【特別企画】

PCエンジン版「最後の忍道」が発売されて35周年

時代の転換期に登場し、禍々しさを放つ名作「最後の忍道」を振り返る。

【最後の忍道】
1990年7月6日発売
価格:7,000円(PCエンジン HuCARD)

 1990年7月6日にアイレム(現アピエス)より発売されたPCエンジン用ソフト「最後の忍道」が35周年を迎えた。

PCエンジン版【最後の忍道】

 1988年8月にアーケードゲームとして稼働を開始した「最後の忍道」は、アイレムらしい絵作り、キャラクターデザイン、BGMで構成され、アクションゲームとシューティングゲームの良い所をあわせ持つ、非常に尖った作品である。

 筆者は、「最後の忍道」が稼働中のゲームセンターで、順番待ちをする間、ワクワクしながらゲーム画面に釘付けになっていたことを覚えている。

【PCエンジン版「最後の忍道」】

 1983年に発売された家庭用ゲーム機「ファミリーコンピュータ(以下、ファミコン)」の爆発的ヒットにより、発売以降アーケードの人気ゲームが家庭用に移植される流れが加速した。

 一方で、アーケードゲームの技術は急速に進化しており、1987年頃の作品をファミコンへ移植するには、ハードの性能が大きく不足していた。メーカーは限られたスペックの中で多様な工夫を凝らし、可能な限り本来のゲーム体験を再現しようとしていたが、それでも超えられない壁というものも存在していた。

 そんな中、1987年にNECホームエレクトロニクスから発売された家庭用ゲーム機「PCエンジン」が登場し、高品質なアーケードゲームの移植が可能となり、数々の名作がPCエンジンへ移植され始める勢いに乗って、PCエンジン版「最後の忍道」が発売されたのである。

 本稿では、筆者の当時の記憶をもとに、PCエンジン版「最後の忍道」を振り返ってみたい。

多彩な武器と強化。ジャンプも高性能だが、敵配置が巧妙でプレイヤーを悩ませる

 「最後の忍道」は、主人公である抜け忍「月影」を操作し、四つの武器と3つの術で戦う横スクロールアクションゲームである。

 「月影」は初期装備として「刀」、「手裏剣」、「爆弾」、「鎖がま」を武器として備え、任意のタイミングで切り替えながら戦う。道中で敵キャラがドロップするパワーアップアイテム「霊光宝珠」を取得することで、装備中の武器が強化される。強化内容は「攻撃範囲拡大」、「連射数増加」など、武器の特性に合わせて異なる強化がなされる。

 強化状態の武器と分身2体を引き連れて「火輪の術」をまとった「月影」は、シューティングゲームにおけるパワーアップ最大状態の自機さながらである。単体の敵を倒すのは容易であり、複数体の敵に対してもボタン連打で薙ぎ払える強さがあり、シューティングゲームのプレイ時に感じるのと同じ「高い爽快感」が得られる。

【四つの武器】
刀[妖刀霧正](ようとうきりまさ)
手裏剣[渦葉](うずは)
爆弾 [雷竹](らいちく)
鎖がま[昇龍鎖](しょうりゅうさ)
取扱説明書 P6 四つの武器とパワーアップ
【強化刀+分身2体+火輪の術】
最強防御形態とも言える組み合わせ
【強化手裏剣+分身2体】
分身2体と三方向手裏剣による攻撃は、弾幕シューティングを彷彿とさせる。

 ジャンプ性能も高く、ボタンを長く押すことで高いジャンプが可能。ジャンプ後、速度こそ遅いが、左右に移動もできる。

 攻撃とジャンプが強く説明だけ聞くと「最後の忍道」が簡単に感じるかもしれないが、「月影」には当然ながら欠点が存在する。歩行中に攻撃ボタンを押すと、「月影」はその場に停止してしまい、歩きながら攻撃できない。歩行が止まる事を嫌って、ジャンプを繰り返しながら移動をしていると、着地点付近にいる敵キャラに攻撃され、ミスになりやすい。「最後の忍道」の敵キャラの配置は非常に巧妙で、この現象に度々悩まされることになる。

 強い攻撃手段とジャンプ性能を駆使して敵キャラを薙ぎ払う爽快感に溺れていると、着地点に敵が配置されていてやられてしまうという、絶妙に調整されたバランスを持つゲームである。

 筆者は、今回この記事を書くにあたり、PCエンジン版「最後の忍道」を「PC-ENGINE MODE」でプレイした。発売当時と同様に敵配置に苦戦し、何度もコンティニューを繰り返しエンディングまで到達した。

 本来アーケードゲーマーである筆者のプライドとしては、「目指すはノーコンティニュークリア!」といきたいところである。しかし、第六章に登場する「侍」の巧妙な動きがあまりに手強く、さらに第七章の「最終落下地点」が極めて高難度であるため、ノーコンティニューでの突破は困難と判断せざるを得なかった。苦渋の決断ではあるが、今回は断念することにした。

 それでも、「最後の忍道」のプレイ中は、当時の記憶を呼び起こしながら、非常に楽しい時間を過ごすことができた。

【ジャンプ】
ボタン長押しで高いジャンプができる
【第六章の侍 ジャンプの着地を襲われる】
高いジャンプをするが、下には敵キャラが潜り込んでいる。
体力制の「PC-ENGINE MODE」であっても、一撃でやられる
【第七章の「最終落下地点」】
刀を頭上にかざした多数の忍者を避ける必要がある。

荒廃した仏閣。巨大な阿修羅像。和風の不気味さ満載のグラフィックデザインは雰囲気抜群。

 「最後の忍道」について語る際には、グラフィックデザインを外すことはできない。

 筆者が初めて「最後の忍道」のゲーム画面を見たときの一番強く感じた感情は「異様さ」である。第一章は、日差しのない仏閣の敷地や荒廃した建造物内と、敵キャラの忍者の組み合わせも相まって不気味さを漂わせる。特に、武僧「幽玄坊」と、地面から這い出る忍者「土草」は「異様さ」を感じる要因の1つだ。

 第一章のボスは、巨大な「阿修羅」であり、人魂のような光球を「月影」に向けて無数に放つ。その巨大さと異形の風貌、そして容赦なく襲いかかる人魂の群れは、極めて「異様」であり、「最後の忍道」の禍々しい世界観を強烈に印象付ける要素となっている。

【第一章】
第一章 序盤
ボスの「阿修羅」。強烈な存在感でインパクト大。

 ゲーム内の色彩はアイレムの雰囲気を保ちつつも、背景やキャラのデザインにより「異形による不気味さ」をしっかりと表現している。第一章をプレイするだけで「最後の忍道」の隠微で幻想的な時代劇の雰囲気が伝わった。当時の筆者は、『敵キャラの雰囲気が、映画「里見八犬伝(1983年公開)」と似ている。気持ち悪い。』と感じたのを覚えている。

■里見八犬伝│KADOKAWA公式

【各章の個性的なボス達】
第一章 阿修羅
第二章 双斧鬼
第三章 魔界半蔵
第四章 呪縛石
第五章 風魔九人衆
第六章 落武者 霊群
第七章 大即身仏

 稼働当時、筆者は複数店舗のゲームセンターでアーケードゲームを楽しんでいた。「最後の忍道」は、どの店舗でも順番待ちになっており、当時中学生の筆者は、ゲームセンターに通える回数が減っていたため、十分なプレイ回数を得られなかったが、あのグラフィックから受けた強烈なショックは今も忘れられない。

【当時のゲーメスト】
1988年10月刊行 No.25 の表紙に「手ごわいぞ」と書かれている
No.25 の紹介記事に画面写真がある
1989年2月刊行 No.29 ゲーメスト大賞 掲載
「一番好きなゲーム」で10位
「ベストグラフィック賞」で9位

ゲームセンターで人気を博した本作が「PCエンジン」へ移植される。

 ファミコン発売の1983年から1988年頃は、ファミコン全盛期であり、任天堂を筆頭に、ナムコ、コナミ、タイトー、カプコンなどの人気ゲームメーカーが、アーケードゲームを次々とファミコンへ移植し、当時のアーケードゲーマーを喜ばせていた。ファミコンオリジナルのタイトルも数多く発売されていたが、アーケードゲームからの移植も絶え間なく行われていた。

【ファミコンのゲームソフト】
ファミコンに移植されたアーケードタイトル(例)

 そこに現れたのが、1987年に発売された次世代家庭用ゲーム機「PCエンジン」だ。

 発売当初は、ハドソンがアイレム「R-TYPE」を、NECアベニューがセガ・エンタープライゼス「ファンタジーゾーン」を移植し、PCエンジンの性能を世に見せつけた。さらにナムコが自社ブランドの「妖怪道中記」「ギャラガ'88」「ドラゴンスピリット」を次々とアーケードからの移植した。アイレムもその流れに漏れず、1989年1月14日に「ビジランテ」。同年12月1日に「Mr.HELIの大冒険」を移植。各社が、高い完成度の移植タイトルを次々と送り出し、ユーザーを大いに満足させていたのである。

【PCエンジンのゲームソフト】
PCエンジンに移植されたアーケードタイトル(例)

 「ファミコン(1983年)」と「PCエンジン(1987年)」のグラフィック性能を比較すると、PCエンジンの性能はファミコンの性能をはるかに超えていた。コンピューター業界における4年間の技術進化の重みが鮮明に浮かび上がる。

 当時の筆者は、このタイミングでPCエンジンを遊ぶ機会があり、PCエンジンの本体性能の高さと、アーケードゲーム移植の可能性を肌に感じたことを今でも覚えている。ファミコンが家庭用ゲーム機市場で圧倒的シェアを誇り、独走状態であることに変わりはなかったが、PCエンジンに高品質の移植が次々行われる中で、我々アーケードゲーマーは、その存在を無視することはできなかった。

 そんな中、アーケード版「最後の忍道」稼働から2年を経て、1990年7月6日に家庭用ゲーム機「PCエンジン」用ソフトとして発売されたのである。PCエンジン版「最後の忍道」は、「アーケードゲームがそのまま自宅にやって来た」という感覚であった。ゲームセンターで人気だったタイトルを、好きなタイミングで順番待ちすることなく遊べる。まさに天国のような体験である。

 現在では、アーケード版が家庭用ゲーム機に忠実に移植されているが、PCエンジン版と比較すると、所々に違いが見受けられる。それでも当時の筆者にとっては「本物がそこにある」という実感が確かに存在していた。

 もし「最後の忍道」が「ファミコン」に移植されていたとしたら、先ほど紹介した第一章のボス「阿修羅」の攻撃や、「月影」と分身2体が、強化状態の手裏剣を、画面を埋め尽くす程放つ様は、ファミコンのグラフィック性能では到底実現しえなかったであろう。

【第一章 阿修羅】戦
強化手裏剣+分身2体+阿修羅の弾で画面が埋まる

 1987年発売の「PCエンジン」、1988年発売の「メガドライブ」、1990年発売の「スーパーファミコン」と、次世代機が出揃い、アーケードゲームの家庭用移植が活発になるタイミングだったこともあり、PCエンジン版「最後の忍道」の完成度は非常に印象深く、筆者にとって思い出深い作品となったのである。

「最後の忍道」を通して見える、ゲーム機の進化とユーザーの期待

 現在の視点で見れば、アーケード版との違いもあり、グラフィック表現や音源の部分で移植による制約が垣間見える。それでも当時のユーザーが感じた「自宅にアーケードがやってきた」という感動は、今なお色褪せない体験である。

 「最後の忍道」という作品は、和風のテイストと異形の世界観、そしてアクションゲームにシューティングゲームのようなテイストも含み、唯一無二の存在感を放っていた。その個性は、PCエンジンの性能とメーカーの技術によって、しっかりと再現され、数多くのゲームファンに鮮烈な記憶を残したのである。

 PCエンジン版「最後の忍道」は、2020年3月19日にコナミから発売されたゲーム機「PCエンジン mini」に、海外版「NINJA SPIRIT」として収録されている。また、アーケード版「最後の忍道」がハムスターの「アーケードアーカイブス 最後の忍道」として、Nintendo SwitchとPlayStation 4向けに配信されている。「最後の忍道」に興味を持たれた方は、是非一度楽しんで欲しい。

【PCエンジン mini / 全収録タイトル渡辺浩弐氏解説付トレーラー】
【PCエンジン版「最後の忍道」スクリーンショット】