EAはかつて、エクストリームスポーツやストリートカルチャーに焦点をあてた「EA Sports BIG」というブランドを展開していた。モトクロスバイクを題材にした「フリークスタイル」や実在ラッパー同士が戦う格闘ゲーム「Def Jam Vendetta」など個性的なタイトルを輩出していた。ブランド自体はいつの間にか消えて「EA Sports」に統合されたが、いくつかのタイトルは今でも続編の制作が行なわれている。
そんなEA Sports BIGブランドの生き残りでもひときわ人気を誇っていたのがスノーボードを題材にした「SSX」だ。現実だったら即死級のスピードで雪山を滑り降り、トリックを決めるプレイスタイルはスポーツゲームになじめないコアゲーマーにも注目を浴び、スポーツ物でありながらコアゲーマーの支持も取り付けることができた希有なタイトルだ。約5年ぶりに発売される新「SSX」の魅力を紹介しよう。
■ チームSSXが世界の名峰を攻略!ゲームデザインはリアル志向へ!?
本作はチームSSXと呼ばれる命知らずのエクストリーム・スノーボーダー集団がロッキー山脈やパタゴニア地域など世界中にある名峰を自慢のテクニックと装備品で攻略するアクションゲームだ。チームメンバーは歴代SSXファンであればおなじみのキャラクター達で構成されており、カオリの怪しい日本語は今回も健在。スポーツゲームには珍しいキャラクタの味付けは本作が持つ特徴の1つだ。
「SSX」はシリーズ7作目にして名称が1作目に回帰したタイトルだ。意外なことに本作が初のHDゲーム機対応で、2007年に発売された前作「SSX Blur」はWii用に発売されている。一時はスノーボードだけではなくスキーもできたりと、ゲームデザイン的にはかなり迷走していた感はあるのだが、約4年ぶりの発売となる本作では見事な仕切り直しがされており、初代から3作目の「SSX3」までの全盛を知っているプレーヤーにとっては嬉しい内容に仕上がっている。
ゲームモードは大きく分けて「ワールドツアー」と「エクスプロア」の2つが用意されており、前者がキャンペーンモード、後者がフリーモードだと考えてもらえば良いだろう。ワールドツアーで新しい山々とコース、チームメンバーをアンロックしてエクスプロアで再チャレンジをするというプレイスタイルになる。キャラクター個々にはレベルが設定されているため、レベルアップとコース攻略に必要なギア(アイテム)を購入する資金を稼ぐ用途でも各モード間を行き来することになるだろう。
もうひとつ「グローバルイベント」というモードも用意されている。これはイベントを作成して他プレーヤーのゴーストと対戦できるモードで、マルチプレイ対戦ではないのが残念なところだが、世界中にいるプレーヤーのテクニックを前に自分の力を試すことができる。また「RiderNet」と呼ばれるサービスによって、ゲームプレイの内容は自動的に記録されており、フレンドとゲームプレイを比較したりすることもできる。これらはゲーム機本体がオンラインに接続されている必要がある。
本作の基本的なゲームシステムは1作目から変わらない。操作形態についてはクラシックと新操作の2種類が用意されているが、これはトリックに右アナログスティックを主に使うかボタンを使うかの違いで、プレーヤーのお好みで決めれば良い。ゲーム本番前にチュートリアルが受けられるのでこれをしっかりプレイしておけば特に詰まるようなこともない。
操作とシステム面で1つ大きく変わったのはリワインド機能が搭載されたことだ。これレースゲームでお馴染みのプレーヤーの動きをミスの手前まで巻き戻せる機能だが、「SSX」のリワインド機能は、時間は巻き戻さず、あくまで動きを巻き戻すところが大きな特徴となっている。
つまり、クレバスに落ちそうになった際に発動させれば、落ちる手前まで簡単に戻すことができるが、時間はそのまま経過しているのでプレーヤーの先頭を滑っていたライバルは更に先へ進み、後続は追いついてくるという仕様だ。一定時間内の使用回数が限られる場合もあるので、適切なタイミングでの使用が肝心だ。
最近のEA Sportsゲームのデザインが全般的にリアル志向なように、本作も前作に比べると若干リアルな作りになっている点に注目したい。ただしここでいうリアルはあくまでもゲーム的なもの。実在する山が舞台になっていることを筆頭に今作では体力0によるゲームオーバーが要素に追加された。以前もクレバスや谷底に落ちてゲームオーバーというケースはあったが、今回は荒っぽい滑り(木にぶつかったり着地に失敗するなど)をすると体力ゲージが減って0になるとリタイアになってしまう。
コースの移動制限がなくなった点にも注目したい。コース上の見えない壁がなくなり、設定されたコース中のいかなるルートからも滑り降りることが可能になった。選んだ先が谷底だったりすることもあるため、ある程度ルートが制限されるのは仕方ないが、思わぬショートカットなどを見つける楽しさが新たに追加されている。
また、アイテムもコスチュームやボード以外にギアと呼ばれる装備品を新たに使うようになった。様々な条件下のイベントをクリアするには、「ウイングスーツ」や「アーマー」などコースに合わせたギアを装備することが大切だ。前作「SSX Blur」からあらゆる面が強化されているが、今作において最も大きく変わったのは、コースの環境にあわせてアイテムを使い分けるゲームデザインに尽きる。
期待されていたオンラインマルチプレイは、ゲーム発表当初は告知されていたが残念ながら発売前のタイミングで実装が見送られている。オンライン機能は他プレーヤーのゴーストやランキングまわりの比較機能のみ実装されており、これはいささか物足りなさを感じることになるかもしれない。
DLCは初回特典として「富士山」のコースを追加するコードがパッケージに同梱されており、これ以外にもいくつかのDLC配信が予定されている。ゲーム中、富士山をすぐに滑りたい場合は「エクスプロア」モードからプレイすることが可能だ。
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■ 世界の名峰を攻略、ギアを駆使して様々な環境下に対応しよう!
前述のとおりチームSSXは世界の名峰を攻略していくが、1つの山に用意されているゲームモードは「レース」、「トリック」そして「デッドリーディセント」の3つで構成されている。「レース」はそのまま他のチームメンバーと順位を競う。トリックによるスコアよりもタイムが重要だ。「トリック」は他のメンバーとトリックを決めることで得られるスコアを競う。レース以上にコースの地形と操作テクニックが決め手になる。ここまでは前作までもあったゲームモードだ。
今作要注目のモードが「デッドリーディセント」だ。これは各山の最後に攻略するモードで、山の頂上から1番下までを1人で一気に滑るチャレンジモード。プレーヤーに求められることはただ1つ、生き残ることだ。山ごとにテーマがあり、例えばロッキー山脈の場合は「木」シベリアの場合は「氷」などプレーヤーの障害になる要素が決まっている。前者の場合はアーマーを装備して木々の衝突にそなえたり、後者ではピッケルを装備して滑りやすい氷の上でのカーブを補助するといった、テーマごとに必要な装備品を使いこなすことが重要だ。他のレースでは楽しめない過酷なサバイバルゲームを楽しむことができる。
「デッドリーディセント」ではギアを使いこなすことが重要だが、ギアの装備はクリアに必ず必要な訳ではない。各コース指定のギアを使わずにクリアするのは実績/トロフィー解除の条件になっている。コースの熟知と絶妙な操作タイミングが必須で難易度はかなり高い。実績解除大好きっ子は覚悟してかかるべし!
もちろん、ただ滑ればいいだけではない。滑るだけなら誰にでもできること。このゲームが持つ面白さの全てはメチャクチャなコースを活かしていかに「魅せる」トリックを決めるかにかかっている。どう考えても難しそうな地形を高速で滑り降りつつダイナミックなトリックを連続して決めたときの爽快さは、本作でしか体験できない。
トリックを決めていくことで貯まる「トリックゲージ」を満タンにさせるとトリックモードが発動、この状態で更に転倒せずにトリックを重ねるとヒップホップアーティストRun-D.M.Cのテーマが流れはじめスーパートリックモードが発動する。この状態でトリックを決めると通常時よりもさらに高スコアとなり、まとまったスコアを稼ぐチャンスが到来だ。トリックスコアの争いでは、このスーパートリックモードを多く発動させてライバルとの差を早期に広げてしまうことが攻略の要となる。
ただしトリックは連続して同じ物を出すとスコアにほとんど寄与しなくなる。いかにうまく決めることができても「魅せる」ことができなければダメなのである。つまり高スコアを狙うにはコースをうまく滑りつつ、ジャンプ→トリックをかけるタイミングでどのようなトリックを順番に出していくかを頭の中で構成していかなければいけない。なかなかプレイにセンスを求められるゲームなのだが、コースを熟知しトリックを組み立てる、これこそがSSXをプレイする醍醐味だ。
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■ 原点回帰ではなくシリーズ集大成といえる新「SSX」 これ1本で当面楽しめる!
「SSX3」以降、本シリーズはPS3/Xbox 360などのHDゲーム機路線から外れ、SD機用のタイトルとして不遇な扱いになっていた。本格的な仕切り直しを行ないタイトルも「SSX」に戻した本作は、少しプレイすれば制作期間かけてじっくり作り出されたものであることがすぐにわかる。タイトルをオリジナルに戻したのは、原点回帰という意味ではなくHDゲーム機世代に移行した「真」SSXという意味合いが強いのだろう。今まで発売されたどのシリーズにもないブレない強いゲームデザインと安定した面白さがあり、まさにシリーズ集大成に相応しい内容となった。
唯一残念なのはゲーム発売前に突然カットされたマルチプレイ機能だ。フレンドと一緒に滑ったり、世界中のすご腕プレーヤーのテクニックを目の前で見ることは次回作以降に持ち越しとなってしまった。おそらく発売日を死守するために泣く泣く仕様から切られたものと考えられるが、ネット常時接続が前提のHDゲーム機においてマルチプレイをサポートしなかった点は痛い。
ゴーストによる疑似対戦やオンライン上にいるプレーヤーの記録比較はあるものの、せっかく用意されたゲーム内オンラインサービス「Riders.net」は形骸化されていて物足りない。本作はオンラインパスを導入して、これを有効にしないとオンラインまわりの機能は制限されるが、実はあってもなくても本作の場合あまり意味がないのが残念なところだ。
大きなところで不満が残るのは上記の点くらいで、ゲームとしての完成度は極めて高い。昔からのファンはもちろん、アクションゲームファンであれば長く楽しめる1本であることは間違いない。そして重要なのは、このゲームはスポーツゲームではなくて、アクションゲームであるということを強調しておきたい。
スポーツゲームと聞くと一歩引いてしまうゲーマーもいるかもしれない。しかしこのゲームはスノーボードを題材にしているが、まぎれもなくプレーヤーが己のテクニックと最低限の装備で雪山と戦う超一級のアクションゲームなのだ。おしゃれでカジュアルなスノボゲームではなく、ハードコアゲーマー大歓迎のゲームであることを断じておこう。
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(2012年 3月 16日)