コーラス大柳の「ためにならないインディゲームレポート」

小規模インディスタジオがAndroidに及び腰になるのは何故か解説します

 こんにちは、コーラスの大柳です。

 Android (Google Play)の売上がiOSよりも劣りがち、というのはすでに昔の話でiPhone帝国と呼ばれる日本でもいまはプラットフォーム比の売上は、ほぼ五分というタイトルが多いそうです。「そうです」とか言ってるのは、少なくともコーラスでは売上の多くはまだiOSのゲームファンからであり、おそらく買い切りタイプをメインとしたモバイルゲームの制作をしているインディゲームスタジオの多くは、似たような感じなのではないかと思うからなのです。(もっとも台湾、ロシアといったAndroid機が多く普及している地域は別の話でしょう)。

 蛇足ですが、コーラスでは「バートラム・フィドルの冒険」や「キティ パワーズ・マッチメーカー」など、もともとiOS専用だったゲームをAndroidに移植した実績があります。理由は明確でモバイルゲームを牽引するiOSとAndroidという2大プラットフォーム双方に対応したほうが、ゲームファンに注目してもらえるチャンスが増えると考えているからです。ちなみに後者は買い切りからF2P化にゲーム内容自体も手を加えていたりしますが、残念ながら売上に対してはほとんど貢献していないという事実があります。

 Androidはこの連載ではほとんど取りあげていないのがちょっと心苦しいのですが、iOSと同じくゲーム機として見ても優秀なプラットフォームです。特にゲームファン向けに提供されている「Google Playゲーム」は実績やマルチプレイまわりだけでなく、ゲーマーが求める様々な機能があり、最近では録画機能にも対応したことで、サードパーティのAppを使わなくても実況配信などができるようになりました。この点に関してはiOSの「Game Center」よりも相当充実しています。

 ここからが話の本題ですが、ゲームファンの中には「(特に欧米発の)インディゲームはiOS専用もしくは先行の場合が多いなあ」と気づいている方もいるかと思いますが、これは一言で言うと「リリース後いろいろ大変」だからです。実体験を基に考えると2つに集約されるのですが、すこし長くなりますが説明しようと思います。

「Google Playゲーム」のゲーマー向けの機能はiOSよりも優れている。ゲーマーが欲する機能もどんどん盛り込まれてきている

理由その1、リリース後のサポートが大変

 1つめの理由としては、ゲームをプレイしている方からのサポート依頼というと、おおかた「動かない」という話になるのですが、困ったことに、こちらで検証しても再現できない事象があったりします。これはほとんどのケースが海外からのお客さんで、使っているデバイスも日本で売ってない物である場合が多いです。

 AndroidはOS別世界シェアで言うと、iOSやその他を大きく引き離しています。それはなぜかといえば、韓国のサムスン電子を筆頭に世界各国で様々なメーカーから多種多様なモデルが販売されているためです。最近はMVNOの流行で中国や台湾製の手頃なデバイスが日本でも知られるようになりましたが、インドのマイクロマックスや中国のシャオミやOppoなど、日本にいると聞いたことないような会社の製品が支持を受けていたりします。あのNokiaもAndroidベースのタブレットを販売していたりします。非常にややこしい。

 モバイルゲームは会社の規模によらず、あるいは個人でもストアを通じて世界中のユーザーに自分のつくったAppを届けることができるという点が強い魅力です。しかし自国で売ってないデバイスで実際に動くかどうかは検証のしようがありません。この「再現できないから確認もできない」という問題は規模の大きい会社のサポートでも頭を悩ませるところだと思うのですが、あらゆるリソースと体力が限られているインディではとても大きな負担になります。

 さらに問題なのがAndroidのOSバージョンがばらけすぎていることです。ユーザーであればご存じのとおり、AndroidはiOSと違って必ず使っているデバイスのOSがアップデートされるとは限りません。現在の最新バージョンはAndorid 6.0ですが、Google発表の最新情報では、このバージョンを使っているユーザーは世界中で約2%しかいません。(参考資料)ほとんどは4.xから5.x(KitkatからLolipopまで)に固まっています。反面、先日提供を開始した私たちの新作「ゴブリンディフェンダー」のサポート窓口に寄せられたiOS版プレーヤーの使用OSを調べて見るとなんと9割がiOS9.2以降でした(現在の最新バージョンは9.3.1)。

 Androidのバージョンが分断されている原因は、最新機種を買ったからと言って最新OSが入っている訳ではないことが1つ。2つ目はGoogleが直販するNexusシリーズを除いて、OSがアップデートされるかどうかはデバイスを製造・販売するメーカーにかかっている点にあります(2016年現在でもAndroid 5.xの入った機種が多数販売されています)。加えて、グローバルで売れているデバイス(例えばSamsung Galaxy Sシリーズなど)でも、販売地域によって提供されているOSのバージョンが異なったりすることがあります。例えば日本ではGalaxy S6にとAndroid 5.1の組み合わせがあるとすると、台湾の場合は同じデバイスでもAndroid 5.0.2だったりします。

 同じグローバルモデルでもOSのバージョンが異なると、5.1では何もおきないのに5.0.2では不具合が発生しうるケースがあり、これまたいちいち全てのデバイスを追跡調査することはとても大きな負担になります。iOS同様、Androidは下位互換性が保たれています。ほとんどの場合、大きな問題は発生しないのですが、ハードウェアとOSバージョンがそれぞれバラバラになっていると、やはり特定のデバイスでゲームが起動しない、表示がおかしいといった問題が発生します。

 これらの問題を少しでも改善するため、国内のチェックやテストを業務とする会社に出すことで主要なデバイスをつかってテストをすることもできますが、それでも上記のような販売地域によってOSのバージョンが違うといった細かい部分までの対応は難しく、さらに1日チェックにまわすことで発生する費用は、1本売って数十円〜数百円の商売をしているガチャとは無縁のモバイルインディ界隈にはとても大きい負担です。

 中国をはじめとするアジア地域では格安で各端末を使って実際にゲームをチェックしてくれる会社や、端末を1日単位でレンタルできるサービスもあり、この点は明るい兆しも見えるのですが、いかんせん多数のデバイスが日々市場に投入され続けている状況は変わりません。これらサポート対応にかかる負担は、ヘタをすると売上をまるごと飲み込んでしまう可能性もありえます。

 一方でiOSの場合は、売られているデバイスと入ってるOSは全世界共通、旧機種でもOSアップデートをかなり長期間サポートしてくれるため、現時点の最新版となるiOS 9.1の普及率は全体の79%という高い数字になります。(参考資料)このAppleがすべてを管理する統一された環境は、サポート面でもゲーム自体の不具合なのか、もしくは端末の再起動などで解決するものなのか切り分けがしやすく、インディゲーム開発者だけでなく、多くのゲームメーカーにとって、Androidよりも対応しやすいプラットフォームになっていることは疑いないところです。

理由その2、海賊版の存在

残念なことに中国には日本のようなGoogle Playがない。現地企業が運営するアプリストアに頼ることになる

 第2の理由は、中国展開とそれにもれなくついてくる海賊版の存在です。モバイルゲーム市場で成長著しいのが中国です。一大市場であるこの国にGoogle Playは参入できていません。一方で参入済みのApp Storeはすでに大きな売上を出しており中国のモバイルゲームファンは年々存在感を増してきています。当然のことながら中国が大きい市場であることはみんな知っているのですが、中国ではGoogle Playという公式のストアがないため、現地企業による無数の外部ストアがしのぎを削っています。そこで現地企業とパートナーを組んで中国市場に進出しようと考えるのは、ある意味当たり前ですし、実際に中国企業も様々なインディゲームスタジオに接触してラブコールを送っています。

 またまた蛇足ですが、コーラスのゲームをプレイしてくれているプレーヤーの8割以上は今や中国です。正直に言うと中国のモバイルゲームファンの間には様々なゲームジャンルを受け入れてくれる懐の深さがあります。それは売上という形で正しく証明されます。日本のモバイル市場が年単位で硬化しているのに反して、様々な表現が規制を受ける統制国家の市場の方がダイナミックな競争が実現されているのは何とも皮肉な話ではないでしょうか。

 しかし、中国市場で真っ当な手段でAndroid用ゲームを出すということは大変な労力が伴います。まず現地パートナーを見つけたとして、すんなりとゲームをストアにリリースしてくれるとは限りません。中文へのローカライズは必須ですし、なにより中国人のために最適化されたゲームが要求されます。

 先に説明したとおり、Androidは様々なメーカーから多彩なデバイスが販売されています。日本だとGalaxy Sシリーズをはじめとするハイスペック機がほとんどですが、広い中国ではミドルレンジ以下の端末も多く、また通信環境もどこでも都市部とそれ以外では差があるようです。そのため、ほとんどの場合中国のAndroidストアで販売したいのであれば「中国アレンジをしてくれ」と求められます。

 この中国アレンジは、ストアで使用するSDKの類を埋め込むだけならともかく、過去の経験では弱い通信環境に対応するためゲームを分割ダウンロードに対応させたり、ゲームそのものの容量を減らすように注文がつくことが多く、この調整に時間とリソースを投下しなくてはいけません。言うまでもなく、容量を減らすということはビジュアルのクォリティなどを下げるといったスタジオ側にとっては苦肉の選択を迫られます。

 やっとリリースにこぎ着けても、満足な収益を得ることができるとは限りません。海賊版の存在です。Androidのアプリケーションは.apkと呼ばれるソフトウェアパッケージで提供されています。通常はGoogle Playなどのストアからユーザーは直接ダウンロードとインストールを行なうので、iOSのApp Store同様このファイルを意識する必要はありません。Android用のアプリケーション配布(販売)はGoogle Play以外からでも可能です。国内でもamazonや楽天、DMMなどが独自のストアを展開しており、Google Playではルール上提供できないアダルト要素を含んだゲームなども、外部ストアでは提供されています。

 もちろん個人レベルでもオンラインストレージなどにファイルをアップロードしておくことで、手軽に自作のappを公開、不特定のユーザーに試してもらうことも可能です。要するにPCのアプリケーションと同じように取り扱いできることがAndroidならではの特徴でもあり魅力と言えるでしょう(iOSにもジェイルブレイクという手段がありますが、Appleのサポートが一切受けられなくなるのでユーザーが享受するメリットは著しく制限されます)。

 AndroidはPCなみに自由にファイルを扱えるというメリットがありますが。PCで問題になっていることもそのまま受け継がれるということを意味します。海外のGoogle Playで配信されたゲームは、かなりマイナーなゲームでも極めて短期間で抜かれて、海賊版としてネットに放出されます。これは中国だけの話ではありません。中国市場で問題なのは、権利も何も持っていない組織なり個人なりが、この海賊版を中国のストアに勝手に登録して利益を得ている現状にあります。

 中国市場での売上に望みをかけるインディゲームスタジオは、真っ当な手順で現地企業と契約を結び、現地企業の指導で中国人にとってプレイしやすいアレンジを加え、時間とリソースを費やしていざリリースをしてみると、オリジナル版リリース直後にあらわれた海賊版が同じストアで先行者利益を貪っていた、というこれ以上ないバカな展開を味わう危険性は看過できないものがあります。より悪質なのはストアを運営している企業も、該当タイトルの海賊版が自分のストアで売られているのを知っているにも関わらず何もしない、と言うケースがあることです。

 ところで、この困った海賊版を減らす一番確実な方法も現地企業とパートナーを組むことです。現地のみんながイケイケという訳ではなく、権利意識をしっかりと持った企業と組めば、自社のストア内を監視し、主要なストアに流通している海賊版を追放する努力をしてくれるところもあります。ただ猛烈なスピードで海賊版が出回ることを意識すると、おいそれとGoogle Playでリリースできない、という痛し痒しの事情になっています。昨年はそんな話を山のように聞きましたし、実際に経験もしました。今もあまり変わってないのではないかと思います。この非常にややこしい状況を根っこから改善するには本家のGoogle Playが中国で立ち上がることが最上の機会なのですが、こればかりは見守り続けるしかありません。

 ここまで色々書いていますが、インディゲームでも多くの場合、AndroidとiOS両方のプラットフォームでリリースされています。なので今回の題に書いてあるような「及び腰」という言い方は本当は正しくないのかもしれません。しかし海賊版は大きな問題で、買い切りタイプのゲームが多い欧米インディに打撃を与えています。ちょっと見渡すだけでも「オーシャンホーン」や「Radiation Island」、「Lumino City」など高い評価を受けているモバイルゲームはいずれもiOS版だけです。

 昨年のはじめ、パズルゲームの名作「Monument Valley」を開発したustwoがTwitter上で「Android版の累計インストール数のうち、正規に購入されたものは全体の5%」という衝撃的なツイートをしたこともありました。もっとも、この数字は過去にamazonストアなどでおこなっていた無料配布(フリーコピー)の分も含まれるそうなので、残り95%すべてが海賊版被害という訳ではありません。ただ、iOS版のインストール数:購入比は40%ということなので、iOSを上回る普及台数を持ちながら6分の1しか売上を出せていないという事実は動きません。

 中国市場と中国のゲームファンは海賊版という問題を差し置いてもゲームの作り手・売り手にとって大変魅力的な市場です。日本と比べると娯楽が少ないから、という見方もあるかもしれませんが中国のゲームファンはとても情熱的でゲームに対して真剣です。また、AndroidはiOSが開拓しきれていない国やユーザー層をカバーしています。プレーヤーとスタジオが直接つながる供給手段が確立されれば、世界中のインディゲームスタジオがAndroidの巨大市場への直接アクセスできるという恩恵にあずかることができ、海賊版の勢いを削ぐこともできます。それは中国だけでなく世界中のゲームファンにとっても大きなメリットがあるでしょう。ではまた次回。

(大柳竜児)