コーラス大柳の「ためにならないインディゲームレポート」
台湾インディ期待の新作「説剣(The Swords)」をプレイしてみる
水墨画風ビジュアルが印象的な異色の剣術パズルゲーム
(2016/2/25 00:00)
こんにちは、コーラスの大柳です。
先週、台湾インディゲーム界において嬉しいニュースがありました。台北ゲームショウ インディゲームフェスタにも出展されていた「説剣(The Swords)」がApp Storeにてリリース、欧米やアジア各地域で大々的にフィーチャーされています。少人数でコツコツと制作してきたタイトルが世界中のゲームファンが利用するサービスで堂々のデビューを飾るのは、なかなかの快挙ではないでしょうか。
今回はフィーチャー記念(?)として、この「The Swords(説剣)」を紹介したいと思います。価格はこの記事を書いている時点では360円(iOSのみ)。ゲームの最大の特徴は何と言っても水墨画のような素晴らしいビジュアルです。あえてキャラクターを使わず、筆を剣に見立て、紙の上に筆を走らせるようにして様々な剣術を再現するというデザインが目をひきます。
また、ヘタにアニメ風のキャラクターや世界観に走らずに「俺たち中華系」を硬派にゲーム上で表現し、なおかつ最初から欧米系の複数言語に対応することでオリエンタル好きの欧米人と、伝統にそそられる中国人という2つの大きな市場に向けて、的確にアピールができるゲームでもあります。そして美少女キャラにもガチャにも頼らないシンプルさはApp Storeが大好物とするところです。本作は色々な意味で考え抜かれたゲームでもあります。(単なる偶然かもしれませんが)
このゲームはパッと見、果物をスワイプ操作で斬っていくアクションゲーム「フルーツニンジャ」と同じようなゲームと思われる方が多いかもしれませんが、実は違います。なので「フルーツニンジャ」のようにテンポの良い流れるようなプレイ感や爽快さを求めて購入すると、思わず「これじゃない!」と叫ぶはめになります。ゲームデザインの土台が異なるので、この違いを理解しておくことは重要です。
「The Swords」の正体は、6つのゲームモードにわかれたパズルゲームのようなものです。1番近いタイトルは任天堂の「リズム天国」でしょう。「リズム天国」はリズムに乗って様々なお題のゲームをクリアしていきますが、「The Swords」の場合は、古代中国の剣術師範が、弟子に対して剣術を教えるというシチュエーションで様々なお題をクリアしていくゲームです。状況に応じて繊細に、またあるときは大胆な指使いで剣を操作してステージをクリアしていくゲームなのです。なので、このゲームをプレイする場合は「見た目」から得られる過去の経験を捨てて、無心の状態で挑むと楽しくプレイできるかもしれません。
ゲームはストーリー仕立てになっており、前述の通り6つの剣と剣術(6つめは素手ですが)に因んだストーリーを見ながらプレイを進めます。剣術は様々で、書道のように剣筋をなぞっていったり、敵の攻撃を跳ね返したり、大剣で複数の攻撃を一気に倒したりと、慣れるとかなり軽快なテンポでプレイすることができます。自分や敵の剣筋は筆跡で表現されます。ちょうど習字の時間に、半紙の上に筆でらくがきをしていた時のような感覚でゲームが楽しめるのですが、このあたりはトレーラーで動いているものを見てもらった方が理解が早いと思います。
ゲームは正直なところ簡単ではありません。特に最初のステージ(書道のように模様をなぞる)で詰まる人が続出していると思います。簡単にコツを書いておくと「とめ」のタイミングと「書き順」を間違えないこと。これに気づけば意外にスイスイと進めるようになります。先のステージに行くと「覚えゲー」的要素もあります。また難易度が高く設定されていると、タイミングがシビアになるので、何度もやり直しを迫られてイライラすることになるかもしれません。何度やっても先に進めない場合は1番やさしい難易度で進めるのがオススメ。
ゲームプレイの基本は反復です。ミス→死ぬを繰り返し最適解を見つけて突破するスタイルなので、この点も「東洋風フルーツニンジャかな?」と思ってプレイすると違いに驚くことになるわけです。ゲームバランスについては、何度もチャレンジさせるような難しいものがあれば、その次は一気に進めるようなステージが入るという具合に、強弱がうまくついているので、いったんコツをつかむと一気に最後までプレイできてしまう楽しさを秘めています。
物足りないところを1つ挙げるとすると、それはゲームのボリューム不足です。全ステージは一気にプレイすると30分程度でクリアできてしまいます。クリア後は任意のステージを自由にプレイできるようになりますが、スコアやコンボなどリプレイに欲しい要素がまったくないため継続性には問題があります。録画機能やiCloudにセーブデータを保存できるなど、細かいところまで配慮されているだけに、この点が残念でなりません。
ゲーム全体のボリュームは、インディゲームにおいて度々指摘されるところですが、そんな中でも「The Swords」の場合は物足りなさがあるのは確かです。ただ、この本作は他のゲームにはない素晴らしい特徴を持つゲームです。インディゲームファンの方であれば、360円を投資してみる価値はあるでしょう。それではまた次回。