これまでゲーミングプラットフォームとしてのノートPCは「何かを我慢すべきもの」だった。特に限られた電源容量や筐体サイズの制限からくる絶対的なパフォーマンスの不足は、ノートPCで最新のPCゲームを利用することをためらわせる主な理由となっていた。
しかし近年、ノートPCのスペックアップにより、ノートPCで最新のPCゲームをプレイすることはより一般的なことになりつつある。強力になったモバイル向けCPUとGPU、デスクトップPCと変わらぬメモリ搭載量により、DirectX 10、DirectX 11と進んでいくPCゲームの進化を確実にキャッチアップしてきたのだ。
今回ASUSTeKが発売した最新ゲーミングノートPC「ASUS G73SW」は、今現在、その頂点に君臨するノートPCのひとつだ。新世代Core i7の採用により潤沢な計算資源を手に入れ、GPUにNVIDIA GeForce GTX 460Mを採用することで十分なグラフィックスパワーを確保。120Hz液晶を搭載することで3D立体視への対応も果たしている。
■ 実用性の高い本体デザインを持つ、3D対応ハイエンドノートPC
17.3インチの大画面。120Hzモニタで3D Visionも付属 |
広いピッチ、ある程度のストロークが確保されたキーボード |
キーボードの手前はラバーコーティングされている |
画面上部にWebカメラと赤外線エミッタを装備 |
「ASUS G73SW」は、フルHD 17.3インチワイド液晶モニターを搭載する、ASUSの最上位ゲーミングノートPCだ。モニターサイズを反映して本体はかなり大きく、415×奥320×56.8mm(幅×奥行き×高さ)、重量3.8kgとまさにヘビー級。
CPUには新世代Intel Core i7-2630QM (2.0~2.9GHz、4コア)を搭載し、GPUにはNVIDIA GeForce GTX 460M(ビデオメモリ1.5GB)を採用。ハイスペックノートでは発熱が気になるところだが、本製品では本体が大型であることを活かして排気口が大きく、ゲーム中も本体の熱を感じられないほどに高い冷却効率を達成している。その上、冷却音も低く抑えられているのが秀逸だ。
全体的な本体デザインも秀逸。直線的でシャープ感のある形状を取る本製品だが、決して無駄に華美に走ってはいない。外装は艶消しのプラスチックを基調とし映り込みを抑え、ユーザーの手が直接触れる部分はラバーコーティングで滑り止め効果がある。全体の構造もかなり堅牢だ。
モニターもノングレアタイプで、映り込みがなく見やすい。このあたりはASUSのゲーミングノートブランド「Republic of Gaming」のフラグシップモデルだけあり、よほど入念なリサーチを行なったのではないだろうか。得てしてゲーミングPCというのは華美に走り過ぎ、それが時に実用性を犠牲にしてしまうこともあるのだが、本製品のデザイン面にはそういった行き過ぎがない。
たっぷりとした本体サイズを活かしてキーボードがテンキー付きであることも、多くのゲーマーにとって嬉しいポイントだろう。キーピッチも広く取られ、フルピッチの外付けタイプのキーボードとほぼ同等の大きさがある。また各キーはこのタイプとしては多めのストロークが確保されており、打鍵感はノートPCのものとは思えないほどしっかりとしたものだ。
モニターにも注目したい。本製品のモニターは、「NVIDIA 3D Vision」によるフレームシーケンシャル 3D立体視に対応するネイティブ120Hz液晶パネルを採用。120Hzのサポートは、「よりなめらかで低遅延の映像でPCゲームを楽しめる」という、競技/対戦志向のゲーマーには嬉しくてたまらない利点もある。デスクトップPCの世界でネイティブ120Hz対応のモニターが普及しつつある中、(特にFPS)ゲーマーの間には「ノートPCでも120Hzを」というニーズが少なからず存在するが、まさにそれに応える格好となっているのが本製品だ。
また本製品では、3D Visionのシャッターグラスが付属するうえ、赤外線エミッタを本体に内蔵。昨年ASUSTeKが発売した3D対応のゲーミングノートPC「ASUS G51Jx 3D」では外付けタイプだったので取り回しにやや難があったが、本製品ではそれが解消された。本体とシャッターグラスさえあればいつでも3D立体視を楽しめる。
メインメモリ容量は16GBと、Windows 7でPCゲームを運用するだけであれば余裕の大容量。HDDも標準で500GBを2台、計1TBを搭載しているので、本機でゲーム動画撮影・編集といった重量級の作業もこなせるだろう。その他、カメラ、マイク、USB、ディスプレイ出力など各種インターフェイスは必要十分な作りで、その点でも満足度の高い構成になっている。
【G-GEAR GA7JE34/S】 | |
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OS | Windows 7 Home Premium 64bit |
CPU | Intel Core i7-2630QM |
チップセット | Intel HM65 Express |
液晶パネル | 17.3インチ 16:9 フルHD 120Hz |
ビデオチップ | NVIDIA GeForce GTX 460M |
メモリ | 16GB(4GB×4) DDR3-1333 |
HDD | 1TB (500GB×2) |
光学ドライブ | 2倍速 Blu-ray Discドライブ |
インターフェイス | マルチカードリーダー / 200万画素Webカメラ / 内蔵マイク / マイク入力 / ヘッドホン出力 / 802.11 b/g/n Wifi / Bluetooth V3.0+HS / 1000BASE-T / USB 3.0x1 / USB 2.0x3 / HDMIx1 / D-Sub 15ピンx1 |
バッテリー駆動時間 | 約3.7時間 |
本体サイズ | 415×320×18.9~56.8mm(幅×奥行き×高さ) |
本体重量 | 約3.8kg |
■ DirectX 11対応最新ゲームも射程圏内に捉える高いパフォーマンス
ゲームの際は「最大パフォーマンス」モードがオススメ |
3D Visionを有効にするとフレームレートが3割程度低下。2Dではその分の余力があるかチェック |
本製品は、なりはデカいがあくまでノートPC。消費電力はアイドル時30W、ピーク時でも120W程度と、省エネルギータイプのデスクトップPCに比べても半分程度の消費電力に過ぎない。それでいて、ゲームで見せるパフォーマンスの高さは最新PCゲームを十分快適に楽しめる水準に達している。
Windows 7上での総合的なパフォーマンスを示す「Windows エクスペリエンス インデックス」は、CPU 7.5、メモリー 7.6、GPU 7.0、HDD 5.9と一昔前の“ミドルハイクラスのデスクトップPC”に匹敵。その他各種ベンチマークでも優秀な数値を示した。
DirectX 9世代のゲームパフォーマンスを示す「3DMark 06」ではスコア14,095をマーク。DirectX 9水準のゲームであればまず問題なく快適に動作する数字だ。3D Visionを有効にするとおよそ3割程度のパフォーマンス低下が見られるが、それでも多くのタイトルで余裕の60fps超えは確実。
また、DirectX 10世代のゲームパフォーマンスを示す「3DMark Vantage」では、スコアP8254。DirectX 11世代のゲームパフォーマンスを示す「3DMark 11」では、スコアP1971をマーク。ノートPCとしては非常に高い数字だが、わかりにくいため、このあたりは実際のゲームでの評価で具体的なイメージを掴んだほうがいいだろう。
・余裕のCPUパワー。解像度調整でハイエンドゲームもスイスイ動作
実際のゲームタイトルとしては、オンラインゲーム代表として「Final Fantasy XIV Official Benchmark」、「MHFベンチマーク【絆】」、 DirectX 11を採用する最新ゲームとして「Tom Clancy's H.A.W.X 2」、「DiRT3」、「Lost Planet 2」などで計測を行なった。
オンラインゲーム系のベンチマークでは「FF XIV」(HIGH: 1755、LOW: 3128)、「MHF」(1,920×1,080:4216)、(1,280×720:8409)ともに、60fpsに迫る、あるいは60fpsを超える高いパフォーマンスを示した。特に「MHF」のほうは動作が軽く、最高解像度で3D Visionを有効にしてもまだ余裕があるパフォーマンスだ。
DirectX 11世代のゲームでは、最新のタイトルである「DiRT 3」で非常に優秀なフレームレートを計測。1,920×1,080ドットの「HIGH」設定でも49.22fps、「MEDIUM」設定では56.67fpsと、シーン内でテッセレーションを活用したオブジェクトが表示されても十分なパフォーマンスだ。解像度を下げ、1,280×720ドットでプレイすれば「HIGH」設定でも80.36fpsとなり、3D Visionを利用しても十分に快適なレベルとなる。
やや低いスコアが出てしまったのが「Lost Planet 2」。本作の「DX11バージョン」では、DirectX 11の新機能を大きく活用したシーン描写が行なわれるが、解像度1,920×1,080ドット、「DX11 Feature : HIGH」というヘビー設定では通常ゲームシーンのテストで20.9fpsと、やや辛い数字となる。どうやらCPUよりも先にGPUがボトルネックになっているらしく、解像度を下げると大幅に数字が向上する。
他のタイトルでも、解像度によってゲームのパフォーマンスが大幅に変わる傾向があるため、本機はパワーの比重としてCPUには余裕があり、GPUにはやや余裕がないという印象だ。このため3D Visionを使ってゲームをプレイするときは、通常よりも解像度を下げて臨むのがいいだろう。
とはいえ、「DiRT3」や「H.A.W.X 2」のようなDirectX 11機能を活用した最新タイトルが高品質設定で十分に快適に遊べるというのは、これまでのノートPCではちょっと考えられなかった事態だ。「それでも3D Vision使用時に最高設定で60fps以上出なくちゃ嫌だ」という方にはSLI搭載モンスター級デスクトップPCをおすすめする。実際、3D Vision使用によるシェーダー負荷の増加は、デスクトップ向けGPUにも荷が重いのだ。
【ベンチマーク】 | |
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3DMark 06 (1,280x1,024ドット、標準設定) | |
Score | 14095 3DMarks |
3DMark Vantage (1,280×720ドット、Performance設定) | |
Score | P8254 3DMarks |
3DMark 11 (1,280×720ドット、Performance設定) | |
Score | P1971 3DMarks |
Stone Giant (テッセレーション OFF/MED/HIGH) | |
1,920×1,080ドット 4xAA | OFF:36fps MED:32fps HIGH:29fps |
1,280×720ドット 4xAA | OFF:56fps MED:50fps HIGH:46fps |
DiRT 3 | |
1,920×1,080ドット プリセットHIGH | 49.22 fps |
1,920×1,080ドット プリセット MEDIUM | 56.67 fps |
1,920×1,080ドット プリセット LOW | 76.45 fps |
1,280×720ドット プリセットHIGH | 80.36 fps |
1,280×720ドット プリセット MEDIUM | 96.72 fps |
1,280×720ドット プリセット LOW | 129.14 fps |
Tom Clancy's H.A.W.X 2 Benchmark | |
1,920×1,080ドット テッセレーション ON | 60 fps |
1,920×1,080ドット テッセレーション OFF | 87 fps |
1,280×720ドット テッセレーション ON | 91 fps |
1,280×720ドット テッセレーション OFF | 139 fps |
LOST PLANET 2 (DX11機能を除き最高設定) | |
1,920×1,080ドット DX11機能 HIGH | TEST A: 20.9fps TEST B: 16.3fps |
1,920×1,080ドット DX11機能 LOW | TEST A: 26.3fps TEST B: 32.8fps |
1,920×1,080ドット DX11機能 OFF | TEST A: 32.1fps TEST B: 37.3fps |
1,280×720ドット DX11機能 HIGH | TEST A: 32.1fps TEST B: 23.8fps |
1,280×720ドット DX11機能 LOW | TEST A: 38.6fps TEST B: 49.1fps |
1,280×720ドット DX11機能 OFF | TEST A: 52.1fps TEST B: 57.7fps |
FINAL FANTASY OFFICIAL BENCHMARK(ヒューラン男) | |
HIGH全画面 | 1755 |
LOW全画面 | 3128 |
MHFベンチマーク【絆】 | |
1,920×1,080ドット | 4216 |
1,280×720ドット | 8409 |
CINEBENCH R11.5 | |
CPU | 4.98PTS |
OpenGL | 39.55fps |
■ 持ち運べるデスクトップPCとしての活用がオススメ
さすがにバッテリー駆動では長時間のゲームは難しいので、フルパワー時は「擬似デスクトップ」としての使い方が良いかも |
本機の性能を実際に目にして、最新ゲームでも快適なパフォーマンスを出せるゲーミングノートがついに登場したか、という印象を多くのゲーマーが抱くはずだ。多くのPCゲームがハイスペック志向を控え、プレイステーション 3 / Xbox 360といった据え置きゲーム機水準の処理内容で推移している現状では、本機の性能で長く使えることも間違いない。
ただ、犠牲もある。17インチという大型モニターを採用したことによるサイズの大きさ、その大きさからくる3.8kgという重い本体重量は、本製品を「気軽に持ち運べるモバイルプラットフォーム」からはかけ離れたものにしてしまっている。もちろん持ち運ぶことは不可能ではないが、小脇に抱えて歩きまわるのは骨が折れる。せいぜい、デイバッグに突っ込んで、旅行やLANパーティの際に自宅と出先を1往復するくらいが妥当だ。
そこで本機の使い方としてオススメしたいのは、「持ち運び可能な擬似デスクトップPC」として活用すること。マウスやキーボードを装着して、どっしりとデスクトップでゲームをプレイ、あるいは作業をする。これだけのパワーを持つノートPCなので、普通はデスクトップでするようなヘビーな作業もこなせるうえ、17インチというノートPCにしては大画面なことも、快適さに寄与してくれる。
HDMI端子から家庭用の大画面テレビに接続して、ゲームコントローラーをUSBで繋ぎ、「擬似据え置きゲーム機」として使うのも面白いだろう。大抵の最新ゲームがストレスなく動作するので、PCゲームの面白さをぐっと身近なものにしてくれるに違いない。
兎にも角にも「ASUS G73SW」は規格外のハイエンドゲームノートPCだ。自分なりの活用シーンを見極めることができるゲームファンなら、必ず満足できる選択になるはずだ。
(2011年 6月 6日)