★PS3/Xbox 360ゲームレビュー★
緻密に再現された上海で巻き起こる銃撃戦 凶暴な2人に安息の日々は訪れるのか? 「ケイン アンド リンチ2 ドッグ・デイズ」 |
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スクウェア・エニックスは8月26日、プレイステーション 3/Xbox 360用クライムTPS「ケイン アンド リンチ2 ドッグ・デイズ」を発売する。開発は「ヒットマン」シリーズを手掛けるデンマークのIO Interactive。ケインとリンチ、2人の凶暴な元死刑囚が、今度は中国上海で暴れまくるのだ。
本作は字幕と音声の日本語版に加え、さらに英語音声を収録している。悪態をつき、敵に罵声を浴びせるハイテンションな2人のやりとりをたっぷり楽しむことができる。そして、緻密に、猥雑に、そしてリアルに再現された上海にも注目である。凶暴で、ユニークなTPSだ。なお、本作はシングルプレイとマルチプレイの一部がプレイできる体験版が配信されている。こちらもチェックして欲しい。
■ 狩り立てられる焦燥感。ケインとリンチ、凶暴な2人の明日なき戦い
今作はリンチを中心にストーリーが描かれる。恋人との安息の日々を彼は守りきれるのだろうか |
ケインを出迎えるリンチ。ケインは武器売買のコンサルトをするために上海を訪れた |
「ケイン アンド リンチ2 ドッグ・デイズ(以下、「ケイン アンド リンチ2」)」は2008年6月にスパイクより発売された「ケイン&リンチ:デッドメン」の続編に当たる。主人公はかつて妻を殺した罪で死刑を宣告された男「リンチ」と、元傭兵の「ケイン」の2人だ。前作「ケイン&リンチ:デッドメン」では闇の傭兵組織 “The 7”との抗争が描かれた。シングルプレイでは主にケインをプレイし、彼の家族の絆なども語られた。
「ケイン アンド リンチ2」はいきなり2人の「拷問シーン」から始まる。椅子に縛り付けられ、身動きとれないリンチの肌を切り裂くカッターナイフ。がくりとうなだれるリンチ。同じように縛り付けられ、血塗れのケインは「てめえら、ぶっ殺してやる!」と絶叫する……。そして時間は2日前に戻る。リンチは恋人シウと共に暮らしていた。彼は上海マフィアの1人グレイザーの手下として働いていた。グレイザーがアフリカで大きな武器取引をすることになり、リンチはケインを呼び寄せたのだ。
ケインが上海についた早々、リンチは「ちょっと伝言をしなくてはいけない相手がいる」と、ケインを連れて建物の中に押し入る。部屋の中の男は、銃を乱射し、女と共に逃げる。逃げる相手を追うリンチ。ケインも銃を渡され、悪態をつきながらもリンチの後を追う。チンピラかと思っていた相手にはたくさんの仲間がいて、銃撃戦に発展してしまう。追いつめられた男は女を盾にする。ケインの銃弾が女の胸を貫き女は絶命する。それを見た男は突然放心状態になり、ナイフで自分の首を切り裂き、自殺してしまう。
後味の悪い事件が終わった次の日、ケインとリンチはリムジンの中でグレイザーと取引の打ち合わせを行なっていた。ところが突然横合いから車が突っ込んでくる。待ちかまえていた男達から浴びせられる銃弾。何とかグレイザーを連れて逃げ出すものの、マフィアに加え、警官、さらに軍隊までもが彼等を追い立ててくる。この状況は何なのか? オープニングで語られた拷問シーンはどうなるのか? 謎を秘めたまま殺伐とした物語が展開していく。
本作は常にキャラクターの後ろ姿を見ながらプレイを進めていくTPSだ。後ろからハンディーカメラで追っているようなカメラ演出が、リアルな臨場感をもたらしている。撃たれるとブロックノイズが走り、キャラクターが走ると画面がぼやける。グラフイックスはまるで実写のようで、カメラの演出も相まって、実際にその場に立っているかのような臨場感がある。
そのリアルな風景で戦う「ケイン アンド リンチ2」の魅力は“殺伐さ”にある。ケインもリンチも正義の味方でもなければヒーローでもない。何をするかわからない、できれば近付きたくない暴力的な匂いのするオッサンである。彼らの行動は刹那的で行き当たりばったりだ。周り全てが敵の状況の中、銃を乱射し押し進んでいく。その無謀な戦いぶりは、プレーヤー自身が彼等のような無法者になったかのような独得の興奮をもたらす。
加えて、音声の演出も楽しい。本作は英語音声・日本語音声両方とも収録されている。日本語音声は、リンチ役に麦人さん、ケイン役に内田直哉さんと、アニメや洋画で渋い声を聞かせる声優を前作に引き続き起用している。リンチとケインは混乱する状況の中、言い争ったり、愚痴ったり、わめいたりとのべつ幕無しにしゃべる。
彼等の殺伐としたやりとりが、「明日なき戦い」の雰囲気をさらに盛り上げている。一方で、ただ乱暴で、暴力的なだけでなく、ケインの娘に対する思いや、リンチの恋人に向ける愛など“情”の部分もきちんと描かれているところにも注目したい。無法者の2人組みであるが、プレイを重ねるごとに彼等に感情移入していくことだろう。
しゃべりすぎた男を捕まえる、そんな簡単な仕事だったはずなのに、多くの人間と撃ち合う羽目に。さらに女を間違って撃ってしまったあげく、ターゲットは自殺してしまうという結末に | ||
アフリカでの取引の打ち合わせ中に、マフィアから襲撃を受ける。さらに警官や軍隊までもが襲いかかってくる。訳がわからないまま、ケインとリンチは生き抜くために戦う |
■ エキサイティングなゲーム性と、リアルに再現された上海の描写に注目
実写のように緻密に、そして猥雑に再現された上海の街並み。この中で銃撃戦を繰り広げるのだ |
消火器を投げつけ、撃って爆発させることで周囲に大ダメージを与える |
敵を捕らえて盾にする。敵に囲まれそうなときに有効な手だ |
「ケイン アンド リンチ2」のストーリーモードでは、主にリンチでプレイすることになる。ケインはNPCとしてプレーヤーであるリンチを補佐してくれる。対する敵のAIは優秀で、壁に隠れ攻撃の機会をうかがい、時には回り込んでくる。こちらもケインを狙う敵に対して側面から回り込み倒すなど工夫が必要だ。
本作には「手榴弾」といったアイテムがなく、敵をまとめて倒すには、消火器やガスボンベなどステージに設置してあるものを投げつける。激しい銃撃戦の中でも、そういったものがないか探す冷静さも必要だ。方向ボタンの下を押し込めば、周囲に落ちているアイテムや利用できるオブジェクトのアイコンが表示される。アイコンを頼りに武器を見つけるのも有効だ。
武器も様々な種類が登場する。同時に持ち運べる武器は2つまでで、敵の武器を奪っていくのが基本だ。サブマシンガンは集弾率が低く、隠れている敵を撃つのには向かない。今作で印象的だったのが、ショットガンの使いやすさだ。装弾数が少ないのはネックだが、近距離の敵をまとめて倒したりと、有効で、他のTPSよりも強く感じた。
前作の場合撃たれて倒れても、仲間がアドレナリンを注射すると立ち上がることができたが、今作では一定のダメージを連続で受けてしまうと、ゲームオーバーになりチェックポイントからの再開となる。体力は撃たれなければ回復する。至近距離で敵の攻撃を受けるとすぐ倒されてしまうので、敵を近づけすぎないように戦いたい。
そして「ケイン アンド リンチ2」はステージにも注目である。前作は世界中を舞台にしていたが、「ケイン アンド リンチ2」は「上海」のみとなる。リンチとケインは上海のごみごみとした路地裏や、工場、繁華街などで銃撃戦を繰り広げる。今作では、上海の様々な場所を描き出しており、独得のリアリティーをもたらしている。
打ちっ放しのコンクリート、でこぼこの道路、継ぎ足して立てた建物や、崩れかけたビル、クーラーの室外機が乱暴に壁に取り付けられていたり、何年も前の張り紙が貼ってあったり……筆者は以前上海に行ったことがある。経済発展を続ける上海はピカピカのビルの隙間や、華やかな表通りから路地一本隔てた場所は、何十年も前の乱暴な工法で建てられたような建物が並ぶ猥雑な空間が広がっている。そんな上海の街の雰囲気を本作はうまく再現している。
小さな店が何軒も集まった電気街や、魚をそのまま板の上に乱雑に積み上げる食料市場、ビルの中の狭い空間での裁縫工場など上海の人々が生活している場所が戦場になる。庶民の生活の場を描いたと思えば、ショッピングモールや、高級マンションといった比較的生活水準が高いところや、さらには大企業の豪華なオフィスビルなども登場する。
多角的な角度で「上海」が描かれているのだ。上海という街をここまで力を入れて描写した作品はないのではないかと思えるほどだ。このリアルな風景は、リンチとケインが繰り広げる「生き抜くための戦い」に独得の迫力を与えているのだ。
■ 画面分割COOPや、警官と泥棒になって金を奪い合うマルチプレイなど、多彩なゲームモード
画面分割COOP。仲間と連携すれば、シングルプレイより難易度が下がる。縮小した画面でも快適にプレイできた |
アーケードモード、マルチプレイでは、ラウンド間で得た金を使って武器をアップグレードできる |
マルチプレイ。勝つためには時には裏切りも有効だ |
「ケイン アンド リンチ2」はシングルのストーリーモードだけでなく、その他のゲームモードも充実している。COOP(協力プレイ)モードでは、オンラインだけでなく、画面分割によるプレイも可能だ。COOPでは1プレーヤーがリンチ、2プレーヤー側がケインを操ることになる。
今回は画面分割のCOOPモードをプレイしてみた。感想としては「やはりプレーヤーは頼りになる」ということがよくわかった。シングルプレイでは相棒は時には頼りになるが、連携が取りにくい。隣にいる友人とのプレイならばルートを決めたりもできるし、連携しやすい。また倒されたとき仲間が近くにいれば復活してもらえるのもありがたかった。
「アーケードモード」はストーリーモードとはまた違ったゲームが楽しめる。プレーヤーは泥棒となり、仲間と共にターゲットを襲い、金を強奪し、逃走地点へ向かう。奪った金は生き残った仲間と山分けになる。このモードの面白いのは「裏切り」が可能なことだ。逃走車に乗る寸前仲間を倒して自分だけが車に飛び乗ったり、運転手に持ちかけて仲間を見捨てることもできる。仲間を信用しきれないという、タランティーノ監督の映画「レザボア・ドッグス」のような雰囲気が楽しめるモードだ。
そして、マルチプレイがある。アーケードモードはマルチプレイのための“練習”といっても過言ではない。マルチプレイはアーケードモードでのやりとりはそのまま、他の泥棒、そして警官までもがプレーヤーとなるのだ。マルチプレイでは「FRAGILE ALLIANCE」、「潜入捜査官」、「警官vs泥棒」の3つのルールがある。
「FRAGILE ALLIANCE」はアーケードモードと同じルールでプレーヤーは泥棒となり、警官隊と戦いつつ逃走を図る。面白いのは、警官に倒されたプレーヤーは警官として復活し、もともとの仲間を狩る立場になるのだ。1人でも警官プレーヤーが生まれるとバランスが大きく傾く。どんどん不利になる状況の中逃げられるか、スリルが楽しいゲームモードだ。「潜入捜査官」はあらかじめ泥棒の中に警官役プレーヤーがいるルール。誰かは必ず裏切り者のため、より一層信用できない。強い緊張感の中ゲームが進行していく。
「警官vs泥棒」は警官と泥棒のチームにわかれ、ラウンドごとに役割を入れ替えて進めていく。どちらの立場も体験できるので、進めるポイントや待ち伏せに有効なポイントが学べる。警官は泥棒を倒せば金が奪える。泥棒にとって金を持つ警官は美味しいターゲットとなる。泥棒が逃げ切れるか時間終了になればマッチが終了し、所持金の多い方が勝ちとなる。
マルチプレイでは、「FRAGILE ALLIANCE」と「警官vs泥棒」を体験してみた。警官側も「金が奪われればお前達の命はない」と無茶苦茶なことを上から言われるのがいかにも本作らしい。泥棒になっているとつい逃げるのに夢中になって後ろから撃たれることもしばしばだ。ストーリーモードとはまたひと味違った戦いが面白く、しかも常に「金」が絡んでいるところが楽しい。現金強奪も強引きわまりない。また、ダウンロードコンテンツではさらなるマップが用意されるようで、こちらの展開も楽しみである。
画面分割によるCOOP。声を掛け合って回り込んだり、倒れた仲間を救ったり協力して進んでいく。シャッターなどは2人が力を合わせないと開かない。 | ||
アーケードモード。泥棒として殺伐としたプレイが楽しめる。マルチプレイのための練習としても有効だ | ||
マルチプレイ。画面は「警官vs泥棒」だ。プレーヤーはラウンドごとに警官と泥棒の役割を入れ替えて戦う |
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(2010年 8月 25日)