【特別企画】

「THE LAST STORY(ラストストーリー)」本日15周年! 坂口博信氏と植松伸夫氏が再タッグを組んだ、Wii史上に残る「仲間」と戦うRPG

【ラストストーリー】
2011年1月27日 発売

 任天堂より2011年1月27日に発売されたWii用RPG「ラストストーリー」が、本日1月27日で発売から15周年を迎えた。

 本作は、「ファイナルファンタジー(以下、FF)」シリーズの生みの親である坂口博信氏がディレクターを務め、同じく「FF」シリーズサウンドを手掛けてきた植松伸夫氏が音楽担当するという、黄金タッグによって生み出された完全新作のアクションRPGだ。開発はミストウォーカーおよびAQインタラクティブが担当している。

 当時、Wiiというハードはどちらかと言えばライト層やファミリー向けのタイトルが席巻していた時代だった。そんな中、突如として現れたこの重厚なファンタジーは、ゲーマーたちに強烈な衝撃を与えた。「Wiiで、こんなにも本格的で、こんなにも切なく、そして熱いドラマが体験できるのか」と。

 本稿では、15周年という節目を記念して、筆者の心に今も深く刻まれている「ラストストーリー」の魅力を、当時の思い出と共にたっぷりと、そして熱く振り返っていきたい。

 なお、本作はストーリーの展開そのものが最大の魅力であるため、できるだけ配慮はするが、どうしても核心に触れなければ語れない部分も多々ある。未プレイの方は、くれぐれもネタバレに注意してほしい。……と言いたいところだが、現在プレイ環境を整えるのが少々難しいタイトルでもあるので、あえてこの記事で「ラストストーリー」の世界に没入してもらうのも一興かもしれない。

画像提供:任天堂(以下、同)

荒廃した世界で「騎士」を夢見る傭兵と、籠の中の「姫君」

 物語の舞台となるのは、大陸全土が荒廃し、魔物や争いが絶えない世界。そんな中、唯一の安定した場所として繁栄を続ける「ルリ島」とその中心都市「ルリの街」が、本作の冒険の拠点となる。

 主人公のエルザは、戦乱の中を生き抜いてきた傭兵団の一員だ。幼い頃に故郷を失い、生きるために剣を取った彼は、いつか傭兵という不安定な身分を捨て、国に仕える「騎士」になることを夢見ている。そんなエルザが属する傭兵団が、新たな雇い主を求めてルリ島へとやってくるところから、物語は幕を開ける。

 このルリの街の作り込みが、まず素晴らしいのだ。石畳の路地、市場の喧騒、酒場の賑わい、そして見上げればそびえ立つ巨大なルリ城。Wiiというハードスペックの制約がありながらも、そこには確かに人々が生活している息遣いがあった。裏路地に入ればゴミが落ちていたり、壁に落書きがあったり。ファンタジーでありながら、どこか現実のヨーロッパの古都を思わせるような、退廃的でありながらも美しい空気感。筆者はこの街をただ歩き回るだけで、何時間も費やしてしまった記憶がある。

 そして、運命の出会いが訪れる。エルザは、街でお忍びで出歩いていたヒロイン・カナンと出会う。彼女はルリ島を治めるアルガナン家の次期当主であり、本来であれば傭兵風情が口をきくことすら許されない高貴な身分だ。しかし、彼女は城という籠の中に閉じ込められ、外の世界を夢見ていた。「外の世界を見てみたい」と願う姫君と、彼女を連れ出す傭兵。あまりにも王道な「ボーイ・ミーツ・ガール」だ。だが、坂口博信氏の手にかかると、この王道がどうしてこうも新鮮で、そして胸を締め付けるようなドラマへと昇華されるのだろうか。

 身分違いの恋、という言葉で片づけるにはあまりにも純粋で、そして過酷な運命が二人を待ち受けている。物語が進むにつれて明かされる世界の秘密、エルザに宿る「異邦のもの」の力、そして仲間たちの過去。特に、中盤以降の展開は怒涛だ。「えっ、嘘でしょ!?」と声を上げてしまうような裏切りや悲劇もあり、筆者はコントローラーを握りしめながら、画面の前で何度も涙を拭うことになった。

「ギャザリング」が生み出す、混沌と秩序のバトルシステム

 「ラストストーリー」を語る上で絶対に外せないのが、その独創的なバトルシステムだ。本作の戦闘はリアルタイムのアクションだが、ただ敵を斬ればいいというものではない。「注目を集める」という概念が、戦術の核となっている。それが、エルザだけが使える特殊能力「ギャザリング」だ。ボタン一つで発動できるこの能力を使うと、エルザの身体から青いオーラが放たれ、戦場にいる敵のヘイトを一身に集めることができる。敵は一斉にエルザに向かってくる。当然、そのままでは袋叩きにあってあっという間にゲームオーバーだ。しかし、敵がエルザに注目しているということは、他の仲間たちはフリーになるということでもある。

 ここで重要になるのが、魔法使いたちの詠唱時間だ。強力な魔法を唱えるには時間がかかる。その間、無防備になる仲間を、エルザが「ギャザリング」で敵を引き付けることで守る。そして詠唱が完了し、ド派手な魔法が炸裂して敵を一網打尽にする瞬間のカタルシス。まさに「俺が囮になる!その間にやれ!」という、漫画やアニメでよく見るあの熱いシチュエーションを、ゲームシステムとして完璧に落とし込んでいるのである。

 さらに面白いのが、「魔法サークル」の活用だ。仲間が魔法を放つと、着弾地点に属性ごとのサークル(円)が残る。例えば炎の魔法ならダメージを与える炎の床、氷なら滑って転ぶ氷の床、回復ならHPが回復する癒しの床といった具合だ。このサークルに対して、エルザが「風」の属性をまとった攻撃を行なうことで、魔法を「拡散」させることができるのだ。炎を拡散させれば敵全体が炎上し、回復を拡散させればパーティ全員を一気に回復できる。

 さらに、氷を拡散させれば敵全体がスリップして転倒するのだが、これがもう、見ていて笑ってしまうほど強力なのだ。強大なボス敵であっても、氷でツルンと滑ってひっくり返っている隙にボコボコにする、なんていう戦法も有効だったりする。

 一見すると、敵味方が入り乱れてワチャワチャとした混沌としたバトル画面に見えるかもしれない。しかし、その中には「誰が誰を狙っているか」「次はどう動くべきか」という明確な戦術のラインが走っている。TPSのように遮蔽物に隠れてボウガンで狙撃したり、壁を駆け上がって敵の背後から奇襲攻撃を仕掛けたりと、アクションの幅も広い。最初は操作に戸惑うかもしれないが、慣れてくると戦場全体を支配しているような全能感を味わえるようになる。このギャザリングシステムは、間違いなくRPGのバトル史に残る発明だったと筆者は確信している。

愛さずにはいられない個性豊かな傭兵団の仲間たち

 そして、このバトルを、そして物語を最高に盛り上げてくれるのが、エルザと共に戦う傭兵団の仲間たちだ。彼らはただのNPCではない。戦闘中も移動中も、とにかくよく喋る。

  「おいエルザ、あっちに何かあるぜ!」
  「クソッ、敵が多いな!」
  「ご飯まだー?」

 などなど、状況に合わせて実に細かく、そして人間味あふれる会話が繰り広げられる。

 筆者が特に推したいのは、二刀流の女剣士・セイレン(CV:豊口めぐみさん)だ。露出度の高い服に身を包み、酒豪で、口が悪くて、ガサツ。一見するととっつきにくい姉御肌なのだが、実は誰よりも仲間思いで、繊細な一面も持っている。戦闘中も「オラオラァ!どきな!」と勇ましい声を上げて敵陣に突っ込んでいく姿は見ていて頼もしいし、何より彼女がいるだけで画面が華やかになる。

 ムードメーカーである魔法使いのジャッカル(CV:藤原啓治さん)との漫才のような掛け合いも最高だ。今は亡き藤原啓治さんの、あの飄々とした演技が、ジャッカルというキャラクターに命を吹き込んでいる。ジャッカルの軽口を聞くだけで、どんなに絶望的な状況でも「なんとかなるんじゃないか」と思わせてくれるのだ。

 そして、傭兵団のリーダーであり、エルザにとっての父親代わりでもあるクォーク(CV:石塚運昇さん)。彼の存在感は圧倒的だ。渋い声で冷静に指示を出し、迷うエルザを導く。彼の背中を見て、エルザは育ってきたのだと痛感させられる。……だからこそ、物語後半で彼に訪れる運命には、言葉を失った。詳しくは伏せるが、クォークという男の生き様、そして彼が抱えていた葛藤を知った時、筆者は涙腺が崩壊した。同じく故人である石塚運昇さんの深みのある演技が、その悲しみをより一層深く、心に刻み込んでくるのだ。

 他にも、貴族嫌いの魔法使いユーリス(CV:下野紘さん)や、おっとりしているようで食いしん坊なヒーラーのマナミア(CV:能登麻美子さん)など、捨てキャラなしの個性派揃い。彼らとキャンプで鍋を囲んだり、街を探索したりする何気ない時間が、かけがえのない思い出となっていく。ただのパーティメンバーではなく、家族のような絆を感じられるのが、この傭兵団の魅力なのだ。

着せ替えが楽しすぎる! パンツの色までこだわれる!?

 「ラストストーリー」のもう一つの大きな特徴、それは異常なまでのこだわりを見せる「装備のカスタマイズ」要素だ。本作では、手に入れた防具を装備するとキャラクターの見た目が変わるのだが、それだけではない。防具のパーツごとに色を変更したり、パーツを取り外したりすることができるのだ。これが、本当にとんでもなく細かい。鎧の色を自分好みのカラーリングに変えて「俺だけの騎士団」を作るのは序の口。鎧の肩パッドだけ外して軽装風にしたり、脚装備の装甲を外して生足を出したりと、自由自在だ。

 そして極めつけは、下着の色まで変更できるという謎のこだわりである。イベントシーンはすべてリアルタイムレンダリングなので、自分がカスタマイズした衣装がそのままムービーに反映される。シリアスなシーンでふざけた格好をしていると台無しになることもあるが、それも含めてプレイヤーの自由なのだ。

 筆者は、エルザには白銀の騎士風の鎧を着せ、カナンにはあえて冒険者風の活動的な服を着せて、お忍びデート感を演出して楽しんでいた。また、オンライン協力プレイ(現在はサービス終了)では、プレイヤーごとに個性的なファッションのエルザたちが集まり、ファッションショーのような様相を呈していたのも懐かしい思い出だ。あの頃、ロビーで他のプレイヤーの装備を見て「その色の組み合わせ、カッコいいですね!」とチャットで盛り上がった日々が、今はもう戻らないと思うと少し寂しくもある。

植松伸夫氏が奏でる、魂を揺さぶる旋律

 「ラストストーリー」を語る上で、音楽の力は絶大だ。全編を作曲したのは、植松伸夫氏。「FF」シリーズで数々の名曲を生み出してきた巨匠だが、本作でもその才能はいかんなく発揮されている。

 特にメインテーマである「翔べるもの」は、ゲーム音楽史に残る名曲だと断言したい。インストゥルメンタル版の切なくも力強いメロディは、エルザたちの過酷な運命と、それでも空へ手を伸ばそうとする希望を感じさせる。

 イベントシーン中での折笠富美子さんによるハミング、そして、Kanonさんが歌うボーカルバージョンは「ゲームのBGM」という枠を超えて、プレイヤーの心に直接語りかけてくる「物語そのもの」になる。街中でふと耳にするこの旋律、そしてエンディングで流れるこの曲……。筆者は今でも「翔べるもの」を聴くと、条件反射でルリの街の風景が脳裏に浮かび、目頭が熱くなってしまう。

 戦闘曲も素晴らしい。「秩序と混沌と」は、オーケストラにロックテイストを取り入れた激しいリズムで、アクションバトルの高揚感を極限まで高めてくれる。植松氏らしい、「メロディが耳に残る」バトル曲だ。静と動、絶望と希望。音だけでこれほどまでに世界観を表現できるのかと、改めて植松伸夫というコンポーザーの偉大さを思い知らされた作品でもあった。

15年経っても色褪せない、「最後」の物語

 「ラストストーリー」というタイトルには、坂口博信氏の「これが最後の作品になってもいい」というほどの覚悟が込められていたという。その覚悟は、画面の端々から、システムの一つ一つから、そして物語の結末から、痛いほどに伝わってきた。

 Wiiという、HD画質ではないハードでありながら、そこで描かれた光と影の表現は、今の最新ゲームにも劣らない美しさを持っていた。それは単なる解像度の高さではなく、作り手の魂が込められた画作りの巧みさによるものだろう。

 現在、本作をプレイするにはWii(Wii U)本体とソフトを用意するしかない。正直に言って、プレイへのハードルは高い。しかし、それでも筆者は言いたい。「機会があるなら、絶対に遊んでほしい」と。

 そして願わくば、Nintendo Switch、あるいはその後継機でのリマスター、リメイクを強く、強く希望したい。高解像度になったルリの街を歩きたい。滑らかなフレームレートでギャザリングを駆使して戦いたい。そして何より、あのエルザとカナンの物語を、もう一度、今の時代に蘇らせてほしいのだ。

 15年経っても、色褪せるどころか、むしろ輝きを増しているようにさえ感じる「ラストストーリー」。傭兵たちが駆け抜けたあの星の物語は、これからも筆者の中で、そして多くのファンの心の中で、永遠に語り継がれていくことだろう。

 もしも、まだ見ぬ誰かがこの記事を読んで、ルリ島への切符を手に取ってくれたなら、これほどうれしいことはない。さあ、集え、傭兵たちよ。そして、共に夢を見よう。あの星が降る夜空の下で。