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★ PS3/Xbox 360/PCゲームレビュー★
狂気と美しさに満ちたワンダーランドへようこそ
可憐で怖いアリスの戦いを描く物語
「 アリス マッドネス リターンズ」
ジャンル:
アクションアドベンチャー
発売元:
エレクトロニック・アーツ
開発元:
Spicy Horse Games
プラットフォーム:
PS3 / Xbox 360 / Windows PC
価格:
7,665円 (PS3 / Xbox 360)
オープンプライス (Windows PC)
発売日:
7月21日
プレイ人数:
1人
レーティング:
CERO:Z(18才以上のみ対象)

 「アリス マッドネス リターンズ」は米国のゲームデザイナーAmerican McGee氏が提示する“どこか狂っていて、歪んでいながらも、とても美しいワンダーランド”でのアリスの冒険を描くアクションゲームだ。10年前にPC向けに発売された「アリス イン ナイトメア」の続編であり、最新の3Dグラフィックスと豊富なアイデアによってより美しく、過激で、邪悪なワンダーランドがプレーヤーの前に現われる。

 アリスは10年前火事で家族を失い、いまだにその悪夢のような記憶に捉えられている。彼女は現実とワンダーランドを行き来しながら、自らの記憶の断片を集めていく。ワンダーランドは醜く歪んでいて、悪夢そのものの世界でアリスは戦う。その旅路の果てには何があるのだろうか。


■ 壊れてしまったワンダーランドと、陰鬱なロンドンを行き来するアリスの冒険

主人公アリス・リデル。ワンダーランドでの彼女は美しく、怖い
現実のロンドンでは、彼女は自分の記憶に怯える無力な少女だ
ナイフを振るアリス。戦闘はスピーディーだ

 「アリス マッドネス リターンズ」の主人公アリス・リデルは10年前火事で家族を失い、火傷と共に大きな心の傷を負い昏睡状態となり、精神病院に収監される。その後体は健康を取り戻すが錯乱状態は続き、現実ではないワンダーランドのことばかりを語るようになる。それでも10年の療養により現実世界で生活ができるまで回復した彼女は精神科医の元に引き取られ、そこで医者の仕事を手伝いながら自身も治療を受ける日々を送ることになる。

 しかし「家族を失った火事を起こしたのは自分のせいかもしれない」という記憶が彼女を苦しめる。やがて彼女の心は再びワンダーランドをさまよいはじめる。しかしそのワンダーランドは、醜く、無惨に歪んでしまっていた。何故ワンダーランドは歪んでしまってるのか。アリスは現実とワンダーランドをさまよいながら、記憶の欠片を集め始めることになる……。

 「アリス マッドネス リターンズ」は前作にあたる「アリス イン ナイトメア」の続編だ。ストーリーは前作が下敷きになっており、例えば“赤の女王”がアリスに1度倒されているなど、前作をやっていないとわかりにくい部分もある。しかし前作はワンダーランドのみの冒険だったのに対し、今作は“現実”とワンダーランドを行き来し、真実を探すという新たなストーリーが展開する。ワンダーランドはより美しく多彩になり、ゲーム性はエキサイティングになっており、前作をやって無くても全く問題はなく楽しめるだろう。

 「アリス マッドネス リターンズ」の基本はジャンプを駆使して地形を進んでいき、敵と戦うアクションゲームだ。空中に浮かぶ床や、高く飛び上がるジャンプ台、アリスを押しつぶそうとする地形など、現在となってはいささか古風なギミックがたくさん盛り込まれている。この仕掛と、アリスの壊れて歪んでしまった心象風景が相まって、独得な不条理空間を作り出している。

 ワンダーランドでのアリスはナイフを振り回し、敵を切り裂き、ペッパーミル(コショウ挽き)からマシンガンのようにコショウ弾を打ち出して敵を蜂の巣にする。その戦いは激しい。返り血が飛び散ったエプロンドレスを広げて滑空し、体をくるりと回転させジャンプ、漆黒の髪をなびかせてワンダーランドを駆け抜けるアリスの凛々しさは、本作の大きな魅力だ。かわいらしく見えるが、狂気を感じさせる気味の悪さがあり、そして格好良さもある。アリスは操作していてとても楽しいキャラクターだ。今作ではさらに、ステージごとのテーマに沿った衣装まで披露してくれる。

 時々アリスの意識はワンダーランドから離れ、現実世界のロンドンで意識を取り戻す。アリスはワンダーランドの冒険は連続した記憶を保っているのに、現実はいつも断片的にしか認識できない。ワンダーランドの華麗で残酷なアリスに比べ、現実のアリスはみすぼらしい格好でいかにも無力な存在に見える。

 今作でのロンドンは陰鬱で独得のセンスで歪まされており、まさにホラーだ。しかもこのロンドンはいつも突然現実ではないワンダーランドに繋がってしまう。ふり返ると現実のロンドンが変容する描写は、プレイをしているうち自分にもアリスの狂気が忍び込むような、奇妙で恐ろしい感覚を味わえる。

 本作は表現としてかなりエグい描写もあり、クリエイターの“猟奇”ぶりを楽しむゲームでもある。まさに「怪作」というべきゲームだ。癖が強いが独得の強い魅力を放ってる。ゲームは難易度が多少高めだが、ぜひこのめくるめく狂気の世界を楽しんで欲しい。


チェシャ猫、ウサギ、マッドハッター(帽子屋)。「不思議の国のアリス」のキャラクターが歪んだ形で登場する
陰鬱なロンドンの街並み。右は冒険をして取り戻していくアリスの記憶だ
ワンダーランドは、美しく、歪んでいて危険に満ちている。右下は巨大化して敵をなぎ倒すアリスだ


■ スカートを広げ滑空し、血塗れのナイフを振り回す。かっこよく可憐で怖いアリスのアクション

見えない床。小さくなることで見つけられる
ヒステリーモードになると攻撃力が跳ね上がる
様々な場所に隠されている豚の鼻

 「アリス マッドネス リターンズ」はジャンプと様々な武器でワンダーランドを進んでいく。ジャンプは3段まで可能でかなりの距離を飛べる。またジャンプボタンを押しっぱなしで滑空も可能だ。乗っかると大きく跳ね上がるキノコや、風を吹き上げる機械があり、これらを駆使して空中を進んでいく。

 またアリスはいつでも小さくなることが可能で、小さくなると様々な場所に描かれたヒントが読めたり、小さな入口に入れる。また本作は様々なところに「見えない床」がある。小さくなると見えるので、場所や動きを覚えてジャンプし、進んでいく。この他スイッチの上に時限爆弾を置き、爆弾が爆発する前に先に進むといったギミックもある。

 ギリギリのところをジャンプしたり、連続して風に吹き上げられたり、時間制限とそのほかのギミックが組み合わさったり「アリス マッドネス リターンズ」では割と早い段階から高度なテクニックを求められる。その分後半でも大きく難易度は上がらないが、何カ所かかなり難しいところもある。本作では地形による失敗の場合は近くから再挑戦可能なので、落ち着いて時には大胆に地形を越えていきたい。

 戦闘ではアリスは近接攻撃のナイフ、遠距離のペッパーミル、そしてステージが進むと破壊力抜群の馬の頭の形のハンマー「ホビーホース」、熱湯を発射する「ティーポットキャノン」といった武器も使いこなす。アリスの戦闘はスピーディーで激しい。敵との距離が離れているときはペッパーミルで攻撃し近付いたらナイフで切り刻む、防御姿勢を取っていたらホビーホースで突き崩すといったように常に攻撃重視の戦い方となる。

 常に敵が多数でこちらを取り囲む状況が多く、追いつめられないように絶えず動いている必要がある。敵の攻撃は一瞬無敵になる回避でかわす。敵の弾は傘を開いてはじき返すことも可能だ。常に動きつつ攻撃して敵を減らし、相手の攻撃パターンを読んで回避する。本作の戦闘はグッとのめり込むものがある。スピード感と高いアリスの攻撃力は爽快だが、敵のパターンを把握しなくては勝てない。体力が減ったときは「ヒステリーモード」が発動でき、攻撃力が跳ね上がる。このときのアリスは血の涙を流してかなり怖い。

 「アリス マッドネス リターンズ」は隠し要素を探すゲームだ。正規のルートの周りにたくさんの道が隠されていて、その先にはアリスの「記憶」や収集アイテムの「ビン」、集めることで武器を強化できる「歯」などがある。辺りを鋭く観察し隠し通路を探す。何度もステージをプレイしてパーフェクトを目指したくなってしまう。

 隠し要素の中でもとびきりユニークなのが「豚の鼻」だ。本作のステージには様々なところに豚の鼻が隠れていて、コショウを打ち込むとボーナスアイテムが入手できる。このブタのヒントはブタの鼻声なのだ。不条理なステージで、聞こえてきた豚の声を頼りに周りを探す。豚の鼻は壁から生えていたり、両脇に翼を付けていたりする。まさに本作ならではのとんでもなくシュールなゲーム体験だ。


ナイフ、ペッパーミル、ホビーホース。多彩な武器で戦っていく
物も破壊できるティーポットキャノン。中央は蝶に姿を変えての回避。右は傘で敵弾を跳ね返す
数で襲ってくる「インシディアス・ルイン」、大砲を撃ってくる「キャノン・クラブ」、刀を使う「サムライ・ワスプ」
様々なところで見つかる記憶。小さくなることで入れる入口。右は歯を集めることでできる武器のパワーアップ


■ 涙の滝、海の底、東洋の森……美しさと狂気に彩られたワンダーランド

ドロドロの鉄が流れるステージ
リズムアクションなど様々なミニゲームがある
2Dゲームのステージ。オールドゲームらしい雰囲気

 本作はボリュームもセールスポイントだ。特にステージ1の「マッドハッターの領地」は他のステージと比べても長い。美しかった森が黒く不気味な色に染まり、壊れたティーセットの谷を抜け、機械仕掛けのマッドハッターの領地へ向かう。そこには製鉄所のような灼熱の地と、巨大なプレス工場のような場所があって、次々と提示されるイメージに驚かされる。他のステージもあらん限りのアイデアが詰め込まれている。

 ステージ2以降も華やかで美しく、残酷で醜悪なワンダーランドがプレーヤーの前に提示される。ステージ2の「欺きの底」はオーロラの輝く氷山地帯から、沈没船の沈む海の底、海底の墓場、そして深海の舞台へと進む。

 海賊船に乗って海底を進むときは横スクロールのシューティングゲームになったり、歌を歌う魚のためにリズムアクションゲームに挑戦したりミニゲームも盛り込まれて面白い。大砲を撃ってくるカニとのバトルなど戦闘も熱い。ここではアリスは鱗と貝の模様のある衣装に身を包む。

 「欺きの底」ではアリスは海の生き物たちによる舞台を実現させるために奔走する。深海の生き物たちによる演劇というと絵本のような華やかで幻想的な雰囲気だが、あるキャラクターの乱入でメチャクチャにされてしまう。筆者は思わず「そりゃないだろう」と画面につぶやいてしまった。「アリス マッドネス リターンズ」はプレーヤーの想いに真っ黒なペンキを塗りたくるような“悪意”に満ちている。この作品からあふれ出るダークなパワーは本作の魅力だ。歪んだユーモアを楽しんで欲しい。

 次の「東洋の森」には陶器や水墨画、麻雀牌や鯉のぼりなど中国と日本の要素が詰め込まれている。美しく静謐な雰囲気だ。本作の中心人物であるAmerican McGee氏は現在は上海で活動しており、本作を開発したSpicy Horseは中国人スタッフが多い。「東洋の森」はSpicy Horseだからこそ作れたステージであり、McGee氏の中国と日本への愛を感じさせるステージだ。

 特に楽しかったのは日本のオールドゲームへのオマージュか、2Dアクションゲームのステージがあるところ。「サムライ ワスプ」や「ダイミョウ ワスプ」といった敵が出るのも楽しい。日本人プレーヤーにとってプレイしていて一際面白いステージである。


 「アリス マッドネス リターンズ」は、“ゲーム性”という意味では昨今のゲームと比べていささかレガシーだ。ギリギリの地形をジャンプして動く足場に飛び乗る、時間制限に間に合うように駆け抜ける、隠されたルートを探すなどステージ1で提示されたゲーム性がそのまま最後まで続く。1つ1つのステージが長いだけに、ステージそのものの世界観に魅力を感じられない人は、単調と感じてしまうかもしれない。しかし、その一方でうまくいかないときのイライラと成功したことの達成感の繰り返しは原初的なゲームの楽しさがあって、「もうずっとこの楽しさに没頭したい」という気持ちになる。この達成感はアクションゲームが持つ本来の魅力であり、本作はその楽しさをたっぷりと味わえる。

 色々なことを言っておきながらアレだが、やっぱりこのゲームは「アリス」がいいのだ、儚げだけど残酷で凶暴なアリスが髪を振り乱し、スカートをはためかせながら敵をなぎ払い、不条理な世界を突き進んでいく。世界はまたグロテスクで歪んでいながら美しい。アリスが前に進むのはこの歪んだ世界を直すためであり、このとんでもなく不幸な運命に立ち向かうためである。プレーヤーはアリスをこの狂った世界から救い出すためにコントローラーを握るのだ。本作が気になったユーザーはぜひプレイして欲しい。強い酒のようにかなりの刺激を持っているが、気にいる人にはそれがたまらない魅力となる、味のある作品である。


「マッドハッターの領地」は他のステージと比べても多彩なイメージが詰め込まれている。初期ステージでも高度なテクニックを要求される
深海へと潜っていく「欺きの底」。舞台でアリスを待つのは?
東洋の要素をたっぷりと詰め込んだ「東洋の森」


(2011年 7月 21日)

[Reported by 勝田哲也 ]