インタビュー

まだ進化する「PlayStation VR」開発トップ・伊藤雅康氏インタビュー

PSVRエクスクルーシブにもこだわらず。SCEトップガンチームで鋭意改良中!

9 月17日~20日開催(17、18日ビジネスデー)



会場:幕張メッセ



入場料:1,200円(税込)

PlayStation VR

 TGS 2015で最大の注目を浴びていたVRシステム「PlayStation VR」。世界で随一の普及台数となり、膨大なゲームタイトルが続々とリリースされているプレイステーション 4をベースとするVRシステムであるだけに、その使いやすさや入手性の高さ、供給されるコンテンツの安定したレベルの高さと言った点で、PC界隈で勢力を広げるOculus RiftやSteamVRに対して大きなアドバンテージを持つ。

 これまでPSVRについては、SCEWWSプレジデントの吉田修平氏が取材に応じてきたが、今回、PSVRの開発トップを務めるSCEのエグゼクティブ・バイス・プレジデント、伊藤雅康氏にお話を伺うことができた。伊藤氏はPSプロダクト事業部長・ソフトウェア設計部門長として、PSプラットフォームのハード面の設計・開発を統括している人物だ。

 伊藤氏はその立場からPSVRの開発・設計についての現状や将来のロードマップを語り、またシステム担当としての立場から、VRコンテンツクリエイターのフィードバックの有効性など、これまでPSVRの完成度を高めてきた様々な要素について語った。本インタビューを通読していただくことで、2016年に上半期のローンチに向けて鋭意開発が進められているPSVRの現状と将来についてよく見えてくるはずだ。

グループの総力で進むPSVRの開発。VR酔いとの戦いも出口が見えてきた!

合同インタビューに応える伊藤氏

──今回正式名称が「PlayStation VR」となったProject Morpheusですが、開発状況として率直なところはいかがでしょうか?

SCE エグゼクティブ・バイス・プレジデント 伊藤雅康氏:限りなく順調に来ていまして、ハードウェアに関しては、今回展示させていただいているものでほぼ最終形になっています。あとはソフト面のチューニングを、各デベロッパーさんと一緒に頑張っている状況です。

──PSVRの開発チームは、どういった経歴の方々が集まっているのでしょうか。

伊藤氏:もういろんなところから集まっています。最初は本当に研究開発のメンバーだけで始まったんですけれども、だんだんといろんなところから専門家を入れていった感じですね。例えばソニーのヘッドマウントディスプレイ「HMZ」シリーズに携わっていた人たちにもPSVRの開発チームに入ってもらっていますし、PS4のソフトウェアの開発をしてきたメンバーもチームも入っています。それこそ来年の上半期に向けて、トップガンチームをつぎ込んでいるという感じになっています。

──PS4本体の開発のときは、デベロッパーさんの意見をかなり取り入れながら仕様を決めていったというお話を伺ったことがありますが、VRに関しても同様の形で開発を進めているということでしょうか。

伊藤氏:今回はもっと深くやらせていただいています。全部ではなく一部のデベロッパーさんと、うちのワールドワイドスタジオが中心になっていますけれども、特に今回一番気にしているのは“酔い”の問題なんですね。ハードウェアとしてどう作ればいいか、逆に、ゲームソフトとしてどう作ればいいか、その両面をディスカッションしながらやってきました。そういう意味で、本当に初期の頃から深く協力しながらやってきています。

──2016年上半期の発売予定に向けて、残されたタスクというのは?

伊藤氏:先程申し上げたとおり、酔いに関してのチューニングですね。同じゲームをやっても凄く酔うという方もいらっしゃいますし、全然酔わないという方もいらっしゃいます。健康に直結するところもありますので、我々としては、なるべく完璧なところまで持って行きたいと考えているんですね。ハードとしてはほぼ完成しているんですが、それをどうチューニングしていくかとか、デベロッパーさんがゲームソフトを作る上でどうすればいいかとか、いろいろな試行錯誤をしている段階です。それらを発売までに出せるレベルに持っていければと思っています。

──酔いに関しては、解決への道筋はだいたい見えてきていると見ていいですか?

伊藤氏:だんだん見えてきてはいます。でも、これくらいでいいだろう、と思っても、まだすごく酔う方もいらっしゃるんですね。そこをどこまでやったらいいのか、という線引が凄く難しいところです。いまはそこのガイドライン作りに注力している段階です。それをやらずに出してしまって、「PSVRなんてとんでもない」なんて評判になっちゃうのが凄く恐れているところなんです。ですからなるべく完璧なものに近づけて出したい、という思いですね。

──酔いの軽減と品質の向上という点では、今回、新たに90Hzネイティブモードが追加されるなど、システムアップデートによる進化も大きいですよね。つまりハードとHMDの両方を一度に手がけていることで、どんどん最適化を進めていける強みというのは、SCEさん的に大きいのではないですか?

伊藤氏:そこが一番のポイントだと思っています。我々はワールドワイドスタジオも持っていますので、ゲームソフト、本体のハードウェア、それからHMD、その全部を自分のところでチューニングしていけるんですね。実際に発売するときにも、最初から最後までのエコシステムを持っていますので、そこが他社にくらべて強いところだなと考えています。

ハード面の開発はほぼ完了したというPSVR。今後はコンテンツデベロッパーと協力しながらソフトウェア面のブラッシュアップを続けていく模様だ

PS4エコシステムとしてのPSVR。将来的にはB2B向けの展開も?

伊藤氏は話がノッてくるととにかく笑顔が多くなる。PS4プラットフォームの順風満帆ぶりに満足しているようだ

──PSVRというのは、PS全体のビジネスに対してどういう位置づけであると考えていますか?

伊藤氏:我々としては、PS4のエコシステムのひとつ、というふうに考えています。ですので、まずPS4と繋がるということが最初から考えていた条件です。他社さんですとハイエンドのPCと繋ぐことを考えていると思いますし、正直なところハイエンドPCに繋いだほうが高品質なものができることはわかっていますが、我々としてはPS4のパフォーマンスを最大限に使ったVRを、PS4のエコシステムのひとつとしてやることに集中しています。

──PS4の売れ行きは好調ですが、PSVRについてはどれくらい売れるとお考えですか?

伊藤氏:具体的な数字は申し上げられませんけども(笑)、おかげさまでPS4は世界的にインストールベースが増えていってますし、その流れでVRのシステムも多くの方に買っていただけるとありがたいなというふうに思っています。

──PS4、PSVRとセットで購入するとそれなりの金額になりそうですが、そのあたりについて特別な戦略は考えていますか?

伊藤氏:PSVRの価格についてはまだ何も申し上げられませんが、PS4は値下げをいたしましたし、そこは本当にお買い求めしやすいレベルの値付けをしたいなというふうには考えています。というのも、Oculusさん等ですとハイエンドのPCが別途必要になるということで、結構な価格になってしまいます。そこが我々としてはPS4を前提に性能も品質も担保したうえで、比較的低価格にできますので、そこが我々の強みの一つだと思っています。

実際に体験してみると、やはりプラットフォームを面白くするのはやはりコンテンツの力によるところが大きいことがわかる

──プレーヤー側に推奨するプレイスタイルについてはどうなるのでしょうか。例えば10分遊んだら休憩しましょうとか?

伊藤氏:そこはまさに今議論しているところです。例えば今回展示させていただいている「RIGS」だと、勝負がつくまでにけっこう時間がかかるわけですよね。そういうのは途中で休みを入れたほうがいいのかとか、そこはまさにゲームの作り次第だと思っています。あるいは、例えば凄い大きなAAAタイトルで、最後のところだけVRで見せるとか。そのあたりは、健康のことまで考えてどういう形がいいのか、いままさに議論中なんですよ。そういうのもあって、発売は来年の上半期とさせていただいています。

──初期のHMZでは一定時間で警告が出てましたよね。それが非常に不評で。

伊藤氏:そうなんです(笑)。あれはちょっとどうなのかな、というのはありますね。ハード的にはどれだけつけていても大丈夫なようには設計してきていますが、やはり人によって違いがありますので、どこまでやったらいいのかというのは正直、難しいところです。例えば車酔いを全くしない人もいれば、すごく酔っちゃう人もいますし、それと同じですね。

──海外と日本国内のプレイスタイルの違いというのも大きいのではないでしょうか。

伊藤氏:ありますね。日本と海外で、人の使い方が全く違っているんですね。海外の方って、HMDをつけた状態をみんなに見られるのを良しとしているというか、それをSNSにアップしたりすることが多いです。日本の場合、人に見られるのがカッコ悪いなという方がけっこういらっしゃいます。HMDを被って何かやってるのを「あいつバカみたい(笑)」って。

──HMDをつけている姿を見られるのが恥ずかしいから、カラオケボックスならぬVRボックスみたいな場所があればいいのに、という意見を聞いたことがあります。

伊藤氏:そうなんですよね(笑)。なので、「PLAYROOM VR」のようにHMDをつけた人と普通の画面を見る人が一緒に遊ぶようなパーティ系のコンテンツって、海外ではすごくウケるんですが、日本はどちらかというとお一人様、というふうになっている感じはあります。

──ローンチ時点でどれくらいのコンテンツを用意しようと考えていますか?

伊藤氏:それはもう多ければ多いほどいいです(笑)。少なくとも今回、我々のワールドワイドスタジオから発表しているコンテンツについては、すべてローンチ時点で出せると思います。他社さんのはわからないですけれども(笑)。

──「エースコンバット」とか「グランツーリスモ」シリーズとかもVRでやりたいですよね。絶対やりたいですよね(笑)。

伊藤氏:そうですね、車のゲームは本当に自分が運転しているように感じられますので(笑)。

──その他、ゲーム以外の展開についても考えていますか?例えば教育や医療といった分野など、VRの可能性としては様々あると思います。

伊藤氏:ローンチ直後から、というふうには申し上げられませんが、どこかのタイミングで、ゲーム以外の活用もやりたいというふうには考えています。

──横活用という意味では、例えばPCに繋いで使うということも?

伊藤氏:たとえゲーム以外の分野だとしても、B2Cに関しては必ずPS4を使いたいと思っています。ただ、B2Bの展開がもしあるとしたら、相手の要望にもよりますが、もしハイエンドのPCを使いたいとおっしゃるのであれば、それも考えないといけないかなというふうには思っています。まだ具体的には考えていませんけどね。

──例えば、E3で自転車を使ったアトラクション的なVRデモがありましたが、ああいったものも今後やっていきたいという考えもありますか。

伊藤氏:ありますあります、ああいうのをコンシューマー向けにやるかどうかは別としても、例えばフィットネスセンター向け等、B2Bの形にはなると思うんですけれども、そういったところにもPSVRを入れていければと考えています。

──没入感を高めるという点では、実写コンテンツと、CGのゲームコンテツでの違いはどう捉えていますか?

伊藤氏:ゲームこそVRに向いているかなと思っています。というのも、実写だと、カメラの取り方によってもだいぶ変わってきますし、撮ったものに対して細工がしにくいなど、いろいろと難しいことが多いです。ところがCGですと、VRに合わせて作っちゃえばそのまま良い物ができるので、ゲームのほうこうそVRに適しているというふうに考えています。

──VRの面白さを一般に広げる上では、実際に体験してもらう機会を増やすことが有効かと思いますが、TGS後もユーザーさんが触れられる機会を設けるような施策や、今後こうしたいという考えはありますか?

伊藤氏:そのあたりはPR担当の方のほうが詳しくお答えできると思いますが(笑)、それはもう、日本だけでなく世界中でやっていきたいと考えています。

──そのためにも、PSVR自体のハードウェアの数自体は、もうかなり用意されているんでしょうか?

伊藤氏:すごい数かどうかはわかりませんが、デベロッパーさん向けと、デモ用にかなりの数を作っています。ただ、それでも足りないのでもっとよこせとは言われていますけども。やっぱり今、本当に引く手数多ですので(笑)。特にデベロッパーさんに対しては、VRをやりたいと仰っているところには行き渡っていると思います。それでも、もっとくれと言われているのは正直な所確かですね。

長期的にはハードウェアの世代交代も視野。当面はシステム・ソフトウェアでの進化がまだ続く!

OculusやValveとも仲良くしていると語る伊藤氏

──2012年のOculus Riftのキックスターキャンペーンからこのかた、PC界隈も含めてVR全体が盛り上がってきています。その潮流がPSVRの開発に与えた影響というのは、やはり大きかったんでしょうか?

伊藤氏:そはものすごく大きいと思います。特におっしゃるとおり、Oculusさんとは本当に仲良くやらせていただいています。極秘の情報のやりとりはしませんけれども(笑)、この間のE3でもいろいろと情報交換をさせていただきましたし、そういう意味では本当に良い意味で、互いに切磋琢磨して、一緒に盛り上げていけてるかなというふうに思っていますね。

──年末から来年にかけて登場する各社のVRシステムを見比べると、どれもフルRGBの高速駆動型OLEDディスプレイを採用するなど、どんどん収斂進化をしている印象があるのが面白いですね。

伊藤氏:そうですよね、結局は酔いであったりとかの解決を研究していくと、やっぱりこういう方向に近づいていくのかなと思っています。ただトラッキングの仕方は違ってるところがありますね。それほど大きなところではないですけれども、カメラについてもVR用に手を加えてきています。

──今後の進化という点では、例えばPSVRとセット利用が想定されているPlayStation Moveは2010年、PS3時代のハードウェアですよね。このあたり世代交代していくというのは視野に入っていますか?

伊藤氏:いろいろ検討はしています。いまのところは、ユーザーさんの初期投資を大きくしたくないということもあって「有り物は全部使っちゃおう」という考えでスタートしてきていますが、それが一巡して次の世代を考えるフェイズになったら、将来的には、周辺デバイスも次世代のものに進化していくことは考えていかなくてはならないなと思っています。

──HMD自体も、世代交代はありうるというわけですか?

伊藤氏:それもあると思います。いま関連技術がどんどん進化していますので、例えば今は無いですけど4Kのパネルが出てきたらそれにするといったことも考えられますしね。しかしまずはVRの世界を、一部のハイエンドの方だけではなくて、裾野を広げていくことを考えています。

HMDをつけた人と、コントローラーを握った人との非対称プレイを可能とした「PLAYROOM VR」

──ソフトウェア面の進化も大きそうですよね。例えば「PLAYROOM VR」で新たに実現したセカンドスクリーン出力など、隠されたポテンシャルが次々に引き出されているようです。

伊藤氏:正直、別々の画面を同時に出力するというのは、我々のハードウェアの作りとしては想定していませんでした。でもコンテンツのデベロッパーさんと話をしていくなかで「こういうことができたらいいけど、できないの?」と言われて、ウ~~ンって考えてたところ、「あっ、できるじゃん!」ってなって(笑)。逆に我々も、デベロッパーさんと話ができたことで新しい使い方を教えてもらえて、PS4のポテンシャルを引き出せたという面も大きいですね。それはすごくいいことだと思っています。

──そうすると、ハードはそのままでも、システム・ソフトウェアでチューニングできる範囲で、まだまだ体験が上がっていく余地はあるということでしょうか。

伊藤氏:はい、それは是非期待していたければと。まだフィックスしてない部分もまだありますし、発売までのタスクとしてやることはまだまだありますんで、けっこうギリギリですね(笑)。

──ちなみに、PSVRのHMDをよくよく見ると、両レンズの中央、額にあたるあたりに謎の穴があるんですけども、これは一体なんなんでしょうか(笑)?

伊藤氏:額との距離を測るセンサー(※正式名称:装着センサー)です。って、言っていいのかな(笑)。

両レンズの中央にある謎の穴。これは装着センサーであることが判明した。距離もとれるということで、個人差に合わせた画像調整などにも使われそう?ただ、今回は詳しくは語られなかった……

VR全体の盛り上がりを大切に。PS4エクスクルーシブにもこだわらないオープンな姿勢

PS4のアーキテクチャはPCに近く、PSVRへの移植もやりやすいとのこと

──たとえば、インディーやノンゲーム系のデベロッパーさんや、PCメインでやってきたアジア系のデベロッパーさん等ですと、まだPSビジネスに参入されてないところも多いかと思います。そういった方々が先にOculus Riftでコンテンツを作って、PSVRに移植したいというのは歓迎していますか?

伊藤氏:それはそうです。逆に、PS4はアーキテクチャ的にPCに近いですので、わりと移植しやすいんですよね。そういう意味では、そういう要望がありましたら是非やってくださいというふうに言っています。実際、デベロッパーさんはすごく移植しやすいと仰ってくださっていますし。わりと皆さん短期間でやってらっしゃいますね。

──例えばPCですとUnity、Unreal Engine、CryEngineと、メジャーどころのゲームエンジンは軒並みVR機能のインテグレートが進んでいますが、PSVRに関してもそれに近い環境は整っていますか?

伊藤氏:いままさにそういう話を各メーカーさんとさせていただいていますし、進んでいます。今回出させていただいているデモの中にも、一部うちのSDKじゃないものも含まれています。

──そうするとさらにPCと互換しやすくなりますね。となると、たくさんのコンテンツPSVRのエクスクルーシブで囲っていく、というにこだわりは無いと。

伊藤氏:最初の方にも申し上げましたが、わりとOculusさんやValveさんとも交流をさせていただいて、みんなでVRの業界を盛り上げていこうよ、という話をしていますから、囲い込むということはあまり考えていないですね。

──PS4もPCも関係なく、とにかくVRが盛り上がっていけばそれで良しという考えですか。

伊藤氏:ええ、まずはそこかなと思っています。

──最後に、ユーザーの皆さんにPSVRならではのアピールポイント、PSVRだったらこんな体験ができますよというのを教えて下さい。

伊藤氏:まず、VR一般としては、PS4に限らず是非体験していただきたいと思っています。聞くのと見るのとでは本当に全然違いますので。まだまだ一般のかたには充分な数が用意できていませんで恐縮ですけれども、今回のようなイベントの場に是非足を運んでいただきたいと思っています。

 それから、PSVRの強みとして、これまでPS4で動いていたゲームタイトルのVR版、というのも今後は当然出していきたいと思っています。今まで遊んでいたゲームがVRになるんだよ、というのは多分PSプラットフォームでしかできないんじゃないかなと考えていますので、その面でもPSVRに期待していただきたいと思っています。

(佐藤カフジ)