「Medal of Honor(MoH)」シリーズといえば、第2次世界大戦を舞台にした戦争物FPSの人気シリーズ。2002年1月にアメリカで「Medal of Honor: Allied Assault」が発売されて以来、各国でもローカライズ版が発売され、どの国でも高い人気を誇っている。日本でも人気はとどまるところを知らず、FPSには馴染みがない日本のコンシューマゲーム機市場でも、発売と同時に売り切れ、その後も品薄状態が数週間続くという、異例のロングランヒットを飛ばすこととなった。その後も、「Medal of Honor」の名を冠した続編は次々と発売され、今ではアメリカ最大のゲームパブリッシャーであるElectronic Artsの看板シリーズとなっている。 では、なぜここまで売れたのか。8発撃ったらクリップがピーンという音を立てて飛ぶM1ガーランドなど銃器の表現や、砲撃や空爆によって荒廃したゲーム内世界の描写などディテールの描き込みが素晴らしいのはもちろんだが、もっとも大きいのは有名な戦争映画にインスパイアされたゲーム演出だろう。 MoHは、プレーヤーを戦場の一兵士というより、戦争映画の主人公と位置づけてゲームを作成している。スクリプト(プレーヤーがステージ上のA地点まで進んだら、Bというイベントを発生させるという、トリガーによってイベントが実行される処理形式)を最大限に利用して、適切なタイミングで主人公であるプレーヤーに意図的な演出効果を持つイベントを見せたのだ。これによりプレーヤーは、よくできた戦争映画の世界に実際自分がいるかのような錯覚に陥ることになり、ゲームにどんどんとのめり込んでいくというわけだ。 今でこそ、「Medal of Honor」や「No One Lives Forever」シリーズの人気を受けて、市場にはシングルプレイを重視したFPSが増えてきているが、それらが登場する前の時代のFPSは、有るのか無いのかわからないようないい加減なストーリー(というか前設定に近い)だけしか提示できていないものが多く、プレーヤーはなかなかゲーム内のキャラクタに対して感情移入というものがしにくかった。そういった意味では「Medal of Honor: Allied Assault」は、FPSゲームの歴史を語る上でもターニングポイントとして非常に重要な作品といえるのだ。 今回紹介する「Call of Duty 日本語版」は、そんな人気作品である「Medal of Honor: Allied Assault」を開発した主力スタッフたちが新会社を興して手がけた作品。「Medal of Honor: Allied Assault」の制作スタジオである“2015”のメンバーたちは、「Medal of Honor: Allied Assault」以降しばらくの間はMoHシリーズの開発などに携わっていた。しかし、同シリーズはその後、1人の主人公が超人的な能力を発揮してバッタバッタと敵を倒すという、ヒロイックな演出を求める傾向がどんどん強くなっていってしまった。 しかし、それでは、本来自分たちが表現したかった「戦場において個人は限りなく無力に近い、唯一勝利に近づくためには、個人がその力を最大限に発揮し、戦友たちと協力して敵と戦うことしかない」ということを描けないということで、メインプログラマーであるKen Turner以下、22名のプログラマーが独立して「Infinity Ward」という制作スタジオを設立。パブリッシャーとしてActivisionと提携して「Call of Duty」の制作を行なうようになったわけだ。そういった意味で言えば、「Call of Duty」は「Medal of Honor: Allied Assault」の直系の作品といってしまってもいいだろう。
■ 第2次世界大戦、北西ヨーロッパ各地の激戦地を追体験できる、英・米・ソのさまざまなミッション それではさっそくゲーム内容に紹介に入ろう。本作は英・米・露三国の連合軍側の視点から描かれる。プレーヤーはステージによって、所属する軍隊も、人物そのものも変わることになる。まずプレーヤーはノルマンディ上陸作戦の前夜、上陸作戦を支援するために、ドイツ軍の後方を衝く空挺部隊の先導降下兵として作戦に参加する。ここからゲームは始まり、ペガサスブリッジ、スターリングラード、ベルリンといった具合に英・米・露三国の激戦地を体験していくことになる。主なミッションを紹介しておこう。
■ 初心者から玄人まで遊べる柔軟なレベル設定、のぞき込みや伏せやしゃがみなどを駆使して進もう! 「Medal of Honor: Allied Assault」では、ゲームの難易度を上げるごとに敵の攻撃の命中精度がかなり神がかったものになってきていたのは周知の事実だと思うが、そういったバランス調整は「Call of Duty」でも健在だ。 ゲーム難易度は、新兵、正規兵、熟練兵、老練兵の4段階用意されており、新兵で始めれば戦場のど真ん中で体をさらしていても敵の弾はまず当たらない。その当たらなさ具合は、至近距離を弾が通ったときのヒュン! という音がうるさいぐらいだ。しかし、これが老練兵となると話は違ってくる。 常に耳を澄まして周囲の音を聞き、角を曲がるときは必ずのぞき込んで安全を確認し、敵を倒すときも物陰に隠れて体を乗り出して撃つようにしないとすぐに弾を食らってしまう。一発被弾することによるダメージ値もレベルによってかなり差があり、老練兵では体力がフルに残っていようと数発弾を食らうだけであっという間に死んでしまう。これを回避するために重要なのが姿勢の使い分けとのぞき込みの的確な利用だ。 「Call of Duty」では、キャラクタの姿勢に立ち、しゃがみ、伏せの3種類が用意されており、それぞれの姿勢から左右へののぞき込みが行なえる。その状態を維持したまま撃つことも可能。この3種類の姿勢とのぞき込みを駆使して、いかに被弾面積を小さくしながら敵を倒していくかというのがキーポイントだ。特に老練兵レベルでゲームを楽しむのだったら、ほかのレベルではほとんど使わない手榴弾を使い、的確なポイントへ的確に投げ込めるようにしないと命がいくつあっても足りない。 とはいうものの、敵兵士は投げ込まれた手榴弾を見ると一目散に逃げ出すか、掴んで投げ返すかという行動をとる。曲がり角などで待ち伏せをされていてのぞき込んだ瞬間に蜂の巣になるといった、お手上げ状態の打開のために手榴弾を投げ込んでみるというのが、主な活用法になりそうだ。
ちなみに、初心者のために冒頭に動き方と武器の使い方を一通り教えてくれるトレーニングミッションが用意されているので、こういったゲームが初めての方はみっちりしごかれておこう。
■ スクリプトによる演出と高度なAIによる「仲間と一緒に戦うという感覚」 冒頭でも触れたとおり、「Call of Duty」はスクリプト処理によってゲーム内の演出が形作られている。スクリプトというと「決まり切っている展開だからいやだ」とか「自分が進まないといつまでたっても状況が変わらないなんて変じゃないか」という声も聞かれるのだが、「Call of Duty」はむしろスクリプトでないと表現できないゲーム演出をしている。 たとえばアメリカ軍のステージの多くは、TVドラマ「バンド・オブ・ブラザーズ」の第2話「ノルマンディ降下作戦」からインスピレーションを受けたであろう、ステージ構成やカメラアングルとなっている。そのステージの中で、自分がこの作戦に参加したE中隊の一員になったつもりでプレイすると、これが非常にしっくりくるのだ。 自分のすすみ具合に応じて中隊長の指示は的確に出され、仲間と一緒に迫撃砲の爆発の中、連携して敵兵を駆逐していくというのを体験しつつ作戦を遂行していくと、一連の流れがスクリプトで実行されているかどうかという、細かい点はどうでもよくなってくる。だんだんと自分の意識が、ドラマの中の戦場にいて中隊のメンバーと協力して苦難を乗り越えようと奮闘している自分のキャラクタと重なってくるのだ。 しかし、とはいってもスクリプトだけでは1回遊んでしまえばゲーム自体の魅力は半減する。まったく同じ展開のゲームを複数回やる物好きもあまりいないだろう。しかし、「Call of Duty」の場合はちょっと毛色が異なる。練り込まれたスクリプトによる演出に加え、今回は味方や敵兵士のAIも非常に練り込まれているのだ。 たとえば、ドアの陰に隠れて外の敵と戦う場合、ドアのすぐ横や近くの窓など、自分が何処にいようと味方の兵士たちは、プレーヤーが動きやすいように場所を臨機応変に決めてくれる。また、MG42のような存在自体が脅威となる固定武器などは真っ先に攻めるといったことをしてくれる。その隙にプレーヤーはMG42の機関銃手をなんとか打ち倒したり、逆に自分がおとりになって機関銃の前に飛び出し、仲間に機関銃手を撃たせるといったことも可能なのだ。 AIのおかげで、味方の動きを見ながら、敵兵士を倒すためには次に自分がどういった行動をとればいいか、いざというとき誰をフォローにいけばいいのか、といった判断を要求されるようになった。要求される点が増えるということは、その分プレーヤーも考えることが必要になってくる。そして、考えるという労力をゲーム内の仲間に向けて使うことで、だんだんと仲間に対する愛着というか、味方と一緒に戦うという感覚を味わうことができるだろう。
なお、「Medal of Honor: Allied Assault」にあったような、1人でガンガンと敵を打ち倒して遊びたいという人向けに、ドイツ軍のダムに潜入して発電機と対空陣地を破壊するというミッションや、数人のチームでドイツ軍の前線司令部に忍び込み、捕虜となっている味方の兵士を助けるといった、個人の力量がものをいうミッションも用意されている。こちらは味方の協力はほとんど期待できないので、慎重に進んでいかないとまず先へは進めないだろう。
■ 実際の戦闘で扱われた武器や兵器、建物などが圧倒的な現実味を持って登場 「Call of Duty」には、当時実際に使われていた手持ち武器のほかにも、戦車や飛行機、固定砲などがわんさと登場する。ステージの舞台となる都市なども非常に「らしい」構造となっており、ゲーム内の世界全体がかなりの現実味を持って構築されている。 たとえばティーガー戦車の場合。ゲーム内ではティーガー戦車と相対する際、プレーヤーは歩兵であることが多い。歩兵という立場で会うティーガー戦車ほどゲームの中で怖いものはない。ちょっとでも前に出ようものなら、機銃によってあっという間に蜂の巣にされるわ、物陰や建物の中に隠れれば主砲の一撃であぶり出される。 特に歩兵の状態で至近距離での砲撃や迫撃砲の着弾などを食らうと、画面全体にモーションブラーがかかって着弾の衝撃波に酔っている感じに画面は描かれる。おまけにこの衝撃波に酔っている間は、体が思うように動かないので、主砲の後の機銃から逃れるために急いでその場から離れようと思っても、すぐには離れられない。意識が回復するのが先か、機銃の弾が体に食い込むのが先か、冷や汗をかく場面だと言える。 また、ペガサスブリッジの奪取&確保の作戦の場合、映画「史上最大の作戦」と同じように航空機に牽引されて飛ぶ、カーゴタイプのグライダーで敵地に潜入することになる。さらに、プレーヤーが乗ることのできる乗り物には乗用車とソ連の戦車T-34/85などが用意されている。特にT-34/85に乗れるステージは、戦車数十両による戦車戦ステージなので、その筋の方にはたまらないものが有るのではないだろうか。
■ そのまま英語の字幕として出しても良さそうな日本語翻訳、そして英語版と完全な互換性がとれているマルチプレイ 日本語版の販売元であるメディアクエストによると、今回「Call of Duty」の日本語化を担当したのは、エレクトロニック・アーツで「Medal of Honor: Allied Assault」の日本語化を行なったスタッフが担当している。もともと「Medal of Honor: Allied Assault」の翻訳は評価が高かったので、「Call of Duty」の日本語化にもかなり期待していい。 実際サンプルロムで日本語化の完成度を調べてみたが、一通りの台詞字幕を見た限りでは、日本語的な破綻はまったくなかった。PCゲームの日本語化というと、変な誤訳や直訳に近い珍妙な日本語が散見されることもあるが、「Call of Duty 日本語版」に関してはそういった心配はしなくていい。第2次世界大戦を舞台とした戦争映画をそうとう見たであろうことを感じさせる見事な邦訳になっていた。 また、日本語版ということで気になるのがパッチの適用や、海外版の「Call of Duty」で建てられたサーバーへの参加がちゃんとできるのかといった点が気になるところだろう。サンプルロムの形で配られたVer1.0を使って英語版のサーバーなどで遊んでみたが、実際のプレイにはまったく問題が無かった。 加えて気になるのが、海外版のパッチがそのまま当てられるのか、または日本語版のパッチはどうなるのかという点だろう。この点に関しては現在の所はっきりとしたことはわからないが、日本語版の訳はムービー部分と字幕表示部分、ゲーム内メニューといったところなので、そう大幅に書き換えているわけではないだろう。ゲームの根幹に関わってくるような部分EXEファイルは一緒なので、英語版のパッチが日本語版に当たらないということはないように思える。 「Call of Duty」は第2次世界大戦をモチーフにしたFPSと言うよりは、むしろ戦争映画をモチーフにしたFPSといった方がいいかもしれない。練り込まれたスクリプトと、AIによってゲーム内のそこかしこで展開する戦争映画としての演出は、遊んでいて非常に楽しかった。この冬休みや正月に、じっくり遊ぶゲームがないなぁと考えている方は是非とも遊んでみて欲しい。
(C)2003 Activision,Inc.and its affiliates.Published and distributed by Activision Publishing,Inc.Activision is a registered trademark and Call of Duty is a trademark of Activision,Inc.and its affiliates.All rights reserved.Developed by Infinity Ward,Inc.This product contains software technology licensed from Id Software,Inc.("Id Technology").Id Technology (C)1999- 2000 Id Software,Inc.Distributed in Japan by Kids Station,Inc. under agreement with Activision.All other trademarks and trade names are the property of their respective owners.
□メディアクエストのホームページ http://www.kids-station.com/game/ □「Call of Duty 日本語版」のホームページ http://www.kids-station.com/game/game_r_cod.htm □関連情報 【12月1日】MQ、「Call of Duty 日本語版」の発売日を12月18日に前倒し 23日に発売記念ゲーム大会を開催 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20031201/cod.htm 【10月10日】メディアクエスト、注目のアクションシューティング 「CALL OF DUTY」を日本語版で発売 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20031010/kids.htm 【10月30日】本日到着! DEMO & PATCH 「Call of Duty」Dawnville Demo http://game.watch.impress.co.jp/docs/20031030/demo1030.htm 【9月2日】本日到着! DEMO & PATCH 「Medal of Honor」シリーズ以上の出来となっている「Call of Duty」 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20030902/demo0902.htm (2003年12月12日)
[Reported by tyokuta]
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