SeedC代表取締役社長 崔 正浩氏インタビュー
ブラウザゲームポータル「Webゲー」の事業戦略を聞く

7月収録

会場:SeedC本社



 SeedCは7月28日にブラウザゲームポータルサイト「Webゲー」をオープンし、中世ヨーロッパがモチーフのストラテジーゲーム「Khan Wars」(カーン・ウォーズ)を筆頭に、それぞれファンタジー設定とSF設定のデュエル型RPG「KNIGHT FIGHT」および「FREEDOM RESIST」という、計3本のブラウザゲームのサービスを開始した。

 「Khan Wars」は、「トラビアン」と同じく、自分の街を開発して他プレーヤーと戦争を繰り広げるタイプのゲームで、フランク、ゲルマン、ゴート、ビザンチン(東ローマ)、アラブ、ロシアなどといった中世ヨーロッパとその周辺地域を中心に、9つの種族設定が用意されている。街をめぐる戦闘は総じて防御優位のバランスであり、プレーヤーが長期間アクセスできないときのために「休暇モード」が用意されているなど、近年のヨーロッパ製ブラウザストラテジーで求められる要素をフルにカバーしている。Best Browser Game Award 2008を受賞したというのも納得できる大作ブラウザゲームだ。

 一方、「KNIGHT FIGHT」および「FREEDOM RESIST」は、アイテムの購入やクエストへの参加など主人公の行動を選んでいくだけで進む、いわばマップのないRPG。楽しみどころは他プレーヤーとのPvP戦闘で、攻撃と防御のバランスや、威力と攻撃間隔のどちらを重視するかといったことを考えつつ、キャラクターのパラメータを詰めたうえで戦闘に臨む。戦闘そのものは自動判定で、戦闘経過のログを見てさらに戦術を工夫するというゲーム性だ。このジャンルも、ヨーロッパ圏では多くのファンに親しまれている。

 これらを日本で展開するSeedCは、日本におけるブラウザゲームビジネスをどう捉え、今後どのようなサービスを予定しているのか? 今回はポータルサイト「Webゲー」を展開するSeedC株式会社 代表取締役社長の崔 正浩氏に聞いてみた。

 ブラウザゲームのそもそもの“震源地”であるヨーロッパ圏の作品を、日本で大規模にローカライズサービスするという同社の構想は、日本におけるブラウザゲーム市場開拓全体の中でも、極めて重要な役回りとなるだろう。崔氏らしく韓国市場の動向も同時に見据えた新ビジネスの今後、ブラウザゲーム分野でSeedCが目指すものについて、ぜひ確認してみてほしい。



■ 2009年3月までに15~16本のブラウザゲームをリリース。ラインナップの核はヨーロッパ圏の作品

中国、韓国の市場動向を見据えつつ、日本でのブラウザゲームビジネスを考えていたという、SeedC株式会社 代表取締役 崔 正浩氏
7月28日にオープンした「Webゲー」のサイト。現在は事実上のプレオープン状態だという

編集部: まず最初に、SeedCがブラウザゲームに着目したタイミングときっかけについて、教えてください。

SeedC株式会社 代表取締役 崔 正浩氏: 日本を含めた東アジア、つまり日本、韓国、中国でPCゲームといえば、この4~5年はMMORPGに代表される本格的なオンラインゲームが主流で、すでに大きな市場が出来上がっています。一方ヨーロッパ地域などを見てみると、ドイツで長い歴史を持つボードゲームをPCに乗せた形のブラウザストラテジーゲームが、早くから流行していました。同じPCオンラインゲームといっても、洋の東西でまったく違うゲームがプレイされていて、まったく別のノウハウが蓄積されていたのです。

 それがようやく昨年くらいから、お互いにもう一方のビジネスの可能性に気づいて、アジアでは中国を先頭にブラウザゲームに関心が盛り上がり始めます。逆にヨーロッパ地域では日本、韓国、中国で作られたオンラインゲームのライセンスを獲得して、サービスを提供する流れが活発になりつつあるのです。

 私の立場で言うと、ヨーロッパにおけるブラウザゲームの流行については3~4年前から注目しておりまして、あとはいつ日本でブレイクし得るか、タイミングを計っていたわけです。そうするうちに中国でブラウザゲームの国産化が始まり、昨年には韓国でもブラウザゲームの本格的なサービスが始まりました。韓国ではすでに月間売り上げが3,000万円以上に相当するゲームが5本ほどサービスされていますし、NCsoftも参入を表明しています。こうした周辺の動きを見るに、日本でもそろそろ始めてよい時期だろうと判断し、昨年年頭には社内で方法論を検討し、同じく昨年春から準備を進めてきたのです。

編: 現在の日本におけるブラウザゲーム市場全体を、崔社長ご自身はどういう段階と見ていますか?

崔氏: SeedCの前身に当たる会社ブロードゲームを起こして、日本でオンラインゲームビジネスに参入したのが2002年のことです。現在のブラウザゲームの状況は、その頃によく似ています。これから日本でも本格的な市場が成立する、そういう段階ではないかと思っています。

編: いよいよSeedCのポータルサイト「Webゲー」もオープンしましたが、今後どのように展開するのでしょうか?

崔氏: SeedCはオンラインゲームの運営を7~8年続けておりますので、普通のオンラインゲームで良質なサービスを提供するためのノウハウは、ある程度わかっているつもりです。しかしブラウザゲームは新しいジャンルですから、プレーヤーさんとの間で新たに関係を築きつつ、これからノウハウを積み上げていく必要があります。そこでSeedCとしては、7、8、9月を事実上の準備期間とし、さらに多くのコンテンツが整う10月を本格的なオープン時期と考えています。

 独占契約、非独占契約、アフィリエイト契約など、SeedCとの契約の形はいろいろですが、2009年8月から2010年3月までの間、2週間に1本のペースで新しいブラウザゲームを提供していきます。

編: これから立て続けに15~16本もの作品が展開されるというのは、かなり驚きの情報だと思います。ぜひ、提供作品の内訳について教えてください。

崔氏: 具体的なタイトル名については、9月末ないし10月頃に予定している「Webゲー」サイトの本格的なオープンに合わせて発表予定です。いま言える範囲、つまりゲームジャンルでいうと、現在のストラテジーとデュエル型RPGに加えてスポーツ、FPS(一人称視点シューティング)、育成といった、広がりのあるラインナップが揃う予定です。

 提供作品についてもうひとつの特徴が、ヨーロッパの作品が中心になることです。中国製ゲーム2本、SeedC独自開発のゲーム2本も予定されていますが、残りの11~12本はドイツなど、ヨーロッパ製のコンテンツになります。例えば、直近で9月にサービスを予定しているのはドイツの「Tribal Wars」です。そのほかの作品名については、先方と合意の上でサービスを発表すべきですので、まだ具体的に明かせませんが、Bigpointさんを含め世界的な大手と話をしています。

編: なるほど、ヨーロッパ製ブラウザゲームの日本窓口として機能することは、たいへん重要な特色になりそうですね。ヨーロッパ圏の作品を英語版で楽しんでいる人は、現状でもある程度いますが、広く楽しまれるためにはやはり日本サービスが望ましいですし、欧米の作品には最初からマルチリンガル設計をとっているものもあるとはいえ、実際に触ってみると、日本語はかなり怪しい場合が多いですから。

崔氏: ええ。一応日本語表示が存在しても、何を言いたいのかよくわからないレベルのものも多いですし、有料サービス周りがきちんと利用できるかは重要なポイントです。実を言うと「Khan Wars」についても最初は、開発元であるXS Softwareが日本語に訳したバージョンが存在したんですよ。でも、やはりわかりづらい。そこでSeedCがあらためて訳し直しました。

 今後サービスされるタイトルについても、いままでやってきたオンラインゲームのローカライズ/カルチャライズと同様に、わかりやすく翻訳していきます。グラフィックス表現についても、日本に合うものに換えていく必要がありますね。

「Khan Wars」と同じく中世ヨーロッパを題材にしたドイツ製ブラウザストラテジー、「Tribal Wars」のスクリーンショット


■ ブラウザゲームの自社開発にも着手

「日本発のブラウザゲームをヨーロッパに展開したい」と熱く語る崔氏
「Webゲーを、情報発信も含めた総合ポータルにしていきたい」という構想を持つ、SeedC株式会社 オンラインゲーム事業部 WEBゲームプロデューサー 山田義貴氏

編: 次にSeedCさんの取り組みについて質問させてください。先ほどのお話の中で、SeedC独自開発作品も予定しているとのことですが。

崔氏: はい。2009年12月末に1本、2010年3月にもう1本をリリース予定で、12月提供作品については、キャラクター育成とパズル的要素、テーブルゲーム的要素が主なゲーム性になります。一方来年3月の提供作品は、SeedC自身のIP(知的財産)、つまりこれまでサービスしてきているオンラインゲームを題材にして、普通のオンラインゲームではできなかったゲーム性の提供を目指します。オリジナル作品について、現在言えるのはここまでですね。

 ブラウザゲームについては、現在2本の開発ラインを持っていて、それぞれだいたい5~6か月に1本は新作が投入可能なので、年間4本くらいの新作を出していける計算です。普通のオンラインゲームで新作を1本開発すると、2年間/2億円くらいかかりますから、開発コスト面でもブラウザゲームは魅力的です。また、プレーヤーの要望を大胆に取り入れられるのも大きなメリットですね。ヨーロッパの作品に学びつつ自社IPの作品を制作していき、将来的には日本発のブラウザゲームをひっさげてヨーロッパ市場で戦いたい。それを目標として事業を展開しています。

編: ところで、ゲームジャンルの呼称としてブラウザゲームと呼ぶ一方で、ポータルサイトの名前は「Webゲー」となっていますよね? この由来を教えてください。

崔氏: SeedCとしてはブラウザゲームと、ダウンロード販売のキッズゲーム/ミニゲームを合わせて“Webゲーム”と打ち出し、その提供サイトを「Webゲー」と名づけています。ただし、事業の中心はあくまでブラウザゲームであって、Big Fish Gamesさんなどキッズゲームの提供サイトとの関係はアフィリエイト契約です。要は、ユーザーさんにとって同じ場所で利用できれば便利、ということです。

オンラインゲーム事業部 WEBゲームプロデューサー 山田義貴氏: 将来的には、ヨーロッパ圏、中国圏併せてすべてのブラウザゲームサービスが揃う、という姿をイメージしています。広いジャンルにわたって作品を提供でき、ユーザーさん個人個人がそこから選べるというような。ブラウザゲームは複数を並行してプレイできますし、まずはサービスラインナップの充実を重視していきます。

 それと、これはまだ社内でも議論中の課題ですが、世界中のブラウザゲームの情報を入手できる、いまアメリカやヨーロッパでどの作品が流行しているかがわかるという、真の意味での総合ポータルサイトにしていこうというアイデアもあります。

崔氏: 「Webゲー」のサービスは現状、LievoのIDでそのまま提供できているものと、そうでないものが混在しています。そしてLievoのIDにしても、既存の課金システムを用いる便宜上、ここにまとめているという形にすぎません。ですので将来的には新しいIDを作り、そこに統合して展開することを考えています。Open IDなどを採用すれば、移行そのものに技術的な問題はありませんので。

編: 「Webゲー」というポータルサイトが果たす役割との関連で、もうひとつ気になるのが対応プラットフォームです。近い将来、携帯電話からのアクセスに対応するといった計画はありますか?

崔氏: プラットフォームについて言えば、当面はPCに専念しなければいけないと考えています。ただし、個別の作品では携帯電話からのアクセス/プレイを考慮しているものもあり、3月に投入予定のSeedCオリジナルタイトルには、携帯電話で楽しめる要素も組み込んでいます。それにしても、携帯電話からゲーム本体を遊べるようにはなっていません。現時点、少なくとも来年3月まではサービスラインナップの拡充と、それによって多様なユーザーの要望をかなえられるようになることが、最も重要だと考えています。

山田氏: 現在は、「ブラウザゲーム」といってもまだまだ知られていません。オンラインゲーム黎明期のことを思い返しても、いまはプラットフォームを広げるより、とにかくWindowsプラットフォーム上でのサービスを充実させるべき段階と判断しています。


■ 「Khan Wars」には勢力として「日本」を追加予定。サーバーレスポンスは8月中に大きく改善

プロデューサー山田氏の口からは、「Khan Wars」の登場勢力に「日本」が入る予定という情報が明かされた
「Khan Wars」のサーバーの重さについて、内幕と改善の見通しを語る崔氏

編: では、現状での提供作品についてお聞きします。「Khan Wars」はブラウザストラテジーとして、ここ数年で積み上げられたヨーロッパ作品の新要素をフルに備えた作品ですね。任意にオン/オフできる「休暇モード」で、自分がアクセスできない間、他プレーヤーに攻撃されない状態にもできますし、比較的安価な投資で防備を固められるのもいいですよね。

崔氏: ええ。Browser Game Award 2008の受賞作品に着目したのは、そのあたりが理由です。ヨーロッパにおけるブラウザゲームの制作ノウハウをしっかり踏まえた良質な作品を、まずはお届けしたいと考えました。

編: 「Khan Wars」について、現状でわからないのはゲーム終了条件です。現実モチーフのストラテジーゲームだとすれば、所定のクールが終了したあとサーバーがリセットされ、新クールが始まるという循環型のサービスだろうと思うのですが、実際のところはどうでしょうか?

山田氏: ヨーロッパでは、6カ月を1ラウンド(クール)にサービスされていまして、日本サービスもこれと同じ進行となっています。

崔氏: 次に同じペースのサーバーを追加するか、3カ月サイクルの“スピードサーバー”を設置すべきか、現在社内で検討しているところです。

編: 作品名にモンゴル帝国の皇帝「Khan」(ハーン、カーン、汗)を含んでいながら、モンゴルが出てこないことには、何かデザイン意図が込められているのでしょうか? 例えばラスボスと位置づけられている、というような。

山田氏: いえいえ。ヨーロッパ言語に取り入れられた「Khan」という言葉は、大王、王者といった一般名詞になっています。時代背景としては確かにモンゴル帝国と重なるのですが、チンギス=ハーンそのものを指しているわけではありません。

編: 「Khan Wars」のゲーム世界を広げるようなアップデートは、近日中に予定されていますか?

山田氏: 半年後のアップデート「Khan Wars2.5」のタイミングで、新勢力として「日本」を入れられないかどうか、XS Softwareさんから話が来ていまして、現在話し合っている最中です。

崔氏: もうすぐ韓国サービスも始まりますので、XS Softwareさんとしては「いっそのこと中国も加えて『東洋』という勢力を作るべきだろうか?」などと、検討しています。

一見してグラフィックスの美麗さが目を惹く「Khan Wars」の画面。ゲームルール面で見ても、ヨーロッパ市場における現在の動向をフルにカバーしていた、大作ストラテジーだ

編: 室町時代の海賊である倭寇とかも同時代で、そこには日本列島、朝鮮半島、中国大陸の人々が混在していたわけですから、「東洋」は「東洋」で興味深いですね。ただ、やはりわかりやすさの点で「日本」や「韓国」のほうが良いように思えます。……ちなみに、XS Softwareさんはどこの国の会社なのでしょうか? なんというか、登場民族として東欧圏が割と細かくわかれているあたりが、最初のサービス地域を反映しているのかな、と思うのですが。

崔氏: ブルガリアです。現在東欧地域では、ブラウザゲームの開発が盛んですね。

編: 「Khan Wars」でちょっと気がかりなのは、サーバーの重さについてです。近日中に改善する予定などはありますか?

崔氏: 実を言うと「Khan Wars」のサーバーは現在ドイツに置かれています。これが重さの原因ですので、8月中にはサーバーを、Lievoのサービスと同じ日本国内のデータセンターに移す前提で準備を進めています。

 SeedCとしてはもちろん、最初から日本国内にサーバーを置く前提で考えていたのですが、これはXS Softwareさんの意向です。なにしろ彼らも東アジアなどという遠隔地にサービスを提供するのは初めてでしたから、サーバーの設置場所が与える影響について経験がなく、それほど深刻に考えていなかったのです。ただし、サービスを開始してからの状況把握と対応は柔軟で、3日目にはXS Softwareさんのほうから「やはり日本国内にサーバーを置きたい」という申し入れがありました。ですのでサーバーの重さについては、8月中に大きく改善されます。

編: オープンβテストの期間を置くことなく、いきなり正式サービスだったのもXS Softwareさんのお考えですか?

崔氏: そのとおりです。現にSeedCによる完全なパブリッシング作品である「KNIGHT FIGHT」と「FREEDOM RESIST」については、一定のβテスト期間を見込んでいます。いきなり正式サービスというのは、ブラウザゲームでない限り、考えないやり方だと思います。

 ただ思うのですが、普通のオンラインゲームにしても現在なら「あり得ない」と一蹴されそうなやり方を、7~8年前は実際にやっていて、そこで成功したり失敗したりしてノウハウを積み上げたあとに現在があります。その意味でXS Softwareのまったく異なる考え方に触れ、いろいろ話し合って進めていくことは、SeedCにとってすごく勉強になっていると思いますね。

「Khan Wars」のアートワーク。近世銅版画風の原画に、グラフィックスイメージに対するこだわりが感じられる


■ 「KNIGHT FIGHT」と「FREEDOM RESIST」の魅力とは!? 「トランプでポーカーをやるような感覚」

「KNIGHT FIGHT」と「FREEDOM RESIST」が属する、デュエル型RPGの魅力について語る山田氏。山田氏自身は「『Khan Wars』よりも気に入っている」ということだ

編: では今度は「KNIGHT FIGHT」と「FREEDOM RESIST」の魅力について教えてください。フィールドを歩き回るのでなく、主人公の行動を選択するだけの形でクエストや対戦を行なうデュエル型RPGというのは、日本ではかなり特異な作品提案に見えますね。

山田氏: ストラテジータイプのブラウザゲームよりも、さらに少ない時間で楽しめるのが「KNIGHT FIGHT」と「FREEDOM RESIST」の大きな魅力です。「Khan Wars」をチェスにたとえるなら、この2作品はトランプでポーカーをやるような感覚で楽しめます。ログインしていなくてもPvP戦闘ができ、それによって経験値が稼げたりもします。かなり放置しながら、サボりながら進められるゲームであって、既存のゲームジャンルに類作がほとんど見当たりません。

 英語版で初めてプレーしたときの感想を正直に言うと「なんだこれ?」でした(笑)。いきなり12時間かかるクエストを選んでしまうと、そのあと12時間、本当に何も入力できませんからね。ただ、クエストを通してキャラクターを成長させ、お金を貯めて武器を買っていくうちに、PvPの駆け引きがわかってきます。

 「この人には勝てるが、あの人には勝てない」、「同じ人に攻撃されて、いつも負けているから武器を替えてみよう」と試してみると、必要なのはキャラクターのステータス上昇なのか強力な武器なのか、攻撃力を上げるには1撃の威力を大きくすべきなのか、攻撃間隔を詰めるべきなのか、あるいは命中率を上げなければいけないのかといった、戦闘の中身を工夫する余地が見えてきます。負けたときの悔しさをバネにして、特定の相手に勝つ方法を詰めていく。そうした駆け引きの要素を毎日少しずつ進めていくゲームなんですね。自分の生活に合わせたペースで本当に楽しめる。ブラウザゲームの究極形かもしれません。

編: デュエル型のRPGは、ヨーロッパでは一大ジャンルとして成り立っていますよね。プレーヤーさんも手慣れたもので、自わから仕掛けるときにしかレアな武器を使わないとか、相手の戦術の穴を突くべく、ちょっと極端なステータス振りのキャラクターを育ててみたりとか。プレイ自体が、その時その場所にその相手がいなくても成り立つ、独特のタイムシフト型コミュニケーションになっている気がします。

山田氏: そのとおりです。その意味で個人的にはむしろ、「Khan Wars」より楽しいと思っています(笑)。見た目がシンプルすぎて、なかなかわかってもらえないところが悩みではありますが。日本に合った仕様に変えていくことも、ぜひ考えたいと思っています。

編: 今後サービス予定の作品のなかに、デュエル型RPGの新作は含まれていますか? また、普通のフィールド型RPGについてはどうでしょうか。

山田氏: デュエル型の新作は、当面の新提供タイトルには入っていません。フィールド型RPGについては、予定していますがまだ調査継続中といった状況です。RPGについてはブラウザゲームの特徴である手軽さとの、兼ね合いをどう考えるかが大きな論点です。

上段が「KNIGHT FIGHT」、下段が「FREEDOM RESIST」の画面。他プレーヤーとの対戦に向けてキャラクターを育てていくデュエル型RPGであり、「Khan Wars」などの戦争ゲームと比べて、時間のない人でも楽しめるのが大きなメリット


■ 相互に影響を与えあいながら発展していく東アジアのブラウザゲーム市場

東アジアにおける、ブラウザゲームビジネスのエキサイティングさについて語る崔氏

編: 本日はせっかく崔社長にお話をお聞きしていますので、ぜひアジア圏、特に韓国と中国のブラウザゲーム事情について教えてください。

崔氏: 中国ではヨーロッパ系のブラウザゲームがほとんどサービスされておらず、中国メーカーの提供作品がほとんどです。それに対して韓国では現在「Tribal Wars」がサービスされていて、これから「Khan Wars」のサービスも始まります。そういった意味で、ヨーロッパ圏の作品が大規模にサービスされるのは、日本が1番早いという結果になりますね。

 韓国で月間3,000万円以上の売り上げをマークしている5本のうち1本は「七龍紀」(邦題『ドラゴンクルセイド』)で、残り4本も中国製です。韓国におけるブラウザゲームの本格的なヒットは「七龍紀」から始まり、残りの作品がこれを追いかける形でヒットしました。その意味で日本と韓国におけるブラウザゲームのヒット具合は今後とも、お互いの市場を参考にしながら進むのかな、という印象です。そこに新たに加わるのが、ヨーロッパ製ゲームの数々というわけなのです。

編: 中国では2005年に早くも「トラビアン」が多くのプレーヤーを集めていて、中国の開発会社さんに聞いてみても、「トラビアン」のことを実によく研究しています。ただ、そこからヨーロッパ圏のゲームサービス提供が続かなかった……というわけですね。

崔氏: そうです。結果として「トラビアン」は例外的存在に留まりました。実際「トラビアン」の成功を見て中国では、ブラウザゲームの“量産体制”が始まっています。

編: 韓国、中国で気になるのは、ブラウザゲームとネットカフェの関係です。中国で現在開発されている作品では、ネットカフェでのプレーを念頭に置いたものが、それなりに多い印象を受けます。それに対してヨーロッパやアメリカではネットカフェそのものが下火で、日本でも同様ですよね。ネットカフェ大国である韓国において、ブラウザゲームはネットカフェで遊ばれていますか、それとも自宅で遊ばれていますか?

崔氏: 韓国も最近では、大学生以上になると自宅でオンラインゲームをプレーしていると思います。小中高校生が、自宅でゲームばかりやっていると叱られるから、放課後の2~3時間を使ってネットカフェで遊ぶという感じで、家でゲームをやるのが一般的な形になってきています。

 もともと、「StarCraft」や「Diablo」といったネットワーク対戦要素のあるゲームについて、自分でゲームパッケージを買わなくても楽しめたところからネットカフェが栄えました。クライアントダウンロード型のオンラインゲームが普及した段階で、そのメリットは「友達と一緒に遊べる」とか、「家でできないのでネットカフェに行く」とかいう形に限定されていきましたので、ブラウザゲームのプレー環境は日本とそれほど変わらないと見ています。

編: 崔社長、あるいはSeedCにとって、ブラウザゲームというビジネスの魅力はどこにありますか?

崔氏: プレイ環境や時間にあまり制約されないゲーム、SeedCが追求してきた「簡単手軽!」に合致するゲームジャンルですから、いままでのオンラインゲームより広いターゲットを見込めることが、ビジネスとして大きな魅力です。サーバー負荷、回線負荷についてもずっと軽いですし、設備投資面を含めた利益率で見ると、普通のオンラインゲームが2~3割であるのに対し、ブラウザゲームは6~7割になると思います。結果として、より安価にサービスを提供し、顧客単価が低い状態でもビジネスが成り立つ。面白い事業分野だと思っていますね。

 ターゲットユーザーの分布をごく大まかに言うなら、既存のオンラインゲームは18歳から33歳くらいまでがボリュームゾーンで、ここに売り上げの8~9割を依存しています。このレンジを上にも下にも広げていかないと、業界の成長は見込めません。いままでPCでゲームを楽しんでいなかった人が入ってきてくれることもたいへん重要で、そうした人が既存のオンラインゲームの魅力に着目してくれたならば、理想的な展開といえます。

 「簡単手軽!」な“Webゲーム”が、例えば17歳から40歳くらいまでなだらかな年齢分布となってプレーヤーを広げてくれるなら、それはSeedCのみならずオンラインゲーム業界全体にとって、たいへん意義のあることだと思っています。

編: では最後に、今後「Webゲー」を通じてブラウザゲームを楽しんでくれる人に向けて、おふたりからメッセージをお願いします。

崔氏: 「PCで自分が楽しめるゲームなんてあるの?」と思っている人にも、1度ブラウザゲームをプレーしてもらえば、大きな負担なくプレーでき、実にいろいろな楽しみ方ができることを理解してもらえると思います。その楽しさを、SeedCと一緒に味わってもらえたらと思います。

山田氏: オンラインゲームが登場してだいぶ経ちましたので、「そろそろまったく新しいタイプのゲームが欲しい」と思っていた人や、「自分が楽しめるゲームがあまりない」と感じていた人に、これから新しい提案を広くしていきます。ぜひ「Webゲー」に集まっていただけたらな、と思います。

編: ありがとうございました。

Copyright (c) 2009 SeedC,Inc. All Rights Reserved.

(2009年 8月 18日)

[Reported by Guevarista ]