ブラウザゲームレビュー

今や台湾を代表する人気ブラウザゲーム
ブラウザでMMORPGを遊ぶとどうなる?

「みんなの冒険大陸 カナン」

  • ジャンル:MMORPG
  • 開発元:Xpec Entertainment
  • 発売元:NHN Japan
  • 利用料金:無料(アイテム課金制)
  • 発売日:8月21日(正式サービス中)

 ここ数年、アジアを舞台にMMORPGが隆盛を極めたのと同時進行で、ヨーロッパではブラウザゲームが市場を広げていた。その代表選手が建国&戦争シムの「Travian(トラビアン)」である。そして、東アジア地域におけるブラウザゲームの流行は2005年の「Travian」の中国語サービスが発火点になった。それ以降も中国市場では、ヨーロッパ市場と並行進化する形で建国シムや歴史モノRPG、子供向けカジュアルタイトルといったさまざまなジャンルにわたってブラウザゲームの発達が続く。この動きが、もともとの東アジア市場の傾向と重なったとき、やがてブラウザベースのMMORPGが誕生するのは必然的な流れだろう。

 その元祖は、おそらくは「Travian」における村の開発要素と「英雄」システムをミックスした中国産ブラウザゲーム「ドラゴンクルセイド」(七龍紀)だが、「ドラゴンクルセイド」における自分の町の開発/建設要素は、RPG的なプレイににとって必須ではないし、プレイの本質でもない。ゲームコンセプト上省略可能な部分だ。しかし、これによりブラウザベースでMMORPGのプレイが十分に成り立つとわかった以上、純然たるMMORPGがリリースされることもまた必然だ。

 前置きが長くなってしまったが、その有力な旗手が、台湾Xpecが開発し、日本ではNHN Japanが8月21日から正式サービスを開始している「みんなの冒険大陸 カナン」である。今年の東京ゲームショウでは、台湾を代表するタイトルとして台湾が主催する各イベントで引き合いに出され、興味を覚えたゲームファンも多いのではないだろうか。そこで今回のブラウザゲームレビューでは、「カナン」のMMORPG作品としての魅力を紹介していきたい。



■ クエストの連続と徹底したマップナビゲーション。自動戦闘で成り立つ、操作負荷の低いMMORPG

キャラクターや建物、マップの色使いなどグラフィックス表現が可愛らしいイメージで統一された「みんなの冒険大陸 カナン」の画面

 「みんなの冒険大陸 カナン」は、混乱の続くカナン大陸を救うべく「ミサン神」の導きに従って「聖なる門」と四頭の神獣を探す……というストーリーのファンタジーRPGだ。プレーヤーは、ファイター/メイジ/プリースト/レンジャーの中から職業を選び、性別と顔つき/髪型、キャラクター名を設定してゲーム世界に降り立つ。画面は2D見下ろし視点、操作は座標を直接クリックするタイプで、アイテムの使用やゲームプレイ中の各種設定変更などは、画面右下に並んだ「かばん」、「ペット」、「クエスト」などのアイコンをクリックする。建物の形やプレイフィールドの色使い、敵も含めた登場キャラクターは全体的に可愛らしい外見にまとめられている。目で見て親しみやすく、プレイ方法がわかりやすいゲーム初心者向けの配慮が重要な特徴である。

 また、プレイしやすさ、操作の易しさという点では、ゲームのほとんどがクエストで成り立っていることも大きな特徴だ。クエストに関連しないフィールド戦闘を漫然と行なう必要はなく、経験値やゲーム内通貨の獲得手段としても、戦闘自体よりクエストの報酬として得られる量のほうが大きい。

 受託したクエストの説明画面にはキーとなるNPCの座標が明記されていて、それをクリックするとキャラクターは座標に向けて移動し始める。狩りの対象となるモンスターも明記されていて、こちらをクリックするとワールドマップが開き、生息地域が記号で明示されている。こちらについても、マップ上の地点をクリックすれば、キャラクターはそこへ向かう。

 倒したモンスターの頭数や、獲得したドロップアイテムの数は別途管理されているので、極論すればプレーヤーは、説明を読まないままでもクエストを受託、達成、続行できる。中国/台湾で開発されたライト系MMORPGではもともとこうした、オートランに代表される思い切った工夫を盛り込んだ作品も多いのだが、あらためてブラウザゲームの仕様として見たとき、これはたいへん有効だと思った。チャット以外でのキーボード操作を不要にし、操作の回数やマウスの移動距離を最小に抑えることにより、本当にちょっとした空き時間を縫ってプレイできる作品となるからだ。

キャラクターメイキング画面。右に表示されている職業ごとのイメージイラストのみならず、左のようにゲーム内のキャラクターも可愛らしい姿形に仕上がるログイン画面。キャラクターの背後に広がる風景は、ログインする時間帯によって夕焼け空になったり、流れ星が見える夜空になったりと、芸が細かい
受託したクエストはこのようなフォーマットで表示され、関連NPCや倒すべきモンスターなどがリンクで示されるクエスト画面からモンスター名をクリックして、その棲息地域を表示したところ。さらにマップをクリックすれば移動開始だ


■ バトルはわかりやすいシンボルエンカウント制。進行も半自動で必要なときだけするスタイル

はじめからパーティで挑むことを前提に、たくさんの手下を抱えたボス敵も登場する

 戦闘は、マップ上を動き回っている敵のグラフィックスをクリックすると画面が切り替わる、シンボルエンカウント制になっている。ダンジョン以外の地域にアクティブモンスターはいないため、不意の戦闘は発生せず、プレーヤーの望むペースで戦闘を進められる。ただし、同じレベルの敵のグラフィックスをクリックしても、戦闘画面に出てくる敵の数や種類が違うことがあるので、まったく気を抜いているわけにはいかない。

 「カナン」の戦闘で重要なのは、自動進行が基本になっている点だ。戦闘におけるキャラクターの行動はすべてスキルアイコンの形で用意されている。使いたいスキルアイコンはあらかじめショートカットバーに登録しておく必要があるのだが、いずれかのアイコンをクリックすると、自分のターンでそのスキルが発動するという仕組みではない。スキルアイコンは、「いま、どのアイコンが選択されているか」という設定を明示するもので、自キャラはほうっておくと所定の間隔で、選ばれているスキルをひたすら発動し続けるのである。裏を返せば、オーソドックスな攻撃手段さえ選んでおけば、プレーヤーが攻撃のたびにマウスクリックを繰り返す必要はない。そして、緊急で体力を回復したい、その戦闘から逃げたいといったときには、ショートカットバーにおけるスキル選択を切り替えて発動を待つ……というスタイルになる。

 スキルの使用後には必ずクールダウンタイムがあって、その長さはスキルの種類によって異なるほか、クールダウンタイムを縮めるスキルも存在する。相手の数と強さ、つまり戦闘の長引き具合によっては漫然と攻撃スキルを使い続けるのでなく、まずスキルの発動ペースを引き上げたほうがよい場合もある。強い敵、多数の敵と戦う場面は、ちょっとしたストラテジーゲーム風味になるのだ。

 また「カナン」には「自動戦闘」、「手動戦闘」という設定の切り替えも用意されていて、これはターゲッティングに関する操作を切り替えるものだ。初期状態である「自動戦闘」のままだと自キャラが複数の敵を相手にしたとき、攻撃対象はランダムに決まるため、攻撃が分散する。それに対して「手動戦闘」の場合、次の攻撃が発動するまでの間にマウスでターゲットを指定する必要がある。計画的に各個撃破できるぶんだけ手動戦闘のほうが有利で、適正レベルのクエストで指定される敵、もしくはそれ以上の強敵を狙うなら、手動戦闘は必須の操作となる。

 逆に繰り返し受託できるクエストなどで、少々狩りの効率が落ちてもいいから操作の手間を省きたいといった場合は、自動戦闘のままにしておけば楽だ。自動戦闘だと、自キャラのHP(ヒットポイント)やMP(マナポイント)が危険な水準まで減ったときには攻撃手番を1回犠牲にして、食料やポーションで回復もしてくれる。ただし、必要以上に回復量の大きい、したがって高価なアイテムでも気にせず消費する傾向があるので、アイテムの消費効率についても少々目をつぶる覚悟が必要だ。

 このように戦闘がかなり省力化できることも、ちょっとした空き時間で楽しむための特徴的なゲームデザインといえる。とはいえ、一部ライト系MMORPGにあるような“自動狩り”は備えておらず、ブラウザゲーム特有の「設定 → 放置 → 確認」を循環させるプレイスタイルにはならない。その意味で「カナン」はあくまで、ブラウザゲームという枠組みをプレイの簡略化に生かした、普通のMMORPGなのである。

「手動戦闘」の場合、どの敵を攻撃するかマウスで指定する必要がある。ターゲッティングは攻撃のたびに外れるので、うっかりしていると手番が過ぎてしまうこともいっぽう「自動戦闘」では攻撃対象がランダムに選ばれる。また、自キャラのHPやMPが減ると行動手番を1回消費して、自動で回復アイテムを使うようになっている
長丁場の戦闘を行なうとき、味方キャラクターのクールダウンタイムを短縮する「クイック」のスキルが役立つパーティ戦闘では、味方の人数に応じて敵の登場数も増える。もちろん、経験値収入にはボーナスがつく
パーティを組むと、各キャラクターはリーダーに従って一列になって移動する。移動も戦闘もかなり自動化されているので、チャットが賑やかになる


■ 小刻みなプレーで達成感が得られるデザインが隙間時間でのプレイを可能に

ちょっと長めのストーリーは連続クエストになっていて、プレーに区切りがつけやすい

 目に見える形のエンディングが想定されたRPGと異なるMMORPG独特の魅力とは、「プレイが前に進んでいることを、プレイ自体の変化から実感し続けられること」である。変化の内容は、いままで倒せなかった敵が倒せるようになることでも、より可愛らしい服が手に入ることでもよく、それは人によってさまざまだ。

 そうした認識を踏まえて、初心者向けのMMORPGである「カナン」を眺めたとき、プレーが小刻みに達成感をもたらしてくれる設計になっている点はたいへん重要だ。前述したように、「カナン」のプレイはほぼすべてクエストに沿って進む。個々のクエストは10~30分でクリアできて経験値やゲーム内通貨、アイテムなどが手に入る。大掛かりなクエストは分割されて計10個の連続クエストといった形になっており、プレイに区切りがつけやすい。連続クエストのなかの1つ、2つをこなして、続きはあとでという時間の使い方でも、なんら支障がないのだ。

 さらに言えば特定のセーブポイントもないため、狩りの真っ最中で忙しくなってプレイを中断しても、なんら問題ない。そのままウィンドウの「×」ボタンをクリックして画面を閉じればログオフしたことになるし、そのまま放置してもよい。アクティブモンスターがいないので、自キャラが危険にさらされる心配は皆無。本当に小刻みにプレイできて、小刻みに達成感が得られるのだ。

 上位のクエストが間断なく用意され、次々に強い敵と戦っていくことから、レベルアップのペースが比較的速いのも「カナン」の特徴だ。さらに、週単位で与えられる経験値倍増タイム、ログイン日単位で与えられるレベルアップアイテムと、「訓練」の時間など、自キャラのレベルアップに活用できる材料がふんだんに用意されている。とくに「訓練」は、操作していない間にキャラクターを成長させるという、ある意味ブラウザゲームらしいシステムで、冒険のお供であるペットの成長に欠かせない。5レベル上がるごとに自動で褒賞アイテムが届き、それが次なるプレイ段階の指針や道具立てとして機能している点からは、プレイを進める楽しみが、意図して演出されたものであることがわかる。

1週間に7時間、経験値2倍の時間が付与され、NPCを介して利用できる。長いクエストや、強敵と戦うことがわかっている場合に利用するのがよいだろう
メニューボタン「システム」からは、「訓練」が行なえる。有料プレーヤーならば、設定したあとにログオフしても有効な「オフライン訓練」も使える
ログイン日ごとに、経験値上昇アイテムをゲーム内通貨で買う機会が提供されるレベルが5上がるごとにもらえる褒賞アイテムにも、経験値上昇アイテムが

 しかし、ゲームの楽しさをレベルアップの速さに依存するとプレーヤーのやるべきことがすぐに尽きてしまい、いわゆる「コンテンツ寿命」が短くなるのもMMORPGの宿命である。「カナン」ではおそらくその点も意識し、プレイ目標を垂直方向ばかりでなく水平方向にも広げている。

 例えば、同レベル帯向けの装備品が常に複数系統用意されていて、キャラクターの外見にきちんと反映されること、資源採集のシステムと絡めつつ、装備品の作成と強化がかなり手広く試せることなどがその例だ。レベルアップが速いことは装備品の陳腐化が速いことでもあるので、どの段階でどの装備品を強化するのがよいかについては、けっこう悩むことになるだろう。逆に装備が更新されるたびに十分な強化を行なうとすれば、プレイのバリエーションはかなり広がるはずだ。

 プレイ全体の幅を広げる仕組みとして、より大掛かりなのはペットシステムだ。「カナン」では、フィールド上のモンスターの大部分が、捕獲してペットにできる仕組みになっている。自キャラの職業やプレースタイルによって有用なペットの種類が変わってくるので、最適な組み合わせを追求する場合、選択肢は極めて広い。どのステータスを重視してペットを育てるかについては、自キャラと同じくらい幅広い選択と調整が可能だ。そのうえで、9月16日に導入されたばかりのペット合成システムも使える。ペットの種類ごとに決まっている「ランク」で見て、所定の水準を満たすペットを5匹手に入れないと、合成は行なえない。おまけに、使うペットのレベルによって合成の成功確率が変わるため、確実を期すならどのペットもある程度育てたほうがよい……。

 こうして見ていくと、「カナン」には見かけのシンプルさと裏腹に、そのときそのときの小さな励み、プレイ目標にできる事柄が豊富に用意されていることがわかる。自キャラの成長を柱に立てつつも、プレーを前に転がすさまざまな要素の成長/変化が見えることで、プレーヤーを飽きさせない仕組みになっているのだ。

ファイター用アイテムを見てみたところ。装備とそのスペックには、同レベル帯向けでもいくつかのバリエーションが用意されている例えばレンジャーの場合、いかにもな褐色の装備セットの上位には海賊風のセットがあって、靴や小手なら早めに着用し始められる
所定の場所でモードを切り替えて待つことにより、資源を集められる集めた資源を合成して上位のアイテムを作り、それを材料に装備品を作る
飼い主と一緒にモンスターを攻撃したり、飼い主の体力を魔法で回復したりと、ペットはこのゲームで大活躍するペットには自キャラと同じくステータスとスキルの成長要素があり、複数を使い分ける、合成して強化するといったことも可能


■ より広いターゲットとシチュエーションに向けた画面周りの改良が当面の課題

NPCのセリフが妙にぐちっぽかったり、やけに現金だったりして、変な親近感を持てるのも「カナン」の隠れた特徴か
それぞれマウスでポイントしてみるとわかるとおり、右上と左下のメッセージエリアはけっこう広く、その下になったオブジェクトはクリックできない。透過表示が裏目に出ている気もする

 「カナン」はこれまで紹介してきたようにライトゲーマー層向けのMMORPGといえるが、個人的にはストーリー面も推しておきたい。ゲームの主題となる「聖なる門」と神獣の探索について至る所で手がかりを追う形になるのはもちろんのこと、そこに過去に汚名を着せられた英雄の名誉を回復するといった、比較的長期にわたるサブストーリーが絡んでくる。NPC達のユーモラスなセリフやさばけた表現(開口一番、給料が安いことをぼやくNPCがいたりする)も含めて、大人にもそれなりに楽しめる切り口となっていることは確かだ。

 このように、ブラウザゲームらしい手軽さと、MMORPGのエッセンス部分を、うまく組み合わせた「カナン」だが、新しい試みだけに細部では必ずしもうまくかみ合っているといえない部分がある。その最たる例が画面の“狭さ”だろう。キャラクターやモンスターを“大写し”にすることで可愛らしさを存分に出すことには成功している半面、自キャラクターの移動速度と比べて画面に表示される範囲が狭いため、とにかく操作しづらい。

 フィールド上の移動では、マップナビゲーションの充実によってこの点もあまり気にならないのだが、町での買い物のときなどは、目的の店がなかなか視界に入ってこないため、やや不便に感じる。移動操作そのものはカーソルキーでも可能なので、画面が狭くて頻繁にクリックし直す必要があるというわけではないが、例えば町中についても何らかのナビゲーションシステムを用意したほうが便利かもしれない。

 比較的狭い画面の中で、システムメッセージの表示エリアがけっこうな面積を占めている点も、何らかの改善が望まれる部分だ。画面の右上と左下に配置されたメッセージエリアは透過表示になっているため、一見すると画面を占有していないように思えるのだが、実は敵がそこにいてもクリックできない。それでいながらエリアの境界が明示されていないため、外見と操作にギャップが生じるのだ。

 そうした細かな部分での不便さ、改善の余地は多々あるものの、「カナン」がブラウザゲームの特徴を生かした画期的かつ魅力的な作品に仕上がっているのは事実だ。指示してログオフして結果を待つというインターバルアクセス前提のゲームデザインではないものの、小刻みなアクセスをつなぎ合わせてプレーを成り立たせるという意味で、「カナン」という作品はブラウザゲームが開拓すべき隙間時間へのアプローチになっている。

 例えば縦600ドット以下の表示でもプレーが成り立つようにしてネットブック各機種に対応させるなど、画面表示周りの改良が典型的だと思うのだが、今後の長期的なアップデート展望の中で単純に上位コンテンツの追加だけでなく、より広いプレーヤーターゲット層のさまざまな生活シーンに入っていける工夫が重ねられるならば、ますます注目すべき作品となっていくだろう。


Published by NHN Japan Corporation
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(2009年 10月 6日)

[Reported by Guevarista ]