佐藤カフジのVR GAMING TODAY!
連載第1回
ついに発表「Oculus Rift」製品版
コンシューマーVRの夜明けがやってくる!
(2015/5/21 12:00)
2015年、いよいよ製品化が見えてきた新世代のゲーム用バーチャルリアリティ(VR)システム。Oculus VR、Valve、SCEIなど業界の巨人たちが製品化に向けてしのぎを削る中、無数のゲーム開発者も全く新しいゲーム体験を生み出そうと各種各様のチャレンジを続けている。ワクワクするようなVRゲーミングの未来に向け、剛柔織り交ぜたホットな話題を本連載でお伝えしていこう。
これからの1年、VRゲーミング市場が立ち上がる!
この素晴らしいニュースで、新しい連載を始めていこう。新世代VRゲーミングの旗手であるOculus VRは5月6日、「Oculus Rift」製品版を2016年第1四半期に発売すると発表し、それに続いて5月15日には対応PCの推奨スペックを公式ブログの“Powering the Rift”というエントリーで公開している。
ようやくというかなんというか、2013年春に最初の開発キット「DK1」がリリースされてから足掛け3年。詳細なスペックはまだ明かされていないものの、発売時期が明確になったことだけでも大いに状況は変わった。投資の機会を伺ってやきもきしていたゲームファン、ゲーム開発者ともに、近未来への具体的な計画を立てられるようになるからだ。
Oculus VRのプレスリリースによれば、「Oculus Rift」製品版の予約注文は年内にもスタート予定。製品デザインとしては最終プロトタイプの「Crescent Bay」をベースにしつつ、装着感をさらに改善、進化したトラッキングシステムを搭載することが明かされている。
公開された製品写真を見る限り、形状は「Crescent Bay」にそっくり。以前、Oculusは製品版にはヘッドフォンは付かないという話をしていたはずだが、写真にはヘッドフォンもついている。これ見よがしのトラッキング用LEDは見当たらないが、「DK2」と同様に内部に埋め込まれているのだろう。
また、米掲示板Redditのとあるスレッドでは、“マイクはどこについてるのか?”というVRファンの質問に対しOculus VR創業者のPalmer Luckey氏が“最高の場所に隠されている”と答えており、音声入力機能の搭載も確実視される。標準的な入力装置が付属するのかという点も大いに気になるところだ。
価格も未公表だが、以前よりOculus VRでは200ドル~400ドル程度の範囲を目指していると伝えられている(参考:IGNの記事)。新奇なデジタルガジェットはやたらと価格が高くなる傾向があるのは確かだが、VRヘッドセットに限って言えば、使われる部品はガワを除けば大半が汎用品であり、組立や検品等の工数も、スマホ等の超精密機器に比べれば全然シンプルなものになると考えられるので、実際、かなり良いスペックでも400ドル程度というのは期待していいと思う。例えば、恐ろしく精密な専用部品の塊で、製造に手間がかかり、常識はずれなほど良品率が低いとされるApple Watchですら4万円台で買えるのだ。
もちろん、別途、これを動作させるためのPCは必要だ。上述の公式ブログでは推奨スペックとしてNVIDIA GeForce GTX 970またはAMD Radeon X 290以上のGPUと、Core i5-4590以上のCPU、8GBのメインメモリが必要だとしている。現在の市場最安値ベースで見るとPC本体価格で10万円超となるスペックだが、来年の春という登場時期にはもう少し安価になるだろう。さらにはその先、NVIDIA/AMDともに次の世代のアーキテクチャを持つGPUを投入する時期がくれば、普及価格帯のミドルクラス~ミドルハイクラスのGPUで充分に足りるようになるはずだ。
公式ブログで明かされたスペック面で更に面白いのは、「Oculus Rift」製品版の動作解像度・リフレッシュレートについて「the Rift runs at 2,160×1,200 at 90Hz split over dual displays」と示されていることだ。この表示系の仕様は、さる3月のGDC 2015で詳細が公表されたValve/HTCの「HTC Vive(SteamVR)」と全く同じなのである(該当記事)。両者が全く同等の液晶パネルを使用することを意味するならば、同じPC上で勝負する以上、まだ明らかでないトラッキングシステムや装着感、あるいは付属コントローラーの優劣で雌雄を決するということになるかもしれない。
いずれにしても、この「Oculus Rift」製品版の発表をもって、コンシューマーVR市場を立ち上げていく役者は揃った。Valve/HTCによる「HTC Vive」は2015年末に発売予定、PS4向けの「Project Morpheus」も2016年の第2四半期のリリースが予定されている。これからの1年で、これらのVRヘッドセットが相次いで消費者の手に届くのだ。
というわけで、ゲーマーはハイスペックPCとVRヘッドセットを買うための貯金を始めるべきだし、ゲーム開発者は(まだ始めていないなら)いよいよもってVRゲームの開発を真剣に考え始めるときだ。CCP Gamesによる「EVE Valkyrie」のように、ひと目見ただけでスゲエと思わせる品質のVRゲームが既に作られてもいるのだから。
スマホ向けのコンシューマーVRもローンチに向かうが……
2015年内にはサムスンのスマホ「Galaxy S6」向けのVRシステム「Gear VR」も本格ローンチを迎える見込みだが、VRゲーミング向けとしてはどうか。
少なくとも現時点の「Gear VR」にはポジショナルトラッキング機能がない上に、複雑な操作ができるゲーム向きの入力機器も存在しないため、ノンインタラクティブなVRコンテンツ(パノラマムービーなど)を見るには手軽で良いが、本格的な没入と、ユーザーの積極的な参加が本質となる“VRゲーミング”には不適だろう。無論、「Google Cardboard」など、汎スマホ向けお手軽VRシステムも同様だ。
そのうえ、環境を揃えるために必要な費用も「Gear VR」は案外高い。対応端末のGalaxy S6が一括払いで93,000円ほど、HMDが27,000円ほどで、合わせれば12万円。仮に、「Oculus Rift」製品版が動くPCが10万円、「Oculus Rift」製品版そのものが5万円弱になるとすれば、必要なコストは両者でそうかわらない。それでいて、ゲーマーの基準で得られる体験の幅と質は「Oculus Rift」がはるかに勝るというのは言うまでもない。
近くない将来には各種の技術革新によりスマホでも本格VRゲーミングが楽しめる時代が来ることは間違いないが、当分は、ゲーマーが求めるようなハイエンドVRはPCベースの「Oculus Rift」、「HTC Vive」、PS4ベースの「Project Morpheus」でのみ実現されるだろう。筆者はひとりのゲーマーとしてそこに関心がある。
いずれにしても、家庭にいながら至高の没入感を味わえるVRシステムがちゃんとした製品として手に届くまで1年を切ったことは確定だ。6月のE3をはじめ、VRゲームの露出はますます増え、我々のワクワク感もさらに増幅されていくハズ。その道程を、これから本連載で追いかけて行きたい。