【特別企画】

ハイレゾ、佐賀県東松浦郡玄海町に廃校を活用したGPUデータセンターを開設

A4000を240基導入。廃校をGPUデータセンターに転用した日本初の事例

【玄海町データセンター】
8月22日開所

 2025年8月22日、ハイレゾは、佐賀県東松浦郡玄海町に設置したGPUデータセンター「玄海町データセンター」の開所式を執り行なった。GPUデータセンターは、AIの研究開発に欠かせない施設であり、国内でも相次いで設置が行なわれているが、玄海町データセンターは、廃校(旧有徳小学校)を活用していることが特徴だ。廃校をGPUデータセンターに転用した事例は、日本初となる。開所式と普段は公開していないGPUデータセンターの中を特別に見学させていただいたので、その様子をレポートする。

日本初の「バッチ推論」に特化したデータセンター

 玄海町データセンターの開所式は、玄海町町民会館社会体育館で行なわれ、ハイレゾ代表取締役の志倉氏をはじめ、玄海町長の脇山氏、玄海町議会議長の井上氏、佐賀銀行代表取締役専務の鵜池氏など、約120名が出席した。

 最初にハイレゾ代表取締役の志倉喜幸氏が次のように挨拶を行なった。

 「本データセンターは、AI推論の中でも、バッチ推論と呼ばれるものに特化した特殊なデータセンターであり、おそらく日本で初めての試みとなります。これは玄海町でなければなし得なかったものだと考えています。具体的には、電気代の安さ、学校を転用することによるサーバー部屋の流動性、地域の方々の協力、こうしたものがなければ実現できませんでした。このデータセンターはまだプロトタイプであり、今後さらに拡張していきます。日本におけるAI推論の需要が今後も伸びていくと考えていますが、AI推論においては、このように地方でコストパフォーマンスよく計算力を提供することが求められています。それを玄海町データセンターのメリットとして、日本中あるいはアジア全体のお客様に提供できるようになったことを、非常に嬉しく思っています」

 次に、玄海町長の脇山伸太郎氏が来賓として登壇し、「2023年10月にハイレゾ様と進出協定を締結しました。締結に至るまでには多くの方からご支援を頂戴し、色々な方々のご努力とご尽力によって、今日この日を迎えられたことを大変喜ばしく思っております。玄海町はこれまで第一次産業を根幹とし、原子力発電所の立地を長として、エネルギー産業を軸に発展してまいりました。しかし、人口減少や社会構造の変化といった課題に対応するためには、次世代を担う産業および地域に新たな活力を取り込むことが喫緊の課題でございました。その対策の一つして玄海町みんなの地域商社を設立し、地元産業の活性化と販路開拓など、町の新たな可能性を見つけ出してきました。また一方で、新しい産業の創出として、企業誘致を最重要施策の1つに掲げ、町の将来を見据えた産業基盤作りに取り組んでまいりました。今回、ハイレゾ様の最先端GPUデータセンターがこの地に誕生したことは、今までの取り組みが大きな成果を結んだものであり、私たちの戦略における象徴的な出来事であります。近年、AIやビッグデータ、映像処理などを支えるGPUの役割はますます大きくなっております。本データセンターの稼動は、単に情報処理施設が町内に立地したということに留まらず、デジタルとエネルギーの融合という新しい未来像を描く上で極めて大きな意味を持つものと考えております。また、この拠点がもたらすものは、雇用や経済波及効果だけではなく、町内の教育機関や地域人材との連携を通じ、次世代を担う若者たちに学びと挑戦の場を提供し、町のブランド価値をさらに高めていくものと確信しております。地域が未来に向けて自らを変革していく、その核となる施設であります。この近くに県立唐津青翔高等学校という高校がありますが、来年度からeスポーツ学科を取り入れます。公立では初めての取り組みで、先日、説明会をした時に20人ほど来られました。玄海町は、今後も地域に目指す企業の皆様と手を携えながら、持続可能で魅力あるまちづくりに全力を尽くしたいと思っております」と祝辞を述べた。

 玄海町議会議長の井上氏や佐賀銀行代表取締役専務の鵜池氏からの祝辞のあと、来賓や祝電が紹介され、開所を記念するテープカットが行なわれた。

【玄海町データセンターの開所式の様子】
玄海町データセンターの開所式は、玄海町町民会館社会体育館で行なわれた
ハイレゾ代表取締役の志倉氏をはじめ、玄海町長の脇山氏、玄海町議会議長の井上氏、佐賀銀行代表取締役専務の鵜池氏など、約120名が出席した
多くのお祝いの花が飾られていた
左がハイレゾ代表取締役の志倉喜幸氏、右が玄海町長の脇山伸太郎氏
左から、鵜池氏、志倉氏、脇山氏、井上氏
テープカットの瞬間

玄海町データセンターでは、240基のA4000を導入

 開所式の後、玄海町データセンターの内覧会が実施された。通常、データセンターはセキュリティ保持のために見学などは一切許可されていないことが多い。玄海町データセンターについても、内部の見学は基本的に許可していないとのことだが、今回、開所式にあたって特別に内部の見学が許可された。ただし、サーバールーム内の撮影は禁じられたため、サーバールーム内の写真はハイレゾから提供されたものとなる。GPUデータセンターの用途や、なぜ求められているのかということについては、香川データセンター開所式のレポートで解説しているので、そちらを見ていただきたい。

 玄海町データセンターは、2015年に廃校となった旧有徳小学校の校舎を改修して作られていることが特徴だ。旧有徳小学校の校舎は3階建てだが、データセンターとして利用している部屋は2階のみだ。その理由は、1階は床が荒れていたことと、万一大雨が降ったときに冠水するリスクを考えてのことだという。

 データセンターへの入口は、中央の階段口を利用しているが、セキュリティシステムを導入したり、壁を塗り直すなど改修が行なわれている。また、データセンターとして利用しているスペースについては、床もすべて張り直し、壁も塗り直している。データセンターとして利用している2階には5つの部屋があり、そのうち3つの教室が綺麗に回収されてサーバー室として使われている。

 1つのサーバー室には、8台のラックがあり、1つのラックに5台のサーバーが設置されているため、1サーバー室あたりのサーバー台数は40台となる。また、1台のサーバーに2基のA4000が搭載されているため、1部屋あたりA4000が80基、3部屋合計では240基のA4000が導入されていることになる。

 A4000は、Ampere世代のGPUで、ビデオメモリは16GB。GeForceでいえば、GeForce RTX 30シリーズに相当する。現在はH200やB200といったより世代が新しいGPUも登場しているが、玄海町データセンターは、画像生成AIのバッチ推論(1つのデータに対しリアルタイムに推論結果を返すのではなく、大量のデータに対してまとめて推論を行い、結果をまとめて出力する方法)を主な用途としているため、A4000がちょうどフィットするのだという。

 冷却はエアコンを使わず、外気をそのまま導入する外気冷却方式を採用。実は、校舎の裏側には山があり、山の木々で冷やされた外気を導入できることも、玄海町のこの場所にデータセンターを建設した理由の一つになっているという。校庭側にも排気ダクトが用意されており、室温が上がると強制的に排気し、室温を下げる仕組みになっている。

【玄海町データセンターの様子】
玄海町データセンターの外観。中央の入口を除けば普通の小学校のように見える
旧昇降口を入ったところ。当時の雰囲気がそのまま残っている
左は下駄箱である
1階の教室。1階はデータセンターとしては一切使われていない
1階の教室の床は、かなり荒れている部分もある
1階にあるトイレ
トイレの手前には手洗い場がある
プールも水が全て抜かれている
データセンターに電源を供給するために新たに作られた受電設備
校庭は砂だったが、アスファルトが敷かれ駐車場として活用されている。奥の建物は体育館だが、こちらは使われていない
中央の昇降口を改装し、データセンターの入口にしている
データセンター内部は床も張り替えられている
2階にサーバー室が3つあり、事務室や会議室も用意されている
サーバー室の内部。中央にラックがあり、1ラックあたり5台のサーバーが設置されている
ラックの数は8つあるため、1つのサーバー室に5×8=40台のサーバーがある
ラックの上部にはまだ余裕があるが、床の耐荷重もあるため、基本的にはこれ以上ラックにサーバーを追加しない予定とのこと
排気用のダクトが、各サーバー室に4つずつ設けられている

香川県綾歌郡綾川町でも廃校を活用したGPUデータセンターを建設中

 玄海町データセンターの見学後、ハイレゾ社長室の尾澤一雄氏への囲み取材で、より詳しいことが明らかになった。

 玄海町データセンターは、石川県羽咋郡志賀町にある志賀町データセンターへの需要が高まり、その負荷を分散させるために作られたという。そのため、志賀町データセンターと同じA4000を採用している。画像生成SaaSとして利用するには、A4000が性能的にも価格的にもベストマッチであり、今後、玄海町データセンターで演算能力が足りなくなった場合は、校舎の3階を利用してサーバー室を増やすことも可能としている。

 ハイレゾは、香川県綾歌郡綾川町にある廃校、旧綾上中学校にもGPUデータセンター(綾川町データセンター)を建設中である。綾川町データセンターは、当初2025年8月に完成予定だったが、工事の遅れなどで少し延びており、2026年初頭に完成する予定とのことだ。綾川町データセンターでは、NIVDIAが2024年3月に発表したAI向けウルトラハイエンドGPU「B200」を採用予定で、高い演算性能を実現する。全国には用途が決まっていない廃校が1,400校あるが、ハイレゾでは廃校を活用したGPUデータセンターを増やし、地方を活性化するための拠点としていきたいということだ。

【2026年にGPUデータセンターが開設される予定の旧綾上中学校】
綾川町の廃校になった旧綾上中学校の航空写真。右上の体育館をGPUデータセンターに改修予定

ユニークな発想で日本の技術革新を後押し

 ハイレゾは、2019年に石川県羽咋郡志賀町に国内最大級のGPUデータセンターを開設後、積極的にGPUデータセンターを開設しており、今回の玄海町データセンターは、同社の4つめの拠点(志賀町には2つのデータセンターがある)となる。

 ハイレゾのGPUクラウドサービス「GPUSOROBAN」は、競合のサービスに比べて、価格が大幅に安いことが魅力だが、それを支えているのが、同社が持つGPUデータセンターである。通常、データセンターは、外部からの侵入を防ぐために強固な建物を新たに建設することが多いが、ハイレゾは既存の建物や廃校などをGPUデータセンターに転用することで、その分のコストを削減している。

 また、UPS(無停電電源装置)や冗長化(複数のシステムを用意して、1つのシステムがダウンしても、他のシステムでタスクを続けられる仕組み)への投資も最小限にするなど、従来のデータセンターの常識を破る発想で、GPUデータセンターを運営している。これは、同社のGPUデータセンターが、新しいAIサービスの研究開発に使われることが多いという点と、AI推論では機密性の高いデータを扱うことが少なく、データサイズ自体も比較的小さいということから、セキュリティや可用性への過剰な投資は不要だと判断しているためだ。

 こうしたユニークな発想によって低コストで計算力を提供することで、日本のAIやデータ解析といった先端技術の発展を後押ししている。玄海町データセンターの完成により、ハイレゾが持つ計算資源はさらに増加し、より多くの需要に応えることが可能になる。2026年初頭に竣工予定の綾川町データセンターは、NVIDIAの最新AI向けGPU「B200」を採用するとのことであり、今後の同社の展開に期待したい。