東京ゲームショウ 2011レポート

グリー、ビジネスセッション「有名プロデューサーがソーシャルゲームを切る」

稲船氏、土田氏、遠藤氏が語るソーシャルゲームの魅力と課題


9月15日~9月18日 開催(15日、16日はビジネスデー)

会場:幕張メッセ1~8ホール

入場料:当日1,200円、小学生以下無料



 東京ゲームショウに初出展ながら最大級のブースを構えたグリーは、独自のステージを用意してさまざまなイベントを開いた。その中でも特に注目されたのが、「有名プロデューサーがソーシャルゲームを切る」と題して開かれたビジネスセッションだ。

 その有名プロデューサーとして登壇したのは、「ロックマン」シリーズなどを手がけた株式会社comcept代表取締役の稲船敬二氏と、「フロントミッション」シリーズなどで知られ、現在はグリーでメディア事業本部に在籍する土田俊郎氏。モデレーターは「ゼビウス」の開発者で知られる株式会社モバイル&ゲームスタジオ取締役会長の遠藤雅伸氏が務めた。

 この3氏がソーシャルゲームを語るというだけで、時代の流れを感じさせられるゲームファンも多いだろう。内容としては、「ソーシャルゲームを切る」といっても批判するわけではなく、各々のコンシューマーゲームの開発経験をもって、どうソーシャルゲームの開発に臨んでいるのかというあたりが主題となっている。




■ 世界観や時間管理など、コンシューマーゲーム開発で得たノウハウを語る

稲船敬二氏
土田俊郎氏
遠藤雅伸氏

 ソーシャルゲームの話題に入る前に、コンシューマーゲームの開発でこだわっていた点について語られた。稲船氏は「ストーリーや世界観、キャラクター」と答えた。ゲームに感情移入するために大切な要素で、RPGはもちろんアクションゲームでもこだわりがあると述べた。また自身がプロデューサーの立場になってからは、「大きな開発費をゲームだけで回収するのは厳しいので、キャラクターグッズなど他の広がりも考えた」という。

 土田氏は、比較的にニッチに寄った「フロントミッション」では、兵器の重量感や大砲を撃った時のリアルな迫力を楽しんでもらうことを意識していたという。また「ファイナルファンタジーX」などでバトル担当として参加した時は、敵を倒したときに「俺だからやれた」という感覚を持ってもらい、先に進みたいと思えるようなものを考えていたそうだ。

 次に挙げられた話題は、コンシューマーゲームの想定プレイ時間について。稲船氏は開発の際に、予め想定プレイ時間を決めておくという。「7,000円もいただいて3時間で終わったら怒られる。アクションでも20時間、30時間遊べるようにし、その中で強弱や起承転結を付けねばならない。そこはソーシャルゲームと明らかに違う」と述べた。

 土田氏は、「オープニングからエンディングの間に何回戦うか」を事前に考えておくのだという。「最初に10回くらい同じような戦闘をやったら、普通は飽きる。そこで10回かもう少し少ない程度の間に、魔法が使えるようになるなど新しいものを入れる。それでも30回くらいやると飽きるので、順番が変わるとか仲間が増えるとか、新しいものを入れていく」と語った。これは単純に飽きさせないようにするだけでなく、ゲームが進んでいるんだという感覚をシステム面からも掴んでもらうという狙いがあるのだそうだ。

 この発言を聞いた遠藤氏が、「それはソーシャルゲームに近い」と踏み込んでいくと、土田氏は「この経験はソーシャルゲームで活かせると思うが、ソーシャルゲームは電車を待つ5分のサイクルで楽しめるようにしなければいけない」と答えた。稲船氏もそれに続き、「3分から5分で、気持ち的な完結があるような遊びを考えねばならない。その中に世界観を入れたい。今のソーシャルゲームは世界観やキャラクターを重要視しておらず、もっと面白くできると考えながら作っている」と語った。

 世界観という点については、遠藤氏はスマートフォンに着目し、「映像が綺麗になれば、世界観も大事になってくるのでは」と述べた。これに対し稲船氏は、「PS3ほどにはならないが、フィーチャーフォンよりは綺麗な絵や動きを付けられる。プレーヤーに想像させるのではなく、実際見せられるので、ユーザーも入りやすくなるはず」と答えた。土田氏も、「3Dなら空を見上げることもできる。お客さんに世界を見てもらえるものを作れる」と述べた。

 コンシューマーゲームの開発者にとって、フィーチャーフォンでは物足りなかった「世界観を見せる」という部分が、スマートフォンではある程度まで実現できる。それが、彼らが今ソーシャルゲームに手をつけ始めた1つの理由となっているようだ。




■ ソーシャルゲームの魅力は、日本人ならではの薄くてメリハリのあるコミュニケーション

 ではそのソーシャルゲームに、どんな魅力を感じているのか。稲船氏は、他人と繋がる部分の違いについて述べた。「対戦や協力を、意識しなくてもできる。ロビーにいって集まって、さあ対戦するぞという気構えがコンシューマーゲームにはある。ソーシャルゲームでは、あまり難しいことを考えずに対戦できたり、友達になれる」という。

 土田氏は、モバイルソーシャルゲームにおける常時接続性が魅力だという。「コンシューマーゲームを作ると、オンラインにつなげられる人が数十%かいても、つなげられない人を配慮する必要がある。モバイルのソーシャルゲームならば全員がオンラインなので、考えなくていい。気軽に始められる仕組みもあるので、やっている人が多い。やっている人が多くていつもオンラインというのは、作る側にもいろんな可能性が広がっている」と語った。

 しかしソーシャルゲームにおけるコミュニケーション性は、顔なじみの友達と遊ぶというコンシューマーゲームとは違う。全く知らない人とコミュニケーションし、時にはアイテムを奪い合ったりもする。遠藤氏は、そういうコミュニケーションをどう思うかと2人に問いかけた。

 土田氏は、ソーシャルゲームで行なわれる協力イベントを例に挙げて答えた。「みんなで300匹の魚を釣ろうというイベントで、自分ひとりだとがんばって30匹くらいだとして、仲間に100匹釣ったい人がいると、その人に感謝する。逆に自分が課金していっぱい釣ったら、すごくお礼を言われたりもする。深い人間関係ではないが、直のつながりではなくても人がぎゅっと繋がるものがあるのだなと思った」と自らの体験を語った。

 稲船氏も、協力プレイは日本人に向いていると言う。「何かに恩義を感じて、次また何か返すよといって、それでつながっていくというのが日本人にはある。コンシューマーゲームでは、次のストーリーが知りたいという“コンティニュー感”を持つ。でもソーシャルの釣りゲームでは、誰かがすごくいっぱい釣ってくれたから、今度会ったら返そうと思う“コンティニュー感”がある。これはコンシューマーゲームとは全然違うし、コンシューマーゲームでは経験していないこと」と述べた。

 コミュニケーション性がゲームに及ぼす影響は、PCなどのオンラインゲームにも存在するが、遠藤氏はそれとは質が違うと言う。「オンラインで人とコミュニケーションできるようになったとき、そこに依存していることもある。自分がいなければいけないから、ずっとやり続けるという馬鹿な話もある。ソーシャルはもっと薄い、メリハリのあることがやられている」と遠藤氏は述べ、そういった「時間をかけすぎることへの配慮」を何か考えているかと問いかけた。

 これに対して土田氏は、「何で昨日ログインしてくれなかったの? といった会話はソーシャルにはない。そういう風に設計していることに感心した。自分の中で、その時にゲームをやりたい気持ちが行為となって伝わればいい。心の中で貸しになっているかもしれないが、返してくれなきゃ許さないぞという感覚にはならない。逆に覚えていてくれたんだと嬉しくなる。余裕がある時に遊び、余裕がない時はやらなくていいというのがソーシャルのよさ」と答えた。

 コミュニケーション性とひとくくりにすれば、オンラインゲームもソーシャルゲームも同じように聞こえる。しかし実際に行なわれているコミュニケーションは、全く質が異なる。そこを理解した上で作らなければ、「いいソーシャルゲーム」にはならない、ということだろう。また、贈り贈られといった日本人ならではの慣習も、発想の上で重要になりそうだ。




■ 実力のあるクリエイターは、ハードに対する不満を言わない!

 では、そこまでのことを踏まえた開発者は、今後のソーシャルゲームやスマートフォンに対して何を考えているのだろうか。議題を「ソーシャルゲームの今後と問題点」として、話が進められた。

 スマートフォンに対する今後について聞かれた稲船氏は、「基本的に携帯電話なので、絶対抑えなければいけない機能や形はある。その上でハードはどんどん進化していくが、作る側としては、たくさんの進化すると作りにくいので、統一して欲しい」と述べた。しかし稲船氏はそれに留まらず、「ハードの進化によってゲームプレイが変わっていくことや、そこに僕らがどう取り組んでいくかというのも面白い」という。

 特にソーシャルゲームの開発において違いを感じるのは、コントローラーがないということ。「ゲームの開発はファミコン時代から、コントローラーが決まっていて、それが押し付けられる。それがスマートフォンでは、コントローラーは自分で考えてください、触っても揺らしても傾けてもいいと言われる。今まで考えなくてよかった部分をゲームとして考えられる。ハードとしては小さいが、考えるところは多い」と、多様な進化に期待を寄せている面も見せた。

 それに対して、「携帯端末における操作に不満はないか」と遠藤氏が尋ねた。稲船氏は、「タッチパネルしかない、ボタンという考え方は外してと言われれば、それを考えるのが仕事。そういう制限があったほうが、その制限に対応できる能力を持っていると示せる。本当に実力のあるクリエイターはそういうことは言わないと思う」ときっぱり言い切った。

 土田氏もこれに同意して続き、「ボタンを押すという操作をスマートフォンでやると、手に押した感覚が伝わらない。押すということに固執して、ゲーム機と同じ文法を持ち込みたいと思った時に、ゲーム機に負ける。でもスライド操作などは直感的。得意不得意を意識する必要はある」と述べた。

 次に遠藤氏が「インターフェイス以外の不満点はないか」と尋ねると、稲船氏は通信環境の不備について不満を挙げた。「地下鉄では駅でしか繋がらない。電車の中で電話したいとは思わないが、ソーシャルゲームが駅でしか遊べないのは困る。電車がこんなに発達していて、遊ぶ機会があるのに、繋がらない場所をわざと作っている」という。これに遠藤氏が「地下鉄では携帯ゲーム機で遊べば、という答えもあるが」と問いかけると、「2駅で降りる時、ちょっとやりたい時がある。そこでソーシャルゲームはとても便利」と答え、あくまで住み分けの話であるとした。

 最後に講演者より一言ずつメッセージが送られた。稲船氏は、「ソーシャルゲームとかコンシューマーゲームとか、分けて言っている時代ではない。ゲームはゲーム。その状況に合わせた楽しいゲームをやればいいし、クリエイターは楽しいゲームを作ればいい。これからはソーシャルが、コンシューマーがと言うのではなく、ソーシャルでもコンシューマーでもないハイブリッドなゲームが出てきて欲しい」と語った。

 土田氏は、「機械が高度化したり時間がなくなったりしてゲーム離れが起こっていたのを、一気に変えてくれたのがソーシャルゲーム。ゲームを作っている側としては、お客さんがいるところで、お客さんに楽しんでもらえるゲームを作りたい。その中で、やり応えがあるものを作ってもいいし、5分で完結するものを作ってもいい。すみわけできるものだと思っている」と述べた。

 遠藤氏も最後にコメント。「ソーシャルとコンシューマーという切り分けはもう古い。コンシューマーゲームでは、オンラインとそうでないゲームとを切り分けていたが、今ではオンラインはゲームの1要素になっている。ソーシャルもゲームの1要素として出てくる。ソーシャルがあったほうが楽しいよね、というところに進化していくのだと思う」と述べて講演を締めた。

 この講演を聞いて強く感じたことは、3氏の最後のコメントに集約されている。いずれも現在のコンシューマーゲームを否定はしておらず、ただソーシャルという新しくて面白いものが出てきたから挑戦してみよう、というスタンスが現われている。PlayStation Vitaでソーシャルゲームが発表されるなど、時代の変化は極めて早い。ぜひまた来年も同じ顔ぶれで講演し、1年を振り返ってほしいところだ。


(2011年 9月 18日)

[Reported by 石田賀津男]