【連載第86回】韓国最新オンラインゲームレポート

韓国Neople、オンラインAOS「Cyphers」オープンβテストレポート
「アラド戦記」以来の新作。欧米や韓国で人気の新ジャンル“AOS”最新作


6月7日オープンβテスト開始




 韓国Neopleは、韓国内で6月7日より新作オンラインゲーム「Cyphers」のオープンβテストを開始した。2011年中に正式サービスを開始する予定で、日本サービスは未定。ビジネスモデルは基本プレイ無料のアイテム課金。

 「Cyphers」は同社のヒット作「アラド戦記」以来の新作オンラインゲーム。Blizzard Entertainmentの「Warcraft III」の人気カスタムマップ「Defense of the Ancient(DotA)」や、欧米でサービスされているRiot Gamesの「League of Legend」などが代表作として知られるAOSという新種のジャンルで、超能力者たちのバトルを描いた作品だ。

 「Cyphers」はAOSでありながら、従来のAOSゲームの概念を様々な工夫で覆したのが特徴だ。ゲーム視点は従来型のクォータービューではなく、TPSのようなキャラクターが大きく映し出される視点を採用。アイテムやスキルの面ではAOSならではの要素を活かしながら、さらにシンプルに、遊びやすく工夫が凝らされている。AOS本来のハードルの高さを下げたことで、誰でも簡単に楽しめる作品になっていた。

 6月28のリリースによると「Cyphers」の会員数30万人、同時接続者2万2千人を記録。絶好調の滑り出しを見せている。本稿ではAOSジャンルの紹介から「Cyphers」の模様をお伝えしたい。



■ AOSとは?韓国や欧米で人気絶好調の新ジャンル

韓国でもっともポピュラーなAOSは「Warcraft III」のAOSMOD
こちらがNeopleの「Cyphers」。見た目はAOSというより、オンラインアクションに近い

 まず、本作に触れる前に、日本では馴染みのない“AOS”というゲームジャンルについて説明しておこう。

 AOSは、Blizzard Entertainmentの「Starcraft」のカスタムマップ「Aeon Of Strife」の略称から取ったもので、リアルタイムストラテジー(RTS)をベースに、お互いの拠点を破壊しあうことが最大の目的のゲームだ。AOSの特徴としては、対戦する度にその都度新規でキャラクターを1人選択し、レベル1から成長させながら軍団を編成し、決戦を行なうところだ。RTSとRPGの要素を併せ持っており、「Warcraft III」の英雄システムを攻城戦のルールで対戦するものだと考えれば理解しやすいかもしれない。

 最初は単純にRTS用MODの1派生に過ぎなかったが、韓国で「Warcraft III」のカスタムマップ「Defense of the Ancient(DotA)」や、「Chaos」が大ヒットしたことで、RTSのMODではなく、AOSそのものをフィーチャーしたオンラインゲームが次々に登場するようになり、今や1つのジャンルとしてひとつの市場を形成しつつある。

 具体的には韓国では「Avalon Online」、「Chaos Online」が、欧米では「League of Legend」や「Heroes of Newerth」が高い人気を集めている。さらに、Valveは「DotA 2」の開発を開始し、Blizzard Entertainmentは「Starcraft II」のオフィシャルMODとして「Blizzard DotA」を開発していることを発表している。AOSは日本では馴染みがないかもしれないが、韓国や欧米では熱いゲームジャンルの1つ。まだまだ成長する可能性が期待されており、Neopleが今回リリースした「Cyphers」もその将来性の高さを狙ったものだ。

 AOSの人気の秘密は、キャラクターのカスタマイズ性と、高いプレイスキルが要求されるゲーム性、そしてチーム間の強い連携が求められるPvPの奥深さだ。

 AOSでは毎回キャラクターレベル1からスタートし、レベルアップする度に獲得したスキルポイントでスキルを覚えていく。キャラクターごと複数個のスキルを持っており、スキルポイントを消費してさらに個々のスキルレベルを上げることが可能だ。どういうスキルを先にマスターするかによって異なる戦術、プレイ感を楽しむことができるわけだ。

 例えば、ヒールスキルを先に覚えてヒーラーとしてプレイするか、スタンやスリープといった移動妨害スキルを先に覚えてサポート中心のプレイをするかなど、敵と味方のキャラクターの組み合わせと戦場の状況に合わせながら、キャラクターを成長させていく。キャラクターレベルが最後まで成長すると全てのスキルを獲得でき、また、各キャラクターの最終奥義的なスキルはゲーム中盤以降に覚えられるので、ゲームの序盤、中盤、後半でプレイ感覚が全く異なるという面白さがある。

 また、NPCや敵プレーヤーを倒した時に、獲得したお金を使い拠点にあるショップで、消費アイテムや、装備アイテムを購入することができる。装備アイテムのシステムにも特徴があって、低レベルのアイテムを組み合わせて、強力なアイテムに変えることができるようになっている。組み合わせたアイテムの中には、攻撃すると移動速度を低下させる武器や、スタン能力を持つ武器など、特殊能力が付くものも多い。状況によってアイテムを選択して組み合わせていくのも、魅力的なカスタマイズ性の1つである。

 これらのシステムは、AOSが「Warcraft III」のMODとして遊ばれていた頃から存在するが、「Warcraft III」ではアイテムスロットが消費と装備を併せて8個しかなく、使い勝手が悪かった。この魅力を数倍に拡大させたのがAOSだ。

 しかし、システム的にはかなり複雑で、初めてAOSを触れる人の中にはゲームの面白さが理解できる前に諦める人も多かった。そうしたAOSのハードルの高さを下げることに挑戦したのがNeopleの「Cyphers」である。「Cyphers」はAOSの基本的なルールを守りながら、キャラクターの成長やアイテムの面をシンプルに工夫して従来のAOSゲームとの差別化を図ったオンラインゲームだ。

【Warcraft III】
韓国の「Warcraft III」では、「Warcraft III」本編より「Chaos」というMODが人気だ。「Chaos」だけでeスポーツ大会も頻繁に行なわれるほど。AOSは5人のチームプレイが重要で、eスポーツとしても抜群のジャンルだと評価されている

【Avalon Online】
本稿でも取り上げた「Avalon Online」。「Cyphers」が登場するまでは、韓国においてオンラインAOSの中では1番の人気だった

【League of Legend】
Riot Gamesが開発、サービスしている「League of Legend」。「DotA」を開発したスタッフが参加した作品として有名だ。複雑なアイテムの組み合わせシステムをサポートするために、キャラクターごと推薦アイテムを表示してくれたり、組み合わせをわかりやすく伝えようとUIを工夫していた



■ 基本的にはAOSそのままのゲームルールを採用

超能力者たちのバトルを描く「Cyphers」。氷を使うものや、炎を使うもの、ビームを使うものなどが登場する
守護者を倒しておくと敵の拠点を破壊しやすくなるが、守護者を1人で倒すことはなかなか難しかった

 さて、「Cyphers」の基本的なゲーム模様から説明していこう。本作は超能力を使うものたちのバトルという設定で、プレーヤーキャラクターとして18人の超能力者たちが登場する。ゲームモードは、今のところチュートリアルとひたすら動かないNPCを相手に攻撃を繰り出せる練習モード、そして5対5のPvPチーム戦のみを搭載している。マップはまだ5対5専用のマップが1つだけだ。

 マッチングはロビータイプが採用されている。といっても、セッションリストが表示されることはなく、F5キーを押すだけで自動的に同レベルのプレーヤー同士とマッチングしてくれる。また、ロビーではパーティを組むことで一緒のチームでプレイすることも可能だ。現段階では、CPUとの対戦は用意されていないので、プレーヤーが10人揃える必要がある。

 プレーヤーは毎回のセッションの最初に18個のキャラクターから1つを選択してプレイすることになる。マップの上下に各チームの陣営が分かれており、1番奥にはHQと呼ばれるオブジェクトが置かれている。敵のHQを先に破壊することが目標となる。

 HQまでの道には5つの“防御建物”と呼ばれるオブジェクトがあり、これらを全て破壊しなければ、HQを攻撃することはできない。また、HQの周りには2つの“守護建物”と、“守護者”というNPCがHQを守っており、無視して直接HQを攻撃することもできるが、“守護建物”と“守護者”を倒しておくとHQの防御力が低くなるというルールになっている

 そして、各陣営には周期的に“撤去番”が召喚され、敵陣営を攻撃するようになっている。さらに、どちらのチームにも所属してない中立のNPC“センチネル”が、マップのあちこちで召喚される。プレーヤーは敵プレーヤー以外に、撤去番やセンチネルを倒すことでもキャラクターを成長させることができるわけだ。

 ここで1つポイントなのは、プレーヤーは敵を倒すことより、なるべく倒されないようにすることだ。なぜなら、死亡すると復活するまでの時間がキャラクターの成長に比例して、どんどん長くなるので、ゲームの後半になればなるほど、離脱の時間が増えてしまうからだ。




■ 最大の特徴はプレイ視点。プレーヤーの判断力より、アクション性を重視したゲーム

 「Cyphers」が従来のAOSと異なる最大の特徴はプレーヤーの視点だ。従来のAOSは画面を上から見下ろすクォータービューを採用しているが、「Cyphers」はTPSのようにキャラクターの後ろから見下ろすバックビューを採用している。

 この視点の違いによりゲームのプレイ感覚が大きく異なる。クォータービューだとキーボードはスキル使用のみでキャラクターの移動や照準、攻撃、全てがマウスの操作のみとなる。スキルによる攻撃は、基本的に必中なので、プレーヤーの実力はキャラクターの移動操作とマップの地形や戦局を読む判断力で大きく差がつく。RTS寄りの実力が試されるということだ。

 しかし、バックビューだとキャラクターの移動はキーボード、照準や攻撃やマウスと分かれているので、移動より照準の正確さが重要になる。FPSやTPSと全く同じで、「Cyphers」は従来のAOSより、アクション性が求められるゲーム性になっていた。

 ただ、プレーヤー個人がどんなに実力があっても、多数の方が圧倒的に有利なゲームバランスになっている。具体的に説明すると、攻撃には基本攻撃とスキル攻撃に分かれているが、基本攻撃は連打できるけどダメージが少なく、スキル攻撃はダメージこそ高いが、再使用までの時間がかかる。多数のプレーヤーだと、スキル攻撃だけで相手を倒せるので、人数が多い方が圧倒的に有利というわけだ。

 もっとも、「Cyphers」はあくまでAOSなので、本格的なFPSやTPSのように精密な照準操作を必要とせず、適当にクロスヘアーを当てるだけで攻撃が命中する。エイミングのプレイスキルがあまり要求されないのは、FPSファンからすると拍子抜けかもしれないが、気軽に誰でもTPSを楽しめるのはありがたい。ビジネスモデルやマップ、その他のモードなど、まだ見えない部分は多いが、「アラド戦記」同様に将来が楽しみなオンラインゲームだ。


【5対5のバトル】
TPS視点の本作。照準周りにスキルのキーが全て表示されるのが独特だ。ハードな照準操作は求められず、ある程度適当に照準するだけでも命中させることができる



■ ユーザーから支持を集めている理由はスキルやアイテムシステムのシンプル化

色んな意味でチャレンジ精神が感じられる作品だ。ユーザーたちからの評価は今のところ好評で、韓国オンラインゲームランキングサイト「ゲームノート」では10位を記録している

 他に、「Cyphers」が従来のAOSと異なる点は、スキルとアイテムシステムだ。AOSはハードルが高いという印象を残しているのは、この2つのシステムにある。本作では従来のAOSシステムの概念を覆すシステムを採用していた。

 まず、スキルシステムは最初から全て使用できるようになっている。当然、スキルポイントのような概念も無いため、スキル配分に迷う必要がなく、プレーヤーはゲームの序盤から、戦いに集中することができる。

 アイテムシステムの面では、組み合わせの要素を省き、単純に攻撃力アップ、クリティカル率アップ、移動速度アップなどといった16個のアイテムだけを販売している。スキルの攻撃力をアップさせるアイテムも存在する。各アイテムは3つまでアップグレードでき、キャラクターの性能はこのアイテムをどのぐらい購入したかによって決められる。

 こうしたシンプルなシステムによって、キャラクターのバリエーションによる面白さはなくなっているが、その分チームとの連携プレイをに集中しやすく、初心者に優しいゲームになっていた。これらのシステムはAOSゲームが流行っている韓国では予想以上に受け入れられ、現在は同時接続者22,000人を誇る人気作品になっている。

 一方、対戦の報酬で得たお金では、超能力者たちのアバターを変えたり、能力を永久的に少しアップさせるアイテムを購入することがことができる。各キャラクターたちのアバターを自分の好みに変えていくのが、やりこみ要素となるようだ。

 本作は高いプレイスキルは要求されず、気軽にプレイスキルができて、チームとの連携プレイを楽しめるライトなAOSゲームだ。これからAOSを始めたいけど、難しいと感じるユーザーにはオススメしたい作品である。まだ、日本展開に関しては全く情報が公開されていないので、その辺も含めて今後の展開に期待したい。

【アイテム購入】
アイテムは1から8キーを押すだけで買うことができる。またCtrlを押すとアイテム目録に切り替えできる

Copyrights (c) NEOPLE Co., Ltd. All rights reserved.

(2011年 6月 29日)

[Reported by DongSoo“Luie”Han]