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デジカ、「Muv-Luv × HTC Vive 体験会」を秋葉原で開催

HTC Viveで体験する「マブラヴ」VRの世界はいかに実現したか?

4月3日開催



会場:ベルサール秋葉原

「Muv-Luv × HTC Vive 体験会」
大勢のファンが詰めかけた

 Steamでの円決済システムや多数のPCゲームの配信などPCゲーマー向けのEコマース事業を手がけているデジカは4月3日、ビジュアルノベル「マブラヴ」シリーズを手掛けるイクストル及びアージュと共同で、秋葉原にて「Muv-Luv × HTC Vive 体験会」を開催し、大勢のファンに「マブラヴ」VR版を披露した。

 「マブラヴ」シリーズは、2003年にPC向けに発売された初代作を端緒とするビジュアルノベルシリーズ。初代作は、初見では多数の美少女が登場する学園コメディモノの“ギャルゲー”。だが突然に別の世界線に飛び、同様のキャラクターで残虐描写や鬱展開が溢れるロボットバトルモノに展開していくという、従来のビジュアルノベルの王道に真っ向からアンチテーゼをぶつける作風が特徴的だ。この展開が多くのプレーヤーに衝撃を与えると同時に、熱狂的なファンを多数獲得している。

 シリーズの中でも2006年に発売された「マブラヴ オルタネイティヴ」が“本編”と呼ばれることが多い。無限とも思える増殖を繰り返す地球外起源種「BETA」と、「戦術機」と呼ばれる二足歩行兵器を用いて戦う人類、という対決軸が本作のメインテーマで、これまでに時代や地域を変えて様々なスピンオフ作品が世に出ている。海外のファンも多く、日本で最も成功したビジュアルノベルシリーズといえる作品だ。

 その「マブラヴ」が、ハイエンドVRシステムHTC Vive対応のVR版に展開。そのお披露目となった今回のイベントでは、CPU・GPUメーカーのAMD、およびPCショップ「ドスパラ」を展開するデジノスの協賛により多数のVR体験ブースを設置。「マブラヴ」原作者の吉宗鋼紀氏によるトークセッションも行なわれ、詰めかけた数百人のファンを前にして作品のVR展開に関する裏話も濃密に披露された。

怖い、エグい、カッコイイ!HTC Viveで展開するVR版「マブラヴ」体験

本イベントを主催したデジカ、事業開発部バイスプレジデントの岩永朝陽氏
AMDとデジノスの協力で5つのVR体験ブースを用意
迫る「BETA」にややビビりながら応戦する筆者
こんなグロテスクで巨大な生物に襲われまくる

 さて、イベント冒頭で登壇したデジカ事業開発部バイスプレジデントの岩永朝陽氏によれば、今回披露されたVR版「マブラヴ」は、制作がスタートしてからわずか1カ月というスピード開発で実現したものだ。この時期での披露をターゲットにしたのは、HTC Viveの出荷開始が週明けの4月5日に予定されていることもあっただろう。「Unrealで開発中だったゲームや、別のコンテンツで制作された3Dモデルなど、既に持っているアセットを使って実現しようと考えた」と岩永氏は語っている。

 開発を担当したのは、「マブラヴ」の世界観でFPS/TPS視点のロボットシューティングゲームを制作している同人サークル。今回のプロジェクトにあたっては、デジカの関係者や原作者の吉宗鋼紀氏を含めて、まず全員がHTC ViveによるVRを体験し、同じスタートラインに立ってから開発をスタートすることが重要だったとし、VRならではの面白さを実現することに注力した経緯も語られた。

 こうしていわば急ごしらえ感のある体裁で開発された今回の「マブラヴ」VR版だが、この世界がVRの力でさらに大きく広がっていく、強い手応えを感じるには十分なポイントを押さえた内容だった。

 HTC ViveのHMDを装着すると、そこは異世界。薄暗い部屋を出ると、体長3メートル余りのグロテスクな「タンク級BETA」が跋扈する戦場へ。右手のViveコントローラーを銃に、左手のViveコントローラーをテレポート装置に見立て、孤立無援の戦いが展開。敵が数を増し、いよいよピンチというところで、2機の「戦術機」が登場。多数の敵を蹴散らしては周囲を血の海にし、孤立無援だったプレーヤーは命拾いをする……という内容だ。

 ドスドスと不気味な足音を響かせながら近づいてくる真っ赤「BETA」本当にグロテスク。プレーヤーの目前で高速戦闘を展開する2機の「戦術機」は、どちらも見上げるような巨大さで、シチュエーション効果もあいまってものすごくカッコイイ。巨大な口を開けた「BETA」に飲み込まれる! というエグい恐怖も、そのBETAを駆逐していく「戦術機」の勇姿も、VRならではの実サイズで、プレーヤー自身の視点で展開するというのが本体験の凄いところだ。遠近交えた演出が交錯し、現実同様の立体感で得られる迫力を、短いデモ時間内にこれでもかと見せつける作品構成は、まさにVRでしか実現できないものだ。

 なお、細かいところに言及するとすれば、さすがにありあわせの3Dモデルを制作に用いたとあって、グラフィックスのディテール不足や、銃撃命中時のリアクションの薄さなど、気になるところは多かった。また、オーディオの定位感がはっきりせず、シーン全体の迫力が十分に発揮されていないように感じられたところも指摘しておきたい。

 急ごしらえであるだけにHTC Viveのパワーをフルに発揮したとはまだまだ言えない部分もあったが、それでも、「マブラヴ」のファンたちには非常に大きな衝撃を与える内容であったことは、本作を体験した多くの来場者のリアクションからもはっきりと感じ取ることができる。ぜひさらに開発を続け、製品レベルのコンテンツに発展していってほしいと思える出来だった。

次々に迫る「BETA」。その数は次第に増えていく……
スピンオフアニメ「シュヴァルツェスマーケン」の第1話冒頭で登場した塹壕をモチーフとしたシーン。膨大な数の「BETA」に囲まれ、絶体絶命。その時!

VRならではのノウハウを構築。将来的には「マブラヴ」名シーンのVR再現も?

当初は怖すぎる内容で、さじ加減を調整しながら今回のデモに至った経緯を語る岩永氏
テレポート+銃撃を同時に。HTC ViveのルームスケールVRならではの視界外操作を活用
トークセッションに登壇した「マブラヴ」原作・製作総指揮を務める吉宗鋼紀氏。
「マブラヴ」ファンクラブ会員証を披露するゲームライターBRZRK氏。ファンボーイ視点でトークに参加した
原作者の登場もあって、トークセッションは足の踏み場もないほどの大盛況

 このVRデモをプレイ中には本気で叫び声を上げる人も多く見られ、実際、かなり刺激的な作りだ。デジカの岩永氏によれば、これでもかなり「自主規制」を施した結果であるという。これについて原作者の吉宗鋼紀氏は、「当初はテレポートではなく、実際に戦場を歩いて移動していく形で、曲がり角でBETAに鉢合わせするようなシチュエーションを意図していた。でもそれではあまりにも怖すぎて、現在の仕様に落ち着けた」と、開発経緯を明らかにしている。

 登壇した岩永氏が指摘したとおり、VRは360°全方位に視野が広がり、プレイ中に得られる情報量や情報の質が、プレーヤーによって大きく異なってくる。吉宗氏も「テスト中にびっくりしすぎて壁に頭をぶつけた」と体験を披露しており、公の場にコンテンツを出すにあたって、誰もが100%安全にプレイできる内容に調整することが今回の開発においてかなり重要なテーマとして浮かび上がってきていたというのが面白い。

 それでも今回のデモ中には、驚いて声を上げる人、怖くなってかがんでしまう人など、かなり極端なリアクションをとってしまうプレーヤーも多数見かけることができた。筆者などはVR慣れしすぎていて、右手の銃と左手のテレポート装置を同時に使い、「BETA」に一度も触れられることなく、声を上げることもなくクリアしてしまったので、むしろVRを初めて体験する、という人のほうが深い衝撃を受けることができるようだ。それでも、最後のシーンでの絶体絶命時に「戦術機」の応援を受けた時の感動は、筆者にとっても非常に大きなものだった。

 特に、作品のファンなら尚更だ。ファンボーイ代表として吉宗鋼紀氏とのトークセッションに登壇したゲーム実況解説者のBRZRK氏は、本作のVR体験の感想を聞かれ「走馬灯が走りましたよ」と熱狂的な原作ファンならではの感動を伝えている。本作に登場する「タンク級BETA」は原作で最も多くのキャラクターを屠ってきた最悪の敵役で、それが実寸で目前に迫ってくるとき、原作で見た数々の死亡シーンがフラッシュバックしてくるというのである。

 FPS界で屈指のゲーマーでもあるBRZRK氏も魅了した「マブラヴ」VRの世界は、今後まだまだ広がっていきそうだ。デジカの岩永氏は「今回も皆さんからのフィードバックをお聞きして、それを元により面白くて素晴らしい『マブラヴ』の世界を作っていきたい」と語る側で、ファンから「原作のこのシーンもVRで体験したい!」というリクエストには原作者の吉宗鋼紀氏がノリノリで答える。吉宗氏としては有料DLCを使ったVRコンテンツのパーソナライズ(登場キャラクターを好みの人物に変えるなど)を使った企画も考えているようで、作品のVR展開にはかなり乗り気だ。

 今回のイベントでは「マブラヴ」VR版の商業展開が正式に宣言されたわけではなかったものの、その可能性がかなり高い、という雰囲気を感じることができた。今回のVRデモの開発やイベントの開催に尽力したデジカ、AMD、サードウェーブデジノスという3社ともに今後ともVRを用いた各種展開に積極姿勢を見せているほか、原作者の吉宗氏はVRについて「閉塞した社会に風穴を開ける、突破口になる。皆さんの力を借り、力を合わせながら、できることからやっていきたい」と非常に大きな視点で見ていることも大きい。

 日本の生み出した一大ジャンルであるビジュアルノベルの世界からVR展開を睨む作品が登場してきた事実は、VR業界全体にも大きなインパクトを与えるに違いない。VRはキャラクターや世界観をより魅力的に見せる上で格好の手段であり、魅力的な作品群が溢れる日本のゲーム業界にとっては、まさに大きな「突破口」になりうるポテンシャルを秘めているからだ。

 そのような大きな展望を抱かせることになった今回の「Muv-Luv × HTC Vive 体験会」。今回のイベントで体験できなかった方も安心してほしい。PCショップ「ドスパラ」を展開するデジノスでは、各地のドスパラ店舗で本作を体験できる機会を今後1カ月あまりに渡って提供予定だ。


東京: ドスパラ秋葉原本店 4月9日~4月10日
秋葉原GALLERIA Lounge 4月9日~4月10日、4月29日~5月8日
名古屋:ドスパラ大須店 4月16日~4月20日
大阪: ドスパラなんば店 4月24日~4月26日

 今夏にはSteamで日英対応版の配信も予定されている「マブラヴ」。これまでのVR関心層とはまた違ったオーディエンスに訴えかける力を持つ作品だ。今後その世界をさらに広げ、PCゲームやVRゲームの市場を盛り上げていく「突破口」になることを大いに期待したい。

VR試遊機にはAMD「Radeon R9 Fury」を搭載したドスパラのハイエンドゲーミングPC新モデル「GALLERIA ZKR」を使用。本PCは238,980円で販売開始中だ
昨年末のKickstarterプロジェクトで目標金額の5倍となる125万ドルを集めた「マブラヴ」マルチリンガル版。今夏には日・英対応のPC版がSteamで配信予定だ

(佐藤カフジ)