【連載第297回】ゲームライフに役立つグッズをレポート
当連載は、ゲームライフに役立つグッズを発掘し、実際に使用してみようという試みをレポートするものである。ネタに困ったときはお休みしてしまうかもしれないので不定期連載である。ちょっとした投資や工夫で、よりよいゲームライフを送っていただけるよう、鋭意努力していく所存である。 |
昨年11月に発売され、これまでにないHD解像度の3D立体視対応ヘッドマウントディスプレイとして注目を集めた「HMZ-T1」。その後継機となる「HMZ-T2」がいよいよ10月1日より予約が開始、10月13日に発売となる。
この「HMZ-T2」は、前モデルをベースにユーザーからの要望に応える形で各部が改善された、いわばマイナーチェンジモデル。だが、全体の重量が約20%軽量化され、ヘッドフォンも自分の好きなものを組み合わせられるようになり、さらに、パネルの主な仕様は共通ながらも画質モードのチューニングが全面的に見直されているなど、数多くの変更・改善がなされている。
今回はこの「HMZ-T2」をお借りしたので、装着感や使用感をはじめ、特に“ゲームプレイに使ってわかったこと”を中心に試してみた。
【今週のおしながき】 |
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・ETC ソニー 3D立体視対応ヘッドマウントディスプレイ「HMZ-T2」 |
● 各部が改善され、重量も約20%軽量化され扱いやすくなった「HMZ-T2」
- メーカー:ソニー
発売日:10月13日
価格:オープン(実売価格:70,000円前後)
パネル:有機ELパネル x 2
画素数(水平×垂直):1,280x720
アスペクト比:16:9
視野角:約45度
仮想画面サイズ:750インチ(仮想視聴距離 約20m)
3D立体視:デュアルパネル3D
ヘッドフォン:密閉型インナーイヤーヘッドフォン付属
音声入力:リニアPCM、ドルビーデジタル、AAC
バーチャルサラウンド:5.1chバーチャルサラウンド
入出力:HDMI入力1系統/スルー出力1系統
プロセッサーユニット以外の同梱物はこのようになっている。スマートな形状になり軽量になったHMD本体、オーディオ部分が取り外し可能になったことでイヤフォンが付属するようになり、パーツ数が増え大型化された遮光用のライトシールドが3つ、そのほかケーブルホルダーやヘッドパッドカバーも同梱 |
HMD本体はなんといっても小型・軽量化が図られたことが大きな特徴だ。前モデル「HMZ-T1」が重量約420gだったのに対し、この「HMZ-T2」は約330gと約90g軽くなった。90gの軽量化は、特に頭に装着すると実感できる。
全体のデザインも前モデルと比べてすっきりとしており、丸みを帯びていたラインがシャープになっている。前モデルでは一体化されていたヘッドフォンがなくなったことで、耳周りのフレームも細くスマートになった。
一方で、額でHMD本体を支えるためのヘッドパッドは逆に大型化され、表面積が増えたことで額への負担が分散されるようになった。また、パッド表面はメッシュ加工され、素材もよりグリップ感のあるものが使われている。
有機ELパネルに関しては「HMZ-T1」と仕様的にはほぼ同じもの。解像度は1,280x720のいわゆる720p。左右2枚の有機ELパネルをレンズから覗くように見るのだが、そのレンズの位置を調節するアジャストスライダーが、前モデルだと左右のレンズが一緒に5段階動いていたところが、左右それぞれが独立して動くようになった。これで眼の位置にレンズを合わせるのが、よりやりやすくなっている。
後頭部で固定するためのヘッドバンドも改良されている。前モデルだとバンドの穴にはめ込む方式で固定していたが、「HMZ-T2」では固定パーツのボタンを押しバンドを緩めて長さを調節できるようになった。
HMD本体の下部にある操作ボタン類もレイアウトが変更されている。前モデルだと右側に全てのボタンが集中していたが、「HMZ-T2」だと音声ボリュームのボタンは左側になっている。電源ボタン等との押し間違いが起きないように工夫しているというわけだ。
装着時に隙間から光が入ってきて没入感を損なわないようにするライトシールドも、大型化しパーツ数も増えた。前モデルだと下側に取り付けるシールドが2枚あったのだが、「HMZ-T2」では下側が大きな1枚のパーツになり、上側にも左右それぞれ1枚ずつを装着するという3パーツになっている。ライトシールドそのものも前モデルより柔らかなラバーパーツになっていて、顔によりぴったりとくっつけられるようになった。可能な限り隙間ができないようになっていて、遮光率が上がっている。
HMD本体。オーディオ部分が独立したことで側面が非常にすっきりとした。前面部も丸みを帯びていた部分のラインがシャープになり、高さも控えめになった。その結果、重量が約90g軽くなったのが大きな魅力だ |
額でHMD本体を支えるヘッドパッドは、前モデルよりも横幅が増して大型化。装着時の負担が減っている | レンズ部分の位置を調節するアジャスターは前モデルだと両側が一緒に動いていたものが、左右独立して動くようになった | 後頭部で固定するためのヘッドバンドも押しボタンでバンドをスライドさせるタイプになり、より扱いやすくなった |
操作ボタンは音量だけが左側へと移動した。これにより電源ボタンとの押し間違いを抑制している |
光を遮断するためのライトシールドは、上に2枚、下に大きな1枚を装着する3枚のラバーパーツになった(前モデルでは2枚だった) |
前モデルだと一体化していたヘッドフォンが、「HMZ-T2」では独立し、取り外し可能になったのも非常に嬉しい変化だ。他のオーディオ機器を自由に組み合わせられるようになった。
「HMZ-T2」にはインナータイプのイヤフォン(MDR-EX300相当)が付属している。パネルの左端(HMDとプロセッサーユニットの接続ケーブルが出ているところの下)にステレオミニプラグの端子があるので、そこに繋ぐ。また、ここには他のヘッドフォン等を繋げてもいい。また、「HMZ-T2」からの音声出力は使わずに、スピーカーやサラウンドヘッドフォン等で音を聴くという併用スタイルも可能だ。
付属のイヤフォン(MDR-EX300相当)。ケーブルのが一般的なものよりも短い。写真右のように、HMDのレンズ側左端にあるステレオミニプラグに接続する |
HMDを接続するプロセッサーユニットには外観的には大きな変更点はない(ドルビーデジタルのロゴが増えた程度)。前面にHMDからのケーブルを接続する端子があり、背面には電源ケーブルや、入力と出力のHDMIケーブルを接続する端子がある。前モデル同様に、HMDを使っていない電源オフ時にはHDMI接続がスルーされて、出力HDMI端子に接続している側に映像と音声が流れるようになっている。
だが、内部的な処理の面ではいろいろと改善や新機能が加わっている。「HMZ-T2」では音声入力に新たにリニアPCM、ドルビーデジタル、AACに対応(HMZ-T1ではリニアPCMのみ)。映像面では、レンズ特性を考慮した新エンハンスフィルターと14bitリニアRGB 3×3色変換マトリクスエンジンを採用し、画質モードのチューニングが見直されている。さらに、動画ボケを抑える「パネルドライブモード『クリア』」の切替機能を搭載したほか、映画館同様の毎秒24コマ映像を再現する「24p True Cinema」も搭載している。この改良点により、パーソナルシアターとしての魅力を向上している。
プロセッサーユニットは、外観としてはドルビーデジタルのロゴが追加されたぐらいで大きな変化はなし。ただし、内部処理に関しては改善や新機能が搭載されている |
● より装着しやすくなり、他オーディオ機器の組み合わせも可能に。映像処理の向上や、ゲームモードの追加も嬉しい
「HMZ-T2」を装着したところ。前モデルよりも装着しやすく、しっくりとくるスイートスポットが見つけやすくなった。ちなみに写真では額のヘッドパッドのみで支えているように見えるが、同時に眼の周りのライトシールドでも本体を支えている。負荷がヘッドパッドだけに集中しなくなった |
実際にプレイステーション 3でのゲームプレイに使用し、試してみた。まずは装着だが、研究所員がHMDの扱いに以前よりも慣れたというのはあると思うが、それを差し引いても「HMZ-T1」よりも装着しやすくなっていると感じた。
まず、本体が軽くコンパクトになったことで取扱いやすい。ヘッドバンドのアジャスター調節もしやすくなり、ヘッドバンドを広げた状態でスポっと「HMZ-T2」を被り、眼の位置を基準に角度を合わせてヘッドバンドをカチカチと縮めれば装着完了。ヘッドフォンがなくなったことにより、装着時の煩わしさが減り、ヘッドパッドも大型化されて安定感が増しているのも大きい。
装着後には、約90gの軽量化が強く実感できた。なにしろ頭に装着しているものなので、少しの重さでもずいぶん装着感が変わってくるが、この軽量化の影響は大きい。また、重心も良くなっていて、前モデルは前側が重く、ヘッドパッドにその重さがダイレクトにかかっていたが、「HMZ-T2」の場合、ヘッドパッドの大型化と合わせて、固定部の負荷がかなり楽になったこともあり、前側にその恩恵を感じる。
左右のレンズ位置を調整するアジャストスライダーが左右独立で動くようになったのも非常に嬉しい。前モデルの左右レンズが連動して動く作りでは、装着した時に頭にしっくりくる位置探しに加え、眼の位置合わせもあり、スイートスポットとも言える位置調節が難しかった。だが、その難しさがかなり解消されている。装着がしやすく、軽量になり、そして装着位置もより適切なポイントが探りやすくなっている。
装着のしやすさと装着感の良さにはライトシールドの進化も一役買っている。「HMZ-T2」では上下に3つのシールドを装着できるようになったが、今回試用している期間はこれを取り付けたままで「HMZ-T2」の脱着がしやすかった(前モデルでは事あるごとにシールドの脱着をしていたところに煩わしさがあった)。ライトシールドがちょうど眼の周りにフィットして「HMZ-T2」を固定する補助になっているし、遮光性も高まっている。シールドはかなり柔らかなラバー素材になっているので、顔に押しつけるぐらいにしてしまっても問題なし。一体感が高まって使いやすかった。
ただ、ライトシールドによるちょっとしたデメリットもあった。密閉感が高まったので、季節柄もあってか眼の辺りに熱が篭もってしまったことだ。その熱によってレンズが曇ってしまうことがあり、そういう時には1度外して熱を逃がしす工夫が必要だった。
他のオーディオ機器を自由に組み合わせられるのが「HMZ-T2」で最も嬉しい変化ではないだろうか。写真は研究所員が普段愛用しているワイヤレスのサラウンドヘッドフォンを組み合わせている |
HMD本体を装着したら、次はイヤフォンの装着。付属のイヤフォンはケーブル長が短く、研究所員の場合だと、後頭部からまわして右耳側がギリギリ届くといった長さだったので、もう少し長いほうが余裕があって扱いやすかったかもしれない。
付属品のイヤフォンの音質はというと、インナータイプなこともあり、遮音性が高く、音質としては高音と低音が強めに聴こえる。少々軽めな音とも感じたが、クリアな聴こえ方をするイヤフォンだ。耳のサイズにあわせた交換用のパッドも大・中・小の3種類が付属している。
前述の通り、前モデルで対応していたリニアPCMの他にドルビーデジタルとAACにも対応し、出力はバーチャルサラウンドに対応しているため、2チャンネルのイヤフォンやヘッドフォンでサラウンドサウンドを楽しめる。
また、音質においては、サウンドモードをインナーイヤー/オーバーヘッドに切り替えできるほか、圧縮音源で失われがちな“消え際の微小な音”を再現し、深みと伸びのある音場を再現する「ハーモニクスイコライザ」も搭載。内部処理的にもリッチになり、付属のイヤフォンをより高品質なヘッドフォンなどに交換すれば、その性能を存分に楽しめる。
さらに「他のオーディオ機器との組み合わせ」が可能になったことが非常に大きい。サラウンドスピーカー環境や、サラウンドヘッドフォン等を所有している人ならば、「HMZ-T2」からの音声出力ではなくそちらも組み合わせて使える。
研究所員は、普段から愛用しているワイヤレスのサラウンドヘッドフォンがあるので、それを試してみた。「HMZ-T2」を装着した上からヘッドフォンを被るだけですんなりと併用できる。HMD本体のフレームやヘッドバンドが邪魔になることもなく、おそらくほとんどのオーバーヘッドタイプのものを併用できるだろう。
音声周りについては、組み合わせの自由度が高まったことで、ほとんど全ての要求に応えられるようになっている。特に本製品を欲しがる方であればリスニング環境にもこだわりがあるだろうし、他環境との組み合わせが可能になったことによる満足度の向上は相当に大きいだろう。
「Wipeout HD」プレイ中の画面をレンズ越しに撮影。「HMZ-T2」では映像モードの「ゲーム」が追加されて遅延の元になる映像補正処理を全て一括でオフにできるようになったほか、動画ボケ(残像感)を低減できるパネルドライブモードの「クリア」も搭載されている |
画質処理の改善についてだが、前モデルよりも鮮やかさと精細感が向上していると思える。解像度こそ前モデルの1,280×720と変わっていないし、パネルそのものも違いはないとは言うものの、処理周りの向上によって、さらにワンランク上の画質になっていると感じた。特に解像感が高まっていて、より有機ELパネルのくっきりとした映像が際立つようになっている。
映像モードに新たに「ゲーム」が追加された。これはノイズ除去やコントラストリマスターなどの各種映像処理の設定を全てオフにするというもの。つまり、遅延の原因になりがちな映像補正処理をまとめてオフにして、ゲームプレイに特化させた設定にしてくれるというわけだ。
一般的な液晶テレビやモニター等でも、ゲームプレイで遅延を最も少なくするなら、各種映像補正機能を片っ端から全部オフにしたりスルーモードを使ったりするのが常套手段。それが一括して行なえるという便利な機能だ。
また、画質設定モードとは独立した形で、パネルドライブモード(パネルの駆動モード)の「クリア」という設定も新たに搭載されている。これは、有機ELパネルの発光を制御することで動画ボケ(残像感)を抑えるというものだ。動きの速い映像(サッカー中継で大きくボールが蹴り出されてスタジアム全体が流れるように映るシーンなど)に強くなる。ただし、「クリア」にすると全体の輝度が一段落ちて暗くなるというデメリットもある。
実際にこのパネルドライブモードを「標準」と「クリア」に交互に切り替えつつゲーム画面の見え方の変化を探ってみたのだが、これが実のところを言うと、はっきりとした変化はわからなかった。
実際の試用では、まず格闘ゲーム「ペルソナ4 ジ・アルティメット イン マヨナカアリーナ」で延々とキャラクターを垂直ジャンプさせ、その状態でパネルドライブモードを切り替えて観察してみたのだが、これでは違いが何もわからなかった。画面の一部(キャラクターのみ)が動いているぐらいでは違いがわからないのかもしれない、ということで、続いては画面全体がスピーディーに流れていくレースゲームの「Wipeout HD」をプレイ。こちらでは心なしか「クリア」のほうが背景がはっきり見えるような気がするとも思ったのだが、やはりはっきり、とは言えない程度のもの。どちらかというと画面の輝度が一段落ちることのほうが影響が大きいと思える。
これについては、もともと「HMZ-T2」はその駆動方式からして残像に強い有機ELパネルを使っているわけで、もとより残像感や動画ボケといった類のものが非常に少ない。ドライブモードをクリアにすることでそれがさらに低減されるとはいっても、それは本当にわずかな差なのかもしれない。
左はパネルドライブモードの「標準」、右が動画ボケをより減らせるという「クリア」。写真のように「クリア」だと輝度が一段落ちる。動画ボケの軽減よりも、この輝度の落ち込みのほうが正直目立つところがあった |
最後に、遅延のテストを行なった。前モデルで行なったように、「LCD Delay Checker」というカウンター表示プログラムを、HDMI接続でデュアル出力。一方は、スルーモードにしたLG電子のゲーミングPCモニター「W2363V-WF」へ、もう一方は「HMZ-T2」だ。それぞれ「LCD Delay Checker」が動いている画面をムービー撮影し、それを比較した。なお、「HMZ-T2」は映像モードを「ゲーム」に、パネルドライブモードは「クリア」にしている。
結果としては、「HMZ-T2」側が約1フレーム(1コマ)遅れているというところで、「W2363V-WF」の1フレーム未満の遅延と足して、約2フレーム以下の遅延があるというところ。前モデルとほとんど同様の結果となった。
動画中の上の画面が「W2363V-WF」、下が「HMZ-T2」の画面。「LCDDelayChecker」のモードは1,280×720の60fps、いわゆる720pで表示した。そのままの速さだとわかりづらいので、動画の途中で再生スピードを1/4にしている |
最新モデルの3Dヘッドマウントディスプレイ「HMZ-T2」を試してみたが、軽量になったことをはじめ、各部の変化により装着のしやすさと装着感がしっくりとくるスイートスポットが見つけやすくなった変化は非常に大きかった。オーディオ部分が独立したことで装着がしやすくなっているし、組み合わせも自由になって、より扱いやすく、よりリッチな環境で「HMZ-T2」を楽しめるようになっている。
プロセッサーユニットの映像処理がさらに向上して、解像感が高まっているのも大きなポイントで、装着した瞬間から始まる映画館のスクリーンが目の前にあるような750インチ相当の迫力を、より高精細に楽しめるようになった。その映像の鮮やかさ、解像感の高さは驚きと感動を与えてくれるレベルだ。
もちろん、左右独立したパネルがある「HMZ-T2」ならではの、自然な色合いと明るさでクロストークが一切ない3D立体視映像も前モデル以上に魅力的。現状、3D立体視映像を楽しみたい、という声に応えられるベストの1つの答えといえる。
長時間の使用についても、軽量になり重心も改善され、ヘッドパッドの大型化やライトシールドによる支えも加わったことで、だいぶ楽になった。前モデルだとゲームプレイ時間が3時間を超えたあたりから額の痛みを感じられたが、この「HMZ-T2」ではヘッドパッドの痛みはだいぶ軽減されている。ただ、長時間の使用は疲労や大画面酔い的なものは個人差があるとはいえ、さすがに付けっぱなしとはいかなさそうだ。
前モデルで気になったところの多くが解消され、さらに魅力的になっている「HMZ-T2」。前モデル同様に品薄が予想されるので、気になっている方はぜひ早めに予約しておいたほうがいいだろう。
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[Reported by ゲーム環境向上委員会]