今回紹介する「Far Cry 日本語版」は、DirectX 9世代の3Dエンジン「Cry Engine」を利用した初めてのFPSだ。昨年のE3やECTSなどでの発表を通じ、プログラマブルシェーダーを活用した美麗なグラフィックを見て、リリースに期待を寄せていた方も多いことだろう。技術的な側面に関しては、これまでの記事を参考にしていただくとして、今回のレビューでは、ゲームとしてのおもしろさに関する部分を中心に書いていきたいと思う。
■ 観光案内だったのに……、巻き込まれ型の主人公ジャック・カーヴァー登場!! 「Far Cry」の大きな特徴として、しっかりと作りこまれたストーリーがあげられる。マニュアルなどに記載されているイントロダクションをここに引用してみると 謎の経歴を持つ“ジャック・カーヴァー”彼は世間から逃れるかのように、南太平洋でチャーターボートの船長をしていた。 そんな彼の元に“ヴァレリー・コンスタンチン”と名乗る女性が現れる。 彼女は彼のボートをチャーターし、ミクロネシアの海図にも載っていない静かな島に連れて行くよう依頼する。彼女を無事に島まで送り届けたジャックだが、いきなり何者かの攻撃を受けてしまう。 “ヴァレリー”は行方不明……ボートは沈没……外界から数千キロも離れた島を舞台に文明社会への生還を求めるジャックの孤独な戦いが始まる。 これだけ見ると「ああ、またランボータイプの主人公が一人で犯罪組織をぶっ潰して、ヒロインとチューして終わりか」と予想できるのだが、それは本作の一側面しか表していない。ストーリー内容への詳しい言及は避けるが、本作に近いストーリーパターンの映画を上げるとすればスティーブン・セガール主演の「沈黙」シリーズや、ブルース・ウィリスが主演の「ダイ・ハード」シリーズが挙げられる。 要するに主人公ジャックは、「俺は普通に静かに暮らしたいんだ! どうしておまえら面倒ごとに俺を巻き込むんだー!!!!」とぶつくさと文句を言いつつも自身の正義感から犯罪組織と戦うことを選んでしまう、巻き込まれ型の主人公というわけだ。察しの良い方はここまで読んでおわかりと思うが、面倒の種を運んでくるのは当然ヴァレリーだ。 本作はゲーム自身のボリュームもすごい。筆者もこれまで多くのシングルメインのFPSを遊んできたのだが、「この展開なら、そろそろ終わりかな」という予感をたびたび裏切られたのは本作が初めてだろう。さらにストーリーの盛り上がり方も段階的に盛り上がっていくので、最後まで飽きずにシナリオに没頭することがができる。ストーリーの盛り上げ方は満点をあげてもいいだろう。 普通だったら丸1日プレイしてシングルキャンペーンを一気に終わらせてしまう筆者なのだが、同作はとても1日では終わらなかった。総プレイ時間は間違いなく30時間は超えている。これは難易度を5段階中の3段階で遊んだ場合なので、難易度を上げれば歯ごたえは加速度的にあがっていくことが予想できる。ここまでクリアするのに手間を掛けさせられたFPSは久しぶりだ。 ゲームが終わってストーリーを振り返ってみると、“世界一不幸な男”役が多いブルース・ウィリスがかすんで見えるほど、ジャックは山盛りのトラブルに巻き込まれている。嗚呼、合掌。
■ 毎回攻め方が違う! 攻略がパターン化できない優秀なAIと広大なフィールド
まず大きいのは本作のフィールドだ。ポリネシア諸島という南海の島が舞台ということで、舞台となるフィールドはジャングルがメインとなっている。一応道らしい道はあるものの、それにそって進む必要はまったくないのだ。道に沿って進むも良し、うっそうと繁る木々に隠れて進むも良し、海の中に潜んで進むも良し、進むルートの選択がそのままゲームの遊び方の選択に繋がってくる。 たとえば、ジャングルの中にある敵の基地に潜入して乗り物を奪取しようという場合、正面から突っ込んで敵を片っ端から倒して乗り物を奪うのか、ジャングル内の有利な位置から敵を一人ずつ攻撃し混乱に乗じて乗り物を奪うのか、はたまた敵を避けてこっそり乗り物までたどり着いて有無を言わさず逃げ出すのか、といった選択肢が用意されているわけだ。自分の腕と手持ちの武器、敵の戦力、目的などを考えて進むルートをじっくり考え、作戦が決まったらすばやく行動を起こすことがクリアへの近道といえるだろう。 そして、こういった作戦立案というか行動のプランニングを毎回プレーヤーに強いる原因となっているのが、敵AIの存在だ。本作のAIは、ほぼ完全自立といっていいぐらいに「自分で考え、自分から行動する」AIとなっている。ゲーム内におけるAIの行動パターンは大きく分けて以下の3つだ。
1、通常巡回中、釣りをしたり話していたりしてひまを持て余している状態 本作のインターフェイスには、ステルスゲージと呼ばれるゲージが用意されているのだが、このゲージ量によって、敵AIは上記の3パターンから対応する動きを取ることになる。しかし、3パターンとはいってもそれぞれの活動内容は異なるため、本作のAIは厄介なのだ。 たとえばプレーヤーが音を立て、それを敵AIが聞いた場合、敵はすぐさま行動段階を2のパターンに移すのだが、一直線に音のした方向へよって来るのではなく、周辺への警戒を怠らずに近寄ってくる。敵(ジャック)が隠れそうな物陰や小部屋などもくまなく捜査してくるので、敵に見つかったら一目散に逃げ出して距離を取るか、恐る恐る移動している敵の裏をかくように移動していくしかない。この敵AIとの知恵比べがこれまでのFPSにはない緊張感をもたらしている。 さらに行動段階が3のパターンに移った場合はもっと厄介だ。基本的に1人のプレーヤーに対して、敵は常に複数で攻めてくる。その場合、正面に指揮官的役割をもったAIが位置してプレーヤーがいる位置に銃弾を撃ち込んで足止めし、その隙に部下のAIがプレーヤーを包囲するように進んでくるのだ。そういった場合、プレーヤーは敵を倒す順番を即決して敵AIに一歩先んじる形で動くしか生き抜く手立てはない。そして、順番を見誤ったり、一人の敵を倒すのに手こずることは、そのまま死に直結しているのだ。 しかも、ゲームが後半になればなるほど敵AIは用心深くなって難易度はどんどん上がっていく。手榴弾で敵を一掃しようと思っても、すばやく物陰に隠れてダメージらしいダメージが与えられなかったり、遮蔽物を上手く使ってプレーヤーに射線を取らせないように距離を詰めてきたり、物陰に隠れたプレーヤーに対しては容赦なく手榴弾を投げ込んできたりと手を焼かせてくれる。
敵の攻撃が厳しいと思ったら、迷わず逃げを打って囲みを突破するぐらいの思い切りのよさがないと、ゲーム内の世界で生き残ることは難しい。本作をこれから遊ぼうというプレーヤーは、敵AIの戦力、自分の腕、フィールドの状況、目的などさまざまな要素を考慮して、ゲームを進めていってほしい。
■ 陸に、海に、広大なフィールドを駆け回るのに必要な乗り物たち 南海の孤島が舞台ということで、広大なフィールドの移動手段として自然と乗り物が重要となってくる。プレーヤーが操縦することのできる乗り物はいくつかあるが、その中でも代表的なものを四つ紹介しておこう。
本作における乗り物の特徴的な点は、その物理的な挙動のリアルさにあると言ってもいいだろう。たとえば、ハンビーやバギーでスピードを出して慣性がついたままカーブを曲がろうとサスペンションが片側に一気に沈み込んだり、砂浜を走っていると砂にタイヤを取られてスピードが出なかったり滑りやすかったりする。 また、地面のでこぼこでジャンプをしたときも、ハンドルを切ったまま着地したりすると横転するなど、ラリー系のカーレースゲームを遊んでいるような挙動を見せてくれる。これまでにも乗り物が出てくるゲームは数多くあったが、そのどれもが現実的な挙動を示すことはなかった。 しかし、本作における乗り物の挙動は、そのどれもが現実的な挙動を見せてくれる。そのため、燃料タンクに車を突っ込ませ、プレーヤーは途中で飛び降りて大爆発を起こさせるとか、バリケードを勢いをつけて突破するといったことができるようになっている。乗っている車両すら武器として扱うことができるというわけだ。これによって、プレーヤーが敵を突破する選択肢がいっそう広がったことになる。プレーヤーが思いつく限りの行動が、ゲーム中でできるというのは本作がおそらく初めてなのではないだろうか。
■ Cry ENGINEで描かれる美麗な南国の島を舞台に、クリーガー博士の野望を打ち砕くのだ!
邦訳されたセリフはゲーム中のキャラクタがしゃべる英語にあわせて、字幕のような形で画面上部に挿入される。各セリフはキャラクタごとに色分けされており、キャラクタごとのセリフを間違って理解してしまうことが無いのだ。また、画面の上部という位置にセリフが挿入されるため、ゲーム進行中のセリフでも視線をちょこっと移動させれば読むことができるのはありがたい。 これが映画のように横に縦書きで表示されるようだと視線の移動量も多く、襲い掛かってくる敵を見落としたりすることが多く発生したことだろう。ゲームの進行を第一に考えた上手い邦訳の仕方だといえる。本作で遊ぶ場合にそういった点にも注目してみると、邦訳チームの苦労が見えてくる。また、ジャックとヴァレリー、二人が同時にしゃべる場合も考えて台詞が色分けされている。普通だと同じ色で表示してしまいがちだが、こういった細やかな点での心遣いはうれしいものだ。 島へ潜入したジャックは、クリーガー博士率いる傭兵たちと死闘を繰り広げ、囚われたヴァレリーを助け出すのだが、ヴァレリーと合流できたからと言ってそこでゲームが終了するわけではない。ヴァレリーと合流した時点でストーリー全体の1/3ぐらいをクリアしたにすぎない。クリーガー博士の身柄も確保していないし、博士の研究内容もよくわかっていない。 そして、研究所の奥まで進んだところで聞こえる、獣とも人とも判断できないおぞましい咆吼。島でどんな研究が行なわれていたのか、クリーガー博士は何を考えていたのか、そして真の黒幕はいったい誰なのか? 美麗な南国の島に太陽が落ちる頃、島はそれまで見せなかった暗黒面をさらけ出し、プレーヤーに襲いかかってくるのだ。
最後にこのレビューを読んで、「Far Cry」を遊び始める読者の方に伝えておこう。FPSになれた方は、難易度を5段階中の上位3つを選んで遊んでみてほしい。なぜかと言えば、「Far Cry」を立ちふさがる敵をただ打ち倒していくFPSとして遊ぶのはあまりにもったいないからだ。ストーリーのシリアス具合、ジャックの追い込まれ具合などを考えると、高難易度で遊んで南国でのサバイバルを十二分に楽しんだ方が、「Far Cry」の本質を実感することができるだろう。ゴールデンウィークいっぱい、じっくり遊べるゲームとして本作をおすすめしておきたい。
(C)2004 Crytek. All Rights Reserved. Published by Ubi Soft Entertainment. Far Cry, Ubisoft and the Ubisoft logo are trademarks of Ubi Soft Entertainment in the US and/or other countries.
□「Far Cry 日本語版」のホームページ http://www.kids-station.com/game/farcry/index.html □関連情報 【1月22日】MQ、「Far Cry 日本語版」を4月23日に発売 CD-ROM 6枚組で日本語、英語の2カ国語対応 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040323/kids.htm 【1月22日】本日到着! DEMO & PATCH 「Far Cry」Playable Demo http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040122/demo0122.htm 【3月1日】本日到着! DEMO & PATCH 「Far Cry」Bonus Level Patch http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040301/demo0301.htm (2004年4月26日)
[Reported by tyokuta]
また、弊誌に掲載された写真、文章の無許諾での転載、使用に関しましては一切お断わりいたします ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp Copyright (c) 2004 Impress Corporation All rights reserved. |
|