インタビュー

1990年代の熱き「バーチャファイター」ムーブメントを描く!

改めて感じる「2」の魅力。大塚氏「2」の色彩感覚は素晴らしい

改めて感じる「2」の魅力 ~大塚氏「2」の色彩感覚は素晴らしい~

技術指導のおふたりが舞台で使われる映像を収録。こちらは後編で取り扱うので、お楽しみに!

――よく(稼動する)初代の基板を見つけられましたね……。

大塚氏:ボクが持っていたやつは、やっぱり死んでいましたね。Model-1ってバージョンがいくつかあって、1番最初のModel-1ってサウンドボックスとかバラバラなんですよ。実際稼働させたらROMが死んでいて「ミカド」にあるやつも死んでいて、基本的に市場で販売されているものがないから「これはどうしよう」という話になったんだけど、長野の「高井商会」さんが基板を相当持っていたのでレンタルで対応していただいたんです。「高井商会」さんの基板は後期のもので物凄く安定した基板で良かったです。だからと言って「1」で大会をしようにもすでにプレーヤー人口が圧倒的に少なすぎる(笑)。

――急にサターンと数百円のゲームを買い集める人たちが……。

大塚氏:全然別物ですからね、あれ!(笑)。この間、初代の基板を持ってきて池田と八丁堀(池田氏は「ミカド」名物社長。八丁堀氏は技術面にも長けたこちらも著名なスタッフ)とここで立ち上げた瞬間、基板からあのBGMが鳴った瞬間、ボクら全員鳥肌が立って「うぉー!!」って騒いだ。「動いたー! かっこいいー!」っていった瞬間、みんなドン引きで(笑)。俺らだけがカクカクしたダンボールに興奮してるっていう。

東京メガネ氏:初代と「2」は音楽がいい! 金属音とか、他のゲームとは違いますね。

大塚氏:「2」は今やっても遊べるし、凄いシビアなゲームだと思うんだけど……ただ初代は今やると重っ! とかさ、遅っ! とかさ。

――秒間30フレームですものね。

大塚氏:プログラマーズゲームだなぁと思うんですよ。グラフィックスデザインのウェイトが低いんですよね。プログラマーたちがプログラムのほうで処理して作っているゲームだなぁと思うんですよ。「バーチャファイター」って、それからシリーズを重ねるごとにキャラクターデザイナーやグラフィックスデザイナーが参加してくるからよりキャラクター色が強くなるけど、そのへんのバランスでいうと、凄くプログラムっぽい初代と、プログラムっぽさにいいバランスで色気をつけているのが「2」だとボクは思っていて。「2」の色彩感覚とか、素晴らしいな! と思いますね。

――初代は鈴木裕さんのシミュレーター感覚が1番出ているのかもしれませんね。

大塚氏:初代って「バーチャレーシング」の流れだなぁと思うんですよね。

東京メガネ氏:言い方があっているかどうかわかりませんが“メカニカル”という感じはしますね。

大塚氏:そうなんだよね。「2」をこの1カ月くらいずっと見ていると、そりゃぁ邪影丸も「2」をやり続けるよなっていうくらい、色気があるよね。

邪影丸氏:やっぱり、いいですよね。

邪影丸さんのみ諸事情で顔出しNGとなっております

――今日までやり続けたものだからこそ、皆に伝えたい「2」の魅力はなんでしょう?

邪影丸氏:「2」は……まだ謎があるんです。だいぶ色々調べて謎は解けてきたんですけど、それでもまだ謎がある。でも、今のところの“理屈上の理想”はだいたいわかってるんですよ。こうすればいいって。それに頭と手がいまだに追いつかない。理想にどこまで近づけられるかという戦いに近いんですよね。対戦で人と戦っているんですけど、そのなかで自分とも戦っているんです。

――思い描くような動きを再現できない感じですか?

邪影丸氏:そうですね。思い描くというか、理想としているところが、たぶん“人としてのレベル”を超えるんです。

大塚氏:何をいってらっしゃるんだろう(一同笑)。

邪影丸氏:理論値の反応を超えた部分が、理屈としてわかっているんですね。

――脳を通さない反応みたいな?

邪影丸氏:はい! それに近くなる瞬間があるんですよ、やっていると。よくいう“バーチャハイ”、見える! っていう感覚的なもの。ずっとやっていると、頭とキャラクターが一致するというか。手を通して考えて動かすっていう動作ではなく、思ったとおりにキャラクターが動く瞬間があるんですね。その全能感がたまらないというか……。

――大塚さんと東京メガネさん、まるで興味がない感じが……。

東京メガネ氏:たぶんちょっとおかしいステージにいっちゃってるなって(笑)。

大塚氏:いやいや、そういうことはないです(笑)。

邪影丸氏:やってて、動かしてて楽しいというのが1番だと思うんですよね。そこの行き着いた先がアレなんですけど。

大塚氏:よく、入力に関して相当シビアなゲームだという言い方をされていて。それこそ「4」、「5FS」をやった人たちからすると、相当難しいというか、かなり厳しい差があるゲームだと思うんですよね。その難易度の高さ、奥深さ、まだ解析されていない部分に、なぜかある日突然急にひっぱられるというか、開眼してしまった邪影丸という存在自体、ボクは面白くて仕方がないですけどね!

邪影丸氏:以前もいったんですけど、「2」が終わってから“謎”をずっと引きずっていたんですよ。アレって結局なんだったろうって、ずっと引っかかっていた部分があったんですね。それが家庭用が出たことによって、家で対戦などができる。突然思い立ってコントローラーとXboxを買って、何もいわず家に帰ったんです。速攻、ですね。15年、20年間くらい、ずっとたまりたまっていたものがあったっていう。

大塚氏:(東京メガネさんに)元々そういう子だったの?

東京メガネ氏:う~~~ん……ま、追い詰めるのは好きかもしれない。自分を追い詰めるのは。

邪影丸氏:後は、そのとき置かれていた状況ですね。学校にいってて、論文を出し終わった開放感、その勢いでいってしまった感じ。たまってきたものが、堰を切ってしまって。

大塚氏:結局、邪影丸はそういう動きをしていて、一方でボクらはボクらで「3tb」世界大会をやってみたりとか。「バーチャファイター」20周年とかと関係なく、色々な個々の想い、出来事があった訳ですよ。それがひとつ、ここにきて舞台という形でまとまっていったというか。物凄くいいタイミングで舞台が発生していた。たとえば、これが1年前とか1年後とかだと、状況が全然違うと思うんですよ。それこそ1年前だったら……やってるかな?(笑)

東京メガネ氏:やってそう、凄いやってそう(笑)。

邪影丸氏:1年前だったら、少なくともボクは参加していない。

大塚氏:あぁ、そうだね、それはあるね。

邪影丸氏:知り合ってもいないというか、そこまで連絡をとっていないので。今のタイミングだから、初めてこうやってお手伝いに来ることができる。

大塚氏:1年前だったら、どうだろう? やはり噂になったんですよ、邪影丸のブログがイカレてるっていう。

――たしかに、2013年とか2014年の項に「2」の話題がずーっとあるんですものね。確かにあれは、ちょっと衝撃的です。

邪影丸氏:衝撃なんですかね? あれやっぱり?

――ブログのトップにカゲの技表とか出てくるの、おかしいです。

大塚氏:「ヤバい! 邪影丸のブログがヤバい!」と話題になって。「今、邪影丸の名前がクローズアップされるの凄いぞ!?」なんてバーチャ系の連中が飲み屋で凄い盛り上がって。実際見てかなりショックを受けたりとか。そういう本当に……タイミングが凄く良くて。

邪影丸氏:そういうタイミングとかも含めて、この舞台で……なんていうんですかね? ギュッ! っと凝縮されたものが弾けるっていうか。この次、「バーチャ」に関して何があるのかっていうのが、何もない状況でこの舞台っていう。

大塚氏:邪影丸から「2」、「2.1」をどうにか盛り上げたいという話をもらって。「ミカド」に限らず「2.1」を稼動させてみることはあっても、盛り上がるには至らないんですよ、どうしても。「3tb」って完全な移植がないので「じゃぁ基板を動かしてみるか」とうちの事務所で皆で遊び始めたとき「やっぱりこれは面白いぞ。今やるべき面白さがある」という結論を「ミカド」の店長とも出したんですけど、かといってアレをそのまま「ミカド」とかゲームセンターに置いても、すぐにはやらないんですよ、やっぱり。懐かしがってやる人はいるとしても、それ以上にはならなくて。昔の基板を稼動させるにあたっては、状況、演出とか何らかの“仕掛け”を作らない限りは、ただただ置いてあるだけっていうことになっちゃうんですよね。

――レトロゲーのラインナップの一部になってしまう。

大塚氏:実際、さっき邪影丸がいったように「2」、「2.1」を「ミカド」に置いても全然稼動しない。相談を受けてボクも考えつつ「どうしたらいいのかな」と思ったんだけど、いまこの舞台で、ずーっと稼動させて色々なプレーヤーたちがやったことによって「2」って“新しくなってる”よね!

邪影丸氏:時代が1周しちゃった(笑)。

大塚氏:少なくとも、今稽古場にきて「2」をやり続けている役者さんたちに関しては“これが最新作”な訳ですよね。

――まったく免疫がない人もおられますものね。

大塚氏:柏ジェフリー役の吉沢亮くんに関しては、初代が出たときは、まだお母さんのお腹のなかにいたかどうかもわからないみたいな状況なわけですから。

邪影丸氏:お手伝いにきて嬉しいのが、役者さんたちが凄く楽しそうにこのゲームをやっている。自分のなかで、10数年、20年近く鬱屈してきて「このゲーム、面白いのに!」と思っていたのを、今まったく知らなかった人たちが触って、そういうふうに思ってくれているというのは、自分のなかで凄く嬉しい。

大塚氏:前に邪影丸に相談されて「2」、「2.1」をどうにかしたいといったとき「新しくさせるにはどうしたらいいのか」というところの答えが凄く見えづらくて……ノスタルジックということになると、やる人が限られちゃう。ドラマ「ノーコンキッド」のなかでも「バーチャファイター」が出てきてるんだけど、あれって凄くノスタルジックに演出をしてしまっている側面があって、懐かしい以上のものにならなかったっていう反省がボクのなかにある訳です。

 ただ、それは別にボクが脚本を書いているわけでもなんでもないので、しょうがないですけど。今回の舞台で……なんていうのかな。新しい魅力というか、煤が払えたというか、なにか“ひと皮むけた”という印象になるんじゃないかなというのがあります。

――光明が見えたというか、演者さんたちの反応がヒントになりましたか?

出演者への技術指導は文字どおり“天職”といった感の東京メガネさん

東京メガネ氏:自分個人としては……ですけど。「TOKYOHEAD」という小説も知っていましたし、ゲームが小説になること自体、当時から凄いなと思っていて、深夜ドラマとかはわからなくはないんですけど、舞台になるなんていうのは想像もしたことがなくて。自分自身、どういう風になるんだろうと。さっきギチさんがいっていた“新しい変化”っていうのは、想像もしていないんでわからないんですけど、あるんだろうなって。

大塚氏:アーケードに出戻ってきて取材をしたり、原稿を書いたりするなかで、自分のなかにあるテーマにもなってくるんですけど、結局基板も人間も“火を入れない限りダメになっちゃう”んですよね。基板ってほっといたらどんどん劣化するし、定期的に火を入れてあげなきゃいけない。人間というのもそういうところがあって、普通に日常生活を送るだけでは錆びていく部分も当然あって。

 そういう印象をずっともっているんですけど、これだけの時間「2」を稼動させて、触り続けて、レクチャーして上手くなるという行為があったとき、今ここでは「2」自体がホットなんですね。世界中でたぶんここが今1番ホットだと思うんだけど(一同笑)それをまたグローブ座という場所にもっていって、物凄い数の人間に見せることによって、たぶん「2」ってモノ自体の熱量は確実に上がる訳ですよ。

 それくらいまでしないと、ノスタルジックを乗り越えられないなって思うんですよね。ノスタルジックって「いやー、懐かしいね」ってものの数時間で終わっちゃうんですよ。そこから先のエネルギーを生みだすためには、やはり物凄い力が必要になるし、そのために今回の舞台は凄く有効なんだなって思う。結果的に、邪影丸が望む「2.1」稼動化計画の野望には1歩近づくんじゃないのかな(笑)。

邪影丸氏:俺ん家というか、俺の部屋よりホットな場所ができた! みたいな(一同笑)。

大塚氏:そういう意味でいうと、舞台がどうのとかじゃなくて、「2」に関してホットになっていることに関して1番嬉しいのは邪影丸(笑)。確実に1番得をしている。間違いない(笑)。

邪影丸氏:そのために立候補した(笑)。そのためなら!。

――これを逃したら次の機会はいつあるんだ!? って話ですもんね。

邪影丸氏:そうですね。だから、本当に嬉しいです(笑)。

大塚氏:しかも、常に対戦相手は師匠である東京メガネ。これ以上ない状況ですね。

――師匠の立場としてはいかがでしょう?

東京メガネ氏:いや~、このタイミングで……「3tb」世界大会のときにも8年ぶりにレバーを触って、「2」、「3tb」と「バーチャファイター」シリーズをずっとやってきましたけど“やりきった感”が凄くあったし。やっぱりアーケードの格闘ゲーム業界は勝ち負けのどっちかがすべてなんで、その世界に疲れちゃったっていうのもあったし。自分は田舎に住んでいるんですけど、田舎で対戦する相手がいないから、色々なところで強くなりたい奴らがいるから教えていった結果、弟子みたいになっていったという形なんですけど。

 ギチさんが企画した「3tb」世界大会のとき、8年ぶりにゲームをして「やっぱり、出てきたほうがいいよ! みんないるし、期待してるんだから!」という声が凄くあったので「これは少しやらないといけないのかな」くらいにしか思わなかったんですよね。

大塚氏:それで出てくれたおかげでね、こうやって……。

東京メガネ氏:今日の撮影なんか、どっちかひとりだけだったら無理ですね(笑)。どこかからつかまえてこないと。

大塚氏:「ノーコンキッド」の撮影は、新宿ジャッキーほか当時のプレーヤーが来てくれたんですが、羽田さん(新宿ジャッキー)は早かったね! 練習1時間くらいで「ん、これ以上上手くなることはない!」って、速攻でやめて帰った(一同笑)。打撃マンとちび太は、やっぱり抜群に上手くて、他のキャラクターもサポートしてくれたから、そういう意味では彼らが1番役に立ってくれたんですけど。

 ただあのとき何か違う感じがあったんですよ。なんというか言いづらいことになっちゃうんだけど、彼らにとっても“終わったものに対してつきあっている”という印象が結果的に拭えなくて。みなさん凄くがんばってくださったんですけど、なんともいえない感じで残ってしまって。今回みたいな“みんなが楽しむ”というのとはちょっと違う。義務感のウェイトが高かった印象で、今回はそこが大きな差じゃないですかね。

邪影丸氏:話がそれてしまうんですけど、その「ノーコンキッド」の回は録画してスローで見て、最後のスタッフロールを見て「なんで俺を呼んでくれないんだ!」とひとりで家で思ってた(一同笑)。

――本記事を読まれる人も、多くはノスタルジーから入ると思うんです。劇場に足を運ぶまでもそうだと思うんですが、実際の舞台から放たれているものって、絶対に前を向いてますよね。

大塚氏:1番最初に顔会わせと本読みがあって、そのあとに軽く懇親会があったんですけど、役者さんと上田さんとボクがいて、みんなで話をしながら飲み食いしていたんですけど、ボクが最年長なんですよ。41歳。で、みんな俺より下なんです、上田さんも。ということは、それで作られている舞台が、ノスタルジックになるわけがないんですよ、どう考えたって! 役者さんたちも「懐かしい」という感じではない訳ですから。そこでどんどん皮がむけていくというか、懐かしいムービーとか懐かしい舞台じゃなく“新しさで表現されていくんだな”っていう気がして。

 ふたり(東京メガネさんと邪影丸さん)も何度か稽古を見ていると思うけど、2015年に生きている若者たちがやる芝居だし、しゃべりなんで、やはり同時代性があるというか、古臭いものには全然ならないという感じがあるよね。僕がノスタルジックにモノを考えるのが凄く嫌いな人なので、特にアーケードやゲームに関してはレトロみたいなモノの見方や考え方があまり好きではない。そうならない状況が今できているのは、凄くありがたいというか、期待できるところですよね。

――あの時代を切り取ってもってきたかのようなものが、舞台で見られるわけですね。発散されるものというか、気持ちとか。

大塚氏:そういう感じが凄くするし、そこにコーチをしている人間が、今もなお現役で研究している人間であるという“NOW”な部分。「バーチャファイターマニアックス」を持ってきて「よし、やるか」という感じではなくて、今も研究している人間がきているといのは大きいよね(笑)。

――確実に、ステージのエネルギーの一部になっていますよね。

大塚氏:なるなる。

邪影丸氏:ノスタルジックということでいうと、自分はこのゲームに対しては、あの当時凄くやっていて。「あんなゲームあったね。懐かしいな」という人も凄く一杯いると思うんです。凄くやって「俺、がんばったよ!」という人、いくらでもいると思うんですけど「知らないこと一杯あるよ! 新しいことが一杯あるよ!」 っていうのは言いたいです。いまだに新しいことがある。現在進行形っていうゲームもそうだし、舞台のなかでもそれが新しいミックスカルチャーっていうのか、そういうので変わってきているというのは、凄くあると思う。懐かしさだけじゃないっていうのは凄くわかりますし、それだけだったら自分も手伝いにこなかったかもしれないですね。

(豊臣和孝)