MSI「Vortex G65 6QF SLI」レビュー

Vortex G65

HTC ViveによるVR性能もチェック! 煙突型ボディに最高の環境を詰め込んだゲーミングPC

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発売元:
  • MSI
開発元:
  • MSI
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大きさがピンと来ない方のために、3.5インチHDDと比較をしてみた

 ゲーミングPCはパーツ構成次第でゲームの快適度をどんどん改善することができるが、同時にボディーも大きくなる。性能と省スペース性は常に相反するものなのだ。

 だがその認識を改めざるを得ない省スペースゲーミングPC「Vortex G65」が日本でも発売されることになった。これはラスベガスで開催された“CES 2016”に展示され注目を集めたもの。直径約20cm、高さ約27cmの煙突状のケースに、最高のCPUとGPU(それもSLIで)を詰め込んだ省スペース派にはたまらない製品なのだ。

 今回はこのVortex G65を発売前に試用する機会に恵まれた。今話題のVRHMDとの相性も合わせ、様々なゲームでのパフォーマンスをチェックしてみたい。

【開封の儀】
パッケージを開封すると、ほぼVortex G65本体だけが詰まっているイメージ。電源ケーブルと少々の解説書程度しか付属品らしいものはないシンプルな構成となっている

直径20cm足らずのボディーに究極のスペック

 今回試用したVortex G65のスペックは以下のとおりだ。CPUは第6世代のCore i7の中でも最も高速かつオーバークロックにも対応したCore i7-6700K、GPUはGeForce GTX 980が2基という構成に注目。CPUもGPUも現役のハイエンドクラス、しかもGPUはSLI……まさにゲーマーのロマンが具現化したようなPCなのである。

 なお、今回紹介するVortex G65は、GeForce GTX 980を搭載した上位モデル「Vortex G65 6QF SLI」だが、GPUをGeForce GTX 960にした標準モデル「Vortex G65 6QD SLI」も存在する。価格も329,800円と一気にリーズナブルになる。

【Vortex G65 6QF SLI】スペック
CPUCore i7-6700K(4コア、4GHz、最大4.2GHz)
チップセットZ170
GPUGeForce GTX 980×2
メモリ32GB DDR4-2133 (8GB×4)
ストレージSSD 128GB×2 (M.2 PCIe Gen3 RAID0)+HDD 1TB (SATA、7200回転)
光学ドライブなし
無線LANQualcomm Atheros Killer Wireless-AC 1535 802.11a/b/g/n/ac
有線LANQualcomm Atheros Killer E2400 ギガビットイーサ
電源出力450W
OSWindows 10 Home
外形寸法193.3×178×270(横幅×奥行き×高さ)mm
重量約4kg

【Vortex G65】
ポート類は全て背面に集中。2基のHDMIにギガビットイーサ、さらに最下段にはThunderbolt3(USB Type-C)が2基にMini DisplayPortが2基と豪華な構成
側面から見ると若干上部が奥側に傾斜しているような形状になっている。さらに最下部に空間があることがわかるはずだ
さらに完全な円柱ではなく“ルーローの三角形”のような形状になっている。上部はほとんどの部分がメッシュになっており、高負荷をかけるとここから温風が吹き出す
最下部に空間がある理由のひとつがこれ。電源ケーブルを接続するコネクタはボディーの下部にあるためだ。こうすることで空気を吸い上げやすくする狙いだろう
最前面にはインターフェイスらしいものは一切なく、唯一あるのは最上部の電源スイッチのみ。電源投入時は赤く点灯するが、発光部分は全て後述のユーティリティで発光色を変更できる
さらに通電時にはボディー中央に入っているラインと、背面にあるレッドドラゴンのロゴも点灯。ラインの発光色やパターンも変更可能だ

 煙突スタイルのボディーにデュアルGPUといえば、アップルの“Mac Pro”が思い浮かぶ人も多いだろう。正面には電源スイッチ以外のインターフェイスはなく、全て背面に集中させるスタイルだし、底面から吸い込んだ空気を上方に吹き出すことで冷却を行なう。このあたりにもMac Proへの意識が垣間見れる。

 だがMac Proは久しく更新が止まっている上に、搭載CPUやGPUもワークステーション向けのもの。だがVortex G65はクロックの高いCore i7-6700Kにゲームに強いGTX 980を2基搭載している。

 CPUやGPU以外の構成もMSIらしいこだわりに満ちたものが使われている。特に印象的なのがKiller E2400の有線LANを2系統に加え、Killer Wireless-AC 1535による無線LAN(802.11ac対応2x2、MU-MIMO対応)というKiller Shild K9000に対応した3系統のネットワークインターフェイスを備えていることだ。

 通常こうした構成はサーバー的な用途で使うものだが、本機に搭載されている“Killer DoubleShot-X3 Pro”は、ネットで対戦ゲームをやりながら実況動画を配信するような場合、互いの帯域を食い合わないようにするためにするものだ。

 またストレージも強烈な構成だ。データ保存用として1TBのHDDを搭載するが、OSやアプリは256GBのSSDから起動する。しかもこのSSDはPCI-Express x4接続のRAID0なのでリードもライトも非常に高速だ。ただ大作ゲームになると1本30GB~60GB位は占有するので、もう少し容量が欲しかったところではある。

 MSI製のゲーミングPCなので、サウンドは当然Nahimic Sound Technologyによるバーチャルサラウンドも利用できる。普通のFPS系ゲームはもちろんだが、ようやく品物が届きはじめたVRHMD(Oculus RiftやHTC Vive)の臨場感を高めるには絶対欲しい装備だ。

【内部構造】
背面と側面のカバーを除去すると、内部のコンポーネントにアクセスできる。縦にフィンの走っているヒートシンクが2基あるが、この下にGTX 980が1基ずつ収まっている。円柱の中心には80PLUS Goldの450Wの電源ユニットと排気ファンを備える
GPUはGPU搭載ノートPCでもおなじみのMXMモジュールになっている
面側にあるひときわ巨大なヒートシンクがCPUを冷却するためのもの。少々見づらいがこのヒートシンクの下に普通のデスクトップCPU用のLGA1151ソケットとCore i7-6700Kが鎮座している。写真右上に見える小さな箱はデータ保存用の2.5インチHDD。CPUの熱の影響を受けにくいよう、底面に近い部分に設置されている
メモリはCPUと同じ基板にSO-DIMMタイプのDDR4-2133モジュールが4枚搭載され、32GBの大容量構成。これならゲームであろうと画像編集であろうと不足する心配はないだろう
SSDはサムスン製のNVMe M.2 SSD「MZVPV128HDGM-00000」が搭載されていた。ただRAID構成という割にはパッと見える範囲にはこの1枚しか実装されていない

【BIOS】
テスト機の完全分解まではできなかったので、BIOSの情報をチェックしてみたところ、同じNVMe SSDが2基搭載されていることがわかった
ついでにBIOSの他の項目を覗いてみると、設定可能な項目は必要最小限。CPUのOCに関係する項目は全く存在しなかった

【ソフトウェア機能】
テスト機のGTX 980は、出荷状態ですでにSLIが有効になっていた。端子のアイコンをよくみると、HDMIが2系統、DisplayPortが2系統となっている。ビデオカード版のGTX 980はHDMIが1系統しかないことを考えると、やや特殊な構成(ただしGPU部分は一緒)のようだ
Nahimicの音質を制御するコンソール。バーチャルサラウンドに加えバスブーストやリバーブ等の設定をゲームや映画等の用途別にオン・オフできる
プリインストールされている「Dragon Center」はVortex G65に関する様々な機能を提供する。まずはCPUやGPUの温度や占有率等をチェックする機能
電源ボタンやボディーのライン等の発光色や輝度を設定する機能もある。発光パターンはオフを含めて5種類。LEDの色はフルカラーとなっている
Core i7-6700KのOCは「Dragon Center」から実行する。ただし上限は4.6GHz、GPUのOCはできないため動画エンコード時など、ちょっとCPUパワーが欲しい時に使うとよいだろう

文句なしの強烈な処理能力を発揮

 では基本的なベンチマークでVortex G65のパフォーマンスをチェックする。Core i7-6700KにGTX 980のSLIという構成だから、高スコアを期待するなという方が酷というものだ。

CINEBENCH R15

 CPUの馬力をチェックするには「CINEBENCH R15」が最適だ。4コア8スレッド、Turbo Boost時最大4.2GHzという高クロックなCPUを搭載しているので、スコアも当然高い。最近のゲームはとにかくCPUパワーも贅沢に使う傾向があるため、Core i7-6700Kは実に頼もしい存在だ。

CINEBENCH R15スコア
CPU(マルチコア)872cb
CPU(シングル)174cb

3DMark

 続いて「3DMark」を用いてグラフィックの描画能力をチェックする。SLIがよく効くベンチマークだけあって、フルHD環境におけるゲーミングPCとしての力をみる“Fire Strike”では16,027ポイントと高いが、これは1ランク上のGPU(GTX 980Ti)と同等以上。さすがに4Kを想定した“Fire Strike Ultra”だと5,000ポイントを下回るが、これはゲームや画質を選べば4Kでも遊べる、ということを示している。

3DMark v1.5.915スコア
Fire StrikeUltra 4867
Fire StrikeNormal 16027

「ファイナルファンタジーXIV:蒼天のイシュガルド」ベンチマーク

 定番の描画負荷が軽めの「ファイナルファンタジーXIV:蒼天のイシュガルド」の公式ベンチマークも試してみた。Vortex G65のスペックを考えたら画質は当然DirectX 11の最高品質。そこでフルHDと4K解像度でのスコアを比較してみた。

 プリセットの画質をいくつか試してみたが、どのセッティングでも「非常に快適」のお墨付きを得ることができた。

「FFXIV:蒼天のイシュガルド」ベンチマーク(DirectX11版)
最高品質&フルHD18,750
最高品質&4K5,239

CrystalDiskMark

 NVMe SSDのRAIDとあれば、「CrystalDiskMark v5.1.2」でストレージの読み書き速度もチェックすべきだろう。今回も内蔵SSD RAIDとHDDそれぞれの読み書き性能を計測してみた。

 前述の通り、Vortex G65にはサムスン製のNVMe M.2 SSDが搭載されているが、単体の公称スペックはリード2,000MB/sec、ライトが650MB/secとリードに強く傾いた性能を持っている。だがVortex G65はこれを2枚RAID0運用にすることで、シーケンシャルリード(QD32,T=1)は3,103MB/sec、シーケンシャルライト(同)も1,335/secと、普通のSATA SSDでは得られない性能を確保している。

 ただこれでゲームが一瞬で起動するかというとそうでもないのが残念なところだが、HDDよりは格段に速くなる。よく遊ぶゲームのみSSD RAID側にインストールするようにすれば、快適なゲーミングライフを送ることができるだろう。

CrystalDiskMarkの結果。左がSSD、右がHDD

最新重量級ゲームでの実力は?

「Rise of the Tomb Raider」

 Vortex G65を使うなら、描画の重い「Rise of the Tomb Raider」や「Tom Clancy's The Division」といった重量級ゲームの挙動も試すべきだろう。今回は画質をプリセットの1番上の設定に固定し、解像度フルHDと4Kでどういう差が出るかチェックしてみた。

 まずは「Rise of the Tomb Raider」だが、今回もDirectX 11モードで計測した。ゲーム内蔵のベンチマークモードは3つのシーンで比較するが、1番描画の重い“地熱谷”でのフレームレートを比較する。

【「Rise of The Tomb Raider」(DirectX 11モード)のフレームレート】

 GTX 980Tiを使っても最高画質&フルHD設定では最低fpsが30fps台に落ち込むこともある重いテストだが、SLIがよく効いているためか一瞬60fpsを割ることはあるものの、平均では非常に滑らかなフレームレートが得られた。たださすがに4Kともなると最高画質では厳しい(これはメモリ帯域に制約のある現行GPUの限界だろう)。

【「Rise of The Tomb Raider」(DirectX 11モード)フルHD】
フルHD&最高画質だと左のシーン程度のオブジェクト数なら60fps以上キープできるが、右のシーンのように建物や樹木が増えるとわずかに60fpsを下回る

【「Rise of The Tomb Raider」(DirectX 11モード)4K】
4K&最高画質だと30fps台、重いシーンでは20fps台まで下がる

「Tom Clancy's The Division」

 続いては「Tom Clancy's The Division」を試してみる。内蔵ベンチマークモードだと平均と最高fpsが高めに計算されるため、今回はベンチマークシーケンスを再生した時のフレームレート(おおよそ85秒間)を直接「Fraps」で計測した。「Rise of the Tomb Raider」と同様に一瞬60fpsを割り込むことはあるが、平均としては70fps近いフレームレートを確保。さすがに4Kだとガクガクな感じがするが、GeForce Experienceの推奨設定は画質“低”ベースなので、このゲームの4Kプレイはあまり意味がないといえるだろう。

【「Tom Clancy's The Division」のフレームレート】

【「Tom Clancy's The Division」フルHD(上)、4K(下)】
フルHD(上)だとおおむね60fpsあたりでプレイできるが、4K(下)だとかなり重く、ティアリングも出まくる

「HTC Vive」

 さて、つい先日筆者も手に入れたばかりの「HTC Vive」でどの程度快適かもチェックしてみた。

 「Vortex G65 6QF SLI」は、PC向けVRヘッドセットHTC ViveやOculus Riftの推奨環境を満たし、NVIDIAから「VR Ready」も獲得しており、HTC ViveやOculus Riftを導入することでVRゲームも楽しむことができる。

 VRゲームについては、まだ選択肢が限られるが、その中でも推奨スペックがCPUはCore i7-5930K、GPUはGTX 980という化け物じみた「theBlu」を試してみた。

 ほぼViveの表示能力の上限である90fpsを超えていた。これは現状VRタイトルはCPUよりもGPUの影響が大きいためだ。ただ、SLIは有効に作用しておらずシーンによっては一瞬60fps台に下がることはあったものの、描画遅延が原因のVR酔いを感じることなく楽しめた。Nahimicサウンドとのマッチングも最高だ。

 Vortex G65はVRHMD布教用のマシンとして1台欲しくなってしまうが、注意点としてはVRHMD関連のマルチGPU対応はGPUメーカーが対応を表明しているものの、まだコンテンツ側の対応ができてない状態。VRHMDでのVortex G65の真価は、コンテンツ側のSLI対応を待つ必要がある。

【HTC Vice「theBlu」のフレームレート】

【HTC Vice「theBlu」】
一瞬fpsが60~80fpsに下がることがあったが、画面上ではわからない。HTC Viveがフレーム落ちの時に出す警告も見られなかった

 コンパクトボディにこれだけの高性能を詰め込んだVortex G65は、さぞかし爆熱爆音ではないのか? という懸念も当然生まれてくる。そこで「HWiNFO64」を使用してゲーム(「Rise of the Tomb Raider」)を30分プレイした時のCPUとGPUの温度、さらにGTX 980のコアクロックの状況を監視してみたのが下のグラフだ。

【ゲーム中の温度(右軸)とGPUのクロック(左軸)の推移】

 CPUは60~70度、GPUはもう少し高くて出力を担当する側が75度、補助に回る側が71度となったが、これだけ冷えていれば冷却能力としては十分。これなら真夏でもめったなことではオーバーヒートすることはないだろう。

【温度分布】
サーモグラフィーカメラ「FLIR ONE」で高負荷時の温度分布をチェック。熱はほとんどボディー上部の排気口に集中し、側面はほんのりあたたかくなる程度だ

 続いて騒音だが、暗騒音約35dBAの室内において、騒音計「AR815」のマイクを本体正面30cmの位置において計測した。システム起動10分後がアイドル時、ゲームを30分以上プレイした後、ファンの音が大きくなった時を高負荷時としている。

 アイドル時はファンの音がかすかに聞こえてくる程度だが、さすがに高負荷をかけるとファンの音はハッキリと聞こえてくる。それでもうるさくてゲームに集中できない、という程度ではない。体感的にはパワーオン直後でやや強めに回っているエアコンと同程度といったところだ。

【ノイズレベル】

スタイルと性能は十分満足。問題は予算!

 以上、Vortex G65をいろいろと使ってみたが、小型PCにありがちな欠点(内部にアクセスしづらい、超高負荷だとノイジー)はあるものの、性能はバッチリ出ているという印象が得られた。特に重量級ゲームを最高画質で平均60fps以上で遊びたい! という人であれば、Vortex G65のスペックとスタイルは心に刺さるものがあるはずだ。SLIに対応しないゲームもまだまだ存在するが、重量級タイトルを攻めまくりたいなら、1度は使ってみたいマシンといえるだろう。

 問題は価格。499,800円(税別)という価格設定はおいそれと手が出せる値段ではないのは事実だ。だが小脇に抱えられる程度のコンパクトなマシンにこれだけのスペックを詰めたPCはほぼ存在しないという側面を考えると、これからVRHMDをガンガン布教しようかと考える人なら絶対に欲しくなるマシンだ。

(加藤勝明)