「電遊道」~Way of the Gamer~ ジョン・カミナリの楽しいゲームライフ

ジョン・カミナリの楽しいゲームライフ【最終幕】

 電遊。辞書に載っていない造語である。電気的な遊び。いわゆる、テレビゲーム。道。その道を、自分の価値観だけを信じて最後まで歩むのが、侍精神である。電遊道は、妥協を許さないサムライゲーマーが歩むべき道。他人に影響されることなく、自分のゲーマーとしての信念を貫き通せばいい。たとえ、ゲームが別の道に進んでも、自分の好きな道をずっと信じ続けるのみ。たとえ、“これこそがゲームの未来形だ!”と言われても、自分の好きなゲームライフを思う存分楽しむのみ。

ジョン・カミナリ(芸名)
国籍:
イタリア
年齢:
38才
職業:
俳優、声優、タレント、テレビゲーム評論家
趣味:
テレビゲーム、映画鑑賞、読書(山田悠介)、カラオケ
主な出演作品:
銀幕版スシ王子!(ペぺロンチーノ役、デビュー作)、大好き!五つ子(アンソニー・ジャクソン役)、侍戦隊シンケンジャー(リチャード・ブラウン役)
ブログ:
ジョン・カミナリの、秘密の撮影日記
Twitter:
https://twitter.com/John_Kaminari
Facebook:
http://www.facebook.com/johnkaminari

 イタリアで6年間テレビゲーム雑誌の編集部員として働いたあと、新しい刺激を求めて2005年に大好きな日本へ。子供の頃から夢見ていた役者の仕事を本格的に始める。堤幸彦監督の「銀幕版スシ王子!」で個性的なマフィアのボス、ぺぺロンチーノを熱演。現在もTVドラマやTVゲームなどで、俳優・声優として活躍中。日本語を勉強し始めたのは23歳のとき。理由は「ファイナルファンタジーVII」や「ゼノギアス」などのRPGの文章を理解するため。好きなジャンルはRPGと音楽ゲーム。「リモココロン」のような個性的なゲームも大歓迎。お気に入りのゲームは「ゲームセンターCX」と「ワンダと巨像」。芸名はイタリア人の友達に、本人が雷のように予想不可能なタイミングで現われるからという理由で付けられた。将来の夢は、「侍戦隊シンケンジャー」に出演した時から大好きになった戦隊モノにまた出演すること。


一刀両断~話題のゲームニュースについて鋭くコメントしちゃうぞ!~

話題のゲームニュースや注目のゲームイベントをピックアップして、僕の正直な感想を述べたいと思う。また、現在のゲームが抱えている問題を解決するアイディアや提案も、このコーナーを通じて考えてみたいと思う。ゲーマーの皆が納得できる未来のために!

ゲームセンターはゲームの発祥の地。消えてはならない大切な存在なのだ!

 子供の頃、僕の週末の最も大きな楽しみは、友達と出かけて、新しいゲームセンターを一緒に探して、最新ゲームで遊ぶことだった。家庭用ゲーム機も持っていたが、それはもちろん、業務用ゲームのグラフィックスに敵うことは不可能だった。ゲームセンターは夢だった。家は移植版で我慢する場所だったのだ。

 それは過去だ。現在状況は真逆だといえるだろう。家庭用ゲーム機の高性能さが、イタリアのゲームセンターを1つ、また1つ、消失させていった。ローマの実家の近くにあったゲームセンターは姿を消し、その代わりに、スロットマシンホールがオープンした。他のゲームセンターも同じ運命に直面せざるを得なかった。現在、ローマには、1つの大きなゲームセンターが残っている。しかし、日本からの筐体が高価格なため、イタリアのゲームセンターに導入される頻度が劇的に減ってきたという事実が目立っている。

ローマに残った大きなゲームセンター、「エキストラボール」。子供の頃、毎週新作筐体が届き、いつも行くのを楽しみにしていた。現在は新作が殆どなく、スロットマシンホールが大きなスペースを占めることになった

 僕はゲームセンターが大好きだった。ゲームセンターはバーチャルなオンライン世界ではなく、人々の存在を身近に感じながら対戦したりして、好きな趣味をダイレクトに共有できるようなとても素敵な場所だと思う。だから、僕はゲームセンターの楽しさに匹敵できるような家庭用ゲーム機は存在しないと思う。そもそも、ゲームセンターと家庭用エンターテイメントは別々のものとして考えてほうがいい。これからもお互い両立できるように、ゲームメーカー側から多くの工夫が必要とされていると思う。

 ローマのゲームセンターの消失が、実は、僕の心に、とてもネガティブな影響を与えていた。ゲーマーとして、「夢」といったものを感じなくなったのだ。仕事の帰りに家路の途中にあるゲームセンターに入って好きな筐体で遊ぶという過程がなるなり、それは僕のゲームライフに楽しみを減らしたといえる。だから今回、新しい刺激、そしてゲーマーとしていっぱい充電する為に、大好きな日本へ住むことにした。

 日本でもゲームセンター業界が苦しんでいると言われているが、ゲームセンターはまだいっぱいある。建物全体が、ゲームセンターになっていることが、何回見てもすごいと思っている。イタリアではそれはとても考えられない。日本に遊びに来るイタリア人の友達もみんな、秋葉原や池袋の巨大なゲームセンターを見て、「日本に引っ越したいな」と感動している。

 日本に来て、2カ月ほど経過した。とても忙しい毎日を送っている。しかし、いくら忙しくなっても、仕事の帰りに20分ぐらい、家の近くのゲームセンターで、好きな音楽ゲームで遊ぶようにしている。子供の頃のあの習慣を取り戻したことで、もう、20年も若返ったような気持ちになっている。「ゲームセンターって何て気持ちいいんだろう」と、毎日、強く思っている。ゲーマーとして、本当に幸せだ。

日本のゲームセンターはまだ活気に溢れているといえる。特に土日になると、長蛇の行列ができるほどの大人気筐体が存在する。階毎にアトラクションがあって、建物全体で展開しているところも素晴らしいと思う

 家では絶対に再現できないような遊びを提供するのが、ゲームセンターのミッションだと思う。言い換えると、いくら高性能になっても、家庭用ゲーム機は大型体感筐体のあの感動を再現することは難しいだろう。音楽ゲーム筐体もそうだろう。ゲームセンターだからこそ、遊べるもの。家では移植版が遊べるかもしれないが、大きなタッチスクリーンや派手な演出が家で再現することが難しく、あの独特な感激を味わう為には、もう、ゲームセンターに足を運ぶほか方法はないのだ。

 欧州でゲームセンターが無くなりつつある理由は何だろう。1つの原因は確かに、家庭用ゲーム機の高性能さにあると思う。プレイステーションの「リッジレーサー」が発売された頃、ゲームセンターと(ほぼ)同じクオリティのレースゲームが家でも遊べる日が来たと、初めて感じた。そのイベントはゲームセンターの終わりの始まりだったと思う。禁断の果実を摘んだ瞬間だった。家庭用ゲーム機はゲームセンターよりもすごいものになろうとしていたのだ。唯一、フルに再現できないのは体感型筐体。しかし、様々な周辺機器の導入で、ゲームセンター的な操作性も家庭でもできるようになっていった。2000年以降はイタリアのゲームセンターが著しく減り始めた。そして、ゲーマーが家から出かける頻度も激減した。

 「家で何でも遊べるから、出かける必要はなくなった」。

 家庭用ゲーム機の充実がゲームセンターの現状を引き起こしたのだ。そう受け止めざるを得ないだろう。そしてその責任は、家庭でのプレイを優先させたゲーマーだけでなく、お互いの業界を両立させることができなかったゲームメーカー側にもあると思う。

 とはいえ、日本のゲームセンターは今でもとても魅力に溢れていると思う。大型体感筐体はゲームセンターでないと遊べないだろう。その中で特に圧倒的な魅力を持っているのは、大きなタッチスクリーン操作を実現させたセガの音楽ゲーム最新作、「maimai」だと思っている。本作は例え、家庭用ゲーム機、あるいは、携帯ゲーム機に移植されるとしても、ゲームセンターと同じ体験が味わえないと確信している。

 ゲームメーカーにとってはリスクの多い大型筐体を開発するよりも、比較的低予算で製作できる家庭用ゲーム機のほうが、ずっとビジネスに繋がるという今の市場の傾向や常識がわからないでもないが、ただ、遊園地のアトラクションが現存しているように、ゲームセンターもこれからもずっと、ゲーム文化が発信されるスポットとして、存在するべきだと願っている。

 ゲームセンターは僕達、30代・40代のゲーマーを魅了してきた特別な場所だ。セガの名作レースゲーム「アウトラン」が出て初めて遊んだ時、正直にこう思ったのだ。

 「家でもこういうすごいゲームで遊べたらいいな……」。

 しかしそれは間違っていた。それが今、現実になって、やはり、ゲームセンターはいつも家庭用ゲームに対して、上の存在であるべきだと思う。ゲームセンターで夢を感じて、そしていつか、家庭でも遊べる日が来ると密かに期待させるのが業務用ゲームなのだ。でも、その日が来ても、業務用ゲームはさらにすごいものになる。つまり、家庭用ゲームが業務用ゲームに追いつくことはずっとないという思いが、ゲームライフを充実させると思うのだ。

 もちろん、僕と真逆と考え方を持つゲーマーもいっぱいいるし、人それぞれだから価値観も違うと思う。ただ、ゲームセンターのあの雰囲気を今、思い出してみて欲しい。本物の人間が楽しく、1つの場所で、好きなものを共有する場所を思い描いて欲しい。バーチャルなものは何もない。人の付き合いと楽しみながら、ゲームも楽しむことができる。やっぱり、ゲームセンターに勝る場所はどの家庭にもないと確信している。

「電遊道」が閉幕……。しかし、これからが、本当の勝負だ!

 まず、お礼から。この3年間、この連載記事を通じて付き合って頂いて、誠にありがとうございます。イタリアでの下積み時代も入れてゲームレポーターの仕事をやって、もう15年間が経とうとしています。ベテランという言葉を使ってもいいかもしれませんが、僕はいつも初心の気持ちで、これからもずっとこの仕事を楽しく続けていきたいと願っています。

 GAME Watchでの経験は僕のライター人生の中で、特に貴重でした。第1の難関はイタリア語ではなく、日本語で記事を書くことでした。いくら日本語を勉強したとしても、記事は単なる文法を知っていれば書けるものではなく、日本人に近い感覚で記事を書くことが、何よりも難しかったのです。連載記事を始める前に、レビュー記事やインタビュー記事を書かせて頂いたのですが、最初からそれが、掲載されるレベルではありませんでした。日本語が正しかったとしても、日本人に合った構造やスタイルではないと、なかなか自分の感じることをうまく伝えることはできないのです。だから、最初の苦労は、イタリア人としての個性を生かしつつ、日本人読者に受け入れられるようなバランスに達することでした。

 月々編集部や読者さんからいろいろなアドバイスを大切にしつつ、ちょうど良いバランスが確立できたと思います。とはいえ、ベテランレポーターと呼ばれるようになる為には、多くの試練が僕を待っているでしょう。不安を感じるときもありますが、日本に来てから、とてもポジティブなエネルギーや刺激を吸収していて、レポーター魂が、さらに強く、燃えています。

 「電遊道」が終わるのが、僕も正直悲しいです。しかし、それは、次のステップに進めるようになったということも意味しているのです。次の連載記事が実現すれば、「電遊道」以上のクオリティを提供していくことを約束します。「電遊道」で学んだことを反映させながら、楽しい企画やコーナーなどをどんどん実現させていきたいと思っています。

 最後に、この連載記事のコンセプトである言葉を再びお届けしたいと思います。ゲーマーは自分の面白いと思うゲームだけを信じて、その信念を貫いていって下さい。例え、ゲーム市場が特定の方向に進んでも、自分だけは、逆方法でも、流行に反対しても、その道をずっと信じて進んで下さい。大事なのは自分のゲームライフを最大限楽しむことです。それだけです。

 読者の皆様、今日まで「電遊道」を読んで頂いて、誠にありがとうございました!