インタビュー

PS4「バトルガレッガ Rev.2016」インタビュー

原曲を手がけた並木学氏、念願のステレオサウンド! ご本人のコメントも頂きました

堀井氏:音周りでは、アーケードの曲を手がけた並木が手がけたステレオ音源化がポイントですね。ちょっと切り替えて聴いてもらいましょう。

――……あーすごい! これは音の広がりとかの印象がかなり変わりますね!!

堀井氏:変わりますねー。並木は当時、セガさんやナムコさんの音源が羨ましかったそうで。今回は念願が叶った的なところですね。

長野氏:PCMの音源を新たに搭載して「ガレッガ」の音源の横に載っけています。サウンドドライバも当時のものを拡張して、それで鳴らしています。Z80で全部鳴らしているんですよ。FM音源はOPM(YM2151)で、ADPCM(MSM6295)が載っているという仕様ですね。

――ADPCMは単音なんですか?

長野氏:当時のものは、4chのADPCMで曲に2ch、効果音に2chという振り分けですね。実際にはドラムとかそれだけでは足りないので、FM音源でハイハットを鳴らしたりしているんですよね。

――でも、出力はモノラルだったんですよね。

長野氏:そうですね。JAMMAハーネスでしたから。当時、JAMMAでも拡張しているものもありましたけどね。実際、ドライバ自体は一応ステレオに対応してはいたんですよね、パンとかの機能は持っていた。でも、モノラルとしてしか使っていなかったんですね。

 で、今回はサウンドのROMのなかにそれ用に仕上げたステレオ版のデータを突っ込んで鳴らしています。なので、全部Z80のアセンブラで記述しているんです。

堀井氏:「セガ3D復刻アーカイブス2」のインタビューのときに少し名前が出ましたが、サウンドチームの春日がZ80をさらに使いこなしているんですよ。今回のドライバ拡張も春日が手がけています。

長野氏:「ガレッガ」のサウンドデータ自体は当時は並木がアセンブラベースでやっていたと思うんですけど、「バトライダー」の頃からはサウンドドライバのコンバーターを作ってもらったそうで、それで開発していたらしいんです。で、今回それも発掘されましたので、MMLで全部できるようになっています。

――じゃあ、ステップのカウントミスとかもチェックできるんですね。

長野氏:そうですね、でも最初はそのへんのドライバの拡張周りですけど、MMLで新しいPCMとかを扱わないといけないので、そっちも全部拡張しないといけなかったんですよね。それができあがるまでは並木もFM音源部分はそのまま拡張して鳴らし、PCM部分はMIDIで作って、サンプル曲を作っていましたね。

 通称“M2PCM”っていう架空のPCMチップを設計して「ガレッガ」の基板に追加したんですよ。それ自体は16bitのデータも使えるのに、並木は当時の再現ということで8bitデータの音質にこだわりまして。プログラム側からすると8bitデータを扱うのは手間がすごいんですけどね(笑)。

 それと、元々の「ガレッガ」の基板だと音はPCMではなく、より圧縮されているADPCMなんですよね。その4bitのADPCMを8bitのPCMにしただけでも、かなり音質が良くなります。すごくクリアになっていますよ。

堀井氏:最初はストリームでやるしかないかな、なんて言ってたんだけどねー。なんとかなっちゃいましたね(笑)。

(7面の曲「Marginal Consciousness」が流れてきて)

――あー、これはたまらないですね! このイントロはステレオ版だと効果がすごい。

堀井氏:これはねー、左右に振りがいがありますよ。ぜひご家庭で聴いて欲しいです!

――サウンドの収録バージョンをおさらいさせてもらえますか?

久保田氏:はい、「Rev.2016パーフェクトエディション(並木氏によるステレオバージョン)」、「アーケード(モノラル)」、「セガサターン版」、「SuperSweep アレンジ」ですね(※)。

※サウンドの収録バージョンの正式名称は下記の通り
・「Rev.2016 perfect edition(並木氏によるステレオバージョン)」
・「Original Arcade(モノラル)」
・「Saturn Arranged version」
・「Remix 2016 version(スーパースィープによるリミックス版)」

久保田氏:並木のステレオバージョンも、ただステレオになっただけじゃないので。

堀井氏:パートの振り分けをだいぶ変えてたよね。

長野氏:FM音源でやっていた部分でPCMに逃がせるところは逃がし、浮いた分をステレオで振り分けたり、重ねたりして広げてますね。

久保田氏:あと、ボス曲のループをわざと変えているのがあるんですよ。スコアラーの人ってどこまで稼げるのかを曲のループで覚えていたりするんですけど、それを知っている並木が「じゃあ、ループのタイミングを変える!」って言いだして(笑)。ちょっと足されてたりするんです。

長野氏:このあとも、普通のBGMのところも追加を入れるかもって言ってるからね。

――そんな一部の人に効く嫌がらせが(笑)。

【原作サウンドも手がけた並木学氏にお聞きしました!】

仮想の新音源「M2PCM」が、もしチップとして実在するなら……というコンセプトで、なんと画像を作成頂きました
※これはイメージです

――新音源となるM2PCMの仕様に関して、改めてご説明お願いできますか?

並木氏:カンタンに言うと、サンプリングした波形を再生するための、いわゆるPCM音源です。

 特色としては、最新のテクノロジを追求したものではなく、これまでゲームサウンド開発を通して様々な音源へ触れてきたサウンド担当者(並木)の経験を元に、1980~90年代の業務用・家庭用ゲーム機で普及したような、古きよき時代のテクノロジやサウンドを追求して誕生した音源です。

 今のところソフトウェア上の仮想的な存在ですが、FPGAなどを用いればハードウェアとしてチップの外観で実体化させることも可能です。

 まあ、ヒトコトで言うなれば「ロマン」──これは開発段階において、スタッフ間での合言葉でした。

以下、ざっくりと仕様を列挙します。音源マニアのあなた、要チェックや!

- PCM方式 : リニアPCM
- 最大発音数 : 16 (拡張可能)
- 量子化bit数 : 8 or 16bit
- 再生周波数 : 可変
- 機能 : 波形補間、ボリューム(128段階)、ピッチ演算、ステレオパン(128段階)、
エンベロープ(ADSR方式)、LFO、位相スイッチ、ループ

――サウンド用のCPU、Z80との格闘など、具体的にどういった作業内容だったのかを教えていただけると助かります。

並木氏:今作の新音源M2PCM搭載は、様々なスタッフの協力を得て実現しました。

 まず、僕の仕様を元にM2PCMの開発・実装を担当してくれた、けんじょ氏。そして、Z80によるサウンド演奏プログラム(サウンドドライバ)を大幅に改造・機能追加する役割を春日氏が。

 また、アーケード版の開発時に譜面データ作成に使用していたコンバータのソースファイルを当時そのコンバータやサウンドドライバをプログラムされたエイティングのO氏がわざわざ発掘してくださり、そのソースを元にM2PCM部分を追加する作業を福井氏が。譜面データのうちM2PCM部分のコンバートを、加藤氏が担当してくれました。この場をおかりして感謝いたします。

 開発中のエピソードはいろいろありましたが……そうですね。元々アーケード版がFM音源8チャンネル・ADPCM音源4チャンネルの計12チャンネルをZ80が処理していたところへ、M2PCMで新たに8チャンネル以上が追加となったため、制御すべき対象がさらに増大し、20チャンネル以上ともなると処理スピードが追いつかず、ついにはラスボスのBGMが処理落ちによりスロー演奏になってしまうことなどがありました(笑)……いや、実際はみんな必死なので笑えないのですけど。

 そしてその問題の解決策として「Z80を4MHzから6MHzへとクロックアップした」という事実にもまた、触れておかねばなりませんね(笑)。

――曲ループの調整など、細かく丁寧に再調整されている「Rev.2016」サウンドの聴き所などをアピールしていただければ幸いです。具体的にステレオ化やOPM←→PCMへのパート再振り分けなど、調整された箇所をヒントでも教えていただけると、聴く側としても参考になります。

並木氏:これはもう、プレーヤーの皆さまにお聴きいただくのが1番! ……ですが、一応さらっと紹介させていただきますね。

 まず全曲、一旦ゼロにした上でデータを作り直しています。譜面は全てゼロから組み上げ直しつつ、リズムやフレーズ等の波形も全て新規に録りなおしています。実はこの段階だけでも、莫大な時間を費やしていますし、人々の協力のおかげで実現していたりします。(丸山氏、音楽機材の貸与に感謝!)

 サウンド的な目玉はもちろん、新搭載のM2PCMですね! アーケード版ではリズムサウンドを主にADPCMで1~2チャンネルの演奏、という当時としても中々しょっぱいスペックでしたが、今作では倍以上の4チャンネル(それでもたった4チャンネルかよ?!……というのは、はい、笑っていただくところです)で実現。しかもステレオ(今どきステレオかよ?!……というのも、はい)ですよ!

 そしてベースやハイハットの音は、アーケード版ではFM音源で演奏しましたが、これらをM2PCMへと振り分けてリズム隊を大幅に強化しています。いやーアーケード版当時、やりたくてやりたくて……21年経ってやっとできました。

 さらにはい、目玉はM2PCMですが、主役はやっぱりみんな大好きFM音源! ハイハットとベースをM2PCMへ追い出すことによって稼いだ2チャンネルを、ここぞとばかりに大活用すべく譜面構成から全面見直し!

 休符は見つけ次第"seek & destroy!"な心意気で、FM音源8チャンネル常時フル活用な譜面データとなりました……いや、原曲からしてそうでしたが、さらに見直しましたよ。アホですね。

 えっとFM音源はステレオ対応といっても内部的に、左・中央・右のたった3定位しかないのですが、単純に右や左に音を飛ばすだけではなく、1つのパートを2チャンネル使って左と右でそれぞれ鳴らしつつ、片方の発音タイミングを微妙(ミリ秒単位)に遅らせることで得られる「ハース効果」や、周波数を微妙にずらすことで得られる「コーラス効果」を駆使して、ステレオ効果を充実させています。

 そして忘れちゃいけない、地味~だけど重要な向上要素。リズム2チャンネルをADPCMから追い出したことにより、ADPCM効果音の4チャンネルフル活用での演奏を実現! アーケード版はたった2チャンネルでやりくりしていたので、どうしても迫力不足でしたが(むしろ2チャンネルのわりに、よくあそこまでやっていたというべきか……若かりし僕、グッジョブ)4チャンネル化したことで、微妙に同時に鳴らせる効果音を増やしました。効果音はプレイ感覚に直結しますから、やはり微妙であっても向上できることはうれしいかな、と思います。

……あ。全然さらっと紹介していませんね。とにかくこだわりのガレッガサウンド、お聴きくださいませ。(M2 ショットトリガーズの公式サイトのトレイラー動画その他で試聴できますので、ぜひに!)

【バトルガレッガ Rev.2016 PV】