(2016/4/6 12:29)
オープンワールドの広大なマップを駆け回り、生き残ることを目的に戦う人気シリーズ「ファークライ」の最新作の舞台としてユービーアイソフトが目をつけたのは、人間が「ヒト」という動物の一種として分類される紀元前10,000年頃の石器時代。それが今回ご紹介する「ファークライ プライマル」だ。
主観視点のアクションシューターのテーマとしては非常に珍しい着眼点で制作された本作。ゲームシステムや世界観が、一体どんなものとなるのか気になっているゲームファンは多いかと思う。
今回は本作のPS4版を発売前にプレイすることができたので、こちらを20時間程度プレイしてのレビューをお届けしたい。なお記事中のコントローラーの表記は全てPS4のものだ。
ヒトが獲物として食われる、弱肉強食の石器時代
舞台は紀元前10,000年頃の中央ヨーロッパ。遠い旅のすえたどり着いた豊饒の地「オロス」に根を下ろした「ウィンジャ」の一族は、そこで肉食の部族「ウダム」と、火を司る部族「イジラ」に脅かされた。一族は全滅寸前となり、辛うじて生き残った民も散り散りになっていた。
ウィンジャの1人で本作の主人公となる「タカール」は、新たな狩り場を求めて厳しい旅を続けていたが、仲間の死をきっかけに、もう1度ウィンジャの「兄弟」たちと生きるためにオロスを目指すこととなる……。
ゲームらしいヒロイックなプロローグだが、そのオープニングはかなり衝撃的だ。目の前をゆうゆうと闊歩する巨大なマンモスの群れに必死に立ち向かっていく石器人たちが、必死の思いで小さなマンモスを倒すと、そこに巨大なサーベルタイガーが襲いかかり、主人公以外は全滅させられてしまう。この世界ではヒトという種族が、食物連鎖の中で「食われる」立場にあるということを、序盤から思い知らされるのである。
狩猟という形で幕を開ける本作。石器時代という舞台へプレーヤーを引き込んでいく演出としては、ベタながらも効果的だ。このあと、入手した素材からのアイテムクリエイトや、アドベンチャーゲームとしての探索などのチュートリアルを経て、広大なオロスの台地へと足を踏み出していくのである。
どこまで歩いても緑と土の台地が続く、広大なオープンワールド
誰もが初めて踏み入れるであろう、石器時代のオープンワールドは、何より奇妙な感覚だ。大自然の中を歩き回るゲームは、これまでの「ファークライ」シリーズなども含め、さほど珍しくはないが、本作の場合は自然の規模が違っている。
どこまで歩いても見えてくるのは緑の木々と草原、岩肌や水辺ばかり。ごくときどき目に入ってくる人工物は、木や動物の皮で作られた住居や石積みのオブジェだけだ。ワールドマップには道らしきものの表記はあるが、実際のフィールド上では獣道にも見えない単なる「歩ける場所」程度のもの。ランドマークとなるようなものはなく、強いて言えば地形そのものがそれにあたるという感覚で、筆者の場合は大きな湖や川などの水辺がそういった場所だった。
フィールドがそのような作りなので、ゲームプレイに慣れない序盤は、とにかくいつも迷っていた。狩りで獲物を追いかけていると、いつの間にかとんでもない場所まで来てしまうなんてことは日常茶飯事。本作のマップは足を運んだ場所がオープンしていく仕組みなのだが、ふらふらと放浪しているうちに、マップがそれまでの倍以上開いてしまっているなんていうこともあった。
ただこれは決してマイナス要素というわけではなく、石器時代のオープンワールドゲームならではの面白みとも感じられたところだ。狩りに夢中になっていたら、知らないところまで来てしまい、日が暮れて狼に襲われて死ぬ思いをした、などというギャグマンガにでもありそうなシチュエーションも、文明の利器がないところでの生活ならありうる、ということをゲームとして体験できるわけである。
もちろん画面左下に常にミニマップが表示されていたり、マップの目的地にマーカーを付けられたりするなど、ゲームとして不便になるようなことはないので、そこはご安心いただきたい。
このようにこれまで体験したことのない世界の探索は、オープンワールドゲームの楽しみの一つでもある。オロスの台地を少しずつ開拓しながら、行く先々にある拠点奪還や人材発掘、仲間の依頼などのミッションをこなしていくことで主人公タカールが成長し、より遠くまで足を伸ばせるようになるという一連の組立はさすがの人気シリーズ最新作という手応えも感じられた。
弓矢や槍を使ったステルスアクションが狩りの基本
ヒトが決して強くない立場にあるこの時代において、プレーヤーとなる主人公タカールがまずすべきことは、物語の冒頭でも体験した狩猟である。「生きるために狩り、生きるために食う」というサバイバルの常套句が本作にも当てはまるわけだが、本作では体力回復の手段として肉を食べる行為が必要となってくる。動物を狩ることで体力回復のための肉や、狩りの道具を作る(クラフト)するための毛皮、骨、動物脂などが手に入るという仕組みだ。
狩りの対象は、数が多く狩るのも比較的容易な山羊や鹿などの草食動物から、オオカミやジャガー、熊など、相手もヒトを狩りの対象としている捕喰動物、さらにはサーベルタイガーやマンモスまで、絶滅してしまった動物なども存在している。もちろん全て相手にしなくてもいいが、物語を進めてより便利な道具をクラフトするようになったときに、強い動物の素材が必要になってくることもある。
そんな狩りをするための武器は、弓矢や槍、棍棒など、石器時代を代表する狩りの道具が中心となる。弓矢ならば射撃、槍や棍棒なら投擲と格闘の両方に使えるといった具合で、FPSのようなバリバリと撃つようなシューターにはならないというのも当然だ。
どちらかというと求められるのは、草むらや岩陰に身を潜め弓や槍などで対象の頭を狙って静かに狩っていく、いわゆるステルススタイルのアクションである。武器は銃のように音の心配をする必要がなく、ヘッドショットキルが決まれば、他の敵に気付かれずに倒すこともできる。ゲームでは敵となる部族と戦う展開もあり、ステルスアクションはそのときの戦術として有効な手段となる。考えてみれば、狩猟という行動自体がステルス性を要するものであり、この内容は必然といえるだろう。
猛獣を呼び出し、意のままに操る「ビーストマスター」能力
そんな狩人として優れた力を持ち、やがてウィンジャのリーダーとしての才能を発揮していくタカールには、いくつかの彼にしか使えない特別な能力が備わっている。その中でも本作独自のゲームシステムとなっているのが、「ビーストマスター」の能力だ。これはオロスに生息する一部の猛獣を手なずけ、意のままに操ることで、この世界での戦いや活動を有利にするというものだ。
手なずけた猛獣は、タカールが戦っている敵に対して半自動でダメージを与えてくれるほか、指示(カーソルを合わせてR1)をすることで敵への攻撃を行なってくれ、さらに、勝手に素材を見つけてきてくれたり、背中に乗って移動ができたりと、種類によって異なる特別な能力を発揮してくれるのだ。
中でも面白いのはフクロウで、これは他の猛獣とは異なり、呼び出す(方向キー↑)ことでゲームのカメラが上空を飛ぶフクロウのものとなり、まるでドローンのように離れた場所からの遠隔操作で偵察や攻撃が行なえるようになるのだ。敵の拠点などを攻撃するときに、フクロウを飛ばして事前に偵察することで、タグ付けすることで敵の位置や役割がわかるようになるという寸法だ。
猛獣たちは一度手なずけてしまえばいつでも呼び出しができ、交替も簡単で、そして何よりも、狩りをしているときは恐ろしく手ごわい猛獣が、手なずけることで飼い犬や飼い猫のように従順に従ってくれることに、プレーヤーの誰もが愛おしさを感じるはず。生きるか死ぬかの石器時代における、一服の清涼剤としても楽しみたいところだ。
主人公タカールの成長と、ウィンジャ復興のドラマを楽しむ
本作はしっかりと時間をかけてプレイするゲームであり、主人公の成長要素ややり込み要素などが充実している。動物を狩ったり敵を部族を倒したり、あるいは新たな場所を開拓したりすることで、経験値が手に入り、それによって得られるスキルポイントを消費して、新たなスキルを習得していけるという、比較的オーソドックスなシステムが採用されている。
習得できるスキルには採集や「サバイバル」、「採集」、「狩り」、「戦闘」などのカテゴリがあり、それぞれはオロスに散っているウィンジャの重要人物と邂逅することで解放されていくので、そこに至るまでのドラマも並行して楽しめるという仕組みだ。
またゲームには「ウィンジャの復興」という大きな目的があり、タカールの行動は全てその目的につながっている。タカールと最初に出会うウィンジャの女性サイラは、ゲーム序盤の拠点となる洞窟に村を起こし、ゲームを進めていくことでその村が大きくなっていく演出も面白いところった。
冒頭でも述べているとおり物語の展開はヒロイックで、よほど好みが偏っていなければ楽しめる内容であり、そういう意味では見た目の印象よりもずっと取っつきやすい作品だ。ただし、野性味あふれる石器時代が舞台ということで、脳天に槍が突き刺さったり、猛獣に食われたり、人肉食の部族が出てきたりと、容赦のない残酷な描写も見受けられる。このあたりは覚悟のうえで挑んでいただければと思う。
ヒトの心の奥底にある狩猟本能を滾らせてくれる意欲作
石器時代という、イメージだけで考えるとなんとなく荒涼となりそうなテーマを扱った作品ながら、実際にプレイを始めてみると、見せ方といい楽しませ方といい、隅々までエンターテインメント性に満ちていて、スクリーンショットの撮影や検証なども兼ねてつらつらとゲームを進めていくうちに、プレイ時間は20時間近くに及んでいた。それでもゲームの進行度は30%程度だったので、まだまだ楽しめる要素はたっぷり残っていると考えていい。物語の続きも気になるので、これから本格的にガッツリやり込む予定だ。
ゲームが主観視点なので、FPSのようなゲームと考えている人もいるようだが、どちらかといえば探索が主体のアドベンチャー要素が強く、ビーストマスターのようなプレーヤーをカバーする要素もあるので、ゲーム自体は非常にプレイしやすいと思う。大自然のパノラマを体感するのに主観視点は優れているし、いつどこで猛獣に襲われるかわからない緊張感の演出にも貢献していて、本作のゲームシステムにもマッチしているように感じられた。
モニターの中に広がる大自然の中で、人間の狩猟本能をたぎらせる体験を、本作でぜひ味わってみてほしい。