3Dゲームファンのためのグラフィックス講座
西川善司の3Dゲームファンのための「プレイステーション 4」グラフィックス」講座(前編)
(2013/3/7 00:00)
PS4でCELLプロセッサが捨てられた理由
ところで、多くの読者が「なんでPS4はCELLプロセッサベースのアーキテクチャでなくなってしまったの?」という疑問を持つことだろう。これは、CELLプロセッサの未来が閉ざされてしまったためだ。
筆者がPS3登場後に各方面から取材して得ていた情報では、「CELLプロセッサのアーキテクチャが拡張されていくことに連動して、PS4以降もCELLプロセッサを基軸にした進化を促していく」というロードマップとなっていた。
CELLプロセッサは非常に革新的で、異なる得意分野を持つアーキテクチャのプロセッサを1チップに集約化する「異種混合型マルチコアプロセッサ」のトレンドを作り出した。
さらに膨大なデータに汎用コンピューティングを適用する「データ並列コンピューティング」という概念の認知度を上げた。「風が吹けば桶屋が儲かる」式にいけば、CELLプロセッサの台頭は、後編で取り扱うGPGPUソリューションにも追い風をもたらした。
CELLプロセッサのマインドはコンピューティングの世界を動かしはしたが、しかし、CELLプロセッサ自身は、それほどの広がりを果たせなかった。
PS3発売後の2年後の2008年、ソニーは長崎のCELLプロセッサ生産工場を東芝に売却。その後、東芝CELLプロセッサ搭載のテレビを開発するがヒットには至らず。2010年にはその東芝が、ソニーに買い戻して欲しいと交渉を開始。まさに「いらないものの押し付け合い」となってしまった。
CELLプロセッサはソニー、東芝、IBMの3社連合で開発されたものだが、アーキテクチャ設計に大きく関わってきたIBMも、スーパーコンピュータ「RoadRunner」に採用したところまでは良かったが、その後、アーキテクチャの進化には消極的になる。ついに、2010年、進められてきた次世代型CELLプロセッサの開発は凍結されてしまう。
PS3に搭載されていたCELLプロセッサは、メインCPU的なPPE(PowerPCコア)が1基、超高速な128ビットSIMD型RISCプロセッサコアSPE(Synergistic Processor Element)が8基(うち1基は非稼動)という構成だったが、開発が進められていた次世代型CELLプロセッサは、PPEが2基、SPEが32基だったと言われている。
ちなみに、PS4は、当初、インテルが開発していたCPU×GPUのハイブリッドプロセッサ「Larrabee」ベースでの開発検討も行なわれていたと言われているが、2010年、インテルが、このLarrabeeプロジェクトを凍結してしまったので、それも叶わず。
PS4の開発は「色んな意味」で苦難な道のりだったようだ。なお、CELLプロセッサを捨てざるを得なくなったPS4は、PS3との本体レベルでの互換性まで捨てることになってしまった。ただ、ソニーとしては、クラウドゲーミングの形でPS1、PS2、PS3のゲームを提供する未来を予告している。「過去のソフトウェア資産はクラウドゲーミングの形で提供する」というのがPS4世代の「互換性」戦略となるようだ。