュー
G15までの新要素、今後はより“エリン”に近い物語が展開


6月20日収録




 株式会社ネクソンは、MMORPG「マビノギ」において6月23日に新アップデート「G14S3」を実装した。今回、アップデートに先がけ開催されたオフラインイベントのため来日した開発スタッフにインタビューを行なった。

 今回話を聞いたのは「マビノギ」のプロジェクトディレクターを務めるNEXON Korea ライブ1本部ライブ3室長のチョ・ドンヒョン氏、日本・台湾サービスチームのチーム長を務めるキム・ヨン氏、開発パート長のパク・サンヒョク氏、企画パートのソン・ジュンヒョップ氏、そして日本の運営のネクソン運用部ゲーム運用3チーム平原亮太氏だ。

 6月18日に行なわれたイベントでは一気にG14S3と、その次のG14S4、さらにG15までが紹介された。発表の内容はこちらを参照して欲しい。インタビューでは各要素の具体的な姿と、日本で問題となっているアカウントハックへの補償や、サーバーの負荷問題を質問してみた。



■ G14S3からはより「マビノギ」らしい物語が。S4はG15のプロローグに

「マビノギ」のプロジェクトディレクターを務めるNEXON Korea ライブ1本部ライブ3室長のチョ・ドンヒョン氏
日本・台湾サービスチームのチーム長を務めるNEXON Korea ライブ1本部ライブ3室マビノギライブ3チーム チーム長のキム・ヨン氏
NEXON Korea ライブ1本部ライブ3室マビノギライブ3チーム 開発パート長のパク・サンヒョク氏
NEXON Korea ライブ1本部ライブ3室マビノギライブ3チーム 企画パートのソン・ジュンヒョップ氏
日本運営のネクソン運用本部/運用部ゲーム運用3チームの平原亮太氏

――今回が、チャプター4になって最初のインタビューになりますので、まず、なぜ「シェイクスピア」という題材を選んだのか、教えてください。これまでのモチーフは、ケルト神話をベースにオリジナルの世界観での神と人との物語でしたが、なぜ実在の人物と物語にフォーカスしたのでしょうか。

チョ・ドンヒョン氏: シェイクスピアは実は謎のある人物なのです。彼は1585年から1592年の間の8年間行方不明になっていた時期があり、世界的な作品を生み出す才能と、ミステリアスな部分のある人物として、彼を中心にしようと思いました。

 また、「マビノギ」を知らなくても、「ロミオとジュリエット」を知っている人は多い。シェイクスピア作品を知ってる人が「マビノギ」に興味を持ってくれれば、と思いました。また反対に「マビノギ」を遊ぶプレーヤーに、古典文学に興味を持って欲しいという狙いもありました。授業で出る古典を学べるという「教育効果」も持たせたかったのです。

キム・ヨン氏: 韓国では、駅の広告で「ロミオとジュリエット」のアップデートの告知をしたところ、ネットゲームをあまりやらない私の友人から「あれは何?」という質問が来たりしましたね。「ロミオとジュリエット」は韓国ではちょうどクリスマスに実装され、ロマンチックな雰囲気もあり、反響が大きかったです。「マビノギ」ファンの間でも古典とゲームでの違いが議論されたりしました。

――G14S3で気になる点を質問します。新メインストリーム「ゴルバン」は、発表されていないシェイクスピアの戯曲とのことですが、全くのオリジナルなのでしょうか。

チョ氏: その通りです。「ハムレット」、「ロミオとジュリエット」と原作要素が強い物語を展開してきたのですが、ユーザーの間からも、「もっと『マビノギ』ならではの、この世界、エリンならではの物語が欲しい」という声が上がっていました。開発も原作要素が濃いものと、オリジナルの両方をやりたかったのです。

 ゴルバンは紙でできた紙人間ですが、実はシェイクスピアが作り出した作品の中の登場人物なんです。ところが、作者であるシェイクスピアの意図から外れ、自分自身の意識を持ち、創造者にも制御できない存在へとなり、やがて対立していきます。ここにモリアンたち、エリンの神々も登場し、「マビノギ」ならではの物語を展開していくのです。

――G12くらいから、メインストリームはほとんどがソロプレイのコンテンツとなり、G14では特にソロプレイの要素が濃いですが、「ゴルバン」もそうでしょうか。

パク・サンヒョク氏: 室長も含めて、いまの「マビノギ」のスタッフは、「誰でも楽しめる、誰でも遊べるゲームが求められている」と感じています。「マビノギ」の初期では、難易度が高く、力を合わせて挑戦していくという意識が強かったのですが、今はユーザーの求めているのが違うのではないかと。だから、メインストリームは、ソロで、初心者でも遊んでもらえる物を提供したいと思っています。なぜなら、みんなで力を合わせるコンテンツは、既にたくさんあるからです。

――G14S3では特に見て欲しいという、こだわりの部分はありますか。

ソン・ジュンヒョップ氏: メインストリームでは紙のヒツジを始めとした、紙のモンスターが登場します。紙ならではのデザインの面白さがあり、ファイヤボルトなど炎系の攻撃に弱いという特性もあります。また紙ヒツジはプレーヤーのアクションで、“紙”を落とします。これを集めなくては先に進めない場合があります。演劇ミッションを受けるときの紙を採集するのとは、また違ったアクションです。

 後は新しい演劇ミッション「神々の看守」も見てもらいたいですね。前回のボス「ブラン」と対決できます。こちらは、3~5人で挑戦できるミッションです。これまでのミッションと同じように初級からハードまでの難易度が用意されています。

――G14S3では、累積レベル100以下のキャラクター向けに「将来希望システム」が実装されるということですが、与えられる装備品は、初心者用精霊武器のように消えてしまうのですか。

ソン氏: 残ります。初心者用の特別アイテムというわけではなく、これまでは店で探して、自分で買ったり、使い方を学ばなくてはいけないアイテムを与えられるというイメージです。自由度を高くしすぎたため、1人では序盤がわかりにくかった。ここにガイドラインを設けた感じです。

キム氏: レベルを上げるだけで、スキルの修練をせずに学べるので、これまでより初期のスキルを取りやすくなります。私はこのシステムが実装される前にゲームを始めていたのですが、これがあったら苦労は減ってたろうになあと、うらやましくなりました。

――次にG14S4の実装は、いつを予定していますか。

キム氏: 7月後半を予定しています。6月23日にS3、7月にはS4と早い実装を目指しています。

――S4では「カブ港」が追加され、灯台守のアスコンと、元船長の酒場の店主アニックが登場するとのことですが、それ以外の人物はいないのでしょうか。

チョ氏: 街としての機能は備えており、NPCもいます。しかしそれ以上に「G15の為の準備」という意味合いが大きいです。「貿易システム」で機能するNPC達の姿を既に確認できます。

――カブ港では、特別な物が釣れるということでしたが、どんなものが釣れるでしょうか。

ソン氏: 「収集日記システム」の目標となる魚などです。収集日記システムは、2つのモードがあり、まず第1番目は、種類そのものを集めていくモードです。プレーヤーは、釣りや、生産物など、提示されている種類のものを、まず集めていきます。そして次のモードが、各収集物の品質です。より高い品質の物を多く収集を目指していきます。一定の目標をクリアすると、タイトルやアイテムなどの報酬が得られます。

――メインストリームとしてアスコンの物語が語られると言うことですが、こちらはシェークスピアから離れた話でしょうか。

チョ氏: アスコンは老人ですが、彼の悲哀に満ちたこれまでの人生が語られます。この物語は、シェークスピアとの関連は薄いですが、実はG15へのプロローグという側面もあります。物語そのものG15に続いており、G15ではアスコンに対立する人物を捜しに、新マップ「ベルバレス島」へと旅立っていくことになります。

――アスコンは老人なので、彼の人生と言うことは、カブ港や、近くの街のダンバートンの過去など、プレーヤー達が訪れる前のエリンなども描写されるのでしょうか。

チョ氏: 実はアスコンは幼い頃に海賊にさらわれて、カブ港から離れてしまうんです。なので周辺地域の過去は描かれません。ただ、60過ぎの老人の人生が様々なカットシーンで描かれる、アスコンという人物そのものの“歴史”を感じてもらえると思っています。


6月23日に実装されたG14S3の各要素。これまでの「シェイクスピア」関連のクエストに比べ、「マビノギ」らしさが濃くなるという
8月に実装を予定しているG14S4で追加されるカブ港。貿易の拠点ともなるという
G15のプロローグとなるアスコンの物語。収集日記システムは生産を好むプレーヤーにうれしいシステムとなりそうだ



■ 貿易システムと密接に関係する「ベニスの商人」。アカウントハックは今年頭から補償スタート

「ベニスの商人」は貿易システムと密接に関わって来るという
新フィールドであるベルバスト島。豪商達の館もある
貿易システムで使う象。システムの詳細は今後とのこと
日本で人気の農場システム。設置物を置いて自由にカスタマイズできる。ソーシャルゲーム的な要素はまだ少ない

――次にG15を聞きたいと思いますが、「ベニスの商人」を選んだのは何故でしょうか。

チョ氏: 新フィールドであるベルバスト島、そしてそこに繋がる「貿易システム」を考え、交易商人を題材にした「ベニスの商人」を題材にしようと思いました。この題材にしたのは、「エリンとシェイクスピアの物語を、もっと綿密に結び合わせよう」と思ったからなんです。新マップと貿易システムを物語りに活かし、「マビノギ」ならではのストーリーになると思います。

――貿易システムの具体的なイメージを教えてください。

チョ氏: これまで、生活スキル、ファンタジーライフを重視するユーザーでもレベルを上げAPを得るには戦闘をしなくてはいけませんでしたが、貿易システムにより、戦闘をしなくてもレベルアップが可能になります。戦闘が苦手だったプレーヤーもキャラクターを育成できます。そして、低レベルユーザーも、高レベルユーザーも楽しめるコンテンツを目指しました。

 具体的なイメージとしては、「マビノギ」には現在8つの街があり、ベルバスト島を含め9の街が存在することになります。プレーヤーはその街を巡り、相場と照らし合わせて交易品を安く買い込み、他の街で高く売ります。特産品は新しい物だけでなく、既存の物でも交易の材料があります。

 交易の具体的なアイテムや、プレーヤーの生産品をどう扱うか、交易の具体的なシステムは企画を詰めているところもあり、まだ未定の部分も多いです。

――次に“浪漫農場”についてお聞きします。日本ではかなり反響があったようですが。

キム氏: 日本は実は、韓国だけでなく台湾や中国などと比べても大きな反響がありました。これは日本でのソーシャルゲームの流行とうまくあったことと、韓国では2回に分けられたコンテンツが、1度に投入されたことも大きかったと思います。

 日本での反応の良さに応えるため、浪漫農場の新コンテンツは、まず日本で実装していきます。まだ詳細を決めているところですが、様々な新アイディアを考えています。農場で飼えるペット、そして設置物です。噴水台なども面白いですし、木の種類としては、桜なども楽しいのではないでしょうか。

平原亮太氏: ユーザーの反応は、ホントに良かったです。パーツを組み合わせて面白い景色を作ったり、いろいろなことをやってくれていますね。ソーシャル要素をもっと入れて欲しいなど、様々な要望は出していますが、僕個人は、農場でのペットに期待してます。

――ネコ島に関しては、どんな予定が決まっていますか。

ソン氏: 現在はまだ全くの未定です。ユーザーの意見を聞きつつ吟味しているところですね。まずは浪漫農場を優先と言うところです。

――では、日本の運営サイドの質問をしていきたいと思います。現在公式ページの掲示板では連日のように「アカウントハックされた」という書き込みがありますが、ユーザーのどのくらいの数がハックの被害に遭っているのか把握していますか。

平原氏: 具体的な数字は公表できませんが、報告のあったものは全て把握していますし、調査もしており、サーバーの監視も行なっています。また、今年に入ってから、因果関係のはっきりしているものは、補償を行なっています。ネクソンポイントに関しては、動きがはっきりしているので、できるだけの補償は行なっています。

――アイテムに関してはどうでしょうか。また、他メーカーでは、補償を明確にしているところもありますが、こちらはどうでしょうか。

平原氏: 悪用される恐れもあるので、情報開示は制限していますが、対処したものは公表しています。現時点でアイテム補償に関する法整備がされていないので各社対応が統一されていませんが、今後につきましては、業界の動向に合わせた対応策を検討していく予定です。

――サーバーの増強は、去年も行なった施策ですが、重いという問題は、依然として残っています。

平原氏: コンテンツの増加、ユーザーの増加のため、今後もサーバーの増強は継続的に行なう予定です。

――それとは別に、プロバイダーを経由してくる海外からの不正アクセスに対して、何らかの対処が必要なのではないかと思ってます。こちらは企業間の交渉でもありますから難しいところではありますが、どう対策していくのでしょうか。

平原氏: 不正アクセスにつきましては、あらゆる可能性を考えて現在も対処しています。具体的な対応策の開示は控えさせて頂きますが、今後もネットワークセキュリティ及びサーバー監視を強化し、ユーザーの皆さんが安心してご利用いただけるよう努力していきたいと思います。

――そして、やはりきちんと聞きたいのは、午前0時半の必ず来る負荷は、一体何をしているか、というところです。内部の問題ならば、もっと接続者の少ない時間にできると思いますし、外部でしたら、これは憂慮すべき問題だと思うんです。教えていただけますか。

平原氏: 調査したところ、外部からの問題は確認されておりません。この件につきましては、現在、社内で対応を進めております。オフラインイベント中にもお答えしましたが、7月に予定しているサーバー機器の交換を実施した後に様子を見ながら調整していきますので、ご不便おかけ致しますがご理解ください。

――もう1つ、著作権上難しいですが、著作権フリーな楽曲に限り、ユーザー投稿ができたり、楽譜交換のできる場を、公式でフォローできないでしょうか。今までグレーなところでありましたが、音楽の交流をもっと活発にするには“場”が必要なのかと思っています。

平原氏: 公式でフォローをする場合、著作権フリーかどうか確認するための体制構築が必要となり、社内的に難しいので、現在のところ予定はありません。

――最後にユーザーへのメッセージをお願いします。

チョ氏: インタビューでユーザーの皆さんに声を届けられるのは光栄です。皆さんが長い間「マビノギ」を愛してくださっているからこそ、私達の力になっています。これからもよろしくお願いします。

キム氏: 私は日本向けサービス担当なので、これからも日本が最初に実装できるような、日本向けコンテンツの実現に努力していきたいです。ネコ島の要望、募集しています。たくさんの意見をお願いします。

パク氏: 私は、QAを担当しているので、ユーザーさんからお叱りを受けている部分もあるのですが、皆様の熱意が、私達の努力の源になります。よろしくお願いします。

 

ソン氏: 夏に続けて、アップデートを行なっていきます。期待してください。楽しんでください。

平原氏: 「マビノギ」が6周年迎えられたのも、多くのユーザーさんのおかげです。今後もユーザーの要望や気持ちを汲んで、楽しい「マビノギ」を企画、開発、運営スタッフと提供していきたいと思います。


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(2011年 6月 24日)

[Reported by 勝田哲也]