【特別企画】

コジプロのこれまでとこれからの10年を小島監督がゲスト共に語った「BEYOND THE STRAND」イベントレポート

新作「OD」や「PYSINT」、映像作品の情報を監督が明かす

【Beyond The Strand】
9月23日13時~ 開始
会場:TOHOシネマズ六本木ヒルズ SCREEN7

 コジマプロダクションは、同社設立10周年を記念するイベント「BEYOND THE STRAND」を東京港区のTOHOシネマズ六本木ヒルズにて開催した。

 当日は2015年に同社を立ち上げた小島秀夫監督とともに、関係者や作品の出演者などがゲストとして登壇。コジプロが歩んできた10年と、これからの10年についてや現在進行中のプロジェクトについて語った。本稿ではその模様をレポートする。

【KOJIMA PRODUCTIONS 10周年記念イベント「Beyond The Strand」アーカイブ映像 [日本語-Japanese ]】

10年前の始まりから今に至るまでを小島秀夫氏が振り返る

 コジプロの10年を振り返る映像の後、MCの宇内梨沙さんに招かれて小島監督が登場した。「10年前に独立したときは全てを失って、ファンとの繋がりだけをたどっていった結果、今の僕やコジプロがあることを大変感謝しております」と、会場のファンに向けて感謝の言葉を述べた。

左から小島秀夫監督、宇内梨沙さん

 10年前の2015年、四畳半の貸しオフィスでスタートしたコジプロ。ソニー・インタラクティブエンタテインメントとの契約後、少しずつ人が増え恵比寿のオフィスを経て、翌2016年には現在の品川のオフィスへと移転し、同年のE3では「DEATH STRANDING(デス・ストランディング)」のティザーが流されるなど、大きな飛躍を遂げる。

四畳半のオフィスで1人作業をする小島監督
コジプロ設立時に作った新川洋司氏によるイメージキャラクター「ルーデンス」とロゴのラフ
品川のオフィスは2022年に上階に移転。1フロア全てを使い、名物の「ルーデンス部屋」も作った

 ここで壇上には三菱UFJニコス社長の角田典彦氏が登壇した。当時役員だった角田氏は、コジプロの近くにあった同銀行の支店長が小島監督のファンだった縁で食事をしたことをきっかけに意気投合。角田氏もかつて小島監督が手がけた「メタルギア」をMSXでプレイしてからの以降の作品も全てプレイしてるファンで、独立後の作品も期待ができたことが融資へと繋がった。

 それから10年が経過し、三菱UFJニコスとのコラボが決定。同社がスマホのアプリを使った「デジタルカード」の第1弾がコジプロとのコラボカードで、取引を行ない貯まったポイントでコジプロ公式のグッズが交換できるようになる仕組みになるという。

三菱UFJニコス代表取締役社長 角田典彦氏(中央)

 小島監督は独立当初に立てた20年先までの計画があり、それを宇宙旅行に見立てた3つのフェーズに分けて実施している。2015年から2019年までの第1フェーズでは、“会社”という宇宙船を作って、“スタッフ”という乗組員を集め、“ゲーム”というエンジンで大気圏外へ脱出する。そこで完成したのが「DEATH STRANDING」で、イベントを開催してファンとの繋がりも作った。

 続く第2フェーズは、太陽系の星々を回るために“IP強化”を行ない、「DIRECTORS CUT」版や続編の「DEATH STRANDING 2」を制作。そしてさらなる挑戦として制作する新IPがこの後発表となる作品群である。同時にファンとの繋がりをさらに強めるため、マーチャンダイジングやイベント開催などを行なっている。これが現在を含む2030年までの計画となる。

 第3フェーズはさらなる外宇宙を目指す未来で、「(僕が)生きてるかどうか分かりませんけど(笑)」と前置きしつつ、ゲームや映画、アニメなど旧来の媒体から新IPを作りながらも、時代の流れと共にエンタメの環境が変わっていく中で新しいエンタメのシステムを使ったIPを作ることも視野に入れ、現在から2035年までの10年を計画している。

 ここではその第2フェーズである現在に発売された「DEATH STRANDING 2」ゆかりのゲストが壇上に招かれた。2作品でアメリ、ブリジット、ルーシーを演じた井上喜久子さん、本作で描き下ろしのアートを提供した伊藤潤二さん、レイニー役で物語の舞台となったオーストラリア出身の忽那汐里さん、本作では楽曲提供とともに華麗なダンスも披露した三浦大知さん、そして本作でもサム役を演じた津田健次郎さんの5人だ。

左から津田健次郎さん、三浦大知さん、忽那汐里さん、伊藤潤二さん、井上喜久子さん

 作品の中で非常に重要な3人を演じた井上さんは「収録のときの監督は、少年のように目をキラキラさせながら優しくもてなしてくださる」と収録時を振り返る。小島監督と同い年だという伊藤さんは前作の出演に続き「デススト2」では「美女を描いてほしい」というオファーがあり、それがゲーム内に登場することとなり「これ以上光栄なことはなく、思い残すことはない」と喜びの声を贈った。

 忽那さんは3年以上にわたる「デススト2」の仕事の中で、「夢を必ず実現している監督とは、会うたびにインスピレーションをもらっていて、出会えたことが本当に嬉しかった」と語る。レイニーは出演者の中で唯一、日本語と英語両方のアフレコを行ない、忽那さんがいなければあのレイニーにはならなかったと小島監督も絶賛した。

 音楽と出演の両方でコラボした三浦さんは、「デススト2」では本人のスキャンによるドールマンとのダンスを披露し、子どもの頃に出会った「メタルギア ソリッド」でファンになった小島監督の作品に出演できたことは「一生の宝物」だと語っている。

 そして主人公のサムを2作続けて演じた津田さんは「TwitterのDMで衝撃のオファーをいただいた(笑)」と明かし、その後共演する水樹奈々さんと最初のトレーラーを収録したときに、監督に「これだ」と言われたときにはホッとしたと当時を振り返る。2作品ともアフレコがとにかく丁寧で、ゲームの場合は1人で演じることも多いが、ほとんどが複数人での掛け合い収録だったことも讃えている。

ゲーム、映画、アニメなどコジプロの次なる展開が発表

 ここからはコジプロの第2フェーズから第3フェーズとなるこれからの10年にかけて制作・リリース予定の新たな作品について様々な発表が行なわれた。その最初の作品はXbox Game Studiosとの開発が進められている「OD」である。

【OD - KNOCK Teaser Trailer - [CERO] 4K】

 Microsoft Gaming CEOのフィル・スペンサー氏と共に紹介された本作は、小島監督がこれまで手がけてきたステルスや配達ともまったく違う、「映画とゲームの垣根を壊す」内容で作られているとのこと。上映された映像はUnreal Engineによる実機映像で、「デススト2」からさらに進んだテクノロジーを使っていて、出演するソフィア・リリスさんの表情やロウソクに火を点ける動きはカットシーンではなく、実際のゲーム画面となる。

Microsoft Gaming CEO フィル・スペンサー氏

 タイトルには新たに「KNOCK(最後のKは左右反転表記)」というサブタイトルが付けられ、映像の冒頭で見られた「扉をノックする音」を小島監督の恐怖として作品化したものになる。発表済みのジョーダン・ピール監督と共に制作する「OD」ではこの「KNOCK」とは違う別の恐怖を描いているという。まだ明かせないことが多いが、公開された映像の中には作品についてのいくつかのヒント(窓にある目のシール、マッチの図柄等)が隠されているそうだ。

公開された「OD」のビジュアル

 本作は各地の因縁付きの場所を実際に回ってスキャンを行なっていて、世界初の「お化けを3Dスキャンする」という試みにも冗談抜きで挑んでいる。映像の場所では撮れなかったものの、その中に入っている「パチパチ」という音は、コジプロのスタジオで夜中に聞こえる怪現象の「本物」の音を使っていることも明かされた。こうしたことを実行するために、お祓いもしてきたというから本格的だ。

 スペンサー氏も「私はホラーゲームは得意ではないが、本当に新しいもので、新たな感情を描く作品になる」と述べ、開発は順調ということも話している。

 続いてはコジプロとA24スタジオによる「DEATH STRANDING」の映画化の情報が同社サム・ハンソン氏とともに披露された。A24はアメリカの映画・テレビ番組の制作スタジオで、150本の以上の映画と50以上のテレビシリーズを制作し、180か国以上で放映され数々の賞を受賞している。ユニークなビジョンを持った気鋭のアーティストを支援する同社は小島監督の作品を高く評価し、本作の映画制作におけるパートナーとなった。

A24 映画制作 / 買付統括 共同責任者 サム・ハンソン氏

 作品の監督としては、脚本やVFXもできる人材としてマイケル・サルノスキ氏を起用。「ピッグ」で氏のことを知り、シリーズ3作目の「クワイエット・プレイス:DAY 1」でその実力を確信したことが起用の動機となった。登壇したサルノスキ氏は「監督起用にあたりかなり緊張したが、作品での大きな自由度が与えられことにホッとした」と述べ「ゲームの魂を伝えつつも、この世界の中でまだ見ていないキャラクターやストーリーを伝えたい」と意気込みを語っている。小島監督もクリアまで数十時間を要するゲーム版「デススト」のストーリーをそのまま2時間の映画にしても仕方がないので、その世界観を共有する独自の作品をサルノスキ氏に一任し、自身は3歩程度引いたスタンスで見守りつつ、作品を楽しみにしていることを述べた。

映画監督 マイケル・サルノスキ氏

 続いて「デススト」の劇場版アニメ「DEATH STRANDING MOSQUITO」が製作中ということが発表された。脚本家にアーロン・グジコウスキ氏、監督にABCアニメーションスタジオの宮本浩史氏を迎え、斬新な作風で「デススト」の新たな物語が描かれる。

「DEATH STRANDING MOSQUITO」のビジュアル
【「DEATH STRANDING MOSQUITO(Working Title)」| Teaser Trailer】

 本作は宮本氏が好きだという「人狼 JIN-ROH」や「攻殻機動隊」といったアナログ後期のアニメの手触りを残すコンセプトの元に作られていて、コジプロのデザイナー新川洋司氏が墨や鉛筆で描いた線を素材とし、それをアニメの作画に用いる新技術を導入している。背景はスタジオ・イースターに所属する鉛筆画家のアーティストが鉛筆で描いたものを全カット起こし、それらをデジタルで色づけする手法で作られている。

新川氏による筆で描かれた線
その線を元にした作画を制作
デジタルで色づけして完成する
背景は全て鉛筆画でそれにデジタルで色を乗せる。背景は1,500カット以上あるそうだ
アニメーション監督・演出家 宮本浩史氏

 タイトルにある「蚊」を意味する「MOSQUITO」は、メインビジュアルにいる主人公の「あるものを吸う能力」を意味しているという。

 男の格好良さをスネークから学び、目玉焼きの焼き方をナオミ・ハンターに教えられ、カラオケに行くと「恋の抑止力」(「メタルギアソリッド ピースウォーカー」主題歌)を歌い、大人になった今はサムから繋がることの意味を深く考えさせられたという、当日会場に集まった多くのファンと同じ境遇にあることを明かした宮本氏。小島秀夫というクリエイターが長く発してきた人の深いところに突き刺さるメッセージに負けないものを作りたいと宣言した。

 続いてはPlayStation Studioとの制作が決まっているタクティカル・エスピーオナージ・アクション「PYSINT(フィジント)」の続報が発表となった。現在は小島監督が1人で企画を進めているが、そのビジュアルアートとキャスティングも公開された。

 主役となるキャストはまだ非公開となるが、出演者となるチャーリー・フレイザーさん、マ・ドンソクさん、そして浜辺美波さんがキャスティングされそれぞれのビデオメッセージが上映された。

チャーリー・フレイザーさん
マ・ドンソクさん
浜辺美波さん

 本作にも「OD」と同様、「映画とゲームの垣根を壊す」というコンセプトが込められていて、そこで導入される新たな表現として浜辺さんをモデルとしたキャラクターのビジュアルが公開された。肌がきめ細かい日本人のスキャンは難しいという小島監督は、デジタルヒューマン表現技術で知られる3Lateralのスキャンにおける新しいテクノロジーを採用している。その技術を使った浜辺さんの顔のモデルも披露され、髪型やメイクは劇中のものではないものの、このクオリティのモデルがゲームで実際に動くことになるという。

 本作の完成もかなり先となりそうだが、「大好きな人と作品を作れば寿命が伸びる」とここまで発表した作品を完成させる意気込みを見せた。

 そしてもう一つ発表されたのが、Niantic Spatialとのコラボレーションだ。同社CEOのジョン・ハンケ氏とともに紹介された映像には「MOVE BEYOND THE SCREEN」とあり、これまでスクリーンの中で作っていたゲームを開放し、リアルな日常にエンターテインメントを繋げるために、「Ingress」などで培ってきたNiantic Spatialをパートナーとし、ARテクノロジーを作品に導入するというのだ。

【KOJIMA PRODUCTIONS and Niantic Spatial: A New Dawn】

 簡単なイメージとしては、「実際に山に登りながらエンタメに繋がる、『デススト』のリアル版」と例え、そこで友達を作ったり地域と繋がったりする、これまでの作品におけるバーチャル世界での繋がりとは違う、リアルな繋がりを手助けする目的があるという。

Niantic Spatial 創業者兼CEO ジョン・ハンケ氏

 ハンケ氏も「今の社会に必要なものは私達を繋げ、共に団結する何かであり、人々が繋がって一緒にプレイできるような世界を一緒に作り上げたい」と、小島監督とファンに向けて言葉を贈った。

 イベントの後半では、10周年のコラボ企画として、三重県鈴鹿市の酒蔵「清水清三郎商店」とコラボレーションした日本酒「作(ざく)」のコラボ商品の発売や、特別展示会の情報も発表された。

「作 ルーデンス」、「作 ルーデンス 小島秀夫シグネチャー」の2種が発売。板橋区の「もとはし酒店」の公式サイトより購入できる
【作(ZAKU)× KOJIMA PRODUCTIONS スペシャル ムービー】
「設立10周年記念特別展示会」は過去作品やコラボに関する展示のほか、ここだけでしか体験できない内容もあるという。詳細は後日発表予定

ジョージ・ミラー氏、ギレルモ・デル・トロ氏、押井守氏も登壇するスペシャルなイベントに

 イベントの最後には「デススト」シリーズにも出演した映画監督のジョージ・ミラー氏、ギレルモ・デル・トロ氏、押井守氏と小島監督によるスペシャルトークも実施され、エンタメの未来が語られた。トークの詳細はイベントのアーカイブでご覧いただきたい。

左から押井守氏、ギレルモ・デル・トロ氏、ジョージ・ミラー氏。近年のテクノロジーの劇的な発達は脅威にもなりうるが、その中で変わらないのはストーリーテリングで、それをどう伝えるかが重要という旨の内容を語った

 最後にコジプロ10周年を迎えた小島監督はイベント名の「BEYOND THE STRAND」の「STRAND=繋がり」がこれからも重要になっていくと前置きし、「世界中が分断し孤立化していく危機を繋げるのは政治ではなくエンタメやアートだと思っています。その繋がりを置くのは僕らや(壇上の)皆さんの役割ですので、それを大切にあと20年、30年を生きていきましょう」と述べ、イベントを締めくくった。