【特別企画】

「UNDERTALE」10周年。いまなお語られる“誰も殺さなくていい”RPG

【UNDERTALE】
2015年9月15日 発売

 Toby Fox氏が開発したRPG「UNDERTALE(アンダーテイル)」が、2025年9月15日にリリースから10周年を迎えた。

 本作は、「MOTHER」や「moon」、「東方Project」といった和製ゲームの影響を色濃く受けたインディーゲーム。通常のRPGのように敵を倒すだけでなく、見逃すことも可能なことや、シューティングゲームの“弾幕”を避けるようなバトルシステムなど、従来のRPGの常識を覆すような作品だ。

 優しい雰囲気のドット絵や、良質なBGMもあって、今なおファンアートや二次創作が盛んに発表されている本作。本稿では、そんな「UNDERTALE」の魅力と面白さを改めて振り返ってみたい。

 なお、本稿には一部本作に関するネタバレを含んでいる。ストーリーや演出に様々な仕掛けがある作品だけに、ぜひとも初見でプレイしてほしいタイトルなので、未プレイかつ本作をプレイしたいという方は注意してほしい。

【【公式】UNDERTALE 発売記念トレーラー (Nintendo Switch)】

ドット絵で描かれた世界と魅力的なキャラクター

 「UNDERTALE」は、Toby Fox氏がクラウドファンディングで資金を募り、グラフィックやプログラミング、シナリオ、音楽に至るまで、ほぼ1人で開発したPC向けインディーゲームだ。PC向けにリリースされ好評を獲得し、後に家庭用に移植された。現在ではPS4/PlayStation Vita/Nintendo Switch/Xbox Series X|S/Xbox One/PC(Steam)でプレイすることができる。

 そんな本作の物語は、地下世界に落ちてしまった主人公が、地下に住むモンスターに出会い、地上への脱出を目指すというもの。どこか懐かしいドット絵で描かれた街並みやキャラクターは可愛らしく、どこか温かみも感じられる。

ドット絵で描かれた世界はどこか懐かしい(画像はNintendo Store「UNDERTALE」のページより)

 登場するキャラクターたちも魅力に溢れている。序盤に出会うトリエルは心優しい母親のような存在で、それだけに彼女とどう交流するかでプレーヤーを悩ませる。骸骨のサンズとパピルスはコメディリリーフ的な立ち位置で、プレーヤーを和ませてくれる。また、道中で出会うモンスターたちも、個性豊かなものばかりだ。

 特に印象的なのは、チュートリアルから登場する花のようなキャラクター「フラウィ」。マスコット的な立ち位置のキャラクターと思いきや、チュートリアルからプレーヤーを裏切ってきて、常に不穏な言動が垣間見える。

本作の重要キャラ、フラウィ
セリフの残り方や、吹き出しが揺れるような演出、メタ要素を含むユーモアなど、キャラクターとの会話には楽しめる要素がふんだんに盛り込まれている

 ちなみに、筆者が好きなキャラクターは幽霊の「ナプスタブルーク」だ。内気な性格ながらも、DJをしていたり、「ヒヤリハット」というジョークを飛ばしてくるギャップが笑いを誘う可愛いモンスターだ。

筆者のお気に入り「ナプスタブルーク」
道中で出会うモンスターは皆個性的で憎めない(画像はNintendo Store「UNDERTALE」のページより)

選択で分岐するルートとプレーヤーの葛藤

 物語の魅力は、愛らしいキャラクターや雰囲気だけではなく、プレーヤーの選択によってストーリーが大きく変化する、マルチエンディングを採用している点にもある。

 本作において、プレイヤーが世界とどう向き合うかは、戦闘で最も顕著に表れる。攻撃して相手を倒すのか、話しかけたり行動したりして戦いを避けるのか、といったことの積み重ねで、エンディングやキャラクターからの反応が変化する。

 戦闘は基本的にコマンド式のRPGだが、モンスターの攻撃はいわゆる「弾幕系」シューティングゲームのようなシステムで表現され、プレイヤーは小さなハートを操作し、飛んでくる弾を回避することとなる。こうしたアクション要素はプレーヤーのテクニックが試され、緊張感も味わえる。

 特にGルートで挑める高難易度のサンズ戦では、弾幕のパターンを覚えながら攻略していく、手に汗握る戦いが待っている。彼を倒すのに数日かかったというプレーヤーも少なくないだろう。

敵の攻撃は弾幕なので躱す必要がある(画像は「UNDERTALE」のSteamページより)

 一方で、敵を「戦う」以外の方法で無力化する選択肢である「こうどう」も用意されており、モンスターと会話をしたり、時には一緒に遊んだり、励ましたりすることで、戦意を取り除くことも可能。Pルートに進むためには、全てのモンスターに対して適切な対応をして、平和的に解決する必要がある。この方法では、モンスターのユーモア溢れる反応を見ることができ、アドベンチャーゲームのような楽しさがある。

モンスターに対し、特定の「こうどう」を選択すれば平和的に戦闘を終了できる

 本作には、3つのルート分岐が存在する。途中でモンスターを倒したり、助けたりしながら進むと到達する、基本となるエンディングの「Neutral(Nルート)」、Nルートをクリア後、誰も倒すことなく、かつ特定の条件を達成することで到達できる「True Pacifist(Pルート)」、そして、すべての敵を殺害することで進める「Genocide(Gルート)」が存在する。

本作は「誰も殺さなくていいRPG」というキャッチコピーが有名だが、この世界はただ「優しいだけ」の世界ではない。それを象徴しているのがチュートリアルでのフラウィの裏切りで、いきなり本作の裏に隠された暴力性を突きつけてくる
一方、チュートリアルの直後に出会うトリエルは、常に主人公に優しさを向けており、主人公を保護しようとしてくれる。彼女の優しさを振り切って地下世界を進むために、どのような行動をとるかで、プレーヤーは葛藤させられる

 ゲーマーであるなら、全てのルートをコンプリートしたくなるものだが、キャラクターの愛らしさもあって、皆殺しが必要となる「Gルート」には中々進みづらい。また、エンディングによってはクリア後の周回プレイでも変化が見られるなど、プレーヤーの行動の結果はクリア後の世界にも反映される。筆者は「Pルート」クリア後、Gルートにも進もうとしたが、再起動時のメッセージを見てかなり躊躇った。普段は何気なくやっていたモンスターを倒すという行為が暴力的に感じられ、倫理感を問われているような気がしてくるのだ。

ストーリーでは、「LV/EXP」といったRPGの用語も、本作固有の意味を持っている。どちらもプレーヤーの“残酷さ”を表すものとなっていることが明らかになった際には驚かされた

 読者の中にも、Gルートに進むのに、心が苦しくなった人は少なくないだろうし、逆に「GTA」をプレイするような感覚で積極的にGルートに進む人もいたはずだ。こうしたプレーヤーごとの向き合い方の違いも本作ならではだろう。

 こうしたゲームやゲーマーを問い直すような奥深いゲーム性は、本作が名作といわれる理由の1つだろう。実際、筆者は友人と本作について熱く語り合った記憶がある。そのときは、こうした小難しい話だけではなく、好きなキャラクターやBGMについても話題となった。今思えば、このように様々なテーマで話せてしまうのも、批評的な側面とゲームとしての面白さを両立しているからこそだ。

魅力的なBGMは中毒性抜群

 本作の大きな魅力として、良質なBGMが挙げられる。全曲をToby Fox氏が作曲した音楽は、様々なジャンルを網羅しつつ、印象に残るメロディばかりで、ついつい何度も聴いてしまう。

 特に有名なのはサンズ戦で流れる「MEGALOVANIA」だろう。強敵との戦闘に相応しい緊張感と疾走感があるこの曲は、ゲーム音楽の代表的な1曲として知られているのも頷ける。ちなみにこの曲はSFC用RPG「LIVE A LIVE」のBGM「MEGALOMANIA」から影響を受けており、Toby Fox氏の日本製ゲームへの愛が感じられる。

【100. MEGALOVANIA (UNDERTALE Soundtrack) - Toby Fox】

 そんな本作のBGMの中でも、筆者が特に好きなのはパピルス戦のBGM「Bonetrousle」だ。この曲はどこか間抜けで陽気なリズムが特徴的で、彼のキャラクター性にマッチした楽曲となっており、跳ねるようなサウンドが耳に残る。

【024. Bonetrousle (UNDERTALE Soundtrack) - Toby Fox】

 他にも、蜘蛛の女の子・マフェット戦の「Spider Dance」や、メロディラインが共通しているナプスタブルーク戦の「Ghost Fight」も非常に好みだ(ちなみに、ぷんすかマネキン戦の「Dummy!」もメロディラインが共通している)。本作にはこうした特定の曲をアレンジしたものも多く、それを発見したときの驚きや嬉しさも味わえる。

 また、BGMは演出面でも、キャラクター性や物語の場面にマッチしたものばかりで、物語への没入感も高めてくれる。

パラレルワールド「DELTARUNE」の今後も楽しみ

 以上のように本作は、既存のRPGでは当たり前の、敵を倒すことを問うようなゲーム性が印象深い作品だ。プレーヤーの選択によって変化するストーリーでは感情を大きく揺さぶられ、上述したようなプレーヤーとゲームの関係を、ルート選択や演出の中に落とし込む試みは新鮮だった。こうした「ゲーム」を批評するような部分を支えるキャラクターや音楽の魅力も相まって、今後も語り継がれる作品であることは間違いないだろう。

 なお、「UNDERTALE」のパラレルストーリー「DELTARUNE」も、チャプター4までリリースされている。こちらは現在チャプター5が制作中とのことで、今後が楽しみな作品だ。登場人物やモチーフには共通点も多く、物語についてすでに様々な考察がなされており、「UNDERTALE」のような盛り上がりも期待できる。

【DELTARUNE [Nintendo Direct | Nintendo Switch 2]】