★PSPショートレビュー★
あの「GTA」がより美しくなってPSPに登場! 突撃女レポーターも加わり街はさらに大混乱 「グランド・セフト・オート:チャイナタウン・ウォーズ」 |
サイバーフロントは3月11日、PSP版「グランド・セフト・オート:チャイナタウン・ウォーズ」(以下、「チャイナタウン・ウォーズ」)を発売した。本作は、ニンテンドーDS向けに登場し「携帯ゲーム機の中に『Grand Theft Auto』(以下、「GTA」)シリーズのエッセンスをきちんと再現している!」とファンから驚きを持って迎えられた「チャイナタウン・ウォーズ」のPSP版である。
ゲームのシナリオ、キャラクター、マップ構成などゲームの基本要素はそのままに、ゲームエンジン、イベントグラフィックス、そしてBGMと全てが新しいものとなっている。PSP版の最大の魅力はやはりグラフィックスだろう。DS版に比べキャラクターは大きく表示され、街のディテールは大きくアップしている。さらにオリジナル要素を追加し、DS版ユーザーにも魅力的な作品となっているのだ。
本稿はショートレビューとしてPSP版ならではの要素にフォーカスして紹介したい。ゲームの基本要素、ストーリーなどはDS版のレビューを参考にして欲しい。DS版からより美しくなったリバティーシティーへようこそ!
■ ゲームエンジンを一新、より美しく表現されたリバティーシティーを走れ!
主人公ホァン・リー。彼がリバティーシティーに嵐を巻き起こす |
新ゲームエンジン採用により、グラフィックスとBGMを一新。新しく収録されたBGMにノリながら街を疾走するのは楽しい。炎のエフェクトなどもPSP版ならではだ |
筆者のお気に入りである「チャイナタウン・ウォーズ」No1ダメ男チャン・ジャオミン。プレイして彼の最低っぷりをぜひ楽しんで欲しい |
「チャイナタウン・ウォーズ」の主人公ホァン・リーは中華系マフィア「トライアド」のメンバーの父を持つ青年だ。ホァンの父は何者かに殺され、ホァンは次の族長となる叔父のケニー・リーに族長の証である宝剣を届けるために、リバティーシティーを訪れる。
しかし何者かがホァンを待ち伏せていた。ホァンは銃弾が頭部をかすめ、意識がもうろうとなったまま宝剣を奪われ、さらに車ごと海に投げ込まれてしまう。何とか陸にはい上がったホァンを叔父のケニーは叱責する。現在リバティーシティーのトライアドは次のボスになるための権力争いが盛んで、ケニーは劣勢ということらしい。
ホァンはまず、ケニーの仕事を手伝うことになる。やがてホァンにトライアドの対立候補や、様々なキャラクターが接触してくるようになり、ホァンはトライアドのリーダーを巡る戦いに深く関わっていくことになる。ホァンが求めるのは彼の父親を殺した黒幕だ。剣の行方を追う中で、仇の手がかりを求めホァンはリバティーシティーを疾走する。
PSP版のリバティーシティーはDS版と比べるとより細かく美しく表現されている。車の違いや街のディテール、炎などのエフェクトの表現など様々な点でパワーアップしている。大きな画面で遊べるという点も魅力だ。特に光の表現が美しく、夜はきれいだ。朝靄などの霧の表現もされていて車のライトなどが靄の中で広がるところなど、独特の雰囲気がある。それでいながらミニカーを操作しているような「ミニチュア感」もきちんと継承されているのが楽しい。
「チャイナタウン・ウォーズ」では警察に追われたときの「手配度」を下げるためにはカーチェイスでパトカーを破壊する必要がある。DS版はこのカーチェイスが難しく、結果としてゲーム全体の難易度を上げていたのだが、PSP版はパトカーを撃退しやすいと感じられた。ゲームエンジンも改良が加えられているようだ。この他に気になった点としては、ゲームの演出である。リバティーシティーでは車で街を流しているだけで、様々な事件を目にする。シナリオと全く関係なく、ひき逃げ事件やカーチェイス、パトカーとギャングの銃撃戦が起こっているのだ。PSPのグラフィックスによりこれらの小さなイベントがよりショッキングだ。ゲームの感触、作品のカラーとしてDS版のエッセンスをきちんと受け継ぎ、パワーアップしていると感じた。
DS版の最大の特徴だった「2分割の画面」、「タッチペンでの操作」はPSP版では画面切り換えと、アナログスティックの操作という形で切り替わっている。DS版は十字キーとボタンでゲームを操作し、タッチペンを使うときにはそれらから手を離して操作する必要があった。PSP版はボタンやスティックから手を離すことなく操作できるので、操作はシンプルになっている。
DS版はタッチペンで簡単に「車泥棒」の操作を行なうことができた。画面を叩いて計器を壊したり、ペンでぐるぐる回してネジを外したり、実際にその作業を行なっているような感触が味わえた。PSP版は画面を叩いたりするのはL、Rキー連打で、ネジを回すのはアナログスティックになっている。
また、心臓の弱いキャラクターを警官に追われながら運ぶ「Flatliner」というミッションでは、DS版は画面に映る人体のイラストの心臓付近を連打して蘇生するのだが、PSP版はL、Rキー連打になっており、臨場感という意味で物足りない。
「チャイナタウン・ウォーズ」は「DSで『GTA』を!」という強い意欲で作られた。タッチペンでどれだけ奇抜なことができるか、DSならではの操作をどこまでゲームに活かせるかを目指して作られただけに、このミニゲーム的な要素ではいずれもDS版に軍配が上がる。
またPSP版は、GPSの操作などで決定ボタンが×ボタン、キャンセルが○ボタンになっている。欧米のゲームでは×ボタンが決定というのは定番の仕様だが、焦っているときなどは間違えてしまう。DS版ではどうして気にならなかったのかな、と思って確認してみたのだが、DS版はGPSなど多くの操作は、タッチペンでアイコンを直接クリックして操作できるため、ボタンによる決定の項目が少なかったのだ。こういった使い勝手の部分もDS版は良く練られていたなあと感じた。
今回、筆者はDS版に続き「チャイナタウン・ウォーズ」の2度目のプレイになったが、やはりストーリーとキャラクターがとても楽しい。ホァンが出会う奴らは変人ばかりだ。叔父のケニーは言うことは立派だが実際は小物だし、ボスの息子チャン・ジャオミンは父親の富と財力をバックに偉そうに振る舞うクソ野郎だ。ボスの座を狙うトライアドの幹部チョウ・ミンは冷酷なギャングで、行動が過激だ。
「チャイナタウン・ウォーズ」はこれまでの「GTA」シリーズに比べると出演キャラクターは少ない。しかし各キャラクターのエピソードが多くなっており、「トライアドの後継者争い」というテーマを深く掘り下げている。足の引っ張り合い、裏切りなどホァンがミッションをこなしていくことで幹部達の対立が激しくなっていくのが面白い。
再びプレイして印象深かったのがチョウ・ミンの冷酷非情さである。「Flatliner」では捕まっているかつての仲間を連れてくるのだが、ホァンが連れ帰った仲間は裏切り者であり、チョウはホァンの目の前で仲間の心臓をえぐり出し、「これでワタシとおまえは共犯であり、仲間だ」とニヤリと笑うのだ。ガトリングガンを備え付けたトラックでギャング達を襲撃したりと、スマートな外見の割に行動がぶっ飛んでいて、怖い。各キャラクターのアクの強さに改めて圧倒された。
ストーリー、キャラクターという視点から、やはり「チャイナタウン・ウォーズ」は面白いと強く感じた。DS版はインターフェイスのユニークさでPSP版とは違った魅力を持っており、両作品の甲乙はつけがたいが、100分の新曲、新ミッション、そして新キャラクターと多数の追加要素と、美しくなったリバティーシティを走れるPSP版は、強くお勧めしたいタイトルだ。
■ PSP版は迷惑きわまりない新キャラクターメラニー・マラードが大活躍! 彼女の尻ぬぐいが大変な新ミッション
PSP版オリジナルキャラクター、メラニー・マラード。チャンスを求めて犯罪社会に深入りする |
興奮するとメラニーは銃火の中に飛びだしていってしまう。彼女を守るのは一苦労だ |
ホァンの悪事に対して正義感を振りかざすが、その悪事を利用してのし上がろうとしている女だ |
PSP版のオリジナル要素として強くアピールしたいのが、「メラニー・マラード」という新たな女性の存在だ。「チャイナタウン・ウォーズ」ではポスターやイラストでリン・シャンという中国系の美女が積極的に描かれているのだが、ヒロインなのかと大いに期待させておきながら、開始早々のミッションで撃たれて退場してしまう。こういった展開は「GTA」シリーズらしいとも言えるのだが、やはり「もっと活躍する美女を!」と感じざるを得ない。メラニーはそんなファンの声に応える存在だ。
とはいえそこは「GTA」、メラニーはエキセントリックでアクが強く、そして「現実ではお近づきになりたくない」存在だ。彼女はカメラ片手にどんな過激なことも取材しようとする「突撃レポーター」だ。ショッキングなニュースを取材してテレビ局のキャスターになろうとする野心家である。実際、裏社会に単身で潜入し、犯罪をカメラに収めてのし上がった女性キャスターがリバティーシティーにはいるらしく、メラニーも同じサクセスストーリーを夢見ている。メラニーは犯罪都市リバティーシティーが生んだ女性なのだ。
メラニーが目をつけたのはトライアドのボスの息子、ことあるごとに父親の地位と財力を自慢し、手下を平気で裏切り、何度も敵の罠にはまり、遊びはだらしなく、何でも人のせいにする最低の人間チャン・ジャオミンである。メラニーはチャンに美貌と色気で近付き、犯罪現場をカメラで撮ることを約束させる。そのボディーガードとしてチャンはホァンを指名するのだ。ちなみに、チャンとメラニーが知り合ったきっかけはネットゲーム。チャンとメラニーがどんなゲームをやっていたのかもちょっと気になる。チャンはネットゲームの世界でも迷惑プレーヤーだったに違いない。
メラニーとの最初のミッションはトライアドの密輸品輸送。桟橋で荷物の運送中に敵対組織が波状攻撃を仕掛けて来るという、中々歯ごたえのあるミッションだ。敵との激しい銃撃戦だけでも大変なのに、興奮したメラニーは銃火のまっただ中に飛び出してカメラを回しはじめる。ホァンは敵の撃退とメラニーを守るのに大あわてだ。その奮闘を台無しにするのがメラニー。彼女は「怖くなったから」という理由で、警察に通報してしまうのだ。
通常ミッション中に警察の警戒レベルが上がってもミッション終了時にはクリアとなるのだが、このミッションは終了時に高い警戒レベルで警察に囲まれている(当然メラニーは逃亡した後)という最悪の状況に投げ出される。プレーヤーは警官をまくために、銃撃戦でぼろぼろになった身体を引きずり、決死の逃亡をしなくてはならない。「あのクソ女!」とプレーヤーの誰もが叫ぶに違いない、素晴らしいファーストコンタクトである。
この後もメラニーの取材は続く。面白いのは、メラニーはホァンをことあるごとに「犯罪者、殺人鬼」と口汚くののしり続けることだ。その犯罪を面白がって取材し続ける彼女はどうなのか。ワイドショーやニュース番組、そしてそれを見ている視聴者に対する皮肉、テレビ業界にも通じる疑問の提示が楽しい。口では批判しながらも、「自分がのし上がるため」メラニーは平気な顔でホァンを利用する。こういったエグ味のある描写、プレーヤーの心に小さな疑問を生むストーリーこそが「GTA」シリーズの魅力だと思う。
メラニーのミッションはゲームとして前半に集中している。同時期のミッションと比べると敵の集団を相手にしなくてはならなかったり、多彩な展開があったりと、難易度は高めになっている。お金を稼いでサブマシンガンを手にして挑みたいところだ。メラニーはことあるごとに前に飛び出し、勝手にピンチに陥る。ある意味チャンと似合いのカップルかもしれない。
メラニーのミッションは濃い「GTA」ファンならば反応する仕掛けが用意されていて注目である。敵の密造工場を襲う「Factory Fun」というミッションでは“ブツ”の原料となる木を火炎放射器で燃やすシーンがある。これは「Grand Theft Auto: San Andreas」でのケシ畑を火炎放射器で燃やすシーンを彷彿とさせる。また、ブツのサンプルを配り、街の愛用者達が奪い合うあさましい姿を撮影する「Half Cut」は「Grand Theft Auto Vice City」で、営業しているだけで警官に追われる“謎のアイスクリーム売り”を思い出させる。シリーズファンならば一層楽しいギミックだ。
PSP版「チャイナタウン・ウォーズ」はDS版が持つゲーム要素を完全移植し、グラフィックス、演出でパワーアップした作品である。「チャイナタウン・ウォーズ」はシリーズ初挑戦の人にもオススメしたい手軽さと、ディープなファンも納得の面白さを持っている。携帯機の中に「GTA」シリーズの面白さをきちんと再現した作品だ。リバティーシティーでドロドロとした内部抗争を続けるトライアドの戦い、そしてその結末は、ぜひ体験して欲しい。
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□「グランド・セフト・オート:チャイナタウン・ウォーズ」のページ
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(2010年3月11日)