マイクロソフト伊藤哲志氏に聞く
ゲームユーザーに向けたWindows phone講座


2月2日 収録


 携帯電話の出荷台数が全世界的に鈍化する中で、急成長しているセグメントがスマートフォンだ。先鞭をつけたのはAppleのiPhoneだが、昨年になってAndroid OSを搭載したAndroido端末が日本でもNTTドコモから発売。老舗のWindows mobileも新しく「Windows phone」としてリニューアルされ、大きな注目を集めている。

 ゲームユーザーにとっても、スマートフォンは可能性に満ちたハードだ。従来の携帯電話より画面が大きく、高速なCPUを搭載し、タッチパネルなどの新しいユーザーインターフェイスを搭載したスマートフォンは、今までにない「遊び」が楽しめる。その魅力は先行するiPhoneゲームの世界的なムーブメントを見れば明らかだろう。

 こうした中で「仕事とアソビをつなぐケータイ」を旗印に、ゲームにも力を入れているハードがWindows phoneだ。すでに本誌でも昨年11月の発表会の模様や、プロペの「アイビィ・ザ・キウィ?」のレビューをお届けしている。セガ、ハドソン、KONAMIなどの大手もゲーム配信を始めており、その潜在能力を大きく感じさせている。

 しかし大多数のゲームユーザーにとって、まだまだWindows phoneは未知のプラットフォームではないだろうか。そこでWindows phoneの「中の人」に、本誌読者に向けて、初歩の初歩から特別講義をお願いした。講師はマイクロソフト株式会社 モバイルコミュニケーション本部シニアプロダクトマネージャーの伊藤哲志氏だ。


インタビューに答えていただいたマイクロソフトの伊藤哲志氏Windows phoneの公式サイトには様々な情報がそろっているアプリ配信サイト「Windows Marketplace for Mobile



■ 導入編

1. Windows phoneとは何か?

 Windows phoneとは、その名の通りマイクロソフトが提供する携帯電話向けのOS、Windows mobile softwareを搭載した携帯電話のことだ。その歴史は古く、1988年に発売されたPocket PCにまで源流がたどれる。その後、電話機能を搭載した初のWindows mobileがリリースされたのは2003年。そして2009年11月のWindows mobile 6.5のアップデートに伴い、OSのバージョンに関わらず「Windows phone」というブランド名に統一された。

 なおWindows mobile 6.5には、正確にはタッチパネル機能をサポートした「Professional」と、キーボードのみの「Standard」があるが、ここでは共に「Windows mobile 6.5」で統一する。

 iPhoneが日本ではソフトバンクモバイル1社からしか発売されていないのに対して、Windows phoneはNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル、ウィルコム、イー・モバイルのキャリア5社全てで搭載端末が発売されている。画面解像度やハードウェアキーボードの有無などで全13モデルがあり、そのうちWindows mobile 6.5が搭載ないしサポートされている端末は5モデルだ(2月上旬現在)。また、あわせてアプリケーションの配信サービス「Windows Marketplace for Mobile」のサービスが始まった。




2. Windows phoneはどこに売っているのか?

 ほとんどのゲームユーザーにとって、携帯電話といえば反射的にNTTドコモなどの通信事業者(キャリア)のロゴや、売り場が思い浮かぶのではないだろうか。これと同じイメージで家電量販店などに行っても、キャンペーン中などでもない限り、“Windows phoneの売り場”を見つけることは難しいだろう。というのも前述の通り、Windows phoneはブランド名で、キャリアの名称ではないからだ。

 Windows phoneは、Windows 7が搭載されたPCと同じように、各社の携帯電話の1モデルとして、端末にプリインストールされて販売されている。大手家電量販店や街の携帯電話ショップで、スマートフォンのコーナーを探してみれば、Windows phoneのロゴがついた端末が見つかるはずだ。ただし店舗によっては取り扱いモデルが少なかったり、モックアップの展示しかない場合もある。できるだけ大きな店舗で、デモ機を触ってみるといいだろう。




3. どの端末を買えばいいのか?

 端末がたくさんあるということは、どれを選んでいいかわかりにくい、ということでもある。しかも同じWindows phoneであっても、現在はWindows mobile softwareのバージョンで6.1と6.5を搭載した機種が併売されている。Windows mobile 6.1搭載の端末でもWindows phoneアプリの一部を動かすことはできるが、できれば最新のOSが入り、サクサク動く端末の方がいいだろう。となると、前述の5モデルに絞られてくる。

 そこで伊藤氏にゲームユーザー向けの端末を聞いたところ、それぞれ一長一短はあるが、強いて言えば「T-01A」(NTTドコモ)と「X02T」(SoftBank)の2機種がオススメという答えが返ってきた。理由として挙げられたのが、画面解像度とCPUの性能だ。まず画面解像度では、両機種ともワイドVGA(480x800ドット)の広さを持つこと。次にCPUはQualcomm製のSnapDragonを搭載し、クロック周波数が1GHzと高速なことだ。そのため高速な動作が求められるゲームに最適というわけだ。

 ちなみにこれ以外のキャリアでも、ワイドVGA、SnapDragon相当のCPUを搭載し、Windows Mobile 6.5がインストールされた端末は、今後発売が見込まれるという。また「T-01A」に搭載されているOSはWindows Mobile 6.1だが、購入後に無償で6.5にバージョンアップできる。


薄さ9.9mmで最速1GHzのCPU、約4.1インチのフルタッチパネルを搭載した「T-01A」「T-01A」とほぼ同スペックの「X02T」。絵文字にも対応している



4. Windows phoneは通信料金が高いのでは?

 携帯電話ユーザーにとって、画面の大きいスマートフォンは、それだけで通信料金が高くなるイメージがある。しかし、結論からいうとこれは杞憂だ。各通信事業者が提供するWindows phone向けの料金プランや、定額オプション(NTTドコモならBiz・ホーダイダブルなど)を組み合わせると、合計金額を割安に抑えられる。組み合わせにもよるが、現在使っている携帯電話と同じレベルで使えるだろう。携帯料金の目安については、Windows phoneの公式サイトにも掲載されているので、参考にしてほしい。

 ただし伊藤氏は「画面の解像度が広がると、その分だけ1度に読むこむパケット通信量が増大するので、月々の通信料金が高くなるのは事実」と釘を刺した。それだけに、パケット定額サービスなどを活用することが重要ということだ。特にWindows Marketplace for Mobileでコンテンツをダウンロードする場合には必須となる。わからないことがあったら、店頭で臆せず質問してみよう。




■ 使いこなし編

5. Windows phoneで従来の携帯向けサービスは使えるか?

 例えばNTTドコモの携帯電話を利用していたユーザーが、機種変更でWindows phoneの「T-01A」を購入したとする。この時、「T-O1A」で従来のiモードによるサービスが使えるかといえば、それはノーだ。なぜなら「T-01A」はWindows phone端末であって、iモードには対応していないからだ。そのため、これまで遊べていたモバイルアプリは継続してプレイできなくなる。他のキャリアでも原則として、これは同様だ。ただし「T-01A」ならiモードメールの転送サービスが使えるなど、機種やキャリアによって若干の違いはある。

 もっともこれは、ソフトバンクモバイルのユーザーが、既存の携帯電話からiPhoneに機種変更する時なども同じだ。携帯電話とスマートフォンを併用するのが理想だが、電話料金の負担も大きくなる。一般的にいって、スマートフォンにはアクション性やビジュアル性の高いゲームが多いが、携帯電話アプリにはモバゲータウンやmixiアプリなど、コミュミニティ要素の高いゲームで1日の長がある。Windows phoneに限らず、携帯電話とスマートフォンには、それぞれ異なる楽しさがあるので、事前に見定めることが大切だ。




6. スマートフォンはPCがないと使えないのか?

Windows phoneで購入したアプリはLive IDのアカウントと紐づけられている。Live IDは無料で作成でき、Xbox LIVEのアカウントでも登録できる

 通常の携帯電話と違い、スマートフォンはビジネス用途で進化してきた背景があるため、PCとセットで使うイメージが根強くある。iPhoneでも大容量のアプリケーションは、まずPCでダウンロードし、その後にUSBケーブルを介してiTunesと同期・転送するやり方が一般的だ。本誌読者ならPCの有無は問題にならないと思うが、一般的な携帯電話ユーザーにとっては、PCがないと満足に使えないのでは、ちょっと重荷に感じてしまう。

 もちろんWindows phoneもPCとセットで使うことで、さらに便利に使える。WindowsらしくOfficeやOutlookなどとの連動が最適化され、サーバーとのやりとりもスムーズだ。しかし伊藤氏は「Windows phoneはPCがなくても使用できる。ここがiPhoneなどと大きく違うところ」と強調した。

 というのもiPhoneと異なり、Windows phoneではアプリケーションは携帯電話の3Gワイヤレス網を介して、携帯端末に直接ダウンロードする形をとる。そのためアプリ購入などにPCが不要なのだ。iPhoneアプリでは大容量のものもあるが、Windows phoneでは個々のアプリのサイズが10MBまでに抑えられている。保存もHDDやSDカードなどではなく、本体メモリ上に格納される形を取る。

 ただし、PC上でアプリを購入することもできる。その場合はPCにアプリがダウンロードされるのではなく、無料で取得できるWindows Live IDにアプリのライセンスが紐づけられる。その後、ユーザーが携帯端末上で自分のLive IDにサインインすると、携帯端末とLive IDの照合が行なわれる。そのLive IDの情報にもとづき、アプリケーションが携帯端末にダウンロードされる。

 iPhoneでは1つの端末で1つのiTunesとしか同期させられないが、Windows phoneならLive IDが同じであれば、家でも会社でもPCを選ばずに、アプリの購入履歴などが確認できる。すべてブラウザ上で操作するため、MacでもLinuxでも活用可能だ。

 ちなみに、このLive IDはHotmail、Massenger、Xbox LIVEなどのサービスと共通して使える。Xbox LIVEのアカウントを持っているなら、ゲーマータグに登録したメールアドレスとパスワードでも共通して使える。Live IDはマイクロソフトのネットワークサービスの中核を担うものなので、機会があれば取得しておくといいだろう。




7. どんなゲームが遊べるか?

ブラウザを立ち上げ、Windows Marketplace for Mobileのゲームを紹介する伊藤氏

 Windows phoneでどんなゲームが遊べるかは、まずブラウザでWindows Marketplace for Mobileの公式サイトを開くのが手っ取り早い。もしこの時、英語版のページが開いたら、ページ右下にある国別メニューで「Japan」を選ぶと、日本語ページになる。

 ページ左側の「カテゴリ」欄にはコンテンツのジャンルメニューが表示され、2月上旬現在でゲームは70本と、全体の約半分を占めているのがわかるだろう。ページ右上の「Profesional」、「Standard」は、それぞれタッチ操作に対応したゲームと、ハードウェアキーボードのみで遊べるゲームの切り替えタブだ。

 ちなみにWindows phone端末でLive IDにサインインすると、携帯端末の登録情報とLive IDから、その端末で動作認証されているゲームだけが表示される。Windows Live端末にはさまざまなバリエーションがあるため、誤って自分の端末できちんと動作しないタイトルを購入してしまう恐れもある。そこで、こうしたトラブルを未然に防ぐ仕組みが用意されているというわけだ。

 伊藤氏はWindows phone用のゲームについて、「オリジナルゲーム、移植ゲーム、カジュアルゲームの3つのジャンルがある」と説明した。オリジナルゲームはWindows phoneならではのゲームで、その代表格は先日のレビューでも取り上げた「アイビィ・ザ・キウィ?」だ。価格は1,200円とモバイルゲームとしては高価だが、ユーザーレビューの反応が非常によく、世界的に見ても価格面での批判はほとんどないという。これ以外のものもオリジナルゲームはWindows phoneゲームの顔なので、ぜひプレイしてみてほしいとアピールしていた。

 移植ゲームはiPhoneやPCゲーム、さらにはiアプリで人気のタイトルがあり、主なものにハドソンの「ボンバーマン」や、セガの「ベアナックルモバイル」などがある。iアプリからの移植については、ミドルウェアベンダーのアプリックスから「iアプリ自動変換ツール」が提供されており、タッチパネルのみの機種でも、画面上にバーチャルキーボードが表示されて、遜色なくプレイできる。

 最後にカジュアルゲームは、カードゲームやパズルゲームなど、ちょっとした暇つぶしに遊べるタイプのゲームだ。ライブドアの「三文堂」シリーズなどで、価格も100円のものが多い。その中でもゆるい世界観が魅力の「三文堂 とぶひよこ」は、ビジネス色が強かったWindows phoneの中でも異色のタイトルということで、伊藤氏も個人的な思い入れが強いそうだ。

 また11月の発表会で告知されたゲームで、まだリリースされていない大型タイトルには、カプコンの「バイオハザード ディジェネレーション」がある。こちらは現在、配信の最終調整が行なわれているという。


全世界のゲーマーから高い評価を得ている「アイビィ・ザ・キウィ?」おなじみの「ボンバーマン」もWindows phoneに登場親指だけで遊べる「三文堂 とぶひよこ」は脱力系ゲームだ



8. アプリ購入にはクレジットカードが必須?

 iTunes Music Cardなどでアプリが購入できるiPhoneと異なり、Windows Marketplace for Mobileでは現状、クレジットカードがなければアプリを購入できない。未成年者のユーザーのみならず、クレジットカード文化が定着していない日本では、それだけで敷居が高く感じられてしまうのも事実だ。

 伊藤氏もこの点は認識しているそうで、携帯電話のアプリと同じく、月々の電話料金にアプリ購入代が上乗せされる「キャリア課金」が前向きに検討されているという。米国では一足早く携帯電話事業者のAT&Tとの間でキャリア課金がスタートしており、これを先行事例としてノウハウを共有しつつ、その他の市場でも話し合いが進んでいるという。キャリア課金が整備され、携帯電話アプリと同じビジネススキームで展開できるようになれば、今後多くの携帯電話アプリベンダーが流入することも考えられるだろう。

 これ以外にも、Xbox Liveで使われている「マイクロソフトポイント」での決済というアイデアがあるものの、現時点では導入は未定だという。伊藤氏によると、「ユーザーの利用状況やニーズを考慮し、検討していく」ということだ。

 また現在はアプリごとに購入する「買い切り」スタイルだが、アイテム課金や月額課金などビジネスモデルが広がると、より多様なゲームが遊べるようになる。特に無料でビューワを幅広く提供し、コンテンツを有料配信したい出版業界などで、この要望は強い。この点についてもWindows Marketplace for Mobileの機能追加という形で、できるだけ早い段階で対応していくとしている。




9. 感圧式・シングルタッチで遊べるか?

 Windows phoneとiPhoneの大きな違いの1つが、タッチパネル液晶の形式だ。

 iPhoneは静電容量式のタッチパネルを採用し、指の腹でなでるように操作でき、5カ所までのマルチタッチにも対応している。これに対してWindows phoneは感圧式のタッチパネルで、シングルタッチによる操作だ。Windows mobile 6.5ではユーザーインターフェイスが指による操作に最適化されたが、指の腹でなでるよりは、指先を少し立てた方が反応しやすい特徴がある。

 伊藤氏によると、Windows phoneの液晶は「iPhone型ではなく、ニンテンドーDS型」なのだそうだ。確かにDSのゲームをタッチペンではなく、指で操作する時は、少し指先をたてた方が遊びやすい。これはWindows phoneの出生がPDA(電子手帳)で、ペンとセットで操作するデバイスとして進化した背景がある。

 ちなみに前述のようにiモードからの移植タイトルには、横持ちにしてバーチャルパッドで操作させるゲームも多かったが、特に感圧式のシングルタッチ液晶だから遊びにくい、という点は感じられなかった。素早いアクション操作を要求される「ベアナックルモバイル」などでも同様だ。この点については、「歴史のあるプラットフォームだけに、各社ともチューニングが進んでいるのでは」と伊藤氏は推察していた。

 また、さまざまなバリエーションの端末が登場するのがWindows phoneの特徴で、ソニー・エリクソンは2月2日、最新のWindows Mobile 6.5.3を搭載した「Aspen」を発表した。こちらは6.5.3の新機能である、マルチタッチの液晶が採用されている。国内での発売は未定だが、今後に期待したいところだ。




10. iPhoneアプリなどと比べて、ゲームの平均単価が高いが?

 iPhone用アプリを配信するApp storeはその特徴として、ゲームアプリの総数が非常に多く、平均単価が低いことが挙げられる。これに対してWindows Marketplace for Mobileで提供されているアプリは、セガ、ハドソン、KONAMIといった大手パブリッシャーが600円前後で提供しているものが多く、総じて割高感がある。また多くが有料アプリで、フリーソフトは少ない。

 これについて伊藤氏は、「エコシステム」の構築を念頭に、アプリで量より質を狙う戦略を強調した。アプリ総数が多く、平均単価も極めて安いiPhoneアプリはユーザーには歓迎されるが、コンテンツプロバイダーにとっては疑問というわけだ。

 これに対してWindows phoneでは、キャリア、端末メーカー、コンテンツプロバイダー、そしてエンドユーザーと、Windows phoneにかかわる全ての人がハッピーになる仕組みを構築していきたいという。これがマイクロソフトの言う「エコシステム」で、伊藤氏は「Windowsが成功したのも、このエコシステムを常に意識したから。これと同じ仕組みを携帯電話にも持ち込みたい」と述べた。

 なお、この「量より質」を担保するために、Windows Marketplace for Mobileで配信されているアプリは、すべてマイクロソフトによって審査が行なわれている。審査自体はiPhoneアプリでも行なわれているが、Windows phoneではアプリケーション登録料(いわゆる審査料)が1タイトルごとに99ドルかかる点が大きな違いだ(これ以外に開発者としてのアカウント登録料に年間99ドルがかかる)。売り上げの内訳はiPhoneアプリと同じで、1本ごとにマイクロソフトが3割を徴収するシステムだ。審査基準などは公開されていないが、おおむねXbox Liveアーケードに準じるという。

 このアプリケーション登録料について、伊藤氏は「他のプラットフォームに比べて割高だという指摘があるものの、総じて大手メーカーからは賛同をいただいている」と説明した。ある程度の参入障壁を儲けることで、逆にアプリの質が担保されるというわけだ。ただしインディーズの開発者を閉め出すつもりはなく、年内は5タイトルまでアプリケーション登録料は無料としている。さらにアカウント登録料についても、期間内に審査を通過したタイトルがあれば、1万円のAmazonギフト券がキックバックされるキャンペーンも行なわれた。これは日本向けの独自の施策だという。

 またWindows phoneには、Windows Marketplace for Mobileで配信される「公式アプリ」以外に、他のサイトで配信される数多くの「勝手アプリ」が存在する。もともとWindows phoneは古くから勝手アプリ文化が華開いており、Windows Marketplace for Mobileがスタートしたからといって、勝手アプリを禁止するつもりは毛頭ないという。これはApp Store以外ではアプリが配信できないiPhoneと大きく違う点だ。WEB上にアップされているWindows phone向けの勝手アプリ総数は約25,000本といわれており、これらを使うのもいいだろう。

 このほかWindows Marketplace for Mobileでは、ページが国別に分けられ、日本のユーザーなら日本語のアプリしかダウンロードできない仕組みになっている。これは国産アプリが海外アプリに埋もれないようにするためだったが、近くこの仕組みが改訂され、国内ユーザーでも海外アプリを直接ダウンロードできるようになるという。これにより、より多彩なゲームが遊べるようになるだろう。




■ ビジョン編

11. Xbox 360ユーザーにとって、Windows phoneを選ぶメリットはあるか?

2009年11月の発表会で語られた「3スクリーン構想」

 マイクロソフトは現在、1つのコンテンツをPC(Windows 7)、モバイル(Windows mobile)、テレビ(Xbox 360)でシームレスに扱える「3スクリーン構想」を進めている。それらを結ぶ鍵となるのがLive IDで、将来的にネットワーク上のクラウドサーバーに個々のデバイスがぶらさがるイメージだ。では現在、Xbox 360ユーザーがWindows phoneを選ぶメリットはあるだろうか?

 これについて伊藤氏は現状、Xboxチームとさまざまな議論を進めつつ、アイデアを出しているところだという。さらに「Windows Marketplace for MobileがLive IDをフックにアプリを端末にダウンロードさせるという仕様がわかったところで、個人的にもWindows phoneとXbox 360の連動を思い描いていました。実は部内でも、ゲーム会社さんに対して、Live IDをフックに両者が連携するようなゲームを作りませんか、と逆提案するような話をしています」という話もあった。

 Windows phoneで動くアプリは、特にゲームである必要はない……それが伊藤氏のイメージだ。たとえばXbox 360向けのサッカーゲームで伝説的なシュートを決めたとして、そのリプレイシーンだけを再生するビューワアプリがWindows phone向けにあってもいい。そうすれば友達同士でリアルに見せ合って楽しめる。またはアバターなどをWindows phoneに持ち出して、別の時間軸で育成するアイデアも出ているという。




12. ゲームケータイが出る可能性はあるか?

スマートフォンながらダイヤルキーを採用したウィルコムの「HYBRID W-ZERO3」

 前述したが、Windows mobile softwareというOSを軸に、さまざまな仕様のデバイスが出てくるのがWindows phoneの特徴だ。一方でスマートフォンには携帯電話と違って十字ボタンがないので、過去のゲーム資産が活かしにくいという話は、日本のゲーム会社からよく聞かれる。では将来的に十字ボタンのついた「ゲームケータイ」がWindows phoneで登場する可能性はあるだろうか?

 結論から言うと「まったくの未定」だそうだ。ただし一部のキャリアや端末メーカーとは、Windows mobile 6.5の企画当初から、いろいろと意見交換を続けてきたという。その答えの1つとして今回発売されたのが、スマートフォンにもかかわらず、従来の携帯電話で使われているダイヤルキー(テンキー)を採用したウィルコムの「HYBRID W-ZERO3」だ。スマートフォンでも、慣れ親しんだダイヤルキーで操作したいというユーザーの声に応えた形だ。

 「端末の形状について、我々はコメントできる立場にありません。しかし今後、高速なCPUが普及して価格が安くなり、ユーザーニーズもあるということであれば、特化したとは言わないまでも、ゲームが遊びやすい端末が出る可能性はありますね」と語ってくれた。




13. ユーザーコミュニティを育成するサービスはあるか?

ユーザーによるファンサイト「Windows phone FAN」には最新情報が満載されている

 Xbox 360とプレイステーション 3の違いでよく言われるのが、ユーザーコミュニティ向けサービスの有無だ。Xbox 360では早くから、ゲーマー間で共通の話題である「実績」機能が導入されており、WEB上にマイページを作ったり、Xboxフォーラムでユーザー同士がコミュニケーションを取ったりできる。PS3でも「トロフィー」機能が導入され、バーチャルワールド「home」のサービスも始まったが、後手に回っている感は否めない。ではWindows phoneユーザーに向けたコミュニティサービスはあるだろうか?

 残念ながら、こちらも「宿題にさせてください」とのことだった。もっともLive IDを取得すれば、Windows Liveメッセンジャー上でマイページを持つことができ、SNS的なサービスも使用できる。無料の専用ソフトをダウンロードすれば、Windows phoneでメッセンジャーを活用することも可能だ。もっとも、これらは特にWindows phone向け、ゲーマー向けというわけではなく、伊藤氏もそうしたサービスの必要性は強く認識しているという。

 ちなみにエンドユーザーではなく、クリエイター向けには「開発者事務局」を立ち上げ、リアルとネットの双方でコミュニティ育成の試みが行なわれているという。これには既に1,400を超える法人・個人の会員が登録し、情報共有などが行なわれているそうだ。




■ マイクロソフトが展開するモバイルの意味

 以上、Windows phoneの初歩的な質問から、Windows phoneの未来について、幅広く質問してみた。これで少しでもWindows phoneに親近感を抱いてもらえれば幸いだ。

 話を伺って個人的に感じたのは、発表会でも述べられた「3スクリーン構想」で、初代Xboxの頃にはバラバラに感じられたPCとゲーム機とモバイルが、今ではクラウドサービスの下に、並列的に扱われているのだなあ、ということだ。その昔「.NET構想」などと呼ばれていたものが、ようやく形になってきた印象だ。OS屋としてのマイクロソフトの本領が、いよいよ発揮されてきた、という感じだろうか。

 任天堂やソニー・コンピュータエンタテインメントと違い、マイクロソフトは自社で携帯ゲーム機ビジネスを展開していない。Windows mobileがマイクロソフトの携帯ゲーム機の本命、などと煽るつもりは毛頭ないが、電話機能を持つモバイル端末のサービスを展開しているのは3社の中ではマイクロソフトだけだというのも事実で、将来的に大きなアドバンテージになるだろう。携帯ゲーム機なら複数所有できても、携帯電話を複数所有できるユーザーは、限られているはずだ。

 もちろんユーザーとしては、自分の遊びたいゲームソフトがそろった時点で、プラットフォームを購入すべきだし、それは今後も変わらないはずだ。ただし、今後モバイルゲームの分野において、スマートフォンはますます大きな存在感を示していくことが予想される。その時の選択肢の1つに、Windows phoneが加われば幸いだ。


(2010年 2月 8日)

[Reported by 小野憲史]