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【特別企画】アニメ文化と玩具文化の1つの到達点「YF-29 デュランダル」
試行錯誤を経て進化してきた超合金。手にとって実感できる開発者の思い
(2013/7/9 00:00)
そのYF-29を再現した「DX超合金 YF-29 デュランダルバルキリー(早乙女アルト機)」はチェックすればするほど楽しくなってしまうアイテムとなっている。まずファイター形態のプロポーションは前進翼と4つのエンジンという未来の戦闘機を思わせる形状ながら、航空機としての“説得力”も持っているようにも感じる。ファイター形態の“薄さ”は超合金の技術の蓄積と、進化を実感させる。
両足にマイクロミサイルを積んでいるのだが、ファイター形態の場合、カバーを閉じたままでも発射できるように発射管がついているところがいい。VF-19は足のカバーを開けなければミサイルは発射できなかったが、大気中を飛んでる時にカバーを開ければ空気抵抗が大きくなる。YF-29のミサイルポッドは飛んでる時にもミサイルを発射できそうだという説得力がある。
ガウォーク形態は足がきちんと逆関節の鳥足型になり、しかも左右に大きく広がる。これはリニューアルバージョンから受け継がれている特徴だ。ファイター形態でも背中の旋回型砲塔は展開できるが、ガウォーク形態の方が似合う感じだ。この形態でも体に取り付けられたミサイルポッドをハッチを開けた状態にもできる。
そしてバトロイド形態だ。この状態でのハッチフルオープンは、全身に武器を装備した「アーマードバルキリー」のハッチをフルオープンにしたものに劣らない迫力がある。ハッチを閉じた状態ではVF-25とそれほど変わらないスマートな雰囲気なのに、全身に仕込まれた武器が表に出るとがらりと変わる。“玩具”としてもとても楽しいギミックだ。
繰り返しになるが、僕は劇場版を見る前にこの「DX超合金 YF-29 デュランダルバルキリー(早乙女アルト機)」を手に入れた。そこで色んな形態を試してみたが、個人的にはバトロイド形態が好きだ。ミサイルポッドのデザインや、兵器を全部出した時のパワフルさでアーマードバルキリーをスマートにした雰囲気がとてもいいと思うからだ。
そしてこの「DX超合金 YF-29 デュランダルバルキリー(早乙女アルト機)」の後、2012年10月には「DX超合金 YF-29 デュランダルバルキリー(30周年記念カラー)」も登場した。正直、この商品が出たとき購入をすごく迷った。もし早乙女アルト機と同時発売だったら、こちらを購入していただろう。なんといっても「ロイ・フォッカー」カラーである。これはもう1機買う価値があると考えるのが普通だろう。
“黄色と黒のラインにスカルマーク”というのは、シリーズ第1作「超時空要塞マクロス」のエースパイロット、ロイ・フォッカーのVF-1に施されていたカラーリングだ。主人公・一条輝の頼もしい先輩であったフォッカーは物語半ばで倒れてしまうが、一条輝がロイ・フォッカーと同じVF-1に搭乗するのである。その後関連書籍では様々なバルキリーがロイ・フォッカーのカラーリングで塗られた。「マクロス」ファンにとって、このカラーリングは大きなあこがれを生むのだ。
「DX超合金 YF-29 デュランダルバルキリー(30周年記念カラー)」はある意味、ファンの夢を叶えた存在だ。“究極”と言えるギミックを盛り込んだYF-29にロイ・フォッカーのカラーリングを加える。“全部乗せ”のさらに先にあるデラックスを実現した商品なのだ。筆者は「DX超合金 YF-29 デュランダルバルキリー(早乙女アルト機)」に大変満足しているからあえて手を出さなかったが……、やはり正直に言えば、とても欲しい。
ここで絶賛ばかりではなく、気になったことも書いておこう。実はこの商品そのものは大満足だが、非常にわがままな思いも抱いた。部品の精度が高すぎて、気軽に何度も変形できないのだ。アニメ「マクロス7」が放映されている1994年に発売された「マクロス7 デラックス/DXファイヤーバルキリー」はフォルムやディテールは今1つながらも、部品が頑丈で何度も変形させることができた。現在も色々なバルキリー玩具が発売されているが、気軽に変形させられるアレンジと、耐久性に優れた商品は出ていない。幅広いラインナップの中で、“頑丈”をコンセプトにしたものも見てみたい。
架空の世界を扱った作品に登場しているロボット兵器に“リアル”を求めるというのは相容れない要素に思えるが、日本のロボットアニメや玩具は“リアル”を重要視して進化してきた。物理法則を無視しない変形、関節の表現や、装甲のモールド、武器の取り付け方法や武器を収納するためのスペースなど、時には立体に実現不可能な場合もあるが、そのときには大胆にパーツを差し替えるなど、立体化側の努力でアニメと同じような姿が再現できている。アニメと玩具が相互作用で進化し続けている現状は他国では全くない“文化”であると僕は思っている。
アニメ作品の立体化は、容易ではない作業だ。関節の処理や造形技術などでの積み重ねはあるものの、その時々で担当者によって解釈の仕方は異なり、しかも一度商品になってしまったら「やり直し」はきかない。企画もコンセプトも、開発者の意気込みも十分なのに、ここが足りなかった、この処理が納得いかなかったという商品は無数にある。
ガンダムのプラモデルが同じMSをモチーフにしながら、1/144や1/100、さらにHGやMG、RGといったブランドで何度も出るのは、ユーザーとメーカーが双方で「究極の立体化」を求め続けているからだ。素材工学や、表現の精度が上がっていく技術的進歩の中でユーザーは常に最先端で、究極のモデルを求め続ける。ここまで“立体化”に真剣な国は日本だけなのではないだろうか。
「VF-25」の超合金は最初は不満点があった。そこから商品展開ができ、改良を加えられ、さらにリニューアルバージョンまで発売できたというのはそれだけこれらの商品が売れたということもあるが、関係者の並々ならぬ想いと、そして改良し続ける努力があってこそだと思う。YF-29はその玩具の進化に応え、実現可能なデザインであらん限りの“荒唐無稽”を詰め込んだ機体となった。
「DX超合金 YF-29 デュランダルバルキリー(早乙女アルト機)」はその中で、設定と、玩具化という意味で1つの到達点ではないかと思う。YF-29というこれまでの可変戦闘機で実現してきた技術を凝縮した機体を、これまでのバルキリー玩具の流れを受け継いだ最新技術で立体化する。この超合金をいじっていると、「この玩具を企画し、実現した人はものすごい達成感と、うれしさを感じてるんじゃないかなあ」と思ってしまうのだ。
ただ、この素晴らしい商品が、購入を望んでいるユーザーの元にあまねく届いているかというとそうではないという現実がある。「転売」に関するもので、現在のバルキリーの「DX 超合金」シリーズはネットを含め受注が開始してすぐに売り切れてしまうのだ。そして売り切れするや否や定価を超える価格で売り出す業者がたくさんいる。
再販されたばかりの「DX超合金 YF-29 デュランダルバルキリー(30周年記念カラー)」も定価以上の値がついており、複雑な思いを抱かざるを得ない。望んだユーザーにきちんとした価格で提供される環境はどう作っていくのか、ホビー業界が乗り越えていかなければならない課題のひとつだ。
「バルキリー」ファンの筆者にとって、発売されたばかりの新作プラモデル「1/72 VF-1 A/S バルキリー 一条輝機」はとても楽しみだ。そして、さらなるバルキリー玩具が出て欲しいと思う。もっと気軽に変形させることができ、精密で、各形態をきちんと再現した玩具。バンダイではYF-19やYF-21といった「マクロスプラス」の商品は展開していないし、低価格で精密なVF-25も欲しい。もちろん新しいバルキリーの登場にも大きく期待したい。