PCゲームレビュー「ザ・シムズ4」

ザ・シムズ4

シムと一緒に寝不足になって、一緒にトイレに駆け込む日々

同じ街中でもロードが入りまくる移動は少し残念

家の裏にある公園でバーベキューをしていると、通りかかった人たちが立ち寄ってミニパーティーのような雰囲気になる

 街に住んでいる他のシムとの交流も、シムたちの楽しみの1つだ。特に社交的な性格のヒナは人と話をすると楽しそうにはしゃぎ出す。シムたちは、会ったばかりではお互いのことがよく分かっていない。だが、何度も交流を重ねるうちに1つずつ相手の特質を発見することで人となりを理解していく。あまりにも性格が違うもの同士だと、会話しても不愉快に思うだけで、時には口論に発展することもある。同じような趣味や特質を持っている友人ができると、相手からも時々連絡が入って家に訪ねてきたりと親密な関係を築くことができるようになる。

 そのためには、頻繁に外出して色々な人と知り合いになりたいところなのだが、今回、割と残念に思うのは外出に関する仕様だ。「ザ・シムズ 3」では街中のエリアはすべてシームレスに行き来できていたが、「ザ・シムズ 4」では街がいくつかのエリアに分かれており、今自分がいるエリア以外の場所に行く時ロードが入る。一人でエリア外に出かけると、家に残った家族は操作できなくなる。

 ロード無しで行ける家の周りにも小さな公園があり、釣りをしたりバーベキューをしたり、鉱物や宝物を集めたり、ジョギングをしたりといったアウトドアの遊びができる。公園にいる人や通りを歩いている人と交流して友達になることもできる。だが、ロードを挟んだ場所にはさらにジムや大きな公園、図書館、美術館、ナイトクラブなど大勢の人が集まる特別な場所がある。

 シムたちは時々ジムに行きたい、美術感に行きたいと外出したがる。音楽が好きなカズコはナイトクラブにいくと、家では見せたことがないようなアクティブさを発揮して周りの音楽ファンと交流するし、ヒナをジムにつれて行った時には、小太りの男がなぜかずっと横についてトレーナーをしてくれるなどなど、家では味わえない発見がある。

【特別な施設への外出】
ナイトクラブで音楽好きに囲まれて嬉しそうなカズコ。フォーマルに着替えておしゃべりに没頭した
ジムでトレーニングしていると知らない男がアドバイスしてくれた。しかし腹がでた先生だ
美術館でもおしゃべりに興じる。ヒナの願望「世界の友人」を叶えるには、5カ所の違う場所で誰かと会わなくてはいけない
隣のタナカ家を訪ねる。サトウ家とちがってお金持ちそうな家だ

 家族や友達と一緒に出かけることもできる。例えばエリアをまたいでみんなで公園に遊びにいきたいと思ったら、家族の誰かのスマホから「外出する」を選択すると行動の予定にスマホが入る。順番が来ると、マップ画面に切り替わりどこに行くか、誰と行くかを選択する。するとロードが始まり、画面が切り替わると同行者全員が公園の前に立っている。

 到着してしまえば、そこから先はめいめいが勝手に行動する。中にはいつの間にか勝手に家に戻っているシムもいる。エリアをまたいで帰ってしまったシムは、操作することができない。そのシムに指示を出すには、家族全員が同じエリアにいなければならないので、公園に来た時と同じ要領でスマホで指示を出すか、1人ずつ「家に戻る」アクションを指示して移動してもらう。

 この、エリアを挟んでシムを操作できない仕様はかなり面倒だ。大体勝手に帰ってしまうようなシムは、欲求ゲージがかなりやばい状態であることが多いため、気になるというのもある。街の移動がシームレスだった「ザ・シムズ 3」までの仕様なら、勝手に他人の家に遊びに行ったり、ジムなどへ行ったりすることもあったが、筆者がプレイした範囲内では「ザ・シムズ 4」では勝手に出かける姿を見たことはなかった。

 しかし、ヒナをジムに連れて行きたくても、ミノルにはプログラムの勉強をさせなくてはいけないし、カズコはフィットネストレーニングをしなくてはいけないという状況で、娘のヒナを外出させるのは難しい。同じエリアにいても隣の家を訪ねるとロードが入るので、結局平日はせいぜい家の周りをうろつくだけになってしまう。外出して友達を増やすのも本作の楽しみなので、その部分にプレイ上の制限がかかってしまうのは残念だ。

 ちなみにどの区画にどんな施設を置くかは、マップ画面からカスタマイズできる。変更したい区画をクリックして、「もっと見る」の中ある「区画タイプを変更する」から更地に美術館を建設したり、公園を図書館に変えたりと資金を気にせず自由な建設が楽しめる。

【区画のカスタマイズ】
マップから区画を変更したい場所を選んで、「区画タイプを変更する」を選択する
なんの区画に変更するかを決めると建設画面に移行する
その施設に必要な条件を満たすと、施設として稼働し始める
施設の建設は資金無限大で好きなように作ることができる

シムと一緒に寝不足になって、一緒にトイレに駆け込む日々

内股でモジモジした動きでトイレに急ぐシム。もし、邪魔をしてしまうと、恥ずかしい事態に……

 さて、家族4人の標準家庭でスタートしたサトウ家だが、家族思いのミノルと家族の幸せが願望のカズコは必然的にもっと大家族を望み始めた。夫婦の2人は最初からある程度恋愛ゲージが貯まっているので、少しの後押しですぐにいい雰囲気になる。そして、妊娠期間の後、3人目の息子タカヒロが誕生した。

 妊娠中につわりがあったり、だんだんお腹が大きくなっていったりと、かなりリアルな妊娠期間の後には、これまた結構リアルな育児が待っている。赤ん坊はよく泣き出すが、他のシムのようにその理由が欲求や感情、ムードレットで確認できないのでとにかくあの手この手であやすしかない。寝不足になってイライラしたり、母親以外のシムでは泣き止まなかったりと育児をしたことがある人なら身につまされそうな出来事がたくさんある。

 赤ん坊の誕生と前後して、高校生だったヒナは卒業して宇宙飛行士への道を歩み始め、小学生だったユウマはいかつい感じの若者になった。赤ん坊もほどなく幼児を飛び越えて小学生になった。よく見ると周りの友達も成長しており、子どもの頃には可愛かった少年がデブになっていたり、みんなそれぞれの人生を歩んでいる。筆者がサトウ家の前に作って別のエリアに住んでいる、キノコ家の少女もいつの間にか女性になっていて、たまに公園をフラフラしているのを見かける。ここは老人と孫の2人世帯だったが、サトウ家を操作している間に気づいた時には、お年寄りは亡くなっていて少し悲しかった。

 誕生日や結婚式など、シムの人生の節目には特別なイベントを開催できる。家族だけのハウスパーティーから、美術館に大勢の友達を呼んでエンターテイナーや給仕などを雇う大規模なパーティーまでそれぞれにミッションが設定されており、クリアすると家具などのアイテムがもらえた。

 子どもが大きくなる時には、願望の再設定と特質の追加設定ができるようになる。少しずつ特質が増えていくことで、だんだんと個性的になっていく。データをいくつかセーブしておいて、方向性の違う2つの人生を比較してみるのも面白い。

【シムのライフイベント】
年を取って見た目がかわる誕生日には、大勢のゲストを呼んで盛大な誕生パーティーを催す
「ウフフ」の後には妊娠、出産、そして子育てが待っている
感動的な赤ちゃん誕生の瞬間。ベビーベッドはあらかじめ用意しておこう
よくヒナを訪ねてくるリチャード。パーティーが終わっても1人残ってしゃべっている

 「ザ・シムズ 4」は、グラフィックス的にはそれほど前作から進化していないが、実際にプレイしてみるとシムたちの行動の自然さがずいぶん増していると思った。豊富なアニメーションのパターンはただ見ているだけでも面白い。集中しているヒナにチェスで負けそうになったミノルが、「あっあれは!」と後ろを指さして、ヒナがそちらをみているスキにコマの位置を入れ替えたりといった、思わず笑ってしまう芸の細かさには脱帽だ。

 また、不潔さに耐えられず、慌てて駆け込んだフロには母親が入浴中で、それを見たユウマが恥ずかしさとともにモジモジ自分の部屋に帰っていったりするのも、なかなか共感できるシーンだ。

 何をしでかすか分からないところが面白さだった過去のシリーズとは違い、感情が継続することで、かなり自然な行動をするぶん、その行動自体に飽きの来ない楽しいギミックが仕込まれている。プレーヤーの指示により嫌々宿題を始めたユウマが、隣でボリボリポテチをかじり始めた父親にいらだって、「どっかいってよ!」的な文句を言っている様子も、まるでファミリードラマを見ているような気分で見ることができた。

 人の人生をシミュレートするという複雑なプログラムを、さらにゲームとして面白く仕上げているだけでも驚嘆に値するが、さらに驚かされるのはそんな複雑そうなゲームがなんの取扱説明書やチュートリアルなしでも、初見でいきなりプレイできてしまうところだ。今回プレイしたのは日本語版だが、操作だけなら日本語でなくてもおそらくほぼ困らないだろう。

 近年のゲームは物語が重視される方向にある。「ザ・シムズ 4」には長大なシナリオも、声優の声が入った豪華なカットシーンもないが、そこには確かにシムたちのドラマがある。危なっかしくて目が離せないところがあって、ついついずっと彼らの生活を眺め続けてしまう。気がつくと「何時間プレイしてるんだ」と自分でも呆れるほどにハマっている自分がいる。トイレに駆け込んでいくシムを見ながら、自分もトイレに駆け込み、疲れ切って床で寝るシムにやれやれと思いつつ、ソファに座って熟睡する。自分の人生を重ねながら、シムたちの生活を観察するのは本当に楽しい。

 「ザ・シムズ 3」からの進歩が少ないと批判されることもある本作。確かにシリーズをずっと遊び続けている人たちにとっては、劇的な進化のなさに不満を感じることもあるかもしれない。しかし、シムズのシリーズを今作で初めて遊ぶという人は筆者と同じく寝不足気味になるくらいプレイに没頭できるのではないか。それだけの楽しさを「ザ・シムズ 4」は十二分に持っている。

Amazonで購入

(石井聡)