3Dゲームファンのためのグラフィックス講座

西川善司の3Dゲームファンのための「プレイステーション 4」グラフィックス」講座(前編)

PS4でCELLプロセッサが捨てられた理由

PS3発表当時前後に公開されたCELLプロセッサのイメージ写真

 ところで、多くの読者が「なんでPS4はCELLプロセッサベースのアーキテクチャでなくなってしまったの?」という疑問を持つことだろう。これは、CELLプロセッサの未来が閉ざされてしまったためだ。

 筆者がPS3登場後に各方面から取材して得ていた情報では、「CELLプロセッサのアーキテクチャが拡張されていくことに連動して、PS4以降もCELLプロセッサを基軸にした進化を促していく」というロードマップとなっていた。

 CELLプロセッサは非常に革新的で、異なる得意分野を持つアーキテクチャのプロセッサを1チップに集約化する「異種混合型マルチコアプロセッサ」のトレンドを作り出した。

 さらに膨大なデータに汎用コンピューティングを適用する「データ並列コンピューティング」という概念の認知度を上げた。「風が吹けば桶屋が儲かる」式にいけば、CELLプロセッサの台頭は、後編で取り扱うGPGPUソリューションにも追い風をもたらした。

 CELLプロセッサのマインドはコンピューティングの世界を動かしはしたが、しかし、CELLプロセッサ自身は、それほどの広がりを果たせなかった。

 PS3発売後の2年後の2008年、ソニーは長崎のCELLプロセッサ生産工場を東芝に売却。その後、東芝CELLプロセッサ搭載のテレビを開発するがヒットには至らず。2010年にはその東芝が、ソニーに買い戻して欲しいと交渉を開始。まさに「いらないものの押し付け合い」となってしまった。

 CELLプロセッサはソニー、東芝、IBMの3社連合で開発されたものだが、アーキテクチャ設計に大きく関わってきたIBMも、スーパーコンピュータ「RoadRunner」に採用したところまでは良かったが、その後、アーキテクチャの進化には消極的になる。ついに、2010年、進められてきた次世代型CELLプロセッサの開発は凍結されてしまう。

【CELLプロセッサベースのGPUのデザイン案】
特許文書に残る、CELLプロセッサベースのGPUのデザイン案。PS3の開発時、直前まで東芝がこのスタイルのPS3向け独自GPUを開発していた

 PS3に搭載されていたCELLプロセッサは、メインCPU的なPPE(PowerPCコア)が1基、超高速な128ビットSIMD型RISCプロセッサコアSPE(Synergistic Processor Element)が8基(うち1基は非稼動)という構成だったが、開発が進められていた次世代型CELLプロセッサは、PPEが2基、SPEが32基だったと言われている。

 ちなみに、PS4は、当初、インテルが開発していたCPU×GPUのハイブリッドプロセッサ「Larrabee」ベースでの開発検討も行なわれていたと言われているが、2010年、インテルが、このLarrabeeプロジェクトを凍結してしまったので、それも叶わず。

【インテルの「Larrabee」】
インテルの「Larrabee」は、「グラフィックスレンダリングパイプラインをソフトウェアレンダリングに回帰させる」ことを命題に開発が進められていたが開発は頓挫。事実上の開発中止となってしまった。関係者への取材では、PS4への採用が最有力視されていたのはこのLarrabeeだった

 PS4の開発は「色んな意味」で苦難な道のりだったようだ。なお、CELLプロセッサを捨てざるを得なくなったPS4は、PS3との本体レベルでの互換性まで捨てることになってしまった。ただ、ソニーとしては、クラウドゲーミングの形でPS1、PS2、PS3のゲームを提供する未来を予告している。「過去のソフトウェア資産はクラウドゲーミングの形で提供する」というのがPS4世代の「互換性」戦略となるようだ。

(トライゼット西川善司)