PS3/Xbox 360「スーパーストリートファイターIV」開発者インタビュー
プロデューサー小野義徳氏が語る熱い思いと
「24時間『ストリートファイター』計画」とは?

3月30日収録

会場:株式会社カプコン

 

 株式会社カプコンより4月28日に発売されるプレイステーション3 / Xbox 360「スーパーストリートファイターIV」(通常版:各4,990円 / コレクターズ・パッケージ:5,990円)。追加キャラクター10体、新システムなど多くの新要素をひっさげて登場となる「ストリートファイターIV」の続編だ。

 今回の取材では小野義徳プロデューサーとの実機体験プレイ、インタビューを行なうことができた。実機プレイで聞くことができた情報の前編、インタビューの後編と2回に分けてお届けする。

 実機体験プレイは、外部ネットワークに接続されたXbox 360版「スーパーストリートファイターIV」を用いて行なわれた。

 また、コントローラーはMad Catz製の「ARCADE FIGHTSTICK TOURNAMENT EDITION S White/Black スーパーストリートファイターIV version for Xbox 360」を使用。このアーケードスティックは「スーパーストリートファイターIV」と同時発売の公式アーケードスティックで、Xbox 360版が18,900円、PS3版が16,800円となっている。

笑顔で取材に応じてくれた株式会社カプコン 小野義徳プロデューサー4台のXbox 360版「スーパーストリートファイター「IV」と豪華な環境で取材は行なわれた白と黒の2色が発売される公式アーケードスティック。こだわりのつまった本格的な仕上がりだ


■ スーパーで登場する2体の新キャラクター「ハカン」と「ジュリ」

ヤール・ギュレシュというトルコの格闘技を使う「ハカン」
セスの懐刀であり、残忍なテコンドー使い「ジュリ」

GAME Watch編集部: ハカンはどのように戦うキャラクターなのでしょうか?

小野氏: ハカンはオイルを浴びると攻撃力や防御力が上がるため、間合いを取ったらまずオイルを浴びるのがいいですね。中距離では地面をスライディングしての攻撃、近距離では→+弱Kでの蹴りで牽制がオススメです。この弱Kは発生が3フレームと早いため、とても使いやすくなっています。これで間合いを取りながら戦うのがいいでしょう。

編: 「ハカン」といえば公式サイトのトレーラー「SUPER Promotion Trailer 5」が話題を集めていますね

小野氏: あのトレーラーで使用しているのはウルトラコンボ(以下、ウルコン)II「オイルコンビネーションホールド」です。あれはちょっとやり過ぎたかなとも思っています(笑)。「オイルコンビネーションホールド」は相手の飛び込みに合わせて使うと効果的です。入力が↓↓↓+KKKと、相手の動きを見ながらでも使いやすいコマンドになっています。

編: 「ジュリ」はどのように戦うのでしょうか?

小野氏: 「ジュリ」はボタンを押して構え、離すと技が出るといったものがあります。この構え中は後ろでガードが可能です。セービングではないですが、特定の構え中に相手の攻撃を受けることで一気に離れたり、近寄ったりすることもできます。

編: 随分テクニカルなキャラのようですね。

小野氏: レバガチャでもある程度までは遊べますが、少しテクニックの必要なキャラクターになっています。ハカンに関しては完全に玄人向けです。初めて本作で「ストリートファイターIV」に触れる人には難しいかもしれないですね(笑)。



■ 「IV」に合わせて最適化された「III」や「ZERO」のキャラクターたち

土佐弁が特徴的な空手家「まこと」
忍術を駆使して戦う「いぶき」

編: 「まこと」や「いぶき」など、懐かしいですね。

小野氏: 懐かしいと感じる方はごく稀ですね。絶滅種といってもいいでしょう(笑)。どうしてもアメリカをターゲットとして考えた場合、アメリカでは「ストリートファイターIII」の存在を知る人が少なかったので、「III」のキャラクターを入れるかどうかはギリギリまで悩みました。

編: 「まこと」の「チェスト~!」というボイスも健在ですね。

小野氏: 「まこと(CV 津村まこと)」はボイスで苦労したキャラクターなんです。もう十数年前のタイトルなので、同じ声優さんに来てもらっても声に微妙な違いがあるんで。ただ、土佐弁の特徴あるしゃべり方ができる人は津村さんしかいなかったので、土佐弁の先生からレクチャーを受けてもらい、十数年前を思い出しながら声を入れてもらいました。

編: 「IV」ではボイスの変わったキャラクターはどの程度いるのでしょうか?

小野氏: 6~7割はオリジナルと異なる人に声を入れてもらっています。

編: 「III」や「ストリートファイターZERO」シリーズのキャラクターを追加することで苦労した点はありましたか?

小野氏: ビジュアルの点でいえば、「IV」テイストにするのに多少苦労しましたが、テストプレイにおいて違和感がないとの評価が得られたため、「III」のキャラクターを入れることにしました。

編: システムが違うことで操作感やバトルの組み立ても変わりそうですね。

小野氏: 「III」をやっている人なら通常攻撃の部分は前と同じプレイ感だと思いますが、「III」はジャンプではなくブロッキングスタートなので組み立て方は「III」とは異なります。ただ、「III」をプレイしていた人なら組み立てられるだろうと期待しています。「まこと」で言えば、「III」では扱いの難しいキャラクターだと思うのですが、「IV」でも扱いづらいキャラクターに仕上がっています(笑)。

 特に「III」は現役でプレイされている方がいるため、なるべく違和感のないように調整しています。ただ、あまりあわせすぎると「IV」から乖離してしまうので、フォーカステストを重ねながら慎重に調整を行ないました。

編: シリーズからキャラクターを持ってくるのは簡単なことではないのですね。

 

小野氏: シリーズといいながらも、それぞれが別ものなので。ただ、違いがわかる人は格闘ゲームを好きでやりこんでいる人だと思っています。基本的には殴り合ってゲージを減らすということだけしかわからない人が「II」世代のプレーヤーには多いので、いかにそこに合わせるかに注力しました。

シャドルーに奪われたままの恋人ジュリアを取り戻すため旅を続ける「T.ホーク」トップミュージシャンでありながらキックボクシングの才能も持ち合わせている「ディージェイ」ナイフの扱いに長け、喧嘩殺法を得意とする脱獄囚「コーディー」
戦国時代より続く忍術の流派・武神流の使い手「ガイ」サガットに対して憎しみを抱くムエタイ闘士「アドン」紅茶を愛す英国紳士でヘビー級プロボクサーの「ダッドリー」


■ 格闘ゲームプレーヤーを育成したいという願いが込められた本作

編: 「スーパー」になって採用されたウルトラコンボ選択や、リベンジゲージの分割が「III」のイメージに近いと感じました。

小野氏: 「III」では、ウルコンはこれを選べば鉄板だというふうに偏ってしまったんです。今回は、このキャラがきたら、このウルコンを選べばいいだろうというようにしたかった。また、プレイスタイルの好みに合わせて選択できるようにしたかったんです。ジュリなら決めのコンボに使える回旋断界落、弱→中→強の順序で全ての通常技をキャンセルできる風水エンジン、といった使い分けの可能な2つになっています。上級者であれば、飛び道具主体の相手なら通常コンボからウルコンを繋ぐ前者を、待ちタイプの相手なら後者をといった視点で調整しました。「III」でせっかく作ったのに偏ってしまったものを「IV」では偏りがなくなるようにしたんです。初心者のプレーヤーはどっちを選んでもOKです。

 「IV」が入門であれば、「スーパー」は中の下レベルのプレーヤーの育成を目指しています。上級、中級は無理でも中級の下なら戦えると思える人には是非遊んで欲しい。格闘ゲームというボードゲームが理解できそうだと思えたなら、「他の格闘ゲームをやってみよう」と広がってもらってもいいと考えています。

編: 格闘ゲームプレーヤーを育てたいということですか?

小野氏: そうなれば、ありがたいなと考えています。驕りかもしれませんが、「ストリートファイター」という冠と20年来登場しているキャラクターは何よりも強く、いい資産だと思うんです。これらを使って、格闘ゲームというボードゲームが消えないようにプレーヤーに刷り込みたい。「ストリートファイター」のゲーム性はカプコンのアイデンティティでもあるので、本作でもうちょっと押し上げたいんです。これについて頂点のプレーヤーが「ふ~ん」と思うのは仕方ないことだとも思います。「頂点は『III』だ!」と。それは作っている僕らも「III」はチャンピオンシップタイトルとして作ったので、当然でしょう。

 「II」や「IV」はどの格闘ゲームよりもシンプルだと思うんです。相手との間合いに加え、ジャンケンを一瞬先読みするか、後出しがバレない程度でいくかと、基本中の基本で楽しむタイトルなので。そこがわかったときに、たくさんのコンボを叩きこみたいと思ったらアーク(システムワークス)さんの格闘ゲームを、もっと間合いだと思ったら「バーチャファイター」や「鉄拳」をプレイしてもらえたらと思うわけです。丁度いいと思えたら、「ストリートファイター」に留まってもらえればいいと思います。

 上級者が楽しめるバッファもとってありますが、「スーパー」は初級者が中級者にあがるための入門編なんです。初心者お断りというのはあり得ないと考えています。これらはこのキャラクターたちに助けてもらって実現したい。あのキャラクターは思い出だからとプレイしてもらいたいんです。

編: 昨今の格闘ゲームでは、強さからキャラクターが選ばれることが増えたと思うのですが、「ストリートファイター」ではキャラクターに愛を持って選択している人が多いですね。

小野氏: たしかに強いキャラクターに乗り換えればいいんですが、昔からのゲームならではのキャラ愛といいますか、定番のキャラクターがあるんです。他のアクションゲームに比べて、このキャラクターをなんとかしてくれという声が多いのもそのためでしょう。好きなキャラクターを自分の駒として使いたいと考えてもらえるのはありがたいと思います。



■ オンラインモードによる「24時間ストリートファイター計画」とは?

ランクマッチ、エンドレスバトル、チームバトルと3種類の通信対戦が楽しめる
多くのこだわりが詰まったリプレイチャンネル。自分で保存したものだけでなく、世界中のリプレイが閲覧できる

編: 次にチームバトルについて教えてください。

小野氏: チームバトルは友達がいなくても、夜中始めてもチームの仲間を自動で探してくれます。もちろん、決まった友人同士でチームを組んで対戦相手を探すことも可能です。ボイスチャットでもしていれば対戦相手が現われるでしょう。世界で10万本程度しか売れなければ厳しいでしょうが、きっと大丈夫だと思います(笑)。

編: チームバトルは何人まで可能ですか?

小野氏: 最大4対4です。プライベートスロットを使用すれば1対7の対戦も可能です。

編: 対戦相手はどのように選ばれるのでしょうか?

小野氏: プレイヤーポイントに合わせてチームが分けられるようになっています。

編: 通信対戦時のラグはどの程度なんでしょうか?

小野氏: 画面を見てもらえるとわかると思うのですが、気にならない数フレーム程度までラグを抑えられました。ただ、通信対戦中にスキマを狙ってパケットを送るようにしてあるため、対戦中のプレーヤーと観戦中のプレーヤーでは多少ズレがあります。これは対戦自体に影響はないですが、大会で恒例の「ヘイヘイ!」といった掛け声はズレますね(笑)。

編: 試合毎にキャラクターは変更できるのでしょうか?

小野氏: はい。キャラクターだけでなく、ウルコンも変更できます。

編: 試合中にプレーヤーのネットワークが切れるとどうなるんでしょうか?

小野氏: 誰かがオフラインになってもチーム戦は継続されます。

編: 観戦中は見ているだけしかできないのでしょうか?

小野氏: 観戦中、BACK/SELECTボタンを押すことで、対戦リプレイが保存できます。これはリプレイチャンネルで見ることができます。押すのはいつでも可能で、対戦が終わりかけの時点で押しても、その対戦のリプレイが丸ごと保存されます。

編: リプレイはいくつまで保存できますか?

小野氏: 150個程度です。これは本作で確保されたストレージ容量なので、ハードディスクの容量とは関係ないです。どうしてももっと保存したければ、アカウントを増やしてもらうしかないですね。

編: リプレイはキー入力を保存するんですか?

小野氏: そうです。キー入力を保存して、リプレイ動画を再現する仕組みになっています。

編: エンドレスバトルとはどのようなモードなのですか?

小野氏: 日本人や昔のアメリカ人ならわかるとおり、アーケードでプレイするイメージです。勝ち続けた人がプレイを続け、負けたら列の最後尾に移動するような。それを最大8人で楽しむことができます。

編: 通信対戦でXbox 360とPS3の違いはありますか?

小野氏: ほぼないです。ソニーさんにチューニングに付き合ってもらったので、前作よりもマッチングしやすくなっています。夢はハードを垣根を越えることですね(笑)。

編: チームバトルやエンドレスバトルなど、オンラインモードには多くの種類がありますが、これらを搭載した経緯を教えてください。

小野氏: ユーザーからの要望により搭載しました。これらのモードで保存したリプレイは、自分で見るだけでなく、人に見せることも可能です。見せてもらったリプレイが欲しい、というときは保存もできます。また、保存したものは世界中に配信されます。自分がプレイしていなくても、世界中のリプレイが蓄積されていくんです。「24時間『ストリートファイター』計画」です。

編: リプレイを保存できるゲームは多いですが、人に見せられたり、もらえたりする機能は珍しいですね。自分のプレイ以外も渡せるのは嬉しいところですね。

小野氏: アップされるリプレイをどう選出するかについては、慎重に決めました。やはり、下手なリプレイばかりがアップされたら嫌だと思うんです。結局、自分のリプレイがアップされるのは連勝数など特定の条件を満たしたものに限定して、健全なリプレイが世界に回るようにしました。

編: リプレイチャンネルのORIGINやMY LISTというのはなんですか?

小野氏: ORIGINは「II」のキャラクターが戦うリプレイを世界中から探して、見るものです。ストリームをイメージしてもらうとわかりやすいと思います。バッファにたまっていくだけなんです。欲しいリプレイがあれば、閲覧中にBACK/SELECTボタンを押せば、保存されて自分のものになると。MY LISTはハードディスクに保存されたリプレイを閲覧するチャンネルです。

編: リプレイ閲覧中にコマンド入力などが見れるんですね。

小野氏: コマンド入力、アタックデータ、ダメージなどを見ることができます。通信対戦中は、相手の入力音は聞こえませんが、リプレイを見ればどのように入力しているかわかってしまいますね(笑)。研究にはとても有用だと思います。バトルポイントの高い人のリプレイを見れば、攻め方だけでなく、コマンド入力も参考になるでしょう。

編: リプレイに関してかなり力を入れているんですね。

小野氏: リプレイチャンネルは、ある意味チームバトルやエンドレスバトルよりキラーコンテンツだと思っています。これがあるから、ネットワークに接続したいとなって欲しい。みんなでリプレイを共有してもらいたいんです。これは画面を見ながら説明しないと伝わりづらいんですよ(笑)。ただ、見られる、保存できるだけではない。動画系サイトのようになって欲しいんです。そしてリプレイを研究して、中級者になってもらいたい。

 「あの動画が欲しいから招待してくれ」といったコミュニティもできるかもしれません。動画の鑑賞会のような。これまではゲームプレイに疲れたら、TVを見たりしていたと思いますが、今回はリプレイチャンネルでリプレイをボーっと見たり、研究したりして、休憩して欲しいと考えています。



 通信対戦で自分の画面と対戦相手の画面を比較しながらプレイできるという貴重な体験ができた。対戦相手の画面を見ながらプレイしても全く問題ないほどだったことを伝えておきたい。

 また、リプレイチャンネルは、相当楽しめるコンテンツになると確信できた。研究だけでなく、垂れ流しで他人のリプレイを見るのもいいだろう。筆者は、友人とリプレイを見ながら、あーだこーだと言いながら楽しむことになるのが簡単に想像できた。

 次回はさらに突っ込んだ質問に答えてもらったインタビューをお届けするので、ご期待いただきたい。


(C)CAPCOM U.S.A., INC.2010 ALL RIGHTS RESERVED.

(2010年 4月 21日)

[Reported by 木原卓 ]