3Dゲームファンのためのグラフィックス講座

西川善司の3Dゲームファンのための「Panta Rhei」講座(前編)

「deep down(仮)」のグラフィックススペック

 PS4発表会では「Panta Rhei」エンジンの実動プレゼンテーションとして『deep down』(仮)」という中世ファンタジー風の映像デモが公開された。『deep down』は正式タイルではなく仮称タイトルだそうだが、いわゆるリアルタイム映像デモとして完結したプロジェクトではなく、ゲーム開発プロジェクトとして現在も進行中のプロジェクトだとのことだ。なお、『deep down』のあのリアルタイム映像デモの開発に関しては2012年夏より開始されたとしている。

伊集院氏:MTフレームワークの時は、エンジンの開発とゲームタイトルの開発をある程度オーバーラップさせる形で並行に開発を行ないました。初代「デッドライジング」と初代「ロストプラネット」がそうです。今回の「Panta Rhei」エンジンにおいて、その位置づけとなるのが『deep down』なんです。ゲームエンジンを洗練させるにはゲームタイトル開発が必要です。『deep down』をリアルタイム映像デモのように捉えられている人も多いかと思いますが、実際にはゲームタイトルです。

【「『deep down』(仮)」Teaser Trailer】
「Panta Rhei」を駆使して作り上げられたリアルタイム映像デモ『deep down』。実際のゲームとしてのプロジェクトとしても進行中でもある

 ゲームエンジンとタイトル開発を並行させることは珍しい事ではない。PS3、Xbox 360時代にEpic Gamesは、Unreal Engine 3開発に際して「Gears of War」や「Unreal Tournament 3」の開発を並行して進めていたし、CrytekもCryEngineの新版開発の際には「Farcry」、「Crysis」シリーズをセットにして開発を進めていた。ゲーム開発を完了させることで、半自動的に、ゲームを開発する際に必要な要件の洗い出しと実装が完了するということなのだろう。

 この『deep down』のゲームそのものの詳細については、PS4専用なのか、同世代の競合機であるXbox Oneにも対応するのかといったことも含めて現在はお話しできないとのことだが、PS4発表会で公開されたリアルタイム映像デモのスペックについては明かして貰えた。

 まず、1フレームあたりの総レンダリングポリゴン数は1,000万から2,000万。PS3世代の10倍程度となっている。この値は、影生成などの際に用いるシャドウマップ生成のような不可視ポリゴンなども含めた値で、いわば1フレームあたりにGPUに掛かる総ジオメトリ負荷というイメージの値だ。

 「プレイステーション 4」グラフィックス講座で、理論スペックから「PS4のグラフィックス性能はPS3の約8倍程度」という予測を行なったことがあったが、ほぼ予測通りといえそうだ。フレームレートは可変フレームレート設計を採用しており、概ね30fpsを超える形でまとめられたとのこと。総テクスチャ容量は2GB。

【『deep down』のスクリーンショット】

 そして、このデモで動作している総シェーダー数は30個となっている。ゲームグラフィックスに詳しい人ならば、総シェーダー数がやけに少ないなと思った人もいるかもしれない。これは、PS3、Xbox 360のDirectX 9世代GPUとは違って、プログラマブルシェーダーにおいて動的分岐命令を多用しても実効パフォーマンスがそれほど下がらないDirectX 11世代GPUの特性を活かしたユニバーサルなシェーダー設計を実践しているためだ。つまり、単一のシェーダーにおいて、入力させるパラメーターで動作振る舞いを可変設計にしていると言うことだ。

 開発当時のPCスペック(≒すなわちこのデモが動作させられるPCのスペック)は、CPUがIntel Core i7、GPUがNVIDIA GeForce GTX 570、メインメモリが8GBだったとのこと。現在、開発マシンはメインメモリを32GBにしているものが多く、GPUもGeForce GTX 590やGeForce GTX 680を搭載したものもあるようだ。

清水大輔氏(株式会社カプコン、大阪開発部、技術研究室、プログラマー)

清水氏:PS4は、ご存じのようにメインメモリとグラフィックスメモリ兼用のメモリ領域として8GBがあります。これが非常に威力を発揮していますね。開発はPCで行なっていたわけですが、PC上のGeForce GTX 570だとグラフィックスメモリは1.2GBしかないわけです。これが意外にボトルネックになって、その意味ではPCの方がPS4実機よりもきつかったりします(笑)。

 PS4実機の場合はリニアに8GBのメモリ空間を自在にCPU用のメインメモリとして、あるいはGPUのグラフィックスメモリとして使えるが、PCの場合、明確にメインメモリとグラフィックスメモリが分かれてしまっているために、PS4実機よりも開発PCの方が動作が苦しくなってしまう局面があったと言うことだ。確かに、『deep down』で用いられた総容量2GBものテクスチャメモリは、GeForce GTX570の1.2GBには乗り切らない。PS4のアーキテクチャならば、これは問題なく載る。総容量8GBのメモリを、状況に応じてグラフィックスメモリに多く割いたりすることができるのはPS4アーキテクチャの利点だと言える。

 確かにPS4のピーク性能は、現存するハイエンドPCよりも低いものの、ゲームの開発しやすさという意味では、ハイエンドPCを凌ぐ部分もあると言うことができるかもしれない。なお、細かい点では異なるが、大枠では近いアーキテクチャを採用するXbox Oneでも、同様のことが言えるだろう。

(トライゼット西川善司)