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江戸時代にタイムスリップした高校生が名探偵に 現代の知識を駆使して難事件を解決せよ 「えどたん」 |
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江戸の世で難事件を解決するヒーローといえば、名裁きで名を残している大岡越前こと大岡忠相や、“遊び人の金さん”として捜査を行ない、桜吹雪の刺青を見せながら悪人を問い詰める、名奉行遠山の金さんこと遠山金四郎景元、さらに「鬼平犯科帳」で知られる火付盗賊改方長官・長谷川平蔵などの名前が思い浮かぶ。いずれも時代劇や時代小説で活躍し、悪人を片っ端から捕まえて世を正してくれる正義の味方たちだ。
ミステリーファンとしては“名探偵”という言葉に言いようのない魅力を感じるが、捕物帳や時代劇を見ていると、岡っ引や同心、与力、奉行などの言葉にも負けないくらい惹かれてしまう。「えどたん」は現代の名探偵と捕物帳が融合した物語。「好き + 好き = 大好き!」な世界を堪能できた。
■ タイムスリップしたのは江戸時代。普通の高校生、大いに戸惑う
主人公「天道未来(てんどうみらい)」は鑑識官の父を持つ高校生。父親の忘れ物を届けに行く途中で雷雨に遭遇するところからゲームは始まる。雨宿りがてら、近くの骨董店でエレキテルらしき物を手にしているときに落雷に遭い、なぜか230年前の江戸時代にタイムスリップしてしまった。
物語の始まりは現代から。都内の高校に通う高校生・天道未来が主人公 | 骨董屋で見つけた「エレキテル」らしき品物に雷が落ちて…… | |
鑑識官の父親が忘れていったのは「指紋検出キット」と「ルミノール試薬」、そして「スタンガン」の3つ |
右も左もわからないどころか、世の中に対する常識も持ち合わせていない江戸の町で最初に見たのは、ある男が刺し殺される場面だった。そのまま気を失った未来が目を覚ましたときには、近くに刺殺された死体が転がっていた。当然のように下手人(犯人のこと)にされそうになる未来。まずは疑いを晴らすべく捜査を行ない、本当の犯人を捜すことになる。
未来をお縄にしようとしたのは、南町奉行所の定町廻り(じょうまわり)同心を務める「天道今一(てんどういまいち)」。苗字が同じで顔もそっくりな今一は、実は未来のご先祖様だった。不思議な縁を感じた今一のサポートを受け、未来は江戸の町で本格的な捜査を始める。
幸い未来の手元には「推理小説」があった。ベストセラー小説の最新刊で、探偵の心得を指南書風に書いているのがウリ。「探偵の心得No.28」として「事件の証拠のほとんどは事件現場に残されている!」と記されるなど、探偵において基本的かつ大切なことが書かれている。この推理小説を参考に、難事件に挑んでいく。
もちろん最終的な目標は現代に戻ること。今はまだ現代に帰れるのかどうかはわからないが、今後配信される話でその方法が模索されるようだ。
タイムスリップしてすぐ目にしたのは、男が刺し殺される瞬間。未来はこの事件の下手人の嫌疑をかけられる | ||
主人公と顔も表情もソックリな天道今一。南町奉行所の同心だ |
天道家に代々伝わる、お天道様をかたどった「太陽銭」。未来も父親から譲り受けて所持している |
■ 捜査はオーソドックスなコマンド選択形式。江戸の町を歩き回って下手人を探せ!
捜査は「移動する」、「話す」、「調べる」、「見せる」という4つの基本コマンドと、要所要所で使用可能な5つ目のコマンドで行なう。人や証拠のありそうな場所へと移動し、話を聞いて証拠を集め、集めた証拠を見せてさらに情報を引き出すというオーソドックスな形式。もちろん「調べる」を選ぶと虫メガネ状のカーソルが現われ、気になる部分をあちこち調べられる。ファミコン時代から1度でもテキストアドベンチャーゲームを遊んだことのある人なら、一目見ただけですぐにシステムが理解できる。
画面はグラフィカルだが、システムはオーソドックスなテキストアドベンチャー。4つの基本コマンドを使って操作を進める |
「調べる」コマンドを選ぶと虫メガネカーソルが出現。好きな場所を選んで調べまくろう。江戸の風俗や豆知識もたくさん散りばめられている | |
事件現場を調べるのが操作の第1歩。凄惨な現場といえども目を逸らしてはいられない | |
現場を調べる中で重要な証拠が見つかることも。「見せる」コマンドで関係者につきつけよう |
「移動する」を選択すると、画面が切り替わり「大江戸探査絵図」が表示される。絵図の中から行きたい場所を選んで情報を集めよう。行きたい場所によっては中継ポイントに立ち寄る必要が発生することもある。絵図の中に目的地が見当たらない場合は、まず近くの場所に移動してみよう。
5つ目のコマンドは「問い詰める」、「うわさ話」など、必要に応じて変化する。コマンドが表示されたら、すかさず使用することで、事件解決に向けての大きな1歩が踏み出せそうだ。
移動には絵地図を使う。位置関係もわかりやすい | 事件解決には5つ目のコマンドが欠かせない。表示されたらすかさず使おう |
普段は選択肢やコマンドは何度間違えても大丈夫だが、事件のクライマックスにはゲームオーバーの危機も待ち受けている。右上にゲージが表示されたら居住まいを正すべし。逃げた犯人がどこにいるかや、犯人を追い詰めるときに提示する証拠など、重要な選択を間違えるとゲージが減ってしまう。ゲージは「同心の評判」を表わしており、なくなってしまうとゲームオーバーとなる。
重要なシーンでは右上にゲージが表示される。選択をミスすると減り、なくなるとゲームオーバーだ |
■ アクの強い個性派キャラクターが生き生きと江戸の町を飛び回る
主人公の天道未来、先祖の天道今一以外にもさまざまなキャラクターが登場し、ストーリーを盛り上げる。
どんな仕事も難なくこなす今一の手下の岡っ引き「平七」、猪突猛進・真面目一筋の同心「真島鉄之助(まじまてつのすけ)」など、個性たっぷりの面々が捜査を手伝ってくれる。“今一の遠縁の者”という説明で受け入れてくれる今一の母親「おかこ」や、非常に新しいものが大好きなお奉行様など、いい意味で“ゆるい”人々のおかげで下手人探しに邁進できるというわけだ。
現在配信中の第1話には、ほとんど女性が登場しない。前述のおかこのほかは、事件の被害者・亀吉の女房である「おつる」と、ワンシーンだけ登場する謎の女の子のみ。岡っ引き、同心、与力、奉行と男ばかりが登場する。「ちょっと華がないんじゃない?」との悩みには、今後配信される第2話が応えてくれそうだ。時代劇の定番ともいえるお色気シーンや、魅力的な新キャラクターがたくさん登場するストーリーも期待したい。
大岡越前に憧れている眼帯の「お奉行」や今一の母親「おかこ」、同心仲間の「鉄之助」など個性派キャラクターが続々登場する |
殺された亀吉の女房「つる」や与力の「六手」は、重要な情報を持っているかも |
「よろずや平七」はさまざまな業界経験を持つ便利屋。困ったことがあれば、まずは彼を頼るのが事件解決への近道か? | おかこの見立てで衣装を着替えた未来。ちょっと遊び人風に変身して、江戸時代を生き抜く |
■ 散りばめられた江戸豆知識。江戸っ子文化もゲームの華
江戸の文化や政治の豆知識が散りばめられているのも楽しみのひとつ。町中のあちこちを「調べる」コマンドで調べたり、人々に話を聞いたりする中で、江戸の風俗や暮らしぶりが垣間見える。
主人公の未来は、プレーヤーと同じ現代の若者なのだから、時代劇や日本史の授業で見聞きしたレベルの知識しか持ち合わせていない。ゲームの中で疑問に感じた用語や文化は、自然な形で教えてもらえるので、江戸時代の知識がなくても安心してゲームを始められる。「岡っ引きの収入はどこから得ているの?」、「同心と与力の違いは?」、「傘張りって何?」、「おやつにどんな物を食べている?」、「借金の方法は?」などなど、ゲームをする中で少しずつ説明されるうちに、江戸時代にも興味が沸きそうだ。
ゲーム内で語られる江戸の生活やシステムは、少なくとも第1話時点では入門編ともいえる基礎知識が中心。時代小説や歴史小説マニアなら当然知っているだろうし、中には単純化されているものもあるようだ。しかし「えどたん」のプレイ前と後では、時代劇や江戸を舞台にしたマンガ・小説の理解度が大きく変化するかもしれない。
各ポイントへの到達時には「江戸豆知識」も追加される。「武士と刀」、「捕り物とは」など、こちらも興味深いテーマがわかりやすく説明されている。スタートメニューからいつでも読めるので、ゲームの息抜きに江戸豆知識でさらに理解を深めよう。
鮮やかに描かれた江戸の町。現代人にはもの珍しい風景だ | ||
「江戸豆知識」や、江戸の暮らしについての質問で江戸時代への知識や理解が深まる |
■ 科学捜査や現代の知識で、江戸時代の犯罪に太刀打ちできるか
何度も書くが、主人公は特別な知識を持たない一介の高校生でしかない。江戸の街や文化も知らず、度胸もない未来は、犯罪捜査においてお荷物になりかねない。秀でている部分があるとすれば、230年の間に培われた科学の知識や便利な道具の数々に違いない。現代ならではの知恵や知識を生かすことこそが、未来に与えられた責務ではないだろうか。
現代人なら当たり前に有している常識や教養は、一般的な高校生レベルだと言っても江戸時代のレベルよりは遥かに有益なものも多い。たとえばDNA鑑定や指紋捜査などの言葉は、現代人なら誰でも聞いたことがあるだろうが、江戸時代には概念自体が存在しない。道具もない江戸時代で果たして役立つのかは別として、事件解決には現代の英知が必ず役立つはず。第1話の事件でも、未来の持つ知識が重大な鍵になる。
江戸時代の捜査方法は今とは異なる。時には脅し、時には小さな悪にお目こぼしをするなど、現代なら大っぴらにできないことも必要悪としてまかり通っている。どこまで彼らの流儀に従うのか、自身の知識をどう生かすのかがゲームの面白さに繋がるのかもしれない。
現代から持ち込まれたアイテムは、第1話時点では効果のほどは不明だが、きっと未来を助けてくれるはず。持っていたアイテムはいくつも失われているが、携帯電話や推理小説は手元に残されている。現代アイテムもそのうち事件捜査に生かされるという展開もありそうだ。
江戸と現代の融合する一風変わった謎解き。現代ミステリーでも捕り物帳でもありえない独特の世界観が、「えどたん」の1番の特長になる。
主人公にしかない現代の知識が、犯人を見つける重要な手がかりになる |
■ 痒いところに手が届く親切設計。9月配信といわず、今すぐ第2話を!
「画面がキレイで遊びやすい」というのが、プレイした最初の感想だった。メリハリがあってカラフルな画面、くるくると表情の変わる登場人物たちにまずは惹きつけられる。遊び心の効いたイラストは小さな画面で見てもわかりやすく、突っ込みどころも満載。つい人に見せ、話したくなる要素も散りばめられているように思う。
1話遊び終わるのには1時間以上はかかるだろうか。少しずつ数日に分けて遊んだのだが、「え、まだ続くの?」と嬉しい驚きがあるほどで、携帯アプリとしてのボリュームは十分。携帯電話で長く遊ぶと、小さな画面はやはり見づらい上、ゲーム専用のコントローラーに比べて操作性も低いため、ストレスを感じることが多い。しかし「えどたん」ではほとんどストレスを感じなかった。携帯電話というプラットフォームを理解した上で、最適の操作方法や画面の使い方を作り出した制作サイドの努力が感じられた。
前述のグラフィックスのほか、細かな部分への配慮が遊びやすさと楽しさを下からグッと支えている。たとえば1度話を聞いた項目には“済”のマークが付くとか、「証拠」や「人物」がいつでもボタンひとつで参照できるなど、憎い心配りが行き届き、粗忽なプレーヤーでも安心して江戸の町を闊歩できる。注意したいのは読み戻しができないこと。うっかりボタンを連打すると「あれ、何の話だっけ?」という事態になりかねない。親切設計に頼りすぎないように、緊張感を持ってプレイしよう。
コマンドのグラフィックスも変化する。洋装から和装に着替えると、コマンドがシャーロック・ホームズ調から、捕り物帳風へと変わった |
事件の関係者や証拠はいつでも確認できる。コマメにチェックするのも探偵の基本 | ||
キャラクターたちの表情も豊富。困った顔や驚く顔が中心で、笑顔が少ないのは事件の渦中にいるからか |
操作の点で気になったのは「移動する」のコマンド。ある場所に移動するには、特定のポイントを経由する必要があるなど、慣れるまでは戸惑ってしまった。どこでもダイレクトに移動できると無駄な操作が減ると思うのだが。今後のシナリオで複雑な地図が登場するための措置なのかと淡い期待をしてしまう。
現在はまだ第1話が配信されているのみ。第2話が9月に配信され、年内に全5話を配信する予定だという。月額315円というリーズナブルな価格でしっかりとしたミステリーゲームが遊べるとは、なんて素晴らしい時代なんだろう。江戸と現代の融合した世界が、今後どんな本格的な謎を見せてくれるのか。9月といわず、今すぐにでも第2話を! と、狂おしい気持ちで配信を待ちたい。
カプコンから9月1日配信予定の第2話の画像をいただいたので紹介しておこう。未来が変装するシーンがあり、ゲームの幅も広がっているようだ。モバイル公式サイトでは予告ムービーも見られるので、そちらも合わせてご覧いただきたい |
(C) CAPCOM 2009
http://www.capcom.co.jp/
□「ケータイカプコン」のページ
http://www.capcom.co.jp/keitai/
(2009年 7月 15日)