GMO Games代表取締役社長アンディ・クォン氏特別インタビュー
「コルムオンライン」に新クラス「ヴァンパイア」実装。そして次期タイトル「キノスワールド」の開発状況は?

4月10日収録

会場:GMO Games本社



 GMOグループの傘下のオンラインゲームパブリッシャーGMO Gamesといえば、昨年秋にオープンベータテストからわずか3カ月でサービスを停止した「キノスワールド~パジャマの騎士」の騒動が記憶に新しいだろう。サービス停止が決まった時、GMO Gamesのアンディ・クォン社長は「キノスワールド」を開発しなおすと宣言した。弊誌のインタビューでも、オープンベータテストは2009年6月頃と語っており、その後の開発状況が気になっていた人も多いのではないだろうか。

 今回再びアンディ・クォン社長がメディアインタビューに応じ、新生「キノスワールド」の開発の進捗状況を報告してくれた。また、GMO GamesでサービスをしているMMORPG「コルムオンライン」についても、2009月2月に開発会社がCORUM NETから「アトランティカ」や「君主オンライン」を開発した「NDOORS」に変わり、新たな展開が見えてきた。

【新規キャラクター】
「コルムオンライン」に新たに登場する職業「ヴァンパイア」「キノスワールド」のメインキャラクター「レイチェル」のポリゴンモデルも一新された



■ 開発会社がNDOORSに。スタッフの人数を倍に増強してシステムの安定化に取り組む

アンディ・クォン氏: 2009年2月に「コルムオンライン」の開発元がCORUM NETからNDOORSに変わりました。NDOORSといえば「君主オンライン」や、去年は「アトランティカ」を出して最近では1番ノッている会社だと思うんです。NDOORSのチョウ社長とは2年くらい前からお互いに腹を割って相談できる間柄で、サービスやゲームのあり方、海外市場の難しさを色々語り合って来ました。

編: どのような経緯で開発元を変更することになったのですか?

クォン氏: 「コルムオンライン」は5年で3回も開発会社が変わっているんです。もともとは当時イーソフネットという韓国の会社が開発していたのですが、ちょうど我々がオープンβテストをしているうちに会社が芳しくない状態に陥りまして、開発会社が変わりました。その後、もう1度変わって、お客様に非常に迷惑をかけたんです。「コルムオンライン」の開発元だったCORUM NETにいろいろトラブルがあって新たな開発の引き受け先を探していて、たまたまNDOORSに行き着いたという流れです。それがいいきっかけになって、譲渡が終わってすぐにチョウ社長に電話をして、お互いに盛り上げていきましょうと話をしました。

編: 開発会社が変わったことで、開発の体制はどのように変わったんですか?

クォン氏: まずは開発スタッフがそれまでの2倍に増えました。CORUM NETからそれまでの開発が全員移って、もともとの開発にプラスアルファする形でNDOORSのスタッフが加わった形です。人数が増えたおかげで、今後は目に見える部分だけじゃなくて、目に見えないところが変わってくると思います。CORUM NETの方々もがんばらなかったわけではないんですが、目の前の修正に追われて長期的なアップデートなり修正があまりできなかったので、その点ではNDOORSさんに期待しています。

編: 見えない部分というのは、どういった部分ですか?

クォン氏: 非常にお恥ずかしい話なんですが、この場を借りて謝罪と告白をします。「コルムオンライン」は国内では第1世代のオンラインゲームで、もう5年もサービスを続けてきました。ただし、我々が安定した良いサービスを提供してきたかというと、そうでもないんですね。私は当初から関わっていましたので、誰よりも状況がわかっていますが、非常に不安定な状況があったんです。私もしょっちゅうログインしていたんですが、当時はまだオンラインゲームの数も少なかったので、サーバーが落ちるくらいでやめるなんて根性がないと言われました。でも、本当はお客様も辛かったと思うんです。だけど、そんな風にお客様が支えてくれたおかげで、我々もその後サービスの質を高めてこられたという部分があったんです。だた、それでもまだ物足りない部分があります。

編: それはどういった部分ですか?

クォン氏: 「コルムオンライン」のお客様のことを、我々は“コルマ”と呼んでいるんですが、彼らはゲームに対するロイヤリティが非常に高いんです。会社側が不甲斐ないから「我々がコルムを守ってやる」というところがあったんです。だから今年は我々がお客様に恩返しをしていきたいという想いが強くあるんです。

編: 具体的にはどんなことをするのですか?

クォン氏: スタッフの数が増えたことで、短期的な不具合の修正や中期的なアップデートはもちろん、長期的にシステムの安定化を図ることができるようになりました。ソースコードを全部作り直す地道な作業を1年間やっていくということです。いまそれをやってまして、徐々にですが効果は出ています。コルマの方々に好評を博している「栄光の戦場」というPvPコンテンツがあるんですが、いままでは結構不安定だったのをパッチをあてて安定性を高めました。

編: 開発がNDOORSに変わったことで、ゲーム開発の方向性に大きな変化はありますか?

クォン氏: NDOORSさんはMMORPGにすごく特化されている会社なので、底力はものすごくあると思います、ソースコードから改良を加えていくというのは、自信の表れではないでしょうか。NDOORSにとっても、5年も経っているMMORPGの開発にチャレンジするのは非常に勇気が必要なことだと思うんです。だからきちんと話し合ってサービスをしていく感じで、前に比べてコミュニケーションは円滑になりました。定期会議を毎週1回必ず行なっていますし、それ以外にも週3回は会議を持っています。

編: 具体例としてシステムの安定化を挙げられましたが、これはユーザーからの要望が大きいのですか?

クォン氏: 比較的新規の方は派手なアップデートを欲しがる傾向がありますが、昔からいる根強いお客様からは、安定してゲームを楽しめるような環境をサービスしてくれという要望が多いです。ですからそれをきっちり仕上げて行こうと思っています。

 実は去年の12月26日に海外から大量の不正アクセス攻撃を仕掛けられて、お客様に大変申し訳ない不祥事があったんです。これは弊社だけではなく、国内の多くの企業がやられたという話を聞いていまして、セキュリティ会社とも対策を練って2月頃に対応策をまとめました。それをうけて3月1日に、私がコルムオンライン公式サイトへ社長名義で謝罪告知を出したんです。でたらめな日本語で申し訳ないのですが、社長として皆さんに率直に伝えたかったので自分で書きました。その時に約束をしたのがセキュリティの強化と、ヘルプデスクの対応を早くすることです。

 なにか不具合や問題があって、お客様に待っていただくことになったとき、お客様側の立場で考えてみると、まずは早めに返事をしてくれるだけでも安心できると思うんです。返事もしないようなことは、やってはいけない。運営チームだけで対応できないなら、全社員で取り組んででも、まずはお客様に対応する。それができない会社はサービスをする資格がない。まだまだ至らないところはあるんですが、これからさらに強化していきたいと思っています。



■ 6月に新クラス「ヴァンパイア」を実装。さらに新マップや大規模戦争を導入予定

ヴァンパイアは既存の6職の特徴を併せ持つハイブリッドタイプ
編: 一方、新規の方が望む派手なアップデートについては、どのような予定がありますか?

クォン氏: この1カ月半の間、NDOORSさんと頻繁に連絡を取り合って、今年1年のアップデート計画をまとめました。3月には新たに7種類のスキルを導入しました4月には、ガーディアンのバランスを修正します。ガーディアンは、いわゆる傭兵のようなシステムです。昔はかなり強かったんですが、ゲームが成長して、いつの間にかガーディアンがお荷物のようになってしまっっています。そのバランスを全部修正して原点への復帰を目指します。そのうえで6月にコルム史上初めての大きなアップデートを考えています。

編:どのような要素が導入されるのですか?

クォン氏: 「ヴァンパイア」という新規クラスを追加します。計画自体は一昨年からあったんですが、ようやく実現のめどがつきました。6月中には必ずアップデートできるような状況に持って行きたいと思っています。

編: ヴァンパイアの特徴を紹介してもらえますか?

クォン氏: 今まではキャラ作成時に6つの職業を選択することができました。そのうち、ファイター、レンジャー、アークスは近接物理攻撃型で、プリースト、ソーサレス、サマナーが魔法攻撃型です。新しく実装されるヴァンパイアは近接攻撃型と魔法攻撃型のいいとこどりをした位置づけというキャラクターです。ヴァンパイアは基本の人間型から、3つの姿に変身する能力を秘めているのです。

 まずはヒューマン型という基本形がありまして、そこから物地攻撃型と魔法型の2つに変身することができます。1つはモンスターに変身して近接に有利なスキルを使う「ウェアフォックス」。もう1つは魔法に特化した「ウェアキャッツ」です。さらに3つめは究極形態というべきもので「ウェアデビル」という魔法と物理攻撃の両方を備え持つという、ある意味反則的なキャラに変身します。

編: ヴァンパイアの変身の条件は何ですか?

クォン氏: いまはまだ仕様を煮詰めているところですが、ある特殊能力を成長段階で覚えて、戦闘型あるいは魔法型になって戦うことになります。変身は戦闘中にスキルを使って行ないます。さらに特定の条件を満たすと、最終的なウェアデビルに変身することができるようになります。ウェアデビルは強すぎて詐欺じゃないかと思うかも知れませんが、超攻撃型なので逆に防御は弱いかもしれませんし、変身時間が短いかもしれません。バランスについては現在調整中です。

編: 新クラスを導入したのはユーザーから要望が大きかったからですか?

クォン氏: 要望は何年も前からありました。お客様だけでなく、内部の運営チームからもいろいろ提案がありました。ヴァンパイアに関しても、弊社の運営チームと商品開発チーム、NDOORSの開発チーム、それからGMO Games Koriaの4つのチームが話し合って決めたんです。考えているのはヴァンパイアだけではないので、ヴァンパイアの評判が良ければ、2010年はまた色々なことができるのではないかと思います。

編: このタイミングで導入した理由はなんですか?

クォン氏: 他の6つのクラスはすでにレベル200に達しているお客様もそれなりにいます。ヴァンパイアは有る意味赤ん坊なんですね。なので少しはアドバンテージを与えたほうが新規のお客様にとっても楽しくプレイできるのではないかと。もう1つの理由としては、6月にこのクラスを導入したあと、8月には新規マップを追加しようと思っています。さらに11月の正式サービス5周年にあわせて、大規模戦争システムを実現しようと思っています。大規模戦争システムというのは、PvPとPvEの両方を兼ね備えた、画面いっぱいに広がるような戦争のシステムです。11月までにこのヴァンパイアを育てていただいて、戦争で激しく仲良くぶつかって欲しいなという想いをこめています。

 大規模戦争はあまり新しいアイデアとは言えないかもしれません。なのにどうして今までやれなかったかというと、はやりシステムの安定化の問題が絡んでくるんです。今までのシステムでは、画面いっぱいにキャラが埋め尽くすようなものはとてもできなかったんです。それを地道に作り直して、大規模戦争を入れてコルムを盛り上げて、いい形で1年を締めくくっていきたいです。

編: ソースコードから書き直すのは、そういった意図もあるんですね

クォン氏: かなりリスクもあるし、難しい作業ではあるのですがNDOORSさんもスタッフを増やしてチェックをきっちりとやっていますし、弊社もそこを強化していますので、今年は変わっていくところをお客様にお見せできるのではないかと思います。

編: ちなみにサービス開始から5年が経つゲームで、これだけ大きなシステムの見直しをするのはなぜですか?

クォン氏: 5年も経つ第1世代のゲームが、どうしてここまでやるのかというのは当然思われることです。最近のようにたくさんのゲームがある中で、「コルムオンライン」の健在さをアピールしていきたいと思っています。今年の「コルム」のテーマは、お客様に誇りを取り戻してもらうことです。「コルム」はいままで、いろんな状況の中でお客様に支えられてきました。そうやってここまで来て、やっぱりコルムをやっていてよかったと思っていただけるようにサービスを強化していくというのが、1番の狙いなんです。

 よく社員に言うんですが、企業だから売り上げとか実績ももちろん大事なんですが、うちはゲーム会社なんだからと。単純にお金を儲けるだけならゲームよりももっと規模の大きな産業はいくらでもあります。ゲーム会社はお客様に楽しさを与えなければいけないのだと。5年後、10年後にあの時「コルム面白かったよ」と言っていただけることが、ゲーム会社のロマンだと思います。それを1番実現されているのは任天堂さんじゃないでしょうか。我々30代、40代の大人が子供の頃に任天堂さんのゲームで遊んで、大人になってから自分の子供に勧められる。そんなロマンを実現してきたからこそ、任天堂さんは世界的な企業になりえたのはないかと思うんです。我々が目指す原点はそこだと思います。

 コルムは会社が不甲斐ないときにもお客様に守られて5周年を迎えることになりました。改めて楽しく盛り上げて、安心して遊んでいただけるように地道な部分と派手な部分の両方をきっちりサービスしていきたい。まだまだ健在なんだというところをアピールしていきたい。我々の気持ちも非常に昂ぶっています。

【ヴァンパイア】
基本のヒューマン型。ここから3つのタイプに変身する
近接物理攻撃に特化したウェアフォックス
魔法攻撃に特化したウェアキャッツ
魔法と物理攻撃の両方を強力に使いこなす超戦闘型のウェアデビル


■ 新生キノスは、オープニングムービー、主題歌ありのアニメ風のストーリ仕立て

新しいレイチェルは、平尾リョウ氏のイラストに近くなっている
旧キノスのゲーム画面。プレーヤーキャラとNPCキャラのテイストが違う

編: 次に「キノスワールド」についてお伺いします。まず、現在の開発状況を教えてください。

クォン氏: 韓国に開発本部を設置しまして、企画チームとグラフィックスチームとプログラマーチームに分かれて動いています。状況を一言で言うと、死ぬほどテンパっている、という感じです。かなり無謀なチャレンジですので、のんびりやれるほど会社に余裕がないんです。今年の夏には必ずスタートしなければならないので、みんな命がけでやっています。

編: すごい状況ですね

クォン氏: 自社タイトルだから大目に見てくださいというのは、お客様には通じませんから。純粋にゲームの出来で審判が下される訳ですから、自信をもって出せないのではやる意味がないわけです。「アンディさん、これって御社の規模でやるべきことじゃないよ」とか「開発って金がかかるよ」とか「韓国人なんだから、向こうから持ってくればいいじゃない」とよく言われるんです。確かにそれが一般的かもしれません。

編: それなのになぜパブリッシングの会社が開発を手がけるのですか?

クォン氏: 私はゲーム業界は10年くらいいて、いろいろな国でインターナショナルにビジネスをやってきたんです。ゲームというのは文化産業なんですね。だから産業自体が盛り上がるためにも必ず国産のものが必要なんです。それは韓国でもアメリカでも中国でも一緒です。国産のゲームがあって、お客様が感情移入できるものがあってこそ、市場全体のパイがでかくなるんです。中国では以前は90%以上が韓国製のゲームだったのに、いまは5:5か4:6くらいの割合で中国産ゲームのほうが多いんですよ。そのなかで技術も発展している。逆に日本国内では500以上のゲームがサービスされていますが、国産の数は比率的には少ないんです。もっとやるべきだと私は思っているんですね。アメリカや韓国のアナリストも、日本の経済力を考えればオンラインゲーム産業はもっと拡大できるんじゃないかと言っているんですが、何年もそうはなっていないんです。

編: 新生「キノスワールド」はどういったゲームになるんですか?

クォン氏: 日本のゲームのあるべき姿というものを色々考えた結果、やはり日本の誇る文化として大きなものは漫画とアニメだと思います。漫画とかアニメって主人公が強くなってボスを倒して終わりだとみんなわかっていても見るじゃないですか。なぜかと言うと、わかっているけど構成が面白いからだと思うんですね。アニメのように純粋にストーリーを楽しむのはコンシューマゲームでは当たり前のことで、そこを強化していきたい。今までもストーリーを楽しむオンラインゲームはあったんですが、お客様はそれほど共感していないんですよね。アニメを見ているようなMMORPGというのが我々のテーマです。

編: アニメをゲーム内でどんなふうに生かしているんですか?

クォン氏: アニメって3カ月で1クールじゃないですか、我々もシーズン1、シーズン2、シーズン3というように半年から1年の間にどんどんアップデートをします。シーズン1で1つのストーリーが完結して、シーズン2から新しいストーリーが始まる。だけど全体を通してのあらすじはつながっているという形をとっています。今はオープニングムービーを作っています。フルアニメで、アニメのオープニングとまったく一緒です。主題歌も現在制作をしております。オープニングムービーと主題歌はシーズンごとに変わります。

編: 本当にアニメのようですね

クォン氏: オープニングムービーを見てゲームが始まりますと、ゲーム中にはNPCが30人から40人ほどいるんですが、全員がしゃべります。声優さんだけで20人以上の方が参加されていまして、これから少しずつ公開していこうと思っていますが、中には結構すごい方も入っています。ストーリーを目で見るのではなくて、直接声で聞いて自然に感じていただけるような仕組みを考えていまして、カットインなどを使って楽しみながら自然にゲームの仕組みを覚えていけるようなものをいま作っています。

編: ストーリーは新たに書き起こしているんですか?

クォン氏: ストーリーに関しては、旧キノスにはほとんどなかったです。それを今弊社の中で専門のシナリオライターが書いています。いまはもうシーズン3に入っています。彼が最初にやったのはキャラクターの相関図を作ることだったんです。

編: NPCキャラクターの相関図ですか?

クォン氏: NPCキャラクターのこいつはこいつとこんな仲で、こいつとはこんな話をするというのをきっちり仕上げてからストーリを作っています。いろいろな伏線があって、いいおじさんだと思っていたら実はすごい人物だったり、裏切り者だったりするかもしれない。単純にクエストを配ったり防具を売ったりするおじさんじゃないんだよということが、シーズンが進むとわかってくるんです。そういうところがストーリを楽しむために必要だと思います。

【新たなポリゴンモデル】
左が従来のポリゴンモデルで、右が新キノスのポリゴンモデル。新旧のキャラクターを比べると、違いは一目瞭然
男女の目の描き方の違いをポリゴンモデルでも忠実に再現している


■ キャラクターは平尾リョウ氏のイラストに合わせて全面リニューアル

豊富に用意されている初期装備のデザイン
NPCもすべて平尾氏が新たに描き起こしている
クォン氏をモデルにしたという秘密のNPC。愛される殴られキャラになるかも?

編: キャラクターの外見もずいぶんかわりましたね。

クォン氏: グラフィックスはだませないんです。いくら口で「このグラフィックスはすごい」と言っても、実際に見て「へぼいじゃん」とお客様に言われたらそれで終わりなんです。キャラクターデザインはイラストレーターの平尾リョウさんが担当していますが、平尾さんはうちの2Dアートディレクターのような感覚でやっていただいています。すべての絵を平尾さんの絵柄に合わせてNPCを含めて全員を変えました。グラフィックスのレンダリングに関しては、レンダリングツールを全部作りなおしました。旧キノスはトゥーンシェーディングが25%くらい使われていたんですが、それを50%くらいにあげて、もう少しアニメっぽい感覚の画面にしました。

編: レイチェルも旧キノスよりもずっとイラストの雰囲気に近づいていますね

クォン氏: レイチェルは主人公なので、可愛さと陽気さと色っぽさを全部出さなくてはならないんです。足の太もものラインとか、胸や顔のラインとかを毎日細かく修正しています。

編: ずいぶんゲームの印象も変わりますね。

クォン氏: 旧キノスのゲーム画面を見るとわかるんですが、NPCとPCのキャラクターでは絵柄が違っていて違和感があるんです。これはもともと韓国の絵柄をそのまま取り入れて、プレーヤーキャラだけ慌てて日本用に作ったものなのです。これを全部平尾さんのイラストに合わせる作業をやっています。例えばファイターの男女で見ると、平尾さんの絵柄って男性と女性では目の描き方が違うんです。何気ない小さな部分だと思うかもしれませんが、こういう細かいところから違うという感覚が出ると思うんですね。グラフィックに関しては、一番力を入れているのがNPCを含めたキャラクターで、その次がモンスター、その次が背景です。背景に関しては既存のものと新しいものを並行して使いたいと思っています。

編: 装備品も豊富なグラフィックが用意されていますね。

クォン氏: これは初期装備です。国内のお客様方はアバターの差別化へのこだわりが大きいですから、初期装備でこれくらいは出していきたいと思っています。最初から髪型や服装のバリエーションをある程度用意しておけば、シーズン2、シーズン3になる頃にはずいぶん充実したゲームになるんじゃないかと思います。

編: 主人公のキャラクターはレイチェルより小さいんですね。

クォン氏: なんで俺がレイチェルより小さいんだと不満を持つお客様もいると思うんです。どうしてこうしたかと言いますと「キノスワールド」は少年少女の物語なんです。少年少女って成長するじゃないですか。それがゲーム内でもあるかもしれない。こういうネタを公開すると、開発は嫌がるかもしれないですが、そういう想いをこめて初期キャラクターのサイズを設定しています。

編: モンスターも平尾さんのイラストになるんですね。

クォン氏: そうです。すべて平尾さんと、弊社の社内にいるアシスタントが新しく描き起こしています。誰が見ても国産ゲームなんだという感じがわかるように。平尾さんは非常にゲーム製作に詳しい方なので、作業がしやすいというのもあります。

編: こちらのキャラは誰かに似ていますね

クォン氏: 恥ずかしながら1つネタを披露させていただきます。これは秘密のNPCで、実は私をモデルにしています。普段はチビでスケベなおっさんなんですが、お客様が困っているときに変身して助けたり、道案内をしたりと、普段は抜けているけれど、時々役に立つというキャラなんです。「ウルティマオンライン」のリチャード・ギャリオットがロード・ブリティッシュとしてゲーム中に出演しているじゃないですか。あんな大げさなことは考えていないのですが、私も何かの形でゲームに出演したいと思ってまして、脇役かモンスターにしてくれと頼んだんです。お客様がストレスをためた時に、社長をボコボコにしてストレスを解消するのもいいかなと思ったんです。モンスターはちょっとやりづらかったようで、NPCになりました。脇役と中心人物の間を行ったりきたりするようなキャラクターです。でもクエストでお客様にボコボコにされるものがあってもいいんじゃないかと思うんですよね。私は企業家でビジネスマンですが、もともとゲームが好きでゲーム業界にはいった人間ですから、遊び感覚でお客様にアピールしたいという思いを込めて入れました。

【モンスターデザイン】
モンスターの動きまで細かくデザインされている


■ 職業を整理して、初期クラスは3つに。さらに全職に2刀流を実装

編: 他にはどんな変更点がありますか?

クォン氏: 1つのサーバーで同接8,000人くらいを収容できるようサーバーを増強しました。旧キノスではサーバーのことで非常に苦労しましたので、そこを改善しようと。とにかくサーバーのトラブルがないようにしたいんです。「コルムオンライン」にもたまたま同じような問題があったので、本当に嫌なんですよね(笑)。横スクロールのマップは1つのマップに入れる人数が限られてしまうので、ある程度のインスタンスが作れるように用意しておかなくては厳しくなりますので、そのあたりを踏まえて作っています。それと、細かいところですが、Windowsのフォントは使っていないんです。クオリティを上げるためにフォントをライセンス購入して使っています。

編: ゲーム性の部分は旧作と同じですか?

クォン氏: 横スクロールというところは変わりませんが、いくつか大きな変更があります。旧キノスの数少ない長所の1つがアクション性が優れているという部分で、そこをさらに強化していくつもりです。キーボードを単純に押すだけではなくて、攻撃パターンの組み合わせてコンボが変わったりと、アクション性を高めていきたいと思っています。効果にもパーティクルを入れたりと綺麗にしていきます。もちろんUIもまったく変わります。

編: 職業に関しては変更がありますか?

クォン氏: 以前はファイター、アーチャー、メイジ、シーフの4種類がありましたが、シーフはファイターの転職キャラになりました。1次転職で6~8職になり、2次転職では16の職業から選べるようになります。2次転職の時点で、ハイブリッド転職が可能になるように考えています。これはファイター系列とメイジ系列のハイブリッドというように、いろいろな組み合わせのものがあります。それと、2次転職のときに、全職で2刀流ができるようになります。ファイターなら刀の2刀流や、剣と盾が持てます。メイジの2刀流ってなんなのよと思われるかもしれませんが、たとえば杖と本を持ちます。まだ詳細は決まっていないのですが、接近戦になると本で殴ったり、ファイターに守ってもらっている後ろで、本を読みながら時間のかかる超大技の魔法を使ったりと考えています。

編: 以前は盾と剣を持つということができなかったんですか?

クォン氏: そうです。旧キノスはキャラクターは3Dなんですが、キャラクターの攻撃の計算式は2次元だったんです。なので、その計算式を作りなおして3次元の計算式を入れることで2刀流ができるようになったんです。右手と左手の攻撃と防御の計算を別々に入れるので、すべて作り直しです。早ければシーズン2、遅くてもシーズン3には実装できると思います。



■ 6月にクローズβテスト、7月にオープンベータテストを予定

編: 具体的なサービススケジュールを教えてください

クォン氏: 目標としては6月にクローズドβテスト、7月にオープンβテストというスケジュールは変わっていません。たぶん遅れるとしても1カ月以上は無理ですね。

 6月頭にオープニングムービーが完成しますので、その前後からプレイ映像やいろんな設定資料なんかを公開していく予定です。「キノス」を作るというのは、適当に作り変えるというつもりではなく、新しいゲームを作る気持ちでやっています。我々が作ることで業界全体に勇気を与えたいと思うんです。もし「キノス」がうまくいって、ある程度評価をいただけることになったら、あいつらができるんだから俺らだってできるよと、そう思って欲しいんです。

編: 勝算はありますか?

クォン氏: 今年の夏に海外から超大作が来るのはわかっているんですが、「ロード・オブ・ザ・リング」が来るから「空恋」はいらないのかというと、それは違う話じゃないですか。それぞれに違う価値がある。価値のある挑戦をしようというのが我々のテーマですから。

 お金儲けをするためにここに来ているのではないんです。こんなにストレスをためながら仕事をするくらいなら、家でのんびりFXでもやっていたほうが儲かるかもしれない。でもゲーム会社をやっているのには意味があると思うんです。ゲーム会社のロマンはお客様に楽しさを与えることです。それが私たちの生命線なんです。

 よく今年はこれ以外に何かないんですかと聞かれるんですが、ないんです。正直に申し上げて余力がないんです。すべて「キノスワールド」と「コルムオンライン」につぎ込んでやっています。笑っても泣いても今年が勝負だと思っています。

編: 今後、他のゲームを扱う予定はありますか?

クォン氏: もちろんライセンス事業は我々のビジネスの軸なので諦めません。「キノス」で評価をいただいて、そのブランドを生かしてやっていきたいという気持ちが強いですね。信念を持ってやっているので、どんな結果になっても素直に受け止めようと思っています。とにかく、いい形で仕上げてお客様にお見せしたいです。

編: がんばってください。ありがとうございました。


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(2009年 4月 20日)

[Reported by 石井聡]