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石川県羽咋市、eスポーツを地域の文化に。来館者50万人の施設に競技や運営を学べるeスポーツクラブを設立

12月7日開催
会場:LAKUNAはくい eスポーツスタジアム
羽咋市長、岸博一氏とGLOEの吉永亜耶氏

 石川県羽咋市は12月7日、同市にある「LAKUNAはくい」において、「LakunaHAKUI eSports Club」の設立に関する記者発表会を開催した。

 羽咋市は能登半島の西側の付け根に位置する人口が約2万人の地方都市。人口の流出や少子高齢化と言うどこの自治体にもある問題へのアプローチとして、同市ではeスポーツを活用した授業を展開している。

 その一環として、羽咋市公式のeスポーツクラブ「LakunaHAKUI eSports Club」が設立される。「LakunaHAKUI eSports Club」には、交流や体験を目的とし、一緒にゲームを楽しむ仲間を探したい方向けのコミュニティ部門と、大会出場や競技力向上を目指すコンペティティブ部門、そしてこれらを差配する運営部門が用意されるようだ。

 このレポートでは、地方自治体がeスポーツを専門とする企業と組んで取り組む新たな挑戦について紹介した。

記者発表会の様子
「LakunaHAKUI eSports Club」

拠点整備は終了。次はコミュニティづくりを目指す

 記者発表の冒頭では、羽咋市市長の岸博一氏が挨拶した。eスポーツは、日本国内でも数多くの全国大会が開催されている。さらに国民スポーツ大会での採用、Olympic Esports Gamesの設立など、スポーツの一種目として世界的な認知も広がっている。

 羽咋市では市民の方にeスポーツに触れてもらうイベントを通じて、本格的なeスポーツができる環境の整備を進めてきた、と岸氏。

 「『LakunaHAKUI eSports Club』も最初は行政が支援するが、今後は自立して自分たちで発展していくことを予定している。LAKUNAからeスポーツを発信することで、駅前の賑わい創出につながればと思っている。羽咋市からeスポーツを発信していけるよう支援したい」と語った。

羽咋市長、岸博一氏
羽咋市の位置

 羽咋市では、2022年(令和4年)から自治体としてeスポーツ事業に取り組んでいる。当初は単発のイベント開催が主だったが、2024年(令和6年)に羽咋駅前に交流施設「LAKUNAはくい」を開設した際、その3階に「eスポーツスタジオ」を開設。同時に様々な事業を包括した「HAKUIeSportsCityプロジェクト」をスタートした。

 「LAKUNAはくい」は開館して1年半で50万人を集める人気の施設だ。1階がカフェと図書スペース、2階には小さな子供が遊べる屋内型公園、3階は会議室や調理室などを集めたシェアスペースになっている。取材日は冷たい雨と強風の悪天候だったが、駐車場に入場待ちが出るほどの人出で、2階では子供たちが元気に動き回っていた。

当日は悪天候だったが、駐車場は満車状態だった
LAKUNAはくい

 3階奥にある「eスポーツスタジオ」には高性能なゲーミングPCがずらりと並んでおり、大会を配信できる機材もそろっているなど、だれが見てもうらやましい豪華な空間。これだけでも行政の本気が感じられる。

筆者が訪れた時にはイベントのリハーサルが行なわれていた
ハイスペックなゲーミングPCやプロ向けの配信機材がそろったうらやましすぎる空間

 2024年にはこの施設を利用してeスポーツ体験イベント「Challenge DAY 2024」、「学校向けeスポーツセミナー」、「マインクラフトプログラミング教室」、「eスポーツコーチングキャンプ」、「LAKUNA HAKUI CUP ストリートファイター 6」などのイベントが開催された。

2024年度の活動

 この中の「eスポーツコーチングキャンプ」は、北陸3県の16歳から22歳を対象に、「VALORANT」を使ってオンラインとオフラインでプロからコーチを受けることができるイベント。15名が参加して、Discordサーバーを使った約1カ月のオンラインレッスンの後、LAKUNAはくいに集まってオフラインでのコーチングが行なわれた。

「Challenge DAY 2024」
「マインクラフトプログラミング教室」
「eスポーツコーチングキャンプ」
「LAKUNA HAKUI CUP ストリートファイター 6」

 2024年度までの事業を説明した羽咋市役所産業建設部商工観光課の渡部祐二氏は「個人的にも楽しいイベントだった」と言い、さらにこのイベントがクラブを設立するきっかけにもなったと語った。

羽咋市役所産業建設部商工観光課の渡部祐二氏

 「LAKUNA HAKUI CUP ストリートファイター 6(以下、スト6)」は賞金の出る本格的なeスポーツの大会として開催され、決勝には北海道から九州まで日本全国の選手が羽咋に集まった。優勝者は北海道から参加者だった。大会の様子はYouTubeで見ることができる。

【LAKUNA HAKUI CUP STREET FIGHTER6 会場予選 決勝大会】

 こういった大会を通じて、ゲストや参加者がSNSなどで情報を発信したことが羽咋市のPRにもつながっていると渡部氏。大会は今年度も開催されるが、今回は市民が気軽に参加できるよりカジュアルなランクも設定される予定だそうだ。

クラブの設立を通じてeスポーツを日常の風景に

 「LakunaHAKUI eSports Club」については、GLOEの吉永亜耶氏が意義を説明した。GLOEはゲームやeスポーツの大会運営を得意とする東京の会社だ。羽咋市とともにeスポーツの普及に力を入れている。

GLOE吉永亜耶氏

 吉永氏によれば、過去2年間の活動によって認知が拡大したことから、今年度からは「定着」を目指すフェーズへと移行する。具体的には、これまでのイベント中心だった「ハレ」の空間から、学校帰りにふらりと立ち寄れるようなより日常に密接した「ケ」の空間へのシフトを目指す。

今年度はeスポーツのシーンをより日常的なものにしていく

 さらに冒頭で岸氏が話していたように、行政の予算に頼るのではなく、自分たちが主体的に運営していく自走可能なコミュニティを作っていくことが目標となる。設立されるクラブはそのためのエンジンとなる存在だ。コンセプトは「NEXT GENERATION HAKUI」。次の世代が夢を抱ける場所であり、大人から子どもまで多世代が参加して、挑戦や発信の拠点となる場所だ。

クラブの募集チラシ

 クラブは大きく、エンジョイ(交流)部門とコンペティティブ(競技)部門、そしてこれらを差配する運営部門の3つに分かれる。参加資格はコンペティティブ部門のみ16歳以上(未成年は保護者の承認が必要)だが、ほかはeスポーツに興味があれば年齢、居住地は不問だ。

 エンジョイ部門は勝ち負けよりもゲームを楽しむことに主眼を置いた部門。助け合ったり、教え合ったりする協調性のあるコミュニティを育んでいく。

 コンペティティブ部門はKADOKAWA Game Linkageのプロチーム「FAV gaming」との交流やコーチングを通して、大会で上位入賞を目指していく競技指向が高い人向けの部門。こちらは入会金として最初に1,500円が必要になる。

 クラブへの参加は、市役所HPの告知や今後開設されるクラブの公式HPなどに掲載されているQRコードから参加募集のフォーマットに飛ぶことができる。

□市役所HPの告知ページ

 運営部門は、大会運営やクラブ運営などに興味のある人が参加できる、コミュニティの核となる部門。記者発表会には、金沢工業大学(KIT)たちが参加していた。彼らは大学でeスポーツの活動をしており、今回いち早く運営部門に名乗りを上げたのだそうだ。全員がクラブのロゴが入ったパーカーを来て発表会を手伝っていた。

KITの学生たちによる「スト6」のプレイデモも披露された

「スト6」の大会から、フレイル予防まで。eスポーツを地域の文化に!

 2026年の3月までには、シニア向けに「太鼓の達人」や「ぷよぷよ」での健康増進を目指す「フレイル予防イベント」、地元の企業と若者がゲームを通じてお互いを知りマッチングに役立つような「企業交流戦」、「広域連携eスポーツ事業」、「LAKUNA HAKUI CUP 決勝大会」などが予定されている。

2026年初頭には、高齢者向けのイベントや地元企業や若者向けのイベントも予定されている

 「広域連携eスポーツ事業」は全国で同じようにeスポーツに力を入れている都市と真剣勝負をする都市対抗戦。自分たちの街を応援することでシビックプライドの醸成を目指しつつ、羽咋市はこんな面白い挑戦をしているのだと外へ発信していく。

 今回の記者発表では、“コミュニティーの育成”が何度も強調されていた。都市部と違って、田舎で何かをしようとするとき、一番大変なのが一緒に挑戦してくれる仲間を探すことだ。そんな事情を熟知しているからこそ、集まれる場所を整備し、イベントを通じて存在を発信してきた。次に目指すのはこの場所の意義を共有し、一緒に挑戦してくれる仲間を増やすことだ。

 主体的に関わる人が増えれば、そこに集まった熱の中から新たなムーブメントが生まれてくるかもしれない。一体感を形として表現するため、クラブチームのロゴやユニフォームなどを作る予定があるのだそうだ。

 「eスポーツを一過性のブームではなく地域の文化として昇華させたい」という挑戦はまだ始まったばかりだ。小さな自治体のeスポーツに賭ける熱や想いを応援していきたい。