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Oculus、PSVR……Unreal EngineでVRゲーム開発が加速中!

「UNREAL FEST 2015 YOKOHAMA」VR関連出展・セッションレポート

10 月18日開催



会場:パシフィコ横浜

 10月18日、ハイエンドゲームエンジンとして知られるUnreal Engine開発者のための勉強会「UNREAL FEST 2015 YOKOHAMA」がパシフィコ横浜で開催され、1200人にものぼる参加者を集めた。Epic Games Japanが主催するこのイベントで新たな主役となっていたのは、2016年に本格ローンチが見込まれているVRゲーミングだ。

 特に目玉となったのは、Epic Games謹製のVR-FPS「Bullet Train」をはじめとする各種VRコンテンツの展示と、その関連セッション。

 特に「Bullet Train」は去る9月にハリウッドで開催されたOculus VRのプライベートイベント「Oculus Connect 2」で初披露されたばかりで、世界的にも体験機会がほとんどない最新タイトルだ。VRコントローラー「Oculus Touch」を使った開発者向けの展示としても国内初であり、来場者の注目を圧倒的に集めていた。こういった初物尽くしの展示は、VR開発においても最先端を行こうとするUnreal Engineの姿勢をまさに象徴していたと言える。

 本稿では「UNREAL FEST 2015 YOKOHAMA」でのVR関連展示や、バンダイナムコエンターテインメント 鉄拳プロジェクトチームによる「サマーレッスン」開発についてのセッションなど、VRにフォーカスした部分についてご報告したい。

Oculus VRはOculus Rift製品版+Oculus Touchによる体感型VRデモを国内初出展
SCEはPlayStation VR「サマーレッスン」と「サイバーダンガンロンパVR 学級裁判」を展示

【Introducing Bullet Train by Epic Games】

Oculus、SCEがVRコンテンツを同時出展。注目はEpic Games謹製「Bullet Train」

 本イベントで特に象徴的だと思えた風景は、Oculus VRによるOculus Rift+Oculus Touchの体験ブース、そしてSCEによるPlayStation VRの体験ブースが隣り合って同時出展されていたところだ。

 どちらのVRコンテンツ出展も、主役はUnreal Engine。PSVRでは「サマーレッスン」と「サイバーダンガンロンパVR 学級裁判」が出展されており、特にアニメ調のグラフィックスを持つ後者のコンテンツがUnreal Engineで製作されていることに驚いた人も多かったのではないだろうか。

サマーレッスン
サイバーダンガンロンパVR 学級裁判
整理券配布の段階でこの風景
Oculus Rift製品版+Oculus Touchで「Bullet Train」を体験
「Bullet Train」のゲーム画面イメージ
こちらはCrescent Bayを使った「Showdown」VRデモ。既出ということもあり人気はいまひとつ

 それにも増して注目を集めていたのは、Oculus VRが出展していた「Bullet Train」の体験ブース。Oculus Connect 2で初披露されたばかりの最新タイトルというだけでなく、気鋭のVRコントローラーであるOculus Touchを使って、両手をVR空間内に持ち込んで、全く新しいVR-FPS体験ができるという本作。試遊機は2つしかなく、1日通しても体験できるのは100人未満という狭き門。会場では時間毎に区切って整理券を配布していたのだが、そこに常時100人近く並んでいるという凄まじい光景が見られた。

 ゲームエンジン企業としてだけでなくFPSの老舗デベロッパーとしての顔も持つEpic Gamesによる作品であるだけに、「Bullet Train」は将来あるべきVR-FPSの姿を非常に先取りしている。

 酔いの原因となる移動操作を廃する代わりに、狙った地点へ瞬間移動できるサイキックアクションを導入。武器となる各種銃器やグレネード等は物理オブジェクトとして作られており、VR内の両手を使って掴み、現実と同じ感覚でコントロールできというのが従来型ゲームとの最大の違いだ。

 弾丸がなくなれば手に握った銃を相手に投げつけても戦えるし、徒手空拳で直接敵を殴ってもいい。親指のボタンを押してバレットタイムを発動すれば、敵が撃ってきた弾丸を肉眼で捉え、これを実際に動いて避けたり、手でつかみとって投げ返すことも可能。Oculus Touchが実現するVR空間内のハンドプレゼンスを、これでもかと使いこなせるゲームになっているのだ。

 これを体験するためには、1,200名の来場者は整理券獲得競争に勝利した上、手に入れた整理券が「Bullet Train」のものである幸運を祈る必要もあった(全4台のうちもう2台の試遊機は、既にDK2向けがリリースされ、自宅でも体験できる「Showdown」VRデモで、多くの人にとっては地雷となっていた)。その競争倍率は10倍以上……。

 幸運にも体験できた来場者を試遊コーナーの入り口で出待ちしていると、口々に驚きと、意欲にあふれた声を聞くことができた。特に印象的だったのは、「はやくこれ(Oculus Touch)を使ったゲームを“作りたい!”」とする来場者が大半を占めていたことだ。さすがはクリエイターが集まるイベントである。

 Oculus VRのスタッフに話を聞いた所、Unreal EngineにおけるVR機能の統合は非常に早くから進められていることもあって、VRゲームを作る上ではライバルエンジンのUnityを上回る部分も多いという。特に、ライブエディットしながらいつでもVRプレビューを行える機能を持っていることで、開発と検証のサイクルを非常に効率的に回せるところに良さがあると語っていた。

 最近では「Bullet Train」に見られるように、Epic Games自体がVRコンテンツ開発に本腰を入れている。それを通じてUnreal EngineとVRゲーム開発の相性もますます高まっていくだろう。これまでのインディー界隈ではUnityを使用するユーザーが大半を占めてきた実情があるが、VRをテコにして、この勢力図にまた大きな変化が現れることになるかもしれない。

【Unreal Engine 4 Showdown Cinematic VR Demo by Epic Games】

Unreal Engineで実現した「サマーレッスン」の開発、その舞台裏とは

原田勝弘氏と山本治由氏
すわ、凄いセッションが始まるかと思いきや、ネタ振りだけで終了
すぐに山本氏による真面目なふりかえりセッションが始まった

 Unreal Engineで製作されたVRタイトルの中でも、サードパーティ製で最も有名なものは、間違いなくバンダイナムコエンターテインメント 鉄拳プロジェクトチームによるVR技術デモ「サマーレッスン」だろう。

 2014年版・2015年版の2バージョンが存在する「サマーレッスン」だが、これらがUnreal Engineを用いて開発されていることは、デモの冒頭や最後にUnreal Engine 4のロゴが表示されるため、デモを体験済みの人には良く知られていた事実だ。同スタジオによる最新格闘ゲーム「鉄拳7」もUnreal Engineで製作されていることもあり、開発チームはさぞUnreal Engineを長く使いこなしてきたに違いない……。

 と思ったら実はそうではなかった。これを開発したスタッフによる技術セッション「サマーレッスンの開発を支えたUE4」では、本作の制作ではじめてUnreal Engineを導入し、試行錯誤を経ての開発が行なわれてきたという経緯が明かされている。

 このセッションに登壇したのは、バンダイナムコエンターテインメントのチーフプロデューサー原田勝弘氏(挨拶のみ)と、本「サマーレッスン」のリードプログラマーを務める山本治由氏(講演の大半を担当)。冒頭、原田氏が、開発者にとってはこういうセッションが一番必要でしょうと「Epic Games Japan河崎社長の弱みを握ってUnreal Engine 4のライセンス料を値切る手法」などと言い出したのには会場も大爆笑だったが、これはネタふりだけに終わって、すぐに山本氏による真面目な講演と相成った。

 いずれにしてもUnreal Engineは現在、個人・法人を問わず使用そのものは完全無料で、使用タイトルで一定以上の売り上げが発生したときのみ費用が発生するロイヤリティモデルになっている。会場に集まった多くの開発者の中でいうと、エンジン利用の費用については自作ゲームが大成功してから考えればいいという人が大半だろう。

Unreal Engine 4初期に発表された「Elemental」デモ。山本氏はこれでUE4の映像表現に注目
まずビジュアルの力が重要だと考えた(のちに他の様々な要素もVRには重要だと知るため、半分正解としている)
山本氏が「サマーレッスン」の開発で活用したVR内コンソール。これで各種要素を調整しながら検証できる

 さて、山本氏によれば、会社全体にとってUnreal Engineの使用は実は「サマーレッスン」が初めてのことだったという。次世代VRシステムの姿がハッキリと見えてきた2013年、「VRで重要なのは画面の情報量だ」と考えた山本氏は、Unreal Engineの映像表現力に注目。VRデモは開発期間が短く、どこで難問にぶつかるかもまだわからないため、実績と信頼性のあるオールインワンエンジンとしても完成度が高いと見られたUnreal Engine 4の採用に踏み切ったそうだ。

 そしてUnreal Engineの特徴である各種のビジュアル編集機能で、開発が大幅に効率化されることも期待したという山本氏。その期待はおおむね、裏切られることなく開発を終えることができたようだ。

 例えば、ノードベースのビジュアル編集システムでゲームロジックを構築できるBlueprint機能。各担当の変更を適切に統合し、実行ファイルに反映させるまでのプロセスが以外にも非常に簡単で、ゲームロジックの構築についてはほぼBlueprintで解決。そのうえ試行錯誤のペースも早くできたという。

UE4に期待した理想
現実。ほぼ期待どおりだったという

 思ったほどうまくいかなかったこともある。それはタイムライン編集でシーンとアニメーションの流れを制御するMatinee機能だ。プレーヤーの位置や選択に応じてキャラクターの挙動が微妙に変わるシステムを導入した「サマーレッスン」では、一連の固定されたアニメーションを再生するために設計されたMatineeの機能では充分ではなく、非標準的な使い方で強引に(そして苦労して)実現するはめになったという。これについては次期バージョンのUnreal Engine 4.10で導入されるSequencer機能で解決できそうなので期待していると山本氏は語っていた。

期待通りとはいかなかったアニメーション制御。2014年版は強引な手法で苦労
2015年版では挙動や分岐の管理を外部データ化して独自実装で解決
UE4のライティング機能を、狭い部屋にギッシリと駆使
見栄え重視のフェイク技法も活用

 そして山本氏がUnreal Engineに期待していたもう1つのポイントは、物理ベースレンダリングによる高品質な映像表現。これについては、物理シェーディングの知識とUE4での扱い方さえしっかり抑えておけば、試行錯誤も早く行えて非常に便利だったという。それでも、単に正しくレンダリングしただけでは良い絵にならないことも多いため、例えば影の影響を部分的に排除するなど、エディタ上でできる範囲で様々なフェイク技法も用いているとのことだ。

 開発中に2度行なわれたエンジンのバージョンアップ(4.2→4.8 Preview 2→4.8)では大きな苦労もあったようだが、それは「サマーレッスン」の開発が時期的に早く、エンジンのVRインテグレーション自体も開発中であったことに主因がありそう。今後、より新しいバージョンで開発を始める場合はより安定した環境で開発ができるようになるはずだ。それがUnreal Engineのような進化を続けるメジャーエンジンの良さでもある。

 こうして山本氏は「サマーレッスン」の開発を振り返りつつ、特にUnreal Engineで実現した試行錯誤の速さを高く評価。まだ知らぬことも多いVRコンテンツの開発ではとにかく実験と検証の繰り返しでノウハウを貯めて行くことが大事であり、その意味でもUnreal Engineには大いに助けられたという評価だ。

 VRコンテンツ開発を強力に支援してくれるUnreal Engine。さらなるバージョンアップを重ね、今後私達のもとに届くVRゲーミングの世界をより豊かなものにしてくれることは間違いない。

エンジンのメジャーバージョンアップについていくのは大変だったと山本氏。使用バージョン毎にブランチ(枝分かれ)を切り、各担当が都合の良いタイミングで最新バージョンに“引っ越す”運用がオススメだとのこと

(佐藤カフジ)