【特別企画】

国産最古級のクレーンゲーム「クラウン603」が、約60年ぶりにプレイ可能に!

1年365日、ゲームセンターを陰から支え続ける「タイトーTECH」の取り組み

【タイトーTECHメディア向け説明会】
10月28日開催
会場:タイトー本社

 タイトーは「タイトーステーション」をはじめ、、同社直営のゲームセンター、および各種アミューズメント施設を陰で支える保守サポート部門、その名も「タイトーTECH」本部スタッフによるメディア向け説明会を、東京・東新宿の本社にて10月28日に開催した。

 会場では、神奈川県にある海老名テクニカルセンターの「タイトーTECH」スタッフが長らく修復に努め、実に約60年ぶりに稼働状態へと復活を遂げた、国産クレーンゲームとしては最古の部類に入る、同社が1966年に発売した貴重な逸品「クラウン603」がお披露目された。

約60ぶりによみがえった、1965年にタイトーが発売した「クラウン603」

 以下、本稿では筆者が実際にプレイした「クラウン603」のインプレッションとその仕組みを中心に、かつてゲーセンで店長として働いていた経験もふまえてお伝えしよう。

正面からみたところ。高さは約80~90センチメートル(※筆者の目測による)で、景品が並んだフィールドを上から覗き込みながらプレイする

奇跡の発見、復活が実現した国産最古級のクレーンゲームを遊んでみた

 今回「クラウン603」が発見され、修理されるに至ったきっかけは、昨年10月よりタイトーが実施していた、国産初のクレーンゲーム機とも言われる、同社が1965年に発売し、現在では社内でも保有していなかった自社製クレーンゲーム「クラウン602」を探すプロジェクトであった。

 同プロジェクトには、全国から4400件もの情報が寄せられたが、残念ながら「クラウン602」の発見には至らなかった。しかし、その後継機である「クラウン603」が発見され、所有していたとある個人から同社が譲り受けたことで、本機は再び生まれ故郷へと戻るに至った。だがタイトーによると、譲渡された時点での本機はホコリをかぶりまくり、経年劣化による電材の断線もあったほか、フィールド内には部品類が散乱していたそうだ。

 そこで「タイトーTECH」のスタッフが総力を挙げて修理に取り組んだ結果、社内にはオリジナルの部品も図面も残っていなかったが、故障か所の修理に加え、キャビネットやアクリルの装飾部のレストアも行い、ついに発売当時と変わらぬ稼働状態へとよみがえらせることに成功した。

「クラウン602」の筐体写真
こちらは「クラウン603」のカタログ(※写真はいずれもタイトー提供)

 筆者も早速、本機を会場で遊ばせていただいたところ、現在主流のクレーンゲームと同様に2個のボタンで操作し、クレーンは毎回必ず筐体の手前、向かって左側の景品取り出し口の真上から動き始める仕組みになっていたことが判明。クラウンシリーズがクレーンゲームの「元祖」であるとは断言できないが、今から約60年も前に、クレーンゲームのオーソドックスな操作システムが完成していたことには改めて驚かされた。

【「クラウン603」を遊んでみた】
クレーンをタテ、ヨコに動かす2ボタンだけが搭載された、シンプルなコントロールパネル
ボタン2でクレーンを横に移動させているところ。操作可能なボタンは、すぐそばにある矢印の部分が点灯する

 コインを投入後、ボタン1を押すとクレーンが縦方向(手前から奥へ)移動し、手を放すと停止する。次に、ボタン2を押すとアームが左から右へと動き、手を離すと自動でアームが開いてクレーンが降下する。アームが景品に触れた直後に自動で閉じる。もし景品をキャッチできた場合は、クレーンが自動で初期位置まで戻り、再びアームが開いたときに景品が取り出し口に落下すれば、晴れて景品はプレイヤーのものとなる。

クレーンの初期位置はココ。すぐ下にある金属部分はスロープになっていて、獲得した景品はここから滑り落ちる
景品取り出し口は、普段は閉じられた状態になっており、景品獲得時は手動で開ける仕組みだ

 本機は昨今のクレーンゲームのように、景品のディスプレイを正面から見るのではなく、上から覗き込むようにしてプレイする。筆者の体験だけで言えば昭和の時代、「UFOキャッチャー」が大ブームになる以前のクレーンゲームは、上から覗き込むタイプのほうが「普通」のイメージであった。

 これらのクレーンゲームは、小さな子供でも遊べるようにするためであろう、左右の側面も透明のアクリル張りになっていた印象もある。筆者は幼い頃、クレーンゲームで遊ぶときは、まずは「どこを狙おうかな?」と左右から見てから、コインを投入し、プレイ中は視界を確保するため、踏み台に上りながら遊んだ思い出がある。

側面からフィールドを見たところ

 筆者が本機を何度かプレイしていて気付いたのは、筐体奥側の壁面に描かれた、懐かしの「海底2万マイル」の世界を彷彿とさせる海底と宝箱のイラスト以外に、プレイヤーのテンションを高める、あるいは景品獲得時に祝福する演出がまったくないことだった。さらに筐体をよく見ると、本機にはスピーカーが付いておらず、現在は当たり前であるクレーンの移動やアーム開閉時のBGMやジングル、SE(効果音)も、コイン投入時のクレジット音すらも鳴らない。

 プレイ中はモーターの駆動音しか聞こえない、国産初期のクレーンゲームのシンプル極まりない本機の機構は、クレーンあるいはプライズ(景品)ゲームだけに限らず、アーケードゲーム全体の発展の歴史をたどるうえでも、実に貴重で学びの多い体験となった。

奥側の壁面に描かれた魚や宝箱のイラストが、今となっては実に味わい深い
クレーン駆動部分のカバーを外したところ。プレイ中はBGMやSEは一切流れず、モーターの駆動音だけが響く

 当時はまだCPU(コンピューター)がアーケードゲームに導入される前の時代だったので、本機のクレーンの移動スピードは、いわゆるテストモードによるソフトでの調整はもちろんできない。

 スタッフの説明によると、本機に使用されているクレーンを動かすモーターは直流ではなく、交流モーターを使用しているとのこと。なので、クレーンの移動スピードは、ツマミ(ボリューム)によって調整する仕組みになっていたことも驚かされた。ちなみに、移動スピードは縦、横、下(降下)の全3か所の調整が可能だ。

 なお、今回修理が完了した「クラウン603」の実機は、11月6~7日に東京ビッグサイトにて開催される「アミューズメントエキスポ2026」のタイトーブースで展示される予定だ。興味を持った人は、ぜひ会場で実物をご覧あれ。

筐体正面のメンテナンス扉を開いたところ。CPUやROM、RAMはなく、当時の花形であったエレメカゲームと同様にツマミやヒューズ差込口などが並ぶ
アームの動作には、何とボールチェーンが使用されていることも判明した

1年365日、ゲームセンターを陰から支え続ける「タイトーTECH」の取り組み

 会場では、TAITO STATION等の同社のゲームセンターほか、各アミューズメント施設のサポート、各種ゲームや機械類の修理、メンテナンスを手掛けるTECH本部 技術サービス部のスタッフによる「見えない仕事が、見える楽しさを支える。 ~ゲーセンのゲーム機が止まらない理由~」と題した講演も行われた。

 TECH本部 技術サービス部の鈴木俊洋部長によると、現在同社では北は北海道、南は九州まで全国18か所にサービス拠点を置き、40人のエンジニアを擁しており、土日や祝日でも当番を決めて対応にあたっているとのことだ。

 自分たちの役割は「(ゲーム機などの機械を)故障してから直すのではなく、故障を予防することが基本」(鈴木氏)であり、先人たちが長年にわたり培った技術は、個人の財産にせず伝承および共有を図り、全国どこでも同じサービスを提供できるように努め「タイトーなら、なんとかなる」と言われるようなサポート体制を築いているとのこと。

 スタッフの教育にも注力しており、個別に3段階でレベルを認定する制度のほか、実機を使用した講習、全国をオンラインでつないだうえでの技術情報交換会も行っているそうだ。

TECH本部 技術サービス部の鈴木俊洋部長
社内技術の継承、共有化について説明する鈴木氏

 同じく技術サービス部 品質保証課の坂下大介課長は、プレイヤーすなわち客が「安心して遊べる」ゲーム機類を提供することが自分たちの仕事であり、判断する基準はただひとつ「お客様が安心・安全に楽しめる品質を作り込む」ことであると述べた。

 具体的には、電気用品安全法をベースとしたケガや感電・漏電、火災などの恐れがないかをチェックする「安全性試験」、ノイズや温度・湿度、強度なおどの「耐久性試験」、PS(Product Safety)の検討や耐久評価、信頼性をチェックする「検討・確認会」を実施しているとのこと。また同社では「導入評価」と呼ぶ、他社の機械を自社直営店で稼働させるにあたり、他社の機械の品質評価も行っており「安全性が確認できないものは使用しない」(坂下氏)方針を徹底している。

 これらの試験や評価の結果、過去には焼損リスクのある機械のほか、プレイ中に一瞬画面が消える、静電気で一部の操作が無反応になる、プレイヤーやメンテナンス担当者が負傷するリスクが生じる、景品を不正に取り出されるなどの不具合を発見したことがあったそうだ。

TECH本部 品質保証課の坂下大介課長
坂下氏によるゲーム機類の試験方法の解説(※スライド内の画像は生成AIが作成したもの)

 店内で稼働中のゲーム機類は、故障や動作不良防止のため可能な限り、日々のこまめな清掃やメンテナンスを行うことは、オペレーター(※ゲームセンターの経営者)にとって絶対に欠かせない仕事だ。しかし、筆者の経験上、それでもゲーム機は予期せぬ故障を起こすことが往々にしてあり、単純な清掃や部品交換だけで対処できない「重傷」を負った場合は、メーカーのサービス担当者に頼らざるを得ない。

 よって、365日間サポート体制を維持する「タイトーTECH」ような存在は、タイトー以外のオペレーター目線で見ても本当にありがたい。今後も、さまざまな技術が次世代以降に継承、共有化されて「クラウン603」に限らず、いつ古い機械が故障しても「なんとかなる」体制が末永く維持されることを願ってやまない。