PS3/Xbox 360/PCゲームレビュー

ヒットマン アブソリューション

チャイナタウン、クラブ、地方都市……日常風景に潜む暗殺者47

クラブの踊り子たちの会話。様々なドラマが展開する
サンチェスと正面から殴り合う。プレーヤーの選択で派手な活躍もできる
凄腕の女ガンマンと、射撃場でスコア勝負
カトリックの修道女の恰好をしているエージェンシーの強襲部隊セインツ

 本作のシチュエーションは非常に多彩だ。人がごった返すチャイナタウン、古めかしいホテル、浮浪者のうろつく廃ビル、派手なクラブ、襲撃者に職員を殺された血塗れの孤児院……。そしてデクスターとの対決ではシカゴを離れ、地方都市ホープタウンにまで舞台は広がっていく。さらにエージェンシーの刺客との対決も待っている。

 各ステージは圧倒的なリアリティを持って描き出されているところに、開発者のこだわりが感じられる。ポールダンスを踊る踊り子のいるクラブの裏口では、なんとかただで入ろうとしている男とガードマンが口げんかをしているし、踊り子達はオーナーの怪しげな噂に控え室で不安を漏らしていたりする。いずれも本筋には全く関係ないイベントだが、こうしたイベントのひとつひとつがステージにリアリティを生み出している。

 ホテル内では喧嘩をしている夫婦や、取引先と電話をしている男など人間ドラマの一幕を見ることができる。ホープタウンではよそ者に露骨に嫌な顔をするし、射撃場では銃に向かってうっとりと話しかける怪しい男がいたりする。彼等はすぐそこに暗殺者がいることなど知りもしない。こういったシーンは、「私達の日常にも、47は通り過ぎているかもしれない」という想像をもたらし、本作の面白さを大きく増してくれる。

 そして、プレーヤーのアプローチにより、ゲームの自由度は大きく広がっていくのだ。例えばデクスターの部下である「サンチェス」は常人離れした筋力の持ち主で、地下プロレスでレスラー達を血祭りに上げているのだが、警備員になりすまし会場に入り暗殺する、というのが最も容易な暗殺方法だ。しかし、対戦相手の覆面レスラーになりかわり、リングの上でサンチェスに挑戦することも可能なのである。

 この覆面レスラーに化けるのは結構難しい。この時に重要なアイテムが覆面レスラーのお守りの「クマのぬいぐるみ」で、これを隠すと「おれのクマちゃんがなくなった!」と大騒ぎをし、練習も手がつかなくなってトレーナー全員でぬいぐるみを探すことに。この時覆面レスラーは1人になるのだ。

 他にもデクスターの息子、レニーの仲間を暗殺するときに、ただ攻撃をするのではなくバーベキューをしているところに「激辛ソース」をガソリンにすり替えて火事にさせてしまったり、立ち小便を見越してその場所に電流を流しておくことで暗殺できたりする。何度か失敗しつつも、様々なオブジェクトを探し、最適の手順・経路を見つけスマートな暗殺方法を見出していく。そして成功したとき、大きな達成感が味わえる。より劇的な場面を作りたくなってしまう、とことんまでやり込みたくなってしまう作品だ。

 キャラクターの描写もいい。デクスターは憎らしくなるほどふてぶてしく、人の命を何とも思っていないゲス野郎だし、デクスターの指示でヴィクトリアを捜索する傭兵ウェイドは、孤児院の職員を皆殺しにしてしまうような悪党だ。孤児院のステージでは隠れて目的を達成することもできるのだが、その非道さに思わず積極的に攻撃してしまった。この他にも47を追い詰めるエージェンシーのトラヴィスと、彼の秘書の凸凹コンビなど、キャラクター描写は短いながらも印象的だ。

 また、“街の人々”の描写も注目である。ゲームに直接関係ないところにも力を込めて描写が行なわれている。ある場所では逃げるときに花火を屋内で爆発させるのだが、その後携帯電話に熱心に話しかけている男がいる。聞いてみると「花火に天啓を受けて、仕事を辞めこれから熱気球で世界一周をするから、離婚して欲しい」とか言っているのだ。47が通り過ぎるところでは様々な人達の人生の断片が見て取れる。これらの要素は「コントラクトモード」でさらにたっぷりと味わうことができる。

古めかしいホテルでデクスターを探す
警官から追われながら様々な場所を移動していく。めまぐるしく変わる場面が楽しい
デクスターの傭兵たちが孤児院を襲撃する。スタッフたちを次々に手にかける残忍な手口に、プレイしていて彼らへの怒りがわき上がる
様々な場所を47は進んでいく。展開していくストーリーに注目してほしい
NPCの行動をチェックしていくと様々な発見がある。漏れ聞こえる会話もとても楽しい

より深く、濃く各ステージを掘り下げた「コントラクトモード」

コントラクトモードではターゲットと暗殺方法が指定されている
バード君の衣装を着た47。すさまじいインパクトだ

 「コントラクトモード」は「ヒットマン アブソリューション」のこだわり抜いたステージを、さらに楽しめるゲームモードだ。丁寧なチュートリアルも用意されているので、誰でもルールを覚えることができる。

 そして「コントラクトモード」はより“暗殺”に特化したモードだ。他のプレーヤーが作ったコントラクトに挑戦して、よりよいスコアを目指していく。コントラクトではゲーム内のステージを利用し、最大3人のターゲットが指定されており、47の衣装や武器、暗殺方法が指定されている。この指定をどう実現していくかのチャレンジとなる。コントラクトは「いいね!」と「イマイチ」という評価が可能で、高い評価を受けたコントラクトは「ピックアップコントラクト」として紹介される。

 このコントラクトの作成方法は「自分でプレイする」のである。つまり、このモードは「オレはこんな凝ったプレイをしたんだぜ! 他の人はできるのかい?」と全世界に向け、自分のプレイテクニックをアピールするものなのだ。遊び尽くしていたつもりでも、「こんな方法があるのか」と、感心させられるゲームモードであり、とことんまでやり込める、ゲームの隅々まで楽しめるモードなのだ。

 とても面白かったコントラクトが「Yoinks! And Away!!」というもの。ホテルを舞台としたミッションで、47が「バードくん」という鳥のぬいぐるみをきているというとてもインパクトがあるものとなっている。ここではターゲットを事故死に見せかけなければならない。

 1人のターゲットはホテルの一角で夫婦ゲンカをしているし、もう1人はガードマンに守られている。どうやって暗殺を実行するか、何度も試行錯誤が必要となる。ゲーム本編とは全く違う目的により、ステージは全く別の表情を見せてくる。ホテル各室のドラマや、意外なルートなど、ステージの作り込みの深さに改めて驚かされた。

 感心させられるのは、制作者がきちんとその暗殺を実行していることだ。周りの人間達の行動パターンをとことんまで分析し、敵をおびき寄せたり巧妙な方法で暗殺を行なったその方法を、他のプレーヤーに見つけ出すことができるかと挑戦できるというのは、ゲーマーにはかなり気持ちを盛り上げてくれるだろう。日本人プレーヤーの凝りに凝ったコントラクトを期待したい。

 グラフィックス、システム、雰囲気、キャラクター性、そして多彩なシチュエーション……さまざまなポイントで大きな魅力を持つ「ヒットマン アブソリューション」は、多くの人に遊んでもらいたい作品だ。特に硬派なゲームが好きな人、ストイックな雰囲気の映画が好きな人に是非遊んでもらいたい。プレーヤー自身が努力していくことで伝説の“サイレントアサシン”になりきり、コントラクトモードでさらなる高みを目指せる。ステルスゲームの決定版と言える作品だろう。

「Yoinks! And Away!!」はバード君を着て、ターゲットを事故死に見せかけなければならない
「Hawaii or Bust」は敵の警戒が厳しい上、ターゲットが密集している
コントラクト作成のチュートリアル。自分の暗殺がミッションの目的となる
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(勝田哲也)